Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

バッファロー’66

2023-11-14 | 映画(は行)

◼️「バッファロー’66/Buffalo '66」(1998年・アメリカ)

監督=ヴィンセント・ギャロ
主演=ヴィンセント・ギャロ クリスティーナ・リッチ ベン・ギャザラ ミッキー・ローク

Filmarksが90年代映画をリバイバル上映する企画で、未見だった「バッファロー’66」鑑賞。

ビンセント・ギャロ演ずる主人公ビリーの小物っぷりが映画冒頭から強烈。刑務所を出た後、トイレを借りようとするが釈放後だからと断られ、街をさまよう。実家に電話して政府の仕事をしていた、妻がいると大嘘をつく。小銭を貸してくれたレイラを誘拐同然に捕まえて、妻を演じろと声を荒げる。いざ家に着くと吐き気がすると入りたがらない。立場の弱い者に威圧的だが、いざとなると弱気な小心者。関わり合いたくねぇヤツだなぁ…と嫌悪感でいっぱいになる。自宅で配信で見てたら、気分次第ではこのへんで、俺には合わねえと投げ出していたかも。

息子に無関心な両親が登場、そのクズっぷりに呆れる。子供時代の嫌だった記憶が荒い映像でインサートされ、愛されずに育った過去が示される。スクリーンのこっち側の僕らはビリーを気の毒に思い始める。そしてビリーがある人物への復讐を企てていることが明らかになる。

2人が犯罪に手を染める訳でもなく、逃避行する訳でもない。かつてのアメリカンニューシネマのような破滅的な話でもなく、ただバッファローの街をあっち行きこっち行きするだけの話。なのに、映画後半2人から目が離せない。バスルームで一緒にいたいと言うレイラを拒み、不自然な距離でベッドに横になる2人。でも距離は確実に縮んでいく。

実家の場面では、真四角のテーブルの一辺にカメラを据えて他の3人を撮る。一緒にいるのにとても距離を感じ、終いには隣に座る両親は話も聞かない。ベッドを俯瞰で撮る場面はカットが変わる度に2人の姿勢が変わっていく。映像で見せる距離感の巧さ。

音楽の使い方も素晴らしい。音数の少ない劇伴がほとんど。だが突然父親にスポットライトが当たってシナトラを熱唱するのは笑えた。そしてプログレ好きの僕には、たまらない場面が2つ。キングクリムゾンのMoonchildでクリスティーナ・リッチがタップダンスを踊る場面。クライマックス、いかがわしい店で鳴り響くイエスのHeart Of The Sunriseが最高😂

そして訪れるエンディングの多幸感。前半で感じた嫌悪感はどこへやら。映画館で観てよかった。リバイバル上映してくれたFilmarksに感謝。女の子は素敵な魔法をもたらしてくれる。それがあのお化け一家のおデコちゃんな小娘だったクリスティーナ・リッチとは。

そしてシアターを出てまっすぐにトイレを目指した。だって、一旦シアターを出てしまったら戻ってトイレを使わせてもらえないだろうしww😜




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冒険者たち

2023-10-18 | 映画(は行)


◼️「冒険者たち/Les Aventuriers」(1967年・フランス)

監督=ロベール・アンリコ
主演=アラン・ドロン リノ・ヴァンチュラ ジョアンナ・シムカス

アラン・ドロンは飛行機乗り、リノ・ヴァンチュラはカーエンジニア、ジョアンナ・シムカスはアーティスト。それぞれの夢を持ちながら破れた3人は、アフリカの海に沈んだまま見つかっていない財宝の話を耳にする。それぞれの理想を実現するために、お宝を探し当てようとする。映画前半は彼らに起こった出来事がテンポよく、というかダイジェストかと思うくらいの編集で示される。

もともとジョゼ・ジョバンニの原作はノワール調のお話らしいが、この映画はフランス映画独特の男2人+女1人の素敵な三角関係が心に残って、青春映画としてカテゴライズされることもしばしば。

ヒロインのレティシアに恋している2人だが、彼女をめぐって激しく争うこともない。理想的?かどうかは疑問だが、良好な関係であることは間違いない。こうした三角関係が出てくるフランス映画は、ヒロインを退場させがち(ネタバレ?💦)。「突然炎のごとく」にしても、パトリス・ルコントの「イヴォンヌの香り」(めちゃくちゃ好き♡)にしても。呆然として遺されるのは男二人。

でも、「冒険者たち」はちょっと違う。彼女がいなくなった後の二人の姿がきちんと示される。彼らにとってレティシアがどれだけ大切な存在だったのかが、最後の最後まで描かれるのだ。クライマックスで悪党どもが要塞島にやって来て銃撃戦になっても、それが見せ場だと思えない。それすらレティシアに対する思いを込めた最期の台詞に導くための通過点なエピソードに過ぎない。普通なら虚無感でいっぱいになるはずのラストシーンだが、レティシアの記憶が男たちにもスクリーンのこっち側の僕らにも、美しい残像として残されるのだ。それを未練と言うなかれ。

そして、ジョアンナ・シムカスの面影はフランソワ・ド・ルーべの美しい音楽と共にある。





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ボーダーライン

2023-10-14 | 映画(は行)

◼️「ボーダーライン/Sicario」(2015年・アメリカ)

監督=ドゥニ・ヴィルヌーヴ
主演=エミリー・ブラント ジョシュ・ブローリン ベニチオ・デル・トロ ジョン・バーンサル

観ていてしんどかった。確かにハラハラする展開だし、事の重大さは理解できる。だけどひたすら死体と銃声だらけの上映時間は耐えるしかなかった。これをエンターテイメントなアクション映画だと楽しむのは、僕にはどうも向いてないようだ。ラストにヒロインが言われるように、僕も小さな町に行くべきなんだろう。狼にはなれそうもない。

メキシコとアメリカの国境を挟んだ黒社会の怖さとその根の深いヤバさ。僕ら映画ファンは、スティーブン・ソダーバーグ監督の「トラフィック」やリドリー・スコット監督の「悪の法則」で知っている。本作ではその最前線で向き合う人々の姿が描かれる。

あの長いタイトルのトム君映画みたいにエミリー・ブラントのカッコよさを観られるアクション映画だと信じて見始めたけれど、正義感から作戦に志願した彼女が目にする現実と衝撃的な裏事情。ヒロインと同じ情報量で僕らはそれらを見ることになる。与える情報を限定することで観客を引き込んで、主人公を客観視する目線を与えてくれないのは他のヴィルヌーヴ監督作でも同じ。その語り口は本作でも冴えている。

全てを知ったラストで、僕はベネチオ・デル・トロをダークヒーローのように捉えることができなかった。やっぱり小さな町で暮らすことにするよ。そしてメキシコ国境と麻薬王の話なら、シュワちゃんの「ラストスタンド」に拍手を贈るくらいがちょうどいいのかも。うん。



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パーフェクト・ブルー

2023-09-19 | 映画(は行)

◼️「パーフェクト・ブルー」(1998年・日本)

監督=今敏
声の出演=岩男潤子 松本梨香 辻親八 大倉正章

今敏監督のデビュー作にして衝撃作。傑作「パプリカ」が大好きなのと、本作のキャラクター原案を尊敬する江口寿史が担当していることから、ずっと観る機会が欲しかった作品。2023年9月にFilmarksが全国規模の上映イベントをやってくれたおかげで劇場で鑑賞する機会をいただいた。感謝。

アイドル歌手から女優へと次なる一歩を踏み出そうとする主人公未麻。でもそれは歌手になりたいと願って上京した彼女にとっては思わぬ方向だった。グループ脱退から、それを望まないファンからと思われる嫌がらせが届き始める。わずかな台詞だけの連ドラ出演のはずが、次第に業界の餌食になっていく様子が痛々しく描かれる。彼女自身の心も身体もさらけ出すハードな仕事を続ける中で、連続して起こる殺人事件。そして未麻は夢と現実の境目がわからなくなっていく。

芸能事務所で起こった性加害問題が世間を騒がせている今年。このタイミングで鑑賞したせいか、裏でのやりとり、アイドル時代のファンの反応、大人への脱皮と言いながら業界の喰い物にされていく様子が生々しく感じられる。アニメだからできるホラー描写、暴力、残虐シーンの数々。そして悪夢が覚めたらさらなる悪夢が襲う場面は、下手なホラー映画よりもよっぽど怖い。特にクライマックスでは、見ているこっちまで現実と幻影が入り混じり、目が離せない。本来はOVAとして世に出るはずだった作品だと聞く。それだけに表現は容赦ない。女の子がいたぶられる話は好きじゃないけど、目を背けたくても映画がグイグイと引っ張ってくる。ダーレン・アノロフスキーが実写化を考えたとも聞く。納得できるエピソードだ。

90年代製作の作品なので、インターネット描写はさすがに古い。しかし、懐かしい型式のマッキントッシュ、今よりも小さな画面で未麻が目にする"もう一人の未麻"は、双方向のやり取りが当たり前の今とは違って、反論できないだけに底知れない不気味さを感じる。

80年代のアイドルを知る世代ならセイント・フォーというアイドルグループを覚えているだろうか。本作で未麻を演じた岩男潤子は、メンバーの一人板谷祐三子の脱退に伴ってセイントフォーに加入した時期がある。脱退後に板谷祐三子がセクシー路線で知られるようになり、岩男潤子が後に声優の仕事で自分を発揮し、メンバーだった濱田のり子が再び歌で活動している。こういう情報があると、どうしても重なって見えてくる。リアルでもいろんな葛藤があったのだろうか。

「あなた、誰なの?」
未麻が出演したドラマの台詞だが、それは物語が進むと自問自答へと変わっていく。
本当に望む自分になっているのか?
それは本当の自分なのか?

不思議な余韻を残すラストシーンを噛み締めながらシアターを出ると、その施設の1階で地元アイドルグループがイベントをやっていた。彼女たちに闇が迫って来ませんように。





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ファルコン・レイク

2023-09-17 | 映画(は行)

◼️「ファルコン・レイク/Falcon Lake」(2022年・カナダ=フランス)

監督=シャルロット・ル・ボン
主演=ジョゼフ・アンジェル サラ・モンプチ モニア・ショクリ

ケベック州の湖のほとりにある母の友人の家を訪れた一家。もうすぐ14歳になる主人公バスティアンは、母の友人の娘16歳のクロエと同じ部屋で過ごすことになった。年上の女子への憧れにも似た気持ちと、同じ10代である共感。理解できるようで理解できない彼女の行動は、時に優しく、時に残酷。同じ時間を過ごしているようで、どこか置いてけぼり。

今どきこんな言い方しないかもしれないけど、バスティアンはローティーンからミドルティーンになろうとする歳頃で、クロエはもうすぐハイティーン。その時期の3歳年上って、自分よりすごく大人びて見えるもの。相手を振り向かせるにはどんな言葉を選んだらいいのだろう。どんな行動をとればいいのだろう。大学生くらいの男子たちとワインやビールをラッパ飲みするクロエを見て、同じ行動をとるけれどまだ身体がアルコールを受けつけず、無様な姿を見せてしまう。

一方でクロエと性について会話する場面や、10代だから抱えている孤独やなんとも言えない不安を共有する場面では、二人の距離は誰よりも近くなる。同じベッドで寝ながら、"人生でいちばん怖いこと"についてクロエが話す場面はとても印象的なだった。親に自慰行為を見られることだと答えたバスティアン。性に目覚めた男子らしい精一杯の大人ぶった答えかもしれない。

クロエは誰とも分かり合えないことだと答える。彼女は誰ともなじめないと今まさに感じている。その不安を打ち明ける。湖で水死した人がいて、その幽霊が出ると言うクロエ。それは大人たちを自分に振り向かせたくて口にする言葉で、親たちはまともに取り合ってくれない。パーティで一緒に踊る年上の男子たちや大人に、不安な気持ちを言えないけれど、同じ"ティーン"で括られるバスティアンになら言えること。布を被ったバスティアンに寄り添いながら、悩みを打ち明けるクロエは、聖母像に向かって告白をしているようにも見えた。

髪を洗うクロエの背中を見つめる場面。泳ぐのが苦手なバスティアンが湖に入ったところで、クロエがシャツの裾をまくる場面。二人が暗闇で触れ合っている場面。そんな無言の思わせぶりなシーンも、二人の距離を僕らに映像だけで概算させ、強く印象づける。

そして映画のクライマックス。大人ぶって強がりな返事を示したバスティアン。その後、そこで何が起こったのかは具体的に示されない。喪失感漂うその様子を、カメラは主観移動のように捉えていく。無言のラストシーンに解釈は人それぞれだろう。僕は、微かに振り向いたクロエの動きこそが答えだと感じた。湖の風景と薄暗い森の風景。それは閉鎖的で、逃げられないホラー映画の舞台めいた雰囲気がある。秘めておきたいティーンエイジャーの気持ちも、湖だけが知っている。




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爆竜戦隊アバレンジャー20th許されざるアバレ

2023-09-09 | 映画(は行)

◼️「爆竜戦隊アバレンジャー20th許されざるアバレ」(2023年・日本)

監督=木村ゆうじ
主演=西興一朗 富田翔 いとうあいこ 阿部薫

当時のリアルタイム世代の感想が多いので、当時のお父ちゃん世代も感想書かせていただきますw。

スーパー戦隊は長男が未就学児だった頃から数年間一緒に楽しんでいた。まあ自分はゴレンジャー世代なんで、基本好きなんですけどねw。長男が見ていた時期の作品の一つが「爆竜戦隊アバレンジャー」。20周年の本作はまさに同窓会のノリ。年齢は重ねたけど基本線は変わらないメンバーの活躍が楽しい。

されど。時代は変わっているもので、行き過ぎだと誰かが思えば、世間が「××ハラスメント」と騒ぎ出す。おっさんが一年戦争の話を始めたらガンダムハラスメントと言われ、「ボヘミアン・ラプソディ」を思い出まじりに語ったらクィーンハラスメントとまで言われる始末だ。一人のインフルエンサーがアバレンジャーは暴力を肯定する集団だと発言したことがきっかけで窮地に陥ってしまう。テレ朝の討論番組のパロディも登場するし、SNSの怖さも描かれる現代的な味付けだ。

でも。今思えば20年前も、
👩🏻‍🦱「うちの子ったら、毎週日曜の朝に、暴れ者の戦隊ヒーロー見ているのよ、奥さん」
👩🏻「うちもよ。いやぁねぇ、暴れる子でいいと思ってんのかしら」
なーんてお母様方が顔をしかめていた。僕ら世代がウルトラマンは暴力的などと言われていたのと同じ反応。僕はそれを横目で睨みながら思っていた。
😏「奥さん。彼らの言うアバレは普通の状態から一歩踏み出して、全力で何かに挑み続けることなんすよ。ヒーローたちは敵に挑み、今の自分を超えて成長するんすよ。子供たちもそれに憧れて、チャレンジする子、頑張る子になるんすよ。それの何がいけねぇんですか」
アバレた数だけ強くなれる 
アバレた数だけ優しさを知る♪
もちろん口に出したら総スカン喰らうんでしょうけど🤣

だけど悪に挑む彼らのスピリットは変わらない。そして世間の誤った先入観に対するアンサーがここにはある。長男と見てた頃より涙腺がゆるくなったせいか、なかなかジーンとくる。「仮面病棟」の木村ひさし監督は、テレビのテイストをきちんと活かして、過剰なアップデートにしていないのが好印象。オリジナルのオープニングそのままもいいね。芸能界を引退していたいとうあいこが出演して、再びイエローを演じているのも嬉しい。博多弁がナイスです。

遠藤正明が歌う主題歌が好き。カラオケで歌うと気持ちよさそう…といつも思ってた。今度試してみるかw。





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ふたりのマエストロ

2023-09-04 | 映画(は行)

◼️「ふたりのマエストロ/Maestro(s)」(2022年・フランス=ベルギー)

監督=ブルーノ・シッシュ
主演=イヴァン・アタル ピエール・アルディティ ミュウ・ミュウ キャロリーヌ・アングラーデ

オーケストラの指揮者として名誉ある賞を受けたドニ・デュマール。母とビジネスパートナーの元妻は祝福してくれたが、偉大な指揮者である厳格な父フランソワ・デュマールは会場にも現れなかった。そんな父の元に一本の電話が入る。それは念願だったミラノ・スカラ座の音楽監督就任の依頼だった。当然、父は上機嫌。しかしその翌日、スカラ座の総裁に呼び出されたドニは、監督の依頼は父ではなくドニにで、秘書がデュマール違いで伝えたミスだと告げられる。ドニは父の誤解を解き、関係を修復することはできるのか!?

あらすじを読んで、チラシの絵柄を見れば結末の落としどころは確かにわかってしまう。でもそこに至るまでの人間ドラマがこの映画の見どころ。父も息子もこだわりある人だから、自分の思いばかりを押し付けがち。それに修復すべき関係は親子だけではない。ドニはバイオリニストの恋人とのすれ違いもあるし、父は大役オファーが来たことでパートナーへの感謝を今さらながら形にしたい。そんな彼らの間で接点となってくれるのが息子や元妻だったりする。

父が息子に語る真実は驚きの展開だが、予想以上に動揺することもない。それだけ父に与えられたことの大きさが、ドニにはあるんだろうな。ドニの母役ミュウミュウは若い頃に奔放な役柄が多かった人だけど、年齢重ねてからの仕事は素敵なお婆ちゃんが多い。

補聴器を装着する場面のサウンドの使い方も丁寧なつくりで好感。また、全編に流れるクラシックは耳になじみのある有名曲が多いので、クラシック音楽詳しくないからとこの映画を敬遠する必要はないと思う。派手さはないけれど、人間模様にほっこりしたい向きにはお勧めできる。

結末が宣材でバレバレだとしても、サマーシーズンの長尺活劇大作で疲れた身体には、この上映時間と音楽はちょっとした癒しになったかも。こんな感想を書く僕は、ちょっと夏バテ気味なのかもしれないな。




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特別編 響け!ユーフォニアム アンサンブルコンテスト

2023-08-11 | 映画(は行)

◼️「特別編 響け!ユーフォニアム アンサンブルコンテスト」(2023年・日本)

監督=石原立也
声の出演=黒沢ともよ 安西知佳 朝井彩加 大橋彩香

上映時間を聞いて映画館で観るのをちょっとためらった。でも57分だとしても、部長になった久美子をやっぱり見届けたくなって。元吹奏楽部のトロンボーン吹きである僕としては、塚本君的な立場で久美子を見守らねばならんのだ🤔。うむうむ。

オープニングがいきなりニューサウンズインブラスのアレンジによるOmens Of Love ! 。T-Squareファンの僕はこれだけで心を掴まれてしまう♪

確かに長尺にすればアンサンブルコンテスト本番の演奏シーンも出てきて、どのチームがどれだけ上手だったか納得がいくものになっていたかもしれない。だけどタイトなスケジュールの中でメンバーがどれだけ頑張ったかを、コンテスト場面の演奏で示すのはなかなか困難。演奏で優劣を表現するのは難しいし、演奏を聴く側の感じ方で左右される。コンテスト場面を敢えて描かなかったのは、これはこれで良かったのではないだろか。むしろ部員全員をちゃんと鑑賞する僕らに示すこともできたし。劇場版はファンサービスのイベントだもの。これでオッケーでは。

この特別編は、次のテレビシリーズ第3期に向けて、部長となった久美子の立ち位置、部員との接し方、持ち味がよーく理解できるものになっている。噛み合わない演奏を、麗奈と違う視点でアドバイスする場面は、演奏パートの違いが演奏への向き合い方の違いに繋がっていることを示す納得の場面。だけど現実、なかなかこうは言えないと思うのだ。

この久美子の持ち味が間接的にうまく表現されているのが、「リズと青い鳥」でおなじみのみぞれ先輩とのやりとり。開きにくい窓を久美子が外側から開けたのは、久美子の人との接し方の隠喩になっている。話の良さはもちろん、それを分かりやすいビジュアルにする京都アニメーションの巧さでもある。

マリンバを運ぶ場面の細やかな描写。音楽に向き合ってるのはアニメの部員たちだけじゃない。京アニスタッフの真摯な姿勢が感じられる。隙のないイメージがある滝先生のネグセw。優子×夏紀のバトル。そして麗奈と久美子の素直に口に出せないお互いへの思いと信頼が観ていて心地よい。

リーダーってどうあるべきか。社会人になってウン十年経っている僕ら世代は、さんざん聞いてきたことでもある。立場が人をつくる。一方でその人だからできる役割がある。ユーフォ特別編にはそのひとつの答えがある。京アニでこんなことを考えてしまうなんて。これは大きな誤算だし収穫。






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ブルース・リー物語

2023-07-23 | 映画(は行)

◼️「ブルース・リー物語/Bruce Lee-True Story(李小龍傅奇)」(1976年・香港)

監督=ウー・スー・ユエン(呉思遠)
主演=ホー・チョン・ドー(ブルース・リィ) シャオ・チーリン

ブルース・リーの偉業を伝える映画は数々製作されているが、「酔拳」のプロデューサー呉思遠が監督、ブルースのそっくりさんを起用してストーリー仕立てでつくられている。実際の葬儀の場面や映画の名場面を散りばめられているが、これはドキュメンタリーではないし、テレビドキュメンタリーの安っぽい再現フィルムのようなものとも違う。実際にホー・チョン・ドーは、そっくりさん達の中ではそれなりの使い手だったと聞く。ブルース・リーの迫力には程遠いが、それなりのカンフー映画として成立している。

この映画で初めて聞く死にまつわる様々な事実や噂。映画冒頭、部屋で倒れたリーのもとに救急車が駆けつけるところから始まる。そこに至った事実を追う形式で物語は綴られる。諸説ある死の理由をあれこれ再現してみせる場面も登場する。唖然としたのは、ファンとしては腹上死するブルース・リー・・・そこまでファンは見たいと思っていないぞ。また、電気仕掛けの怪しげなトレーニングマシーンの数々。機械を使ったトレーニングをしていたという話は聞くが、突きが決まるとランプが点く機械には笑いしか出てこない。そして、実は東南アジアで生きている、という噂があることを説くラスト。マジか?。早死にすることを占い師に告げられるところから、やたらドラマティックな演出になっているところも面白い。

撮影の度にブルース・リーは、悪党に絡まれる。強い男であるが故に狙われるし、挑まれる。空手とカンフーの対決、「ドラゴンへの道」撮影中のイタリアマフィアのエピソード。多くの人々に慕われるリーだが、敵もそれなりにつくってしまったということなのだろうか。それにしても、改めて思うのは、こういう伝記映画が製作されてしまうブルース・リーの偉大さ。日本人スタッフが「死亡遊戯」の未公開フィルムでつくりあげた「ブルース・リーin G.O.D. 死亡的遊戯」ってのもあったよなぁ。あれは「死亡遊戯」の全貌を見る上で意義があるけれど、この「ブルース・リー物語」はブレイクしてから死を迎えるまでの彼の足跡を辿る上では観る価値はあろう。



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ホテル

2023-07-19 | 映画(は行)

◾️「ホテル/Kleinhoff Hotel」(1977年・イタリア=モナコ)

監督=カルロ・リッツアーニ
主演=コリンヌ・クレリー ブルース・ロビンソン カーチャ・ルーベ

コリンヌ・クレリーという女優は、あの「O嬢の物語」でブレイクしただけに露出の多い出演作がどうしても多い。「007/ムーンレイカー」でボンドガールとして抜擢されるくらいだから美貌は申し分ないのだけれど、もっと演技で注目されてよい人だと個人的には思っている。1977年にイタリアで撮られたこの映画は、コリンヌ・クレリーの官能シーンが見どころの作品なのは間違いない。しかし全編を通じてこの人妻の行動と心情をカメラはひたすら追い続けるだけに、彼女の演技をじっくりと見つめることができる作品でもある。

飛行機に乗り遅れたことで、一泊だけのつもりで泊まったホテル。隣室からふと聞こえてきたのは反政府活動をしている男性の声。部屋の境に閉められたドアがあるのだが、彼女はその上部にある隙間から隣の様子を伺う。次第に明らかになる男性の素性。単なる興味本位だったはずが気づけば男性をつけ回す彼女。活動家とのいざこざから一人泣き崩れる男性の部屋に、彼女はついに入っていく。

イタリアは、当時政治的にたいへん不安定な時代。この映画が製作された翌年にはテロ集団に元首相が殺害される事件が起こったそうだ。この映画の中でも、地下鉄に活動家たちが現れる場面や、バーに警察が押し入り、連行した女性を裸にして取り調べをする場面も出てくる。隣室の男性を慕う女が薬物に溺れる理由を説くように、みんな何かにすがりついて世の中から逃れたかった。隣室の男性は、コリンヌと抱き合うことに溺れていきながら、少しずつ弱い自分をさらけ出していく。活動のために葬ったはずの本名で呼ばれることを望み、乳房に顔を押し当ててしがみつく。そして黙ってホテルを立ち去るラストの彼女。無言のラストは、なんとも言えない無常感。

官能シーン目当てで見始めたことは否定しないけど、カメラワークがあまりにも見事で引き込まれてしまった。隣室を覗き見るわずかな隙間から、部屋の様子を映して、立ち去る彼女をカメラは長回しのワンカットで見送る。素晴らしいラストシーンだった。




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