■「クジラの島の少女/Whale Rider」(2002年・ニュージーランド=ドイツ)
●2003年サンダンス映画祭 観客賞
●2003年インディペンデント・スピリット賞 外国映画賞
●2003年サンフランシスコ国際映画祭 観客賞
監督=ニキ・カーロ
主演=ケイシャ・キャッスル・ヒューズ ラウィリ・パラテーン ヴィッキー・ホートン
ニュージランドの先住民族マオリ族。彼らの伝説では、その祖先は鯨に乗ってやってきたとされる。族長の地位は男系に世襲されることとなっているのだが、その家に生まれた双子のうち生きて生まれたのは女の子の方だった。父親は伝説の勇士パイケアの名を娘につける。成長した少女は伝統を受け継ぐことを望むが、厳しいしきたりを守り続ける祖父はそれを徹底して拒み続ける。少女のひたむきさが感動を呼ぶ、ここ近年屈指の秀作。
伝統を継承することの大切さと難しさ。わが国でもそうしたことが見なおされ始めている。だが、古くから伝わる物事を”古くさい”と受け入れない若い世代がいるのは、どこの国でも同じだ。この映画でもそうした現実はところどころに描かれる。男子の後継者をつくるために祖父が近所の子に伝統を教え込もうとする場面、娘の父親は芸術家としてマオリの伝統を守ろうとするエピソード、そしてそれを認めない祖父。ヒロインは、そうした伝統を守ることに懸命になる。だが、そこに立ちふさがるのは”男性社会”である現実。誰よりも民族の歴史を学び、スピーチコンテストで発表するが、大好きな祖父はそれを聞いてもくれない。後継者問題を考えると「あんな娘!」と口にしてしまう祖父に、観ていて苛立ちを覚える。だが、それも守るべきものがあっての厳しさ。そこは異民族である僕らにはなかなか理解しにくい部分かもしれない。
ヒロインの健気さを受け入れない現実があるが故に、ラストに起る奇跡的な出来事が感動的だ。海中に消えたはずの、族長の証である鯨の歯を握りしめる祖父の表情、海へと進んでいく鯨の背に乗る少女の表情、それを見守る人々、伝統を疎ましく思っていた少年達がマオリの歌を歌う・・・。この場面の台詞は最小限。すべてが表情によって語られる。ヒロインを演じたケイシャ・キャッスル・ヒューズは、実はうまく泳げないらしい。このクライマックスや素潜りする場面など頑張ってこなしたんだろうな。それにしてもオスカー主演賞ノミネートは立派。ニュージーランドは近年「ロード・オブ・ザ・リング」など映画のロケ地としても注目されているが、海の美しさも世界中に印象づけた。
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