昨年からのコロナ禍で、もはや生活必需品となったマスク。1年以上のマスクとの付き合いの中で、マスクをつけて外出する時の緊張感とは裏腹に、マスクの中は無防備になってはいないだろうか。
現役歯科医師で、株式会社Dental Defense代表取締役でもある生澤右子氏は、コロナ禍における人々の歯と口の健康に警鐘を鳴らす。海外の歯科事情にも詳しく、「日本人のオーラルケアの遅れはグローバル化の障壁となってしまう」と危機感を抱く同氏に、今取り組むべきオーラルケアについて話を聞いた。
マスクのせいで「口内環境」が悪化?
2020年3月の緊急事態宣言発出以来、歯科受診を控える人が増えています。そんな中、神奈川県保険医協会の調査では、「受診遅れにより重症化した事例があった」と開業医が回答した割合が、歯科では59%にのぼりました(2020年8月)。
感染リスクを避けようとした結果、必要な治療や定期検診、メンテナンスを延期したために、このような残念な状況になってしまったのかもしれません。
さらに、このコロナ禍はもう一つ別の理由で、口内環境の悪化の原因になってしまっている可能性があります。それは、この1年ですっかりおなじみになった「マスク」です。
コロナ禍で誰もがマスクをかけて外出するようになったことで、アイメイクに女性の関心が高まり、リップメイクは薄くなったという調査もあるようです。マスクに隠れる部分は、どうしても時間をかけなくなる傾向にあります。オーラルケアにも同じことが言えます。
マスクをかけた状態やリモート会議の場では、口臭もわかりませんし、口元も目立ちません。そして、自宅では周囲の目を気にする必要がなく、食事や間食、ジュースや栄養ドリンクなどの飲み物も自由なタイミングでとることができます。
それは気楽なことではありますが、口内環境という側面から考えれば、以前よりも厳しいものになっているのです。
口元から老け込む「ブラックトライアングル」
この状況を放置していると、思わぬツケを払うことになるかもしれません。その一つが「老化」です。顔にできるシミやシワ。これで、年齢がわかるとおっしゃる方もいるでしょう。年を取るというのは、こうしたサインが出てくることです。
それに加えて、口元にも老け込んで見えるサインがあります。それが「歯ぐきが下がること」です。特に、歯と歯の間のスキマを埋めていたピンクの歯ぐきがなくなり、歯の間が黒く三角に抜けて見える「ブラックトライアングル」という状態になると、一気に老けて見えます。
誰かと会話をしたり、テレビを見たりしていて、何気なく口元に目がいった時、前歯が暗く見えたことはないでしょうか。これは「ブラックトライアングル」の可能性が高いでしょう。歯ぐきが下がり、ブラックトライアングルができてしまう多くの理由は、歯周病によります。
歯ぐきの炎症で、歯を支えている骨が下がることにより、歯ぐきも"地盤沈下"のように下がります。歯と歯の間をビッシリ埋めてくれていた歯ぐきがなくなると、歯がスカスカになり、年齢を感じさせる口元になってしまうのです。