風、起きる時は
第57話 鳴動act.3―side story「陽はまた昇る」
奥多摩交番を出た体を、ふっと山風が吹きぬけた。
涼やかな水の香ふくんだ風が心地良い、そんな感覚に少し心ほぐれながら助手席の扉を開く。
ふたりミニパトカーに乗込んで青梅街道を走りだすと、運転席から溜息と一緒にテノールが笑った。
「あーあ、また俺、おまえと離ればなれだね。やっと初総の2ヶ月が終わったのにさ、今度は1ヶ月間まるっとパートナー解散だね?」
本当に、今度は1ヶ月間はザイルパートナーを組めない。
初任総合の期間は週末の外泊日、英二は青梅署に戻って光一とパートナーを組んでいた。
けれど今度の1ヶ月は互いに七機と青梅署で、別の人間とパートナーを組むか単独のどちらかしかない。
そして英二は後任者と1ヶ月間はパートナーを組む、それは光一にとったら面白いはずがない。
「そうだな、1ヶ月は別々だな?」
ザイルパートナーの言葉に頷いて、英二は運転席を見た。
信号で止まり光一も振向いてくれる、その明るい目に英二は穏やかに微笑んだ。
「その1ヶ月が終ったら、俺は国村の部下だよ。だから七機では敬語で話す、それでいいか?」
「…そっか、」
テノールの声が寂しげにつぶやいて、信号が青に変わる。
白い手にハンドルを捌きながら透明な瞳はフロントを見、そして微笑んだ。
「そうだよね、俺って宮田の上司になるんだもんね?キッチリ敬ってもらおうかな、」
すこし寂しげなトーンが切ない、けれど組織に所属する以上は仕方ない。
上司と部下、それが自分たちの現実の一面。けれどそれだけじゃない、そんな現実に英二は笑いかけた。
「そうするよ、上司の時はな?」
「うん?」
小さく短くテノールの声が訊き返す。
そのフロントガラスに向けた視線の横顔に、率直な想いを英二は告げた。
「俺は、光一のアンザイレンパートナーだ。だから七機に行っても山とプライベートでは、今まで通りにタメ口で話させてくれな、」
言葉に、前を向いたままの目が微笑んだ。
ほっと安堵する喜びが青空の窓に笑う、そして透明なテノールが愉しげに笑ってくれた。
「うん、当然だね?俺とおまえは対等な山ヤなんだ、それにさ?山でイチイチ敬語とか使ってたらね、いざって時に危なっかしすぎるよね」
「だろ?」
相槌打ちながら見る、素直に笑うパートナーが嬉しい。
その笑顔に自分達の立場と想いが切ない、そして数日前の夜の記憶が蘇える。
―…秘密ってイイね?ほんとに独り占めってカンジ…俺、おまえを独り占めして最高峰に登るよ?
初めて英二が光一に想いを告げた夜、そんなふうに光一は言って笑ってくれた。
あれからまだ一週間も経っていない、それでも今既に道は分れて尚更に「秘密」は深くなる。
それが切ない、そして「どうして?」という思いも起きる、それでも互いに後悔はしていないと解かっている。
そう解っている、けれど英二は今この本音を口にした。
「光一、ごめんな、」
フロントガラスに映る透明な瞳は、笑ってくれる。
ごく静かな笑顔のままに、透明なテノールは言ってくれた。
「謝るくらいならね、今夜は周太をいっぱい笑顔にしてさ、おまえも笑いなね?で、明日明後日に備えておいてよ、ハードだからね?」
「うん、」
素直に頷いて、けれど痛んでしまう。
なぜこんなにも痛い?そんな想いのままミニパトカーは御岳駐在に停まった。
「はい、おつかれさん、っておまえ、何そんな難しい顔しちゃってんのさ、」
シートベルトを外しながら、光一が笑ってくれる。
笑う底抜けに明るい目が優しくて、心ほどかれて英二は微笑んだ。
「ごめん、俺、結構なんか弱いみたいでさ。自分で言った癖に、なんかショック受けてるとこ、」
「うん?ああ、敬語のコト?」
すぐ察してくれながら光一は、開きかけた運転席の扉を閉じてくれる。
そして英二の貌を覗きこむと、からり笑い飛ばした。
「それくらいね、ちょっと楽しんじゃいな?上司と部下ってさ、燃えるシチュエーションだろ?禁断イ・ケ・ナ・イ恋愛、悪くないね、」
こんな時でもエロオヤジなんだ?
そんなパートナーかつ恋人が可笑しい、可笑しくて英二は笑いだした。
けれど笑いながら気づいてしまう、こうして笑わせてくれる大らかな優しさが光一は温かい。
こんな明るく大らかな懐にまた惹かれていく、そんな自分を見つめながら英二は綺麗に笑いかけた。
「解かった、楽しむよ?俺は上司を手籠めにしようとしてる、エロい部下ってことだな?」
「そ、おまえってホント危ないよね?可愛いイヴの貞操を傷付けないでよ、ア・ダ・ム、」
からっと笑って光一は運転席の扉を開いた。
英二も助手席の扉を開き、外に立つ。その見上げた空のブルーが濃い。
もう陽射しも光彩も夏になっている、そう微笑んだ横顔の頬を小突かれた。
「青免、さっさと取っちまいな?でないと俺が異動になった後の1ヶ月は、マジ困っちゃうよ?新人くんに運転させるのも、ねえ?」
「あ、そうだな?」
言われて、頭脳が現実的な方へ動き出す。
今までは光一が御岳駐在のミニパトカーを動かしていた、それを少なくとも1ヶ月は英二が引継ぐ。
それに第七機動隊へ異動すれば特殊車両などもある、本当に今月中には青免、パトカーの運転免許を取得しないといけない。
―今は感傷に浸っている時じゃない、時間は待ってくれないんだ
今は時間が一刻も惜しい、この一刻が運命を分けるかもしれない。
それは自分だけの問題じゃない、この責任と権利に微笑んで英二は駐在所の入口を潜った。
制服姿の光一と救助隊服の英二、けれど同じよう履いた登山靴で踏み込んだ二人を、快活な笑顔が迎えてくれた。
「おう、おかえり。飯、出来てるぞ。まず食おう、」
出張から岩崎が戻っていた、その笑顔に誘われるまま休憩室へと入る。
その席にはいつものよう、岩崎の妻が昼食の支度をしてくれてあった。
温かな食事を前に座ると御岳の所長は箸を取り、二人の部下に微笑んだ。
「内示、聴いてきたんだろ?まあ、食いながら話そう、」
いつもの実直な笑顔で薦められて、ありがたく箸を動かし始めた。
いただきますと手を合わせると、味噌汁に箸を付けてから光一は少し悪戯っぽく微笑んだ。
「岩崎さんはいつ、俺たちの異動について聴いたんですか?」
「昨日な、先に決定は伝えられていたよ、後藤さんが本庁から帰ってきてからな、」
岩崎も可笑しそうに笑んで答えてくれる。
旨そうに箸を動かしながら、困ったようでも愉快に岩崎は笑った。
「定時の後に後藤さん、青梅署に呼んで話してくれた。その後、一緒に飲みに行ったよ。二人同時はなあ、さすがに俺も寂しいぞ?」
そう言ってくれた笑顔が寂しげで本当に困っている。
申し訳なくて英二は箸を置くと背すじを正し、頭を下げた。
「申し訳ありません、ご迷惑をおかけします、」
「なに、謝ることは無いぞ、宮田?異動は誰にもあることだ、それよりしっかり食えよ?8月の1ヶ月はキツイだろうしな、」
気さくなまま笑って、食事を勧めて気遣いを見せる。
やっぱり岩崎も「キツイ」と思っているらしい、そう見た隣からテノールの声が笑った。
「岩崎さんもキツイって思います?」
「うん、言っちゃあなんだがな、おまえ達二人とも、それぞれ苦労はするだろうな?でもまあ、おまえらなら大丈夫って俺は思う、」
ハンバーグに箸つけながら岩崎は明るく笑ってくれる。
口の中を飲みこんで、そして落着いた声は気さくなまま明るんだ。
「七機も山岳レンジャーだしな、ここと雰囲気は似ているから、最初はキツイかもしれんが割と馴染みやすいと思うぞ?
それでな、国村?実は第二小隊内では次期小隊長候補って言われているヤツがいるんだ、そいつを飛越して国村の就任になる。
その候補者の奴は警部補にまだなっていない、だから階級的には未だなんだが、心情的には隊内の信頼も厚い。実質の副隊長ってとこだ、」
光一が就くポストに座るつもりだった男がいる、そう岩崎は告げている。
こういう相手がいると人間関係の構築が難しいかもしれない、そんな予想の向かいから岩崎が言ってくれた。
「たぶん本人も周りも、その候補者が次期小隊長になるって思ってる。そういう期待を裏切る形で、国村が就任することになるんだ。
これは結構キツイ立場になるぞ? 実績も実力も階級も国村より上の奴はいない、そう解っているから皆、納得もしているだろうよ。
だけどな、心情的に候補者への同情だってしやすいだろう?山ヤは仲間意識が強いから、その分だけ元から知ってるヤツの肩を持つよ、」
岩崎は御岳駐在所長に就任する前、七機山岳レンジャー第一小隊長だった。
それはまだ2年前の事だけに状況がよく解かっている、その知る限りの現実を岩崎は話してくれた。
「俺は第一小隊だったから、第二小隊のメンバーを深くは知らない。それでもまあ、皆が山岳会の人間だし、同じ山ヤだからなあ?
警視庁で山ヤの警察官やっているなら、国村の実力や実績も、立場も全員が知っているし、面と向かって刃向う事はまずないだろう。
だがな、チームで動く連中なだけに連帯意識は強い。そういう心情から採点は辛くなってな、後藤さんの贔屓だって考えたくなるかもな?」
面従腹背、それは後藤副隊長にも指摘されてきた。
そういう腹芸的な暗闘を光一が対応できるのか?その心構えを岩崎は話してくれる。
この実直な上司の配慮へと、稀代の山っ子は綺麗に笑って頷いた。
「それも当たり前ですね?だって俺、かなりヒイキされてるって思いますよ?でも、俺は贔屓に応えるだけの結果は出しますけどね。
だから今回もナントカやってみますよ、第二小隊を掴んで、山の精鋭部隊って言われるようにする。それが俺のオシゴトで権利です、」
贔屓はある、けれど応える結果を出す。それを自分の仕事で権利と言い切る覚悟がある。
そんなふうに自分の立場を認め、受入れる覚悟は高潔で眩しい。
―やっぱり光一は、選ばれるべき人間なんだな
光一はリーダーになるべき男、そう素直に納得できてしまう。
このプライドが高い自分ですら納得できる、だから光一は七機でも周囲を心服させるだろう。
そんな信頼に見た隣へと、温かな上司は楽しそうに頷いた。
「よし、いつもの国村だな?これなら大丈夫だよ、おまえの大らかで明るい強さが皆をひっぱれる。俺で良ければ、いつでも相談のるぞ、」
「ありがとうございます。異動しても岩崎さん、たまには飲み行きましょうね?面従腹背ってヤツとの戦いを愚痴らせて下さいよ、」
からっと笑って光一が答える「戦い」は9月、前任の小隊長異動後がひどいだろう。だから英二の異動もそこに決められた。
そのとき自分が果たすべき役割を8月の1ヶ月、光一の現況を聴きながらよく考えておく必要がある。
そんな考え廻らしながら箸を運ぶ英二に、誠実な上司は明るいまま笑いかけてくれた。
「で、宮田は今月中に青免を取れ。もう書類の用意はしたからな?後任のヤツは持ってるしな、ここでの先輩としても取っておけ、」
光一にも言われた心配を岩崎もして準備もしてくれた。
素直に嬉しくて英二は、笑顔で頷いた。
「はい、ありがとうございます。頑張ります、」
「だよ?おまえ、一発で合格しなね。昇進試験もだよ、」
光一も横から言って笑ってくれる、その言葉が嬉しい。
岩崎所長も光一も上司であり同僚として、先輩として同じ山ヤとして、卒配の日から支えてくれた。
こんなふうに自分は卒配からずっと、この御岳駐在所で恵まれてきている。
そのことが此処から発つと決った今、改めて感謝の想いに温かい。
御岳駐在所を出たのは19時を回っていた。
明日明後日の講習会と月曜からの引継ぎ、スケジュール変更、そして通常業務。
今日はやるべきことが多くて、定時上がりの予定がずれ込んでしまった。
「川崎に帰るの、遅くなっちゃうね?周太、もう帰ってるんだろ?」
署に戻る四駆の車内、光一が困ったよう訊いてくれる。
このあとも吉村医師の元に寄らなくてはいけない、河辺を出るのは20時半過ぎるかもしれない。
そんな予想をしながら携帯を出し、画面を開きながら英二は微笑んだ。
「ああ、メール入ってる。周太、3時ごろに帰ってたみたい、」
「そっか、やっぱ待たせちゃうね?でも先生のトコ寄るんだろ?」
「うん、やっぱり今日の内に話した方が良いから。まだいらっしゃる筈なんだ、」
話しながら周太宛に予定のメールを作り、送信する。
川崎に着くのは22時くらい、そう書いた文面を見つめる横顔に光一が訊いてくれた。
「周太に異動のコトって話す?」
この問いかけにはもう、答を決めてある。
その通りに英二は口を開いた。
「今日は言わない、光一の異動が発表になる直前に話したい。たぶん周太、また自分のこと責めるだろうから、」
「ふん、周太が自分を責める?」
どういう意味?そんなふう透明な目が一瞬こちらを見、促してくれる。
それに笑いかけて英二は答えた。
「周太、俺が独りになることを心配してるんだよ。初総のとき俺、酷かっただろ?周太と離れること怖がって、怯えてさ。
だけど周太、光一が俺の傍にいれば大丈夫だって安心してくれてるんだ。それが今回、光一とも俺は離れるだろ?きっと心配させる。
異動が発表されたら内緒にも出来ないけどさ、今夜くらいは周太のこと、何の心配も無いまま笑わせてあげたいから言いたくないんだ、」
せめて今夜だけは、ただ幸せに笑わせてあげたい。
明日の周太は美代と一緒に大学のフィールドワークに参加する、その楽しみだけ見つめていてほしい。
8月になったら周太の自由な時間は減るだろう、今まで通りには好きな植物学の時間も作れなくなる。
だから今週末は植物学のことに集中させてあげたい、ごく普通の幸せな時間を過ごさせたい。
そんな望みに微笑んだ英二へと、光一も笑って頷いてくれた。
「解かった、俺も何も言わないでおくね。で、俺の8月一日は引継ぎの事前異動だし追加で決定してるから、発表は8月一日だと思うよ?
7月末の入寮当日にびっくりってなっちゃうだろうけど、それでイイ?それとも事前に会って話せる機会があったら、話した方がイイ?」
―そうだ、「追加で決定」なんだ
このことが光一の苦労になる、そう岩崎も話してくれた。
その苦労への心配に、英二は口を開いた。
「機会があるなら話した方が良いと思う、周太だけ仲間外れみたいになるの良くないから。それより光一の方が俺は心配だよ?」
「あー、他の候補を退けちゃったって件?」
さらっと笑って底抜けに明るい目が英二を見てくれる。
飄々とした笑顔のまま光一はハンドルを捌き、考えを言葉にし始めた。
「山岳レンジャーの小隊長は警部補が条件だけどさ、その候補のヤツはまだ警部補になってないよね?だけど気持ち的にはってコトだ。
そういう次期リーダーへの期待とかってさ、俺も山岳会の次期会長って言われてるから解かるよ?でも今すぐ会長になるのは無理だよ?
今の俺じゃ経験も階級も実績も、後藤のおじさんには及ばないって解っているからね。そういう期待と実績の現実とギャップのアタリ、
その候補のヤツにも理解させるツモリだよ?理想ばっかで現実に向き合えなきゃ、何時まで経っても指揮官になんざなれっこないだろ?」
第七機動隊山岳レンジャー第二小隊。そこに光一は指揮官として就任することが決った。
この「指揮官」という立場の視点で今から光一は見つめ、部下の育成を考えている。
そんなパートナーが眩しくて、英二は綺麗に笑いかけた。
「その通りだな、その人も光一の部下で仲間として、お互いに大切に出来たら良いな、」
「だね?その辺についてはさ、おまえの協力は期待するとこだけど。ま、8月は俺だけで頑張るよ。でも愚痴には公私とも付きあってね、」
からり底抜けに明るい目が笑って「公私とも」ねだってくれる。
その信頼と甘えてもらえることが素直に嬉しい、そして、こういう男が自分を選んでくれた現実が誇らしい。
この信頼と想いに応え続けていきたい、そんな願いに英二は綺麗に笑った。
「おう、幾らでも付合うよ?俺は光一のアンザイレンパートナーで部下で、恋人だから、」
応えに底抜けに明るい目が笑ってくれる。
そして透明なテノールは謳うよう、想いを告げてくれた。
「ずっと一生付き合ってよね、俺の最愛のアンザイレンパートナー、愛してるよ英二、」
綺麗な笑顔でハンドルを捌きながら、白い指がカーステレオの再生ボタンを押した。
かすかな機械音が鳴る、そして流れ始めた曲を低くテノールは謳い始めた。
…
Coming closer
Hurry on,hurry on time it's going so fast
Hurry on,I can't save you
Can't slow it down You know this is your fate Are you feeling lonely?
So lonely,lonely Cry to the wind
降り注ぐ光を浴び 手を伸ばすどこまでも高く
ただ君は風に揺られて 見つめては儚く微笑む
眠りの時を 知ってるの? Coming closer
Hurry on,hurry on time it's going so fast
Hurry on,I can't save you
Can't slow it down You know this is your fate Are you feeling lonely?
So lonely,lonely Cry to the wind
…
「Coming closer…」
そっと歌詞を呟いて、英文詞の意訳が心に映りだす。
時は近い、
急げ、急がないと 時の流れはあまりに速い
僕は君を救えない
時は止められない これが自分の運命だと君は知って、孤独を感じているの?
そんなにも孤独で独りきりで 風に向かって叫ぶ
―なんか、今の気持ちみたいだな
そんな感想に、光一がこの曲にスイッチ入れた気持が解かる気がする。
たぶん光一も自分と同じ気持ちでいる、そんなふう言わないでも解かりあえる相手がいることが嬉しい。
この気持ち素直に微笑んで、制服の胸ポケットからiPodを英二はとり出した。
「光一、この曲ダビングしといてもらえる?先生との話が終ったら、受け取りに行くから」
言いながら運転席の制服姿の、胸ポケットにiPodを入れる。
最後の信号を越えながら光一は気さくに笑ってくれた。
「うん、やっとくね?あ、診察室やっぱり電気ついてるね、」
駐車場に乗り入れながらテノールが笑って、雪白の顎先でフロントガラスを示す。
そのガラス窓の向こうには、青梅署警察医診察室の灯が温かい。
あの温かい光のなかで、これから第2の尋問が始まる。
【歌詞引用:L’Arc~en~Ciel「Coming Croser」】
(to be continued)
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第57話 鳴動act.3―side story「陽はまた昇る」
奥多摩交番を出た体を、ふっと山風が吹きぬけた。
涼やかな水の香ふくんだ風が心地良い、そんな感覚に少し心ほぐれながら助手席の扉を開く。
ふたりミニパトカーに乗込んで青梅街道を走りだすと、運転席から溜息と一緒にテノールが笑った。
「あーあ、また俺、おまえと離ればなれだね。やっと初総の2ヶ月が終わったのにさ、今度は1ヶ月間まるっとパートナー解散だね?」
本当に、今度は1ヶ月間はザイルパートナーを組めない。
初任総合の期間は週末の外泊日、英二は青梅署に戻って光一とパートナーを組んでいた。
けれど今度の1ヶ月は互いに七機と青梅署で、別の人間とパートナーを組むか単独のどちらかしかない。
そして英二は後任者と1ヶ月間はパートナーを組む、それは光一にとったら面白いはずがない。
「そうだな、1ヶ月は別々だな?」
ザイルパートナーの言葉に頷いて、英二は運転席を見た。
信号で止まり光一も振向いてくれる、その明るい目に英二は穏やかに微笑んだ。
「その1ヶ月が終ったら、俺は国村の部下だよ。だから七機では敬語で話す、それでいいか?」
「…そっか、」
テノールの声が寂しげにつぶやいて、信号が青に変わる。
白い手にハンドルを捌きながら透明な瞳はフロントを見、そして微笑んだ。
「そうだよね、俺って宮田の上司になるんだもんね?キッチリ敬ってもらおうかな、」
すこし寂しげなトーンが切ない、けれど組織に所属する以上は仕方ない。
上司と部下、それが自分たちの現実の一面。けれどそれだけじゃない、そんな現実に英二は笑いかけた。
「そうするよ、上司の時はな?」
「うん?」
小さく短くテノールの声が訊き返す。
そのフロントガラスに向けた視線の横顔に、率直な想いを英二は告げた。
「俺は、光一のアンザイレンパートナーだ。だから七機に行っても山とプライベートでは、今まで通りにタメ口で話させてくれな、」
言葉に、前を向いたままの目が微笑んだ。
ほっと安堵する喜びが青空の窓に笑う、そして透明なテノールが愉しげに笑ってくれた。
「うん、当然だね?俺とおまえは対等な山ヤなんだ、それにさ?山でイチイチ敬語とか使ってたらね、いざって時に危なっかしすぎるよね」
「だろ?」
相槌打ちながら見る、素直に笑うパートナーが嬉しい。
その笑顔に自分達の立場と想いが切ない、そして数日前の夜の記憶が蘇える。
―…秘密ってイイね?ほんとに独り占めってカンジ…俺、おまえを独り占めして最高峰に登るよ?
初めて英二が光一に想いを告げた夜、そんなふうに光一は言って笑ってくれた。
あれからまだ一週間も経っていない、それでも今既に道は分れて尚更に「秘密」は深くなる。
それが切ない、そして「どうして?」という思いも起きる、それでも互いに後悔はしていないと解かっている。
そう解っている、けれど英二は今この本音を口にした。
「光一、ごめんな、」
フロントガラスに映る透明な瞳は、笑ってくれる。
ごく静かな笑顔のままに、透明なテノールは言ってくれた。
「謝るくらいならね、今夜は周太をいっぱい笑顔にしてさ、おまえも笑いなね?で、明日明後日に備えておいてよ、ハードだからね?」
「うん、」
素直に頷いて、けれど痛んでしまう。
なぜこんなにも痛い?そんな想いのままミニパトカーは御岳駐在に停まった。
「はい、おつかれさん、っておまえ、何そんな難しい顔しちゃってんのさ、」
シートベルトを外しながら、光一が笑ってくれる。
笑う底抜けに明るい目が優しくて、心ほどかれて英二は微笑んだ。
「ごめん、俺、結構なんか弱いみたいでさ。自分で言った癖に、なんかショック受けてるとこ、」
「うん?ああ、敬語のコト?」
すぐ察してくれながら光一は、開きかけた運転席の扉を閉じてくれる。
そして英二の貌を覗きこむと、からり笑い飛ばした。
「それくらいね、ちょっと楽しんじゃいな?上司と部下ってさ、燃えるシチュエーションだろ?禁断イ・ケ・ナ・イ恋愛、悪くないね、」
こんな時でもエロオヤジなんだ?
そんなパートナーかつ恋人が可笑しい、可笑しくて英二は笑いだした。
けれど笑いながら気づいてしまう、こうして笑わせてくれる大らかな優しさが光一は温かい。
こんな明るく大らかな懐にまた惹かれていく、そんな自分を見つめながら英二は綺麗に笑いかけた。
「解かった、楽しむよ?俺は上司を手籠めにしようとしてる、エロい部下ってことだな?」
「そ、おまえってホント危ないよね?可愛いイヴの貞操を傷付けないでよ、ア・ダ・ム、」
からっと笑って光一は運転席の扉を開いた。
英二も助手席の扉を開き、外に立つ。その見上げた空のブルーが濃い。
もう陽射しも光彩も夏になっている、そう微笑んだ横顔の頬を小突かれた。
「青免、さっさと取っちまいな?でないと俺が異動になった後の1ヶ月は、マジ困っちゃうよ?新人くんに運転させるのも、ねえ?」
「あ、そうだな?」
言われて、頭脳が現実的な方へ動き出す。
今までは光一が御岳駐在のミニパトカーを動かしていた、それを少なくとも1ヶ月は英二が引継ぐ。
それに第七機動隊へ異動すれば特殊車両などもある、本当に今月中には青免、パトカーの運転免許を取得しないといけない。
―今は感傷に浸っている時じゃない、時間は待ってくれないんだ
今は時間が一刻も惜しい、この一刻が運命を分けるかもしれない。
それは自分だけの問題じゃない、この責任と権利に微笑んで英二は駐在所の入口を潜った。
制服姿の光一と救助隊服の英二、けれど同じよう履いた登山靴で踏み込んだ二人を、快活な笑顔が迎えてくれた。
「おう、おかえり。飯、出来てるぞ。まず食おう、」
出張から岩崎が戻っていた、その笑顔に誘われるまま休憩室へと入る。
その席にはいつものよう、岩崎の妻が昼食の支度をしてくれてあった。
温かな食事を前に座ると御岳の所長は箸を取り、二人の部下に微笑んだ。
「内示、聴いてきたんだろ?まあ、食いながら話そう、」
いつもの実直な笑顔で薦められて、ありがたく箸を動かし始めた。
いただきますと手を合わせると、味噌汁に箸を付けてから光一は少し悪戯っぽく微笑んだ。
「岩崎さんはいつ、俺たちの異動について聴いたんですか?」
「昨日な、先に決定は伝えられていたよ、後藤さんが本庁から帰ってきてからな、」
岩崎も可笑しそうに笑んで答えてくれる。
旨そうに箸を動かしながら、困ったようでも愉快に岩崎は笑った。
「定時の後に後藤さん、青梅署に呼んで話してくれた。その後、一緒に飲みに行ったよ。二人同時はなあ、さすがに俺も寂しいぞ?」
そう言ってくれた笑顔が寂しげで本当に困っている。
申し訳なくて英二は箸を置くと背すじを正し、頭を下げた。
「申し訳ありません、ご迷惑をおかけします、」
「なに、謝ることは無いぞ、宮田?異動は誰にもあることだ、それよりしっかり食えよ?8月の1ヶ月はキツイだろうしな、」
気さくなまま笑って、食事を勧めて気遣いを見せる。
やっぱり岩崎も「キツイ」と思っているらしい、そう見た隣からテノールの声が笑った。
「岩崎さんもキツイって思います?」
「うん、言っちゃあなんだがな、おまえ達二人とも、それぞれ苦労はするだろうな?でもまあ、おまえらなら大丈夫って俺は思う、」
ハンバーグに箸つけながら岩崎は明るく笑ってくれる。
口の中を飲みこんで、そして落着いた声は気さくなまま明るんだ。
「七機も山岳レンジャーだしな、ここと雰囲気は似ているから、最初はキツイかもしれんが割と馴染みやすいと思うぞ?
それでな、国村?実は第二小隊内では次期小隊長候補って言われているヤツがいるんだ、そいつを飛越して国村の就任になる。
その候補者の奴は警部補にまだなっていない、だから階級的には未だなんだが、心情的には隊内の信頼も厚い。実質の副隊長ってとこだ、」
光一が就くポストに座るつもりだった男がいる、そう岩崎は告げている。
こういう相手がいると人間関係の構築が難しいかもしれない、そんな予想の向かいから岩崎が言ってくれた。
「たぶん本人も周りも、その候補者が次期小隊長になるって思ってる。そういう期待を裏切る形で、国村が就任することになるんだ。
これは結構キツイ立場になるぞ? 実績も実力も階級も国村より上の奴はいない、そう解っているから皆、納得もしているだろうよ。
だけどな、心情的に候補者への同情だってしやすいだろう?山ヤは仲間意識が強いから、その分だけ元から知ってるヤツの肩を持つよ、」
岩崎は御岳駐在所長に就任する前、七機山岳レンジャー第一小隊長だった。
それはまだ2年前の事だけに状況がよく解かっている、その知る限りの現実を岩崎は話してくれた。
「俺は第一小隊だったから、第二小隊のメンバーを深くは知らない。それでもまあ、皆が山岳会の人間だし、同じ山ヤだからなあ?
警視庁で山ヤの警察官やっているなら、国村の実力や実績も、立場も全員が知っているし、面と向かって刃向う事はまずないだろう。
だがな、チームで動く連中なだけに連帯意識は強い。そういう心情から採点は辛くなってな、後藤さんの贔屓だって考えたくなるかもな?」
面従腹背、それは後藤副隊長にも指摘されてきた。
そういう腹芸的な暗闘を光一が対応できるのか?その心構えを岩崎は話してくれる。
この実直な上司の配慮へと、稀代の山っ子は綺麗に笑って頷いた。
「それも当たり前ですね?だって俺、かなりヒイキされてるって思いますよ?でも、俺は贔屓に応えるだけの結果は出しますけどね。
だから今回もナントカやってみますよ、第二小隊を掴んで、山の精鋭部隊って言われるようにする。それが俺のオシゴトで権利です、」
贔屓はある、けれど応える結果を出す。それを自分の仕事で権利と言い切る覚悟がある。
そんなふうに自分の立場を認め、受入れる覚悟は高潔で眩しい。
―やっぱり光一は、選ばれるべき人間なんだな
光一はリーダーになるべき男、そう素直に納得できてしまう。
このプライドが高い自分ですら納得できる、だから光一は七機でも周囲を心服させるだろう。
そんな信頼に見た隣へと、温かな上司は楽しそうに頷いた。
「よし、いつもの国村だな?これなら大丈夫だよ、おまえの大らかで明るい強さが皆をひっぱれる。俺で良ければ、いつでも相談のるぞ、」
「ありがとうございます。異動しても岩崎さん、たまには飲み行きましょうね?面従腹背ってヤツとの戦いを愚痴らせて下さいよ、」
からっと笑って光一が答える「戦い」は9月、前任の小隊長異動後がひどいだろう。だから英二の異動もそこに決められた。
そのとき自分が果たすべき役割を8月の1ヶ月、光一の現況を聴きながらよく考えておく必要がある。
そんな考え廻らしながら箸を運ぶ英二に、誠実な上司は明るいまま笑いかけてくれた。
「で、宮田は今月中に青免を取れ。もう書類の用意はしたからな?後任のヤツは持ってるしな、ここでの先輩としても取っておけ、」
光一にも言われた心配を岩崎もして準備もしてくれた。
素直に嬉しくて英二は、笑顔で頷いた。
「はい、ありがとうございます。頑張ります、」
「だよ?おまえ、一発で合格しなね。昇進試験もだよ、」
光一も横から言って笑ってくれる、その言葉が嬉しい。
岩崎所長も光一も上司であり同僚として、先輩として同じ山ヤとして、卒配の日から支えてくれた。
こんなふうに自分は卒配からずっと、この御岳駐在所で恵まれてきている。
そのことが此処から発つと決った今、改めて感謝の想いに温かい。
御岳駐在所を出たのは19時を回っていた。
明日明後日の講習会と月曜からの引継ぎ、スケジュール変更、そして通常業務。
今日はやるべきことが多くて、定時上がりの予定がずれ込んでしまった。
「川崎に帰るの、遅くなっちゃうね?周太、もう帰ってるんだろ?」
署に戻る四駆の車内、光一が困ったよう訊いてくれる。
このあとも吉村医師の元に寄らなくてはいけない、河辺を出るのは20時半過ぎるかもしれない。
そんな予想をしながら携帯を出し、画面を開きながら英二は微笑んだ。
「ああ、メール入ってる。周太、3時ごろに帰ってたみたい、」
「そっか、やっぱ待たせちゃうね?でも先生のトコ寄るんだろ?」
「うん、やっぱり今日の内に話した方が良いから。まだいらっしゃる筈なんだ、」
話しながら周太宛に予定のメールを作り、送信する。
川崎に着くのは22時くらい、そう書いた文面を見つめる横顔に光一が訊いてくれた。
「周太に異動のコトって話す?」
この問いかけにはもう、答を決めてある。
その通りに英二は口を開いた。
「今日は言わない、光一の異動が発表になる直前に話したい。たぶん周太、また自分のこと責めるだろうから、」
「ふん、周太が自分を責める?」
どういう意味?そんなふう透明な目が一瞬こちらを見、促してくれる。
それに笑いかけて英二は答えた。
「周太、俺が独りになることを心配してるんだよ。初総のとき俺、酷かっただろ?周太と離れること怖がって、怯えてさ。
だけど周太、光一が俺の傍にいれば大丈夫だって安心してくれてるんだ。それが今回、光一とも俺は離れるだろ?きっと心配させる。
異動が発表されたら内緒にも出来ないけどさ、今夜くらいは周太のこと、何の心配も無いまま笑わせてあげたいから言いたくないんだ、」
せめて今夜だけは、ただ幸せに笑わせてあげたい。
明日の周太は美代と一緒に大学のフィールドワークに参加する、その楽しみだけ見つめていてほしい。
8月になったら周太の自由な時間は減るだろう、今まで通りには好きな植物学の時間も作れなくなる。
だから今週末は植物学のことに集中させてあげたい、ごく普通の幸せな時間を過ごさせたい。
そんな望みに微笑んだ英二へと、光一も笑って頷いてくれた。
「解かった、俺も何も言わないでおくね。で、俺の8月一日は引継ぎの事前異動だし追加で決定してるから、発表は8月一日だと思うよ?
7月末の入寮当日にびっくりってなっちゃうだろうけど、それでイイ?それとも事前に会って話せる機会があったら、話した方がイイ?」
―そうだ、「追加で決定」なんだ
このことが光一の苦労になる、そう岩崎も話してくれた。
その苦労への心配に、英二は口を開いた。
「機会があるなら話した方が良いと思う、周太だけ仲間外れみたいになるの良くないから。それより光一の方が俺は心配だよ?」
「あー、他の候補を退けちゃったって件?」
さらっと笑って底抜けに明るい目が英二を見てくれる。
飄々とした笑顔のまま光一はハンドルを捌き、考えを言葉にし始めた。
「山岳レンジャーの小隊長は警部補が条件だけどさ、その候補のヤツはまだ警部補になってないよね?だけど気持ち的にはってコトだ。
そういう次期リーダーへの期待とかってさ、俺も山岳会の次期会長って言われてるから解かるよ?でも今すぐ会長になるのは無理だよ?
今の俺じゃ経験も階級も実績も、後藤のおじさんには及ばないって解っているからね。そういう期待と実績の現実とギャップのアタリ、
その候補のヤツにも理解させるツモリだよ?理想ばっかで現実に向き合えなきゃ、何時まで経っても指揮官になんざなれっこないだろ?」
第七機動隊山岳レンジャー第二小隊。そこに光一は指揮官として就任することが決った。
この「指揮官」という立場の視点で今から光一は見つめ、部下の育成を考えている。
そんなパートナーが眩しくて、英二は綺麗に笑いかけた。
「その通りだな、その人も光一の部下で仲間として、お互いに大切に出来たら良いな、」
「だね?その辺についてはさ、おまえの協力は期待するとこだけど。ま、8月は俺だけで頑張るよ。でも愚痴には公私とも付きあってね、」
からり底抜けに明るい目が笑って「公私とも」ねだってくれる。
その信頼と甘えてもらえることが素直に嬉しい、そして、こういう男が自分を選んでくれた現実が誇らしい。
この信頼と想いに応え続けていきたい、そんな願いに英二は綺麗に笑った。
「おう、幾らでも付合うよ?俺は光一のアンザイレンパートナーで部下で、恋人だから、」
応えに底抜けに明るい目が笑ってくれる。
そして透明なテノールは謳うよう、想いを告げてくれた。
「ずっと一生付き合ってよね、俺の最愛のアンザイレンパートナー、愛してるよ英二、」
綺麗な笑顔でハンドルを捌きながら、白い指がカーステレオの再生ボタンを押した。
かすかな機械音が鳴る、そして流れ始めた曲を低くテノールは謳い始めた。
…
Coming closer
Hurry on,hurry on time it's going so fast
Hurry on,I can't save you
Can't slow it down You know this is your fate Are you feeling lonely?
So lonely,lonely Cry to the wind
降り注ぐ光を浴び 手を伸ばすどこまでも高く
ただ君は風に揺られて 見つめては儚く微笑む
眠りの時を 知ってるの? Coming closer
Hurry on,hurry on time it's going so fast
Hurry on,I can't save you
Can't slow it down You know this is your fate Are you feeling lonely?
So lonely,lonely Cry to the wind
…
「Coming closer…」
そっと歌詞を呟いて、英文詞の意訳が心に映りだす。
時は近い、
急げ、急がないと 時の流れはあまりに速い
僕は君を救えない
時は止められない これが自分の運命だと君は知って、孤独を感じているの?
そんなにも孤独で独りきりで 風に向かって叫ぶ
―なんか、今の気持ちみたいだな
そんな感想に、光一がこの曲にスイッチ入れた気持が解かる気がする。
たぶん光一も自分と同じ気持ちでいる、そんなふう言わないでも解かりあえる相手がいることが嬉しい。
この気持ち素直に微笑んで、制服の胸ポケットからiPodを英二はとり出した。
「光一、この曲ダビングしといてもらえる?先生との話が終ったら、受け取りに行くから」
言いながら運転席の制服姿の、胸ポケットにiPodを入れる。
最後の信号を越えながら光一は気さくに笑ってくれた。
「うん、やっとくね?あ、診察室やっぱり電気ついてるね、」
駐車場に乗り入れながらテノールが笑って、雪白の顎先でフロントガラスを示す。
そのガラス窓の向こうには、青梅署警察医診察室の灯が温かい。
あの温かい光のなかで、これから第2の尋問が始まる。
【歌詞引用:L’Arc~en~Ciel「Coming Croser」】
(to be continued)
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