『 小学生のころ。凍った校内のスロープを級友と滑って遊んでいたのを先生にみつかりました。一列に並ばされ、生徒のゴム印を入れる重い木箱で頭を殴られました。 体育館の天井裏で遊んでいた同級生が天井板を踏み抜いて落下、けがをしたときも、病院に運ばれる前にはたかれました。いまのご時世だと、「問われる学校施設の安全管理」のような話になってしまうのかもしれませんが。 それほどやんちゃなわけではなかったはずですが、先生に手をあげられるのは、珍しくありませんでした。そして、そんな“体罰”にどこの親もクレームをつけたりはしませんでした。 最高裁は先日、教員が男児の胸元をつかんでしかる行為を、1、2審とは逆に「体罰にあたらない」と判断しました。 その判決文には「男児の母親は長期にわたり、学校関係者らに対し、極めて激しい抗議行動を続けた」とあります。実際、母親は教員を刑事告訴までしました。体罰か否かの判断にさほど関係しないのに、ことさら「極めて激しい抗議」と強調したことは、メッセージのように思えてなりません。 教育現場への影響が注目された判決ですが、同級生をけり、それを注意した教員をさらにけった行為を棚上げした抗議はどうなのでしょうか。教育関係者だけでなく、家庭でもちょっと考えてみてほしい判決でした。((酒井潤)』産経新聞 2009年5月6日(水)08:05
小2児童の胸元つかみ叱責 最高裁「体罰に当たらぬ」産経新聞2009年4月29日 『熊本県天草市(旧本渡市)で平成14年、臨時教員の男性が当時小学2年生だった男児の胸元をつかんで叱責(しっせき)した行為が、学校教育法で禁じる体罰に当たるかどうかが争われた訴訟の上告審で、最高裁第3小法廷(近藤崇晴裁判長)は28日、「教員の行為は体罰に当たらない」と判断し、体罰を認定して損害賠償を命じた1、2審判決を破棄、原告の請求を棄却した。男児側の敗訴が確定した。 教員の行為が体罰に当たるかどうかが争われた民事訴訟で、最高裁が判断を示したのは初めて。 学校教育法11条は「校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、児童らに懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない」と規定している。同小法廷は「行為に穏当は欠く」としたが、「許される教育的指導の範囲を逸脱せず、体罰には当たらない」と判断。体罰かどうかを判断する要素として、行為の目的や態様、継続時間を挙げた。 1、2審判決などによると、教員は14年11月、休み時間に女子児童をけった男児らを注意。男児が教員の尻もけったため、胸元をつかんで壁に押しつけ、「もう、すんなよ」と怒った。萎縮する教員に指針 児童の胸元をつかんでしかる行為を体罰にあたらないとした28日の最高裁判決は、教員が萎縮(いしゅく)するあまり、厳しい生徒指導をためらう教育現場の実情に配慮した判断といえる。 学校教育法11条の体罰の基準は不明確だった。授業中に騒いだ児童を廊下に立たせる指導まで、体罰や人権侵害だと保護者らから批判されることもあり、「モンスターペアレント」という言葉すら生まれた。 体罰について昭和23年の法務庁長官回答では、「懲戒の内容が身体的性質のものである場合」と定義。文部科学省は平成19年2月に体罰基準を見直し、肉体的苦痛を与えるものでない限り放課後の居残り指導や授業中の教室内での起立命令を体罰としない-と全国の都道府県教委などに通知した。しかし、基本的には昭和23年の枠を出ていない。 最高裁判決は「殴る、ける」や「肉体的苦痛」を容認したものではなく、体罰の定義も示していない。しかし、許される行為を明示し、体罰か否かを判断する要素として「目的、態様、継続時間」を挙げたことは、指導に戸惑う教育現場にひとつの指針を与えるものになりそうだ。(酒井潤) 』
懲戒権の限界及び体罰の禁止については、これまで昭和23年の法務庁法務調査意見長官回答等が基準となっていた。しかし、昨今、児童生徒の問題行動が社会問題となっており、学校が適切に対応し、生徒指導の充実を図ることが急務となっている。そこで同省は、懲戒及び体罰に関する裁判例の動向等も踏まえ、「学校教育法第11条に規定する児童生徒の懲戒・体罰に関する考え方」を取りまとめた。
この通知では「体罰はいかなる場合においても行ってはならない」と禁止しているが、「肉体的苦痛を与えない懲戒行為に関しては、体罰には当たらない」とされている。
体罰に当たるかの線引きは「児童生徒の年齢や健康、心身の発達状況、場所や時間の諸条件を総合的に考え、個別に判断する必要があり、これらの諸条件を客観的に考慮すべきである」としている。体罰に当たらない具体例として、「放課後等に教室に残留させる(用便のためにも室外に出ることを許されない、又は食事時間を過ぎても長く留め置く等肉体的苦痛を与えるものは体罰に当たる)」、「授業中、教室内に起立させる」、「学習課題や清掃活動を課す」、「学校当番を多く割り当てる」、「立ち歩きの多い児童生徒を叱って席につかせる」ことを挙げている。また、携帯電話に関しても「授業中にメール等を行い、学校の教育活動全体に悪影響を及ぼすような場合、保護者等と連携を図り、一時的にこれを預かり置くことは、教育上必要な措置として差し支えない」とした。なお、児童生徒から教員等に対する暴力行為、他の児童生徒に被害を及ぼすような暴力行為を避けるための有形力(目に見える物理的な力)の行使も「正当な行為」として位置付けられた。
出席停止制度の活用では、指導をしても改善が見られず、いじめや暴力行為など問題行動を繰り返す児童生徒に対し、正常な教育環境を回復するために必要と認める場合には「市町村教育委員会は、出席停止制度の措置を採ることをためらわずに検討する」とし、制度の運用に当たっては「教師や学校が孤立することがないように、校長をはじめ教職員、教育委員会や地域のサポートにより必要な支援がなされるよう十分配慮する」としている。
同省は、問題行動が起こったときには「十分な教育的配慮のもと、現行法制度下において採り得る措置である出席停止や懲戒等の措置も含め、毅然とした対応をとる」ように明記した。』 現代教育新聞より引用。