■「ハンナ/Hanna」(2011年・アメリカ)
監督=ジョー・ライト
主演=シアーシャ・ローナン エリック・バナ ケイト・ブラシェット トム・ホランダー
※注意・結末に触れる部分があります
北欧の森の中で父親と二人だけで暮らし、殺し屋としての訓練を受けてきた少女ハンナ。16歳になった彼女は、外の世界へ行きたいと言い始める。父親はCIA捜査官のマリッサに命を狙われることになると言い、マリッサを殺せと命じるのだった。好奇心あるティーンでありながら、殺人者としての冷静さをもつ主人公。ハンナの元に刺客の手が迫り、そして出生の秘密に近づいていく。
女性の殺し屋という共通点から、宣伝は「ニキータ」や「レオン」を引き合いに出している。申し訳ないが、本当に下手だと思う。人気作である2作品を念頭にこの映画を観たら、そりゃ見劣りするに決まってる。ジョー・ライト監督は「つぐない」「プライドと偏見」と人間ドラマで評価を高めた人。アクション演出は経験がないせいか、遠くからのショットが多くて臨場感や緊迫感は今ひとつだ。また、アンヌ・パリローやナタリー・ポートマンのハードなヒロインとは異なり、シアーシャ・ローナン演ずるヒロインはまるで狼少女のように無垢。殺し屋少女のハードアクションを期待すると、物足りなさは仕方ないと思うのだ。宣伝はこれら先行する2作品を観客の頭から追い出しておくべきだった。そうすれば、この映画はきっと無垢で一途なヒロインの魅力や、旅行者家族との交流から抑えられていた感情や人間性を学んでいく成長物語として楽しめただろう。また、人間兵器として遺伝子操作で生み出されたという設定は、先行する2作品にない設定だけにミステリアスな物語としての魅力もあったはずだ。残念なのは、肝心のその部分が説得力のある表現だとは思えないこと・・・。
この映画の魅力は、まずはシアーシャ・ローナンの頑張りだろう。初めて音楽を耳にする場面の幸福感や、急速に世界・情報に触れることで混乱してしまう不安な表情。クールな表情の後で見せる笑顔とのギャップは心に残る。また、悪役ケイト・ブランシェットが「インディ・ジョーンズ/クリスタルスカルの王国」の敵役に輪をかけたような冷徹振り。血のにじむ歯磨き場面は完璧なものを求める役柄が象徴されるいい演出。ケミカルブラザースが手がけた音楽も印象的。エリック・セラほど無機質な響きでないところもいいね。