◾️「男と女 人生最良の日々/Les plus belles annees d'une vie」(2019年・フランス)
監督=クロード・ルルーシュ
主演=アヌーク・エーメ ジャン・ルイ・トランティニャン スアド・アミドゥ アントワーヌ・シレ モニカ・ベルッチ
痴呆になった僕の祖父は、部屋の壁に大相撲のカレンダーを貼っていた。最後に会った時、孫の僕が誰かわからなかったのだけど、その僕に四人の横綱の写真を指して自慢げに、これは自分の四人の息子だ、と言った。実際の四人の息子とは似てもいないけれど、人を愛する気持ちって残るんだな、と泣きそうになったことを覚えている。
老いや痴呆という現実を迎えた時に、過去の恋愛も同じように思い続けていられるものなんだろうか。
クロード・ルルーシュ監督が1966年に撮った「男と女」。その52年後を描いたのが、本作「男と女 人生最良の日々」。映画は、アヌーク・エーメ演ずるアンヌが娘フランソワーズと孫と過ごしているところから始まる。そこへアントワーヌと名乗る男性が訪ねてくる。彼はかつてアンヌと愛し合ったジャン・ルイの息子。ジャン・ルイは高齢者施設で暮らしていて、言ったこともすぐ忘れ、記憶も曖昧になっていた。かつて愛したアンヌのことを何度も話しているらしい。体調もすぐれなくなってきているから是非会って欲しい、とアンヌに頼みに来たのだった。
ジャン・ルイは目の前に現れたアンヌを"新入りさん"と呼び、思っていたその人だと気づかない。しかし、彼女の仕草にかつて愛した女性を重ねているのだった。「そうやって髪をかき上げる仕草をしていた。素敵な仕草だ」ああ、やっぱり愛した人の記憶って残るものなんだ。そして、アンヌはジャン・ルイに愛され続けていたのだと知る。
長い時間を経て再び会ったことで、あの頃思っていたけど口にできなかったことや、相手を思う気持ちがよみがえる。映画冒頭でビクトル・ユーゴーの「最良の日々はこの先の人生に訪れる」という言葉が引用される。いくつになっても人と触れ合うこと、思い合うことって素敵なことだな、と思わせてくれる。そう思えるのは、この映画に挿入される52年前の映画のシーンと変わらず、現在の二人の姿や交わされる会話がとても素敵に見えるからだ。老人の黄昏映画にじーんとしてしまうなんて歳とったからだ、と思われるかも。でもこの映画で描かれる再会は年齢なんか関係なく素敵な出来事だ。遺作となった大好きなフランシス・レイの音楽、アレンジも素晴らしい。
ボケちゃっても忘れたくないし、忘れられたくもないな。そんな年寄りになれるのかな。