職場や家庭で抱えるストレスを軽減しようと、独り言が活用されている。前向きな内容をつぶやくことで自らの考えや気持ちを整理し、悩みや不安を和らげる効果が期待できるという。心理学の分野では「セルフトーク」と呼ばれ、市民向け講座にも取り入れられている。専門家は「冷静に行動するための手段の一つとして、独り言を上手に生かしてほしい」と助言する。

「グッジョブ」「ナイス!」。3月中旬、大阪市浪速区の会議室で開かれた50代向けのセミナー。4人の受講者が、将来の理想や目標を写真や文字で紙に表現し、頭に浮かんだイメージを声に出した。

受講者の一人で英語講師の吉村継子さん(50)は自分の5年後の理想を描いた紙に「ラグジュアリー」と書き、理想に近づいた自分を想像して「グッジョブ」と何度かつぶやいた。

吉村さんは受講当初、仕事を続けるべきかどうか悩んでいたが、「『私は何が好きだったかな』と自問しながら理想を模索した結果、今の仕事が好きだという思いを再認識した」と晴れやかな表情を見せた。

セミナーはキャリアコンサルタントの緒方幹代さんが主宰。悩みを抱える人にキャリアの生かし方を見つけてもらうのが狙いで、参加者の多くは女性だ。

緒方さんは「自分はこうありたいというイメージを口にすると気持ちが落ち着く。自律神経を整えることで、悩みによるストレスも軽減できる」と話す。

精神科医でゆうメンタルクリニック(東京)のゆうきゆう総院長は「独り言は自分の思考を整理する効果がある。声に出すことで不安や孤独が和らぎ、気持ちが楽になる」と強調する。

人材研修などを手掛ける「スパイラルアップ」(大阪市)の原邦雄社長は、企業向け研修で「よくやった」「今日は頑張った」などと自分をほめる独り言を勧めている。

社員の定着率の低さに悩む外食企業への研修では「普段から『苦手な作業がうまくなった』などと自分をほめるよう心掛けて」と社員らに助言。各社員が実践した結果、チームワークが向上したという。別の企業では、社員の結束力が強まり離職率が22%から8%に縮小した事例もあった。