ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ジャッキー・マクリーン/ジャッキーズ・パル

2024-04-16 21:20:25 | ジャズ(ハードバップ)

先日の「ライツ・アウト!」に続きジャッキー・マクリーンのアルバムをご紹介します。ただ、今回はむしろ"ジャッキーの友達"としてジャケットにも写っているビル・ハードマン(左マクリーン、右ハードマン)についてより詳しく書きたいと思います。ハードマンはトランぺッターとしては決してジャズの歴史に残るような大物ではありませんが、地味ながらもハードバップシーンに少なからず貢献しています。実はハードマンはアート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズの第3代トランぺッターであり、1956年から1957年にかけて10枚を超える作品に参加しています。しかしながら、前任者がケニー・ドーハム(初代)、ドナルド・バード(2代目)、後任がリー・モーガン(4代目)、フレディ・ハバード(5代目)とビッグネーム揃いなため、彼の名前は完全に埋没してしまっています。ただ、その後1970年代に入っても再びジャズ・メッセンジャーズに参加するなど、ブレイキーからの評価は高かったようです。ジャズ・メッセンジャーズ以外だとマクリーンとは本作含め3作品で共演、他にハンク・モブレーやマル・ウォルドロン、ルー・ドナルドソンの作品にも顔を出しています。ただ、自己のリーダー作となるとこれと言った作品がない(一応サヴォイにリーダー作があるようですが廃盤のため入手困難)のも日陰の存在に甘んじた要因の一つでしょう。

本作「ジャッキーズ・パル」は1956年8月31日に吹き込まれたハードマンにとってのレコーディングデビュー作。メンバーはリーダーのマクリーン、ハードマンに加え、マル・ウォルドロン(ピアノ)、ポール・チェンバース(ベース)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ドラム)です。肝心のハードマンのトランペットですが、高らかに吹き鳴らすスタイルではなく、一音一音細かい音を積み重ねていくような独特のフレージングです。なのでリー・モーガンやドナルド・バードのような華やかさはありません。ただ、これがジャッキー・マクリーンのアルトと絶妙にマッチしています。マクリーンもテクニックで聴かせるタイプではなく、哀調を感じさせる独特のマクリーン節が持ち味。マル・ウォルドロンのピアノもきらびやかなタッチと程遠いですし、この3人が醸し出す独特のB級ジャズ感が本作の魅力でしょう。B級と言っても決して否定的な意味ではなく、高級中華に対する町中華的な良さと言えばわかっていただけるでしょうか?6曲中4曲がメンバーのオリジナルで、おススメはハードマン作の軽快バップ曲”Just For Marty”とマル・ウォルドロン作の"Dee's Dilemma"です。後者は2ヶ月後に「マルー1」でも演奏していますが、本作の方がややテンポ速めです。残りの2曲はチャーリー・パーカーの名曲”Steeplechase”とスタンダードの”It Could Happen To You”。前者はマクリーンのパーカー派としての面目躍如と言った曲。後者はマクリーン抜きのハードマンによるワンホーン演奏で、ほのぼのとした雰囲気のバラード演奏です。

 

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ソニー・ロリンズVol.2

2024-04-15 21:29:32 | ジャズ(ハードバップ)

少し前に「ソニー・ロリンズVol.1」をご紹介しましたが、今回はその翌年1957年4月に吹き込まれたVol.2の方を取り上げたいと思います。このアルバム、まず言及すべきはジャケットのカッコ良さ。青みがかったトーンにテナーを持ったロリンズがくっきりと浮かぶデザインはさすがジャケットを芸術にまで高めたブルーノートならではです。実はこのアルバムとほぼ同じ構図のジャケットをイギリスのポップシンガー、ジョー・ジャクソンが1984年「ボディ・アンド・ソウル」(ビルボードTOP20入りした”You Can't Get What You Want”は名曲)で採用しています。次に言及すべきはメンバーの豪華さ。サイドに名を連ねるのがJ・J・ジョンソン(トロンボーン)、ホレス・シルヴァー(ピアノ)、ポール・チェンバース(ベース)、アート・ブレイキー(ドラム)と全員がジャズ・ジャイアンツばかり。さらに6曲中2曲でセロニアス・モンク(ピアノ)が加わると言う、今から考えると信じられないようなラインナップです。

(左)ソニー・ロリンズ   (右)ジョー・ジャクソン

 

全6曲。うち3曲目"Misterioso"と4曲目"Reflections"がモンクの参加曲です。特に”Misterioso”は1台のピアノをモンクとシルヴァーがシェアして代わりばんこに演奏するというかなりユニークなスタイル。最初のピアノはモンクで彼特有の不思議なピアノをバックにロリンズ→モンクの順でソロを取り、その後シルヴァーに交代してJ・J→シルヴァー→チェンバース→ブレイキーの順でソロを取る盛りだくさんの内容。"Reflections"はJ・Jとシルヴァーが抜けたカルテットで、モンクらしいちょっと不思議な旋律のバラードです。以上、話題に事欠かないのはモンク入りの2曲ですが、他の4曲も内容的には劣らない、どころかむしろ上です。1曲目”Why Don't I"と2曲目"Wail March"はロリンズのオリジナル。前者はアルバムのオープニングを飾るにふさわしいエネルギッシュなナンバーで、ビシバシと煽り立てるブレイキーをバックにロリンズらが貫禄のソロを繰り広げます。後者はJ・Jのトロンボーンが凄まじく、冒頭2分間にわたって超高速パッセージを連発する鬼テクを見せつけます。5曲目と6曲目はどちらも有名スタンダードの"You Stepped Out Of A Dream"と”Poor Butterfly”。特に"You Stepped Out Of A Dream"は数多くあるこの曲の決定的名演と言って良く、ブレイキーのド迫力のドラミングに乗せられて全員がノリに乗ったソロをリレーして行きます。"Poor Butterfly"はスローバラードでロリンズ、J・J 、シルヴァーが歌心たっぷりのバラード演奏を聴かせてくれます。

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レッド・ガーランド/ソウル・ジャンクション

2024-04-13 21:23:46 | ジャズ(ハードバップ)

本日はレッド・ガーランドです。ガーランドと言えば黄金のマイルス・デイヴィス・クインテットのピアニスト。特に名高いのが1956年に行われた一連のマラソン・セッションで、2日間のレコーディングで収録された計24曲が「クッキン」「リラクシン」「ワーキン」「スティーミン」の4作品として発表されました。一方でガーランドがもう一つのマラソン・セッションを録音していることはさほど知られていません。1957年11月15日と12月13日の2日間で収録された計16曲は「オール・モーニン・ロング」「ハイ・プレッシャー」「ディグ・イット!」そしてこの「ソウル・ジャンクション」の4枚のアルバムとして発表されました。ただ、ジャズ史上に名高いマイルスの4部作と知名度は雲泥の差と言ってよいでしょう。メンバーもドナルド・バード(トランペット)、ジョン・コルトレーン(テナー)、ジョージ・ジョイナー(ベース)、アート・テイラー(ドラム)と十分豪華ですし、内容も充実していると思うのですが・・・

アルバムはガーランド自作のブルース”Soul Junction”で幕を開けます。15分半に及ぶスローブルースで、前半はトランペットもサックスも登場せず、ガーランドの独壇場です。独特のブロックコード奏法と玉を転がすタッチで正直これだけで1つの曲として完成しています。ただ、8分30秒過ぎに満を持してソロを取るコルトレーンとバードがこれまた素晴らしい。解説書を読むとこの頃のコルトレーンはまだ発展途上みたいなことが書かれていますが、私は全くそうは思いません。トレードマークであるシーツ・オヴ・サウンドは既に完成されていますし、個人的には後期のフリージャズよりこの頃のコルトレーンの方が好きです。バードもあらゆるセッションに引っ張りだこだった時期でブリリアントなラッパを全編で聴かせてくれます。2曲目以降は通常の6~7分の曲で、ディジー・ガレスピーの代表曲”Woody’n' You"と"Birks' Works"、そしてデューク・エリントンのバラード”I Got It Bad And That Ain't Good”、スタンダードの”Hallelujah”と続きますが、どの曲もクインテットの充実した演奏が堪能できます。

 

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ジョー・ヘンダーソン/ザ・キッカー

2024-04-12 19:11:55 | ジャズ(モード~新主流派)

ジョー・ヘンダーソン、略してジョーヘンは1960年代以降のジャズを語る上では欠かせない人物です。本ブログではだいぶ前に晩年の作品である「ラッシュ・ライフ」を取り上げましたが、全盛期である60年代の作品を取り上げるのは初ですね。ジョーヘンと言えば「ページ・ワン」「インナー・アージ」「モード・フォー・ジョー」等ブルーノートのイメージが強いですが、本作「ザ・キッカー」は1967年8月録音のマイルストーン盤です。マイルストーンはリヴァーサイド・レコードの設立者であったオリン・キープニュースが同レーベルが1964年に倒産した後、前年の1966年に設立したレコード会社です。ジョーヘンは同レーベルの看板ミュージシャンの1人として10枚以上のリーダー作を残しており、本作はその最初の作品です。メンバーはマイク・ローレンス(トランペット)、グレイシャン・モンカー3世(トロンボーン)、ケニー・バロン(ピアノ)、ロン・カーター(ベース)、ルイス・ヘイズ(ドラム)という布陣。このうちマイク・ローレンスについてはあまり聴いたことがないですが、ジョーヘンが発掘した白人トランぺッターのようです。当時24歳のケニー・バロンのピアノにも注目です。

全8曲ですが、60年代という時代を象徴するかのようにさまざまなスタイルのジャズが混在しています。まず目立つのはジョーヘンのブルーノート時代の自作曲"Mamacita""The Kicker""Mo' Joe"。いずれも彼がサイドメンとして参加した作品からの曲で”Mamacita”はケニー・ドーハム「トロンペタ・トッカータ」、"The Kicker"”Mo' Joe”はホレス・シルヴァー「ソング・フォー・マイ・ファーザー」と「ケイプ・ヴァーディアン・ブルース」からの選曲です。いずれもファンキーで耳馴染みの良い曲ばかりで、ジョーヘンが新興レーベルへの手土産代わりに自信作を再演したのでしょう。それ以外はモード~新主流派風の演奏がメインで、エリントン楽団の”Chelsea Bridge"、マイルス作でビル・エヴァンスが演奏した”Nardis"、スタンダードの”Without A Song”も60年代風のモーダルな解釈です。1曲だけ毛色が違うのがアントニオ・カルロス・ジョビン作の”O Amor Em Paz(平和な愛)"。当時流行していたボサノバで、この曲だけ2管抜きのワンホーンカルテットです。これがまた見事にハマっており、バロンのお洒落なピアノをバックにジョーヘンが気持ち良さそうにブロウしています。以上、モードジャズを中心にファンキージャズからボサノバまで60年代後半のジャズシーンを詰め込んだ魅力的な一品です。

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ジョージ・ウォーリントン/ジャズ・フォー・ザ・キャリッジ・トレード

2024-04-11 18:00:08 | ジャズ(ハードバップ)

本日はジョージ・ウォーリントンの「ジャズ・フォー・ザ・キャリッジ・トレード」です。先日ご紹介した「ザ・ニューヨーク・シーン」「ジャズ・アット・ホッチキス」の前年の1956年1月に収録されたもので、フロントラインは上記2作品と同じくドナルド・バード(トランペット)&フィル・ウッズ(アルト)。ベースにテディ・コティック、ドラムがアート・テイラーという布陣です。ただ、ジャケットを見るとトランペットを持ったバード以外は全員白人で、テイラーらしき人物は写っていません。解説書にはドラムはビル・ブラッドレーでは?と書かれていましたが、そんなドラマーは知らん!なので結局誰かわからないままです。ちなみにcarriage tradeとは直訳すれば馬車での取引、転じて上得意様とか富裕層とかいう意味らしいです。上得意様のためのジャズ、とは何のこっちゃ?ですが、内容はストレートなハードバップです。

全6曲。アルバムはダット・ダメロンの名曲"Our Delight"で幕を開けます。多くのジャズメンによって名演が残されているバップの古典ですが、本作のバージョンもその1つに数えられると言って良いでしょう。のっけからバードとウッズが絶好調のアドリブを繰り広げ、その後をウォーリントンが引き継ぎます。作品全体を通じてウォーリントンはどちらかというとバンドをまとめる役割に回っており、ソロの目立ち度ではバードとウッズの方が上です。とりわけ素晴らしいのがウッズ作の4曲目”Together We Wail"。ウッズとバードがスリリングなチェイスを繰り広げますが、とりわけウッズのソロが鳥肌の立つ素晴らしさで、さすが白人ながらパーカーの後継者と目されただけのことはあります。同じくウッズ作の6曲目”But George"もエンディングを飾るにふさわしい力強いハードパップです。3曲目”Foster Dulles"はフランク・フォスター作で、彼の名前と当時のアメリカ国務長官ジョン・フォスター・ダレスをかけたマイナー調のバップです。スタンダードは2曲。”Our Love Is Here To Stay"と”What's New”で前者はミディアムテンポ、後者はバラードで、特に後者がおススメです。前半の端正なウォーリントンのピアノソロの後、後半のウッズとバードのエモーショナルなプレイが素晴らしいです。

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