感染力が高いと言われる新型コロナウイルスの変異株の感染が広がっている。神戸市内では、3月15~21日に変異株検査を行ったウイルスの50%を超えた。神戸大学で感染症を専門とする岩田健太郎教授は、新型コロナの変異株について「めったに起こらないことが起こりうる」と話す。どういうことなのか。
――変異株の報告が増えています。
神戸市の感染者、重症者が増えていて重症患者用の病床は逼迫(ひっぱく)しつつある。最大の理由は、変異株に感染した人の割合が増えていることだと考えている。去年はゼロだったが、2月以降増えだした。
ウイルスの遺伝情報は突然変異で変わっていくが、ウイルスの性質を大きく変えることは通常はない。感染症の歴史をみても、ウイルスの性質が激変することはめったに起こらない。
しかし、新型コロナウイルスでは、性質が変化する変異株が短期間に複数出てきた。英国株は感染しやすく、死亡リスクも高いという報告が出ている。
なぜ、めったに起こらないことが起こりうるかというと、感染者が非常に多いからだ。地球上で新型コロナウイルスに感染した人は1億人を超えた。頻度が非常に低くても数が非常に増えれば、ウイルスの性質が変わる変異が生じるリスクは高くなる。
――今後の感染状況をどう予測されますか。
新型コロナウイルスの流行については、人の行動が大きく影響する。歓送迎会や花見でお酒を飲む人が増えれば、感染が拡大するし、対策を強めれば感染を抑えられる。
伝統的な微生物学ではウイルスの特徴が感染の広がりを決めると考えがちだったが、新型コロナウイルスについては特に人が大事だ。もちろん、変異株という「ウイルス」の側面が感染を拡大させているのだが、かといってウイルスだけを見ていてはわからない。
人の行動を洞察することがとても重要だ。ウイルスの性質がどうこうと言う前に、社会の中で人がどうふるまうかによるところが大きい。人の安心や不安といった心理面も大きく影響する。初期条件から現象を予測できる天気予報などとは大きく違う。
――どのくらい危険なウイルスだと認識したほうがいいですか。
世界で1億人以上が感染し、270万人以上が死亡した、とても危険なウイルス。感染者の大多数が元気に歩き回ることができ、死亡率は低い。実はそこが「危険」なのだ。大多数が元気だからこそ、感染が短期間で世界中に拡大した。
1年間、我慢して、なんでここまでやらないといけないのか、と思う人がいるかもしれない。しかし、新型コロナウイルスは強い対策をしてもなくなっていない。この強い対策でインフルエンザウイルスに感染した人は激減、ほぼ皆無状態になったのに、その対策でも新型コロナウイルスには、これだけしか効果がなかった。
もし、対策しなければどうなるかは火を見るより明らかで、感染対策をしていくしかない。まだ感染していない人のほうが圧倒的に多いので、集団免疫もすぐには期待できない。
――どのような対策をしたらいいのでしょう。
変異株といっても、手洗い、マスクなど基本的な対策は同じだ。切り札となるワクチンがいきわたるまでは時間がかかる。この状況の中で特に注力すべきは、リモートワークだ。飲食店対策と異なり、経済ダメージが小さく、むしろ生産性を上げることすらできる。オンラインでできることはオンラインで行うことを徹底して推進すればよい。
大学の教授会もオンラインで行うと議論が短く効率的になった。これは、場の雰囲気、「空気」で決めてきた古い慣習からロジックでものごとを進めるやり方に変えるチャンスでもある。
いわた・けんたろう 1971年生まれ、島根県出身。神戸大大学院医学研究科で感染症を専門とする。「新型コロナウイルスの真実」など著書多数。(構成・瀬川茂子)
手洗い後の蛇口って触ってもいいの? 「持続可能」な手指の消毒方法 「部分的に完ぺき目指しても…」
withnews2021年04月05日07時00分
新型コロナウイルスの感染拡大は止まらず、手洗いなど私たち一人ひとりの対策が非常に重要になっています。一方で、「アルコール消毒してから手洗い後、またアルコール消毒」のようなルールが制定される場合もあるようです。
必要十分な手洗いやアルコール消毒とはどんなものなのか。また、自動水栓でない「手動の蛇口」の場合はどうすれば衛生的なのか。厚労省や専門家を取材しました。(withnews編集部・朽木誠一郎)
「正しい手洗い」の方法
厚労省によれば、新型コロナウイルスを含む感染症対策として、手指についてまずしてほしいのは「手洗い」。「手洗いを丁寧に行うことで十分にウイルスを除去できます」「さらにアルコール消毒液を使用する必要はありません」とします。また、アルコール消毒薬を使用するべきなのは「手洗いがすぐにできない状況」。施設の入口にアルコール消毒薬が常備されているのは、理に適っているともいえます。
ということで、手洗いができる環境なら、手洗い前のアルコール消毒は不要。正しい手洗いをしていれば、手洗い後のアルコール消毒も不要、というのが基本になります。
ここで疑問なのが「正しい手洗い」とはどのようなものか、ではないでしょうか。厚労省はその方法を啓発しています。
1. 流水でよく手をぬらした後、石けんをつけ、手のひらをよくこすります。
2. 手の甲をのばすようにこすります。
3. 指先・爪の間を念入りにこすります。
4. 指の間を洗います。
5. 親指と手のひらをねじり洗いします。
6. 手首も忘れずに洗います。
石けんで洗い終わったら、十分に水で流し、清潔なタオルやペーパータオルでよく拭き取って乾かします。また、手洗いの前に、爪は短く切っておきましょう。時計や指輪も外しておきましょう。
なお、手洗いをするべきタイミングとしては、「外出先からの帰宅時」や「調理の前後」、食事前などが推奨されています。
感染対策は全体的・総合的に
さて、基本は以上ですが、応用が必要な場合も多々あることでしょう。その一つが自動水栓でない「手動の蛇口」の場合です。手洗いをしたあとで蛇口のハンドルやレバーを再度、触ってしまうと、また手洗いが必要になってしまうのでは、という新たな疑問が生じます。感染症対策コンサルタントで看護師の堀成美さんに話を聞いてみました。堀さんはまず、「『それが本当に必要なことなら、すでに公的に注意喚起されている』と考えることが大事」だとします。
「どうしても気になる場合、ペーパータオルがあるならそれを使って締めるのはどうでしょう。ペーパータオルがないときは、ハンドルまたはレバー自体を水と石けんで一緒に洗うという方法、手指をアルコール消毒をする方法もあります」とした上で、次のように述べます。
「そもそもですが、ある場面だけ厳密に対策をしたとしても、そのあとすぐにいろいろなところを私たちは触りますよね。感染症対策は無理なくできることを組み合わせていくことで総合的に効果が得られるように考えた方が長続きします。
手洗い後に清潔なものしか触らないということは現実的には難しいので、蛇口に触るかどうかを気にしすぎるよりは、感染経路になり得る目や鼻、口をなるべく触らないことの方が現実的です」
あまり頻回に消毒をすると、手荒れがひどくなる場合もあります。その場合は「ハンドクリームなどでケアを」と堀さん。そして「負担の大きな感染対策は結局、続けられなくなる」と指摘します。
「一つひとつの対策は完ぺきではありません。だからこそ、部分的に完ぺきを目指そうとすると、少しずつズレてしまう。全体を見通したメリハリのある感染対策が必要です」
また、過剰な対策が取られている場合、「気づいたら修正できる柔軟性も必要」。特に、昨年の今頃はまだ新型コロナウイルスについてわかっていなかったことも多く「その頃の対策が残ったまま、というケースも多い」そう。
「そのためには社会としても『感染対策はその時々でアップデートされ、変わり得るもの』という認識を持つといいのではないでしょうか。批判ムードだとかえって修正がしにくく、結果的に過剰な対策が残ってしまう、ということもありますから」