◼️「無人の野/Cánh đồng hoang」(1980年・ベトナム)
主演=グェン・トゥイ・アン ラム・トイ グェン・ホン・トゥアン
このベトナム映画が日本で公開されたのは1982年。同じベトナム戦争を扱った映画としてコッポラの「地獄の黙示録」が公開された少し後だった。ベトナム側から戦争を描いた作品として紹介され興味があったのだが、ビデオはリリースされておらず、なかなか観る機会がなかった。先日BS-2にて深夜に放送され、やっと観ることができた。ありがとうNHK。
僕らはこれまでハリウッドが製作したベトナム戦争映画を数々観てきた。戦場の狂気を描いた「地獄の黙示録」、「ディアハンター」や「フルメタルジャケット」では精神を崩壊させる人間達を、帰還兵の問題を提示した「ランボー」、戦争を内省する「プラトーン」や「7月4日に生まれて」「カジュアリティーズ」。それらは泥沼化したあの戦争が何だったのかを、アメリカ人は様々な視点から見つめ直してきた。この「無人の野」はベトナム側からあの戦争を描いたものだが、とにかく政治色がないのだ。もっと反アメリカ色を露骨に出した、社会主義国としての立場を描いたものを僕は最初想像していた。カメラは淡々と戦場で暮らす夫婦の姿を追うのだ。
主人公はメコンデルタ地帯で水上生活をおくっている夫婦だ。子供が一人いるが愛おしくてたまらない二人の様子がなんとも微笑ましい。彼らは米軍の攻撃に抵抗する為のゲリラ戦で連絡要員を務めている。地域の人間を抹殺するように命じられ、執拗にやって来る米軍ヘリコプター。その黒い巨体がうろうろする様は、さながら獲物を探す怪物だ。迫ってくる危険から平穏な生活を守ること。主人公はそれだけを懸命にやっている。子供をビニール袋に入れて一緒に水中に隠れる場面は必死さがこちらにも伝わってくる。ラストシーンではアメリカ人側の人間性にも言及しており、一方的な視点で終わらない。物言わぬラストシーンに戦争の無意味さを思い知らされる。粗さこそあるけれど、世の中を知るために多くの人にみてもらうべき映画だ。