Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

2025-02-09 | 映画(た行)


◼️「敵)(2025年・日本)

監督=吉田大八
主演=長塚京三 瀧内公美 河合優実 黒沢あすか

長塚京三が演ずるのは退職した大学教授。妻に先立たれて一人暮らし。雑誌の連載も需要が減って、貯金の残高が尽きる日が人生のXデーだと時々口にする。それでも教え子たちが時折尋ねてくれたり、一緒に酒を飲む友人もいる。そんな平穏な日々が映画前半描かれる。

食事の用意をする様子が丁寧に描かれ、身支度のルーティンが反復される。厚めに切ったハムと卵、骨付きチキンなどなど、白黒画面なのにすっごくそそられる。引退後に教え子が訪ねてくれるっていいな。

しかも瀧内公美みたいな雰囲気ある女性と二人きりでワイン傾けたり🍷。サン・テグジュペリの小説の名がついたバーで、デザイナーの友人と酒を呑む。店のオーナーの娘とフランス文学の話をしたり。貯金が尽きるXデーがうんぬん言ってたくせに。
「いいことあったじゃないですか」
そりゃご機嫌になって鼻歌も出ちゃうよな。

ー恋は遠い日の花火ではない
かつて長塚京三が出演したサントリーのCMを思い出すw。このCMのイメージが念頭にあってキャスティングされたのではなかろうか。

そんな日常が突然狂い始める映画後半。
「敵は北からやってくる」
敵? 北?
痴呆が始まって周りがわからなくなる恐怖と不安をアンソニー・ホプキンスが「ファーザー」で演じていたが、本作では夢と現実の境目が曖昧になっていく様子が描かれる。突然近所で起こる銃撃音。倒れていく隣人や通行人。美しい教え子女性との晩餐に招かれざる客が次々に現れる。浴びせられる厳しい言葉にうろたえるしかない主人公。幾度も重ねられる目覚めの場面。一体どこまでが現実でどこからが夢なのか。このあたりは編集の巧さが光るが、筒井康隆はこれを文章で表現しているのだから、実は読んだらもっとすごいのでは。原作未読で本作に向き合ってしまったのが残念。

それでも怒涛の「冬」パートが
「みんなに会いたいなぁ」
で終わるのは、老いた男の寂しい本音。

「敵」について考える。老い、元大学教授の経歴にカッコつけてる自分とその裏の自分。平穏な日々を脅かす出来事、人間関係、味方と思っていた者の本音、自分の精神に居座っている恐怖、トラウマ、社会不安。答えはいくらでも出てきそう。

全編モノクロの映像にしたのは、色彩を取り除くことで映像から得られる情報を制限したかったのかも。着る服の色から観客に勝手なキャラづけをさせないとか。ノスタルジーを狙ったのでも、主人公にとって色を失った魅力のない世界になってるという表現でもなさそうに思える。





コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« パピヨン | トップ |   
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。