以前の職場を辞めてすぐの頃。charaの♪Swallowtail Butterflyに泣いた話は前にも書いた。ちょうどその頃、僕はカヒミ・カリィに夢中になっていく。だいたいシャルロット・ゲンスブールのアルバムを始め、フレンチポップは大好きだったし、ジェーン・バーキンのようなウィスパーボイスはかなり好き。日本にもそんなシンガーがいたのだ。同時期にNHK-FMで彼女の番組も始まり、毎週聞いたものだ。エンディングの「おやすみなさい」を聞くのが何とも言えずカ・イ・カ・ンだった。歌ってるというより吐いている息の方が多そうなウィスパーボイス。しかもプチ失業中の折、ミニアルバムばかりがディスコグラフィーなので、経済的にも助かったのだった(笑)。
”渋谷系の歌姫”と呼ばれたこの頃の代表作が「Le Roi Soleil」。当時森永ハイチュウのCMにはタイトル曲が使われ、本人も出演した。数年前にはNHK教育の「フランス語講座」でも使われていたっけ。「ちびまる子ちゃん」の主題歌となったハミングがきこえるも収録され、カヒミの入門盤としては最適とも言えるか。僕は「Girly」と並んでよくカーオーディオに持ち込むアルバム。
フレンチぽい作風から次第に脱皮していくカヒミ。最近の作品では音のアートとも言うべき独自の世界が展開されている。特に僕が好きなのは2003年作の官能的な傑作「トラペジスト」。空中ブランコ乗りに扮した主人公が彷徨う愛の世界。どこかエロティックで、近寄りがたい雰囲気が漂うのだが、聴き込む程にその魔力に夢中になれる。延々と続くつぶやきとサウンドエフェクト、ジャズあり、キングクリムゾン風あり・・・まるで悪女につかまった弱い男、いやいや悪魔のような無邪気さをもつロリータに夢中になる男のように、僕はこのアルバムの魅力に落ちた。聴覚からの官能・・・そんなアルバム。ときどきこの快感が欲しくなる。