幸せ、他愛ないこと
secret talk10 七夕月act.2―dead of night
純白の光が弾けて、なめらかになる。
グラスに注がれる泡は細やかに変り、黄金に溶けていく。
充たされるグラスの霜があわい紗になって、酒の冷たさを伝えだす。
きちんとグラスから冷やしておいてくれた、そんな心遣いが視覚と音でもう解る。
「周太、グラスも冷やしておいてくれたんだ?」
「ん、今日すこし暑かったから…これで大丈夫かな?」
微笑んでグラスを差し出してくれる、その掌を惹きよせたい。
でも今そんなことをしたら、きっと食事も忘れていろいろしてしまう。
―せっかく飯、用意してくれたんだから絶対ダメ、
自分に言い聞かせながら受けとったグラスは、綺麗な泡に造られている。
なんでも料理のことなら上手なんだ?そんな婚約者が嬉しくて英二は笑いかけた。
「ありがとう、周太。すごく上手く注げてる。周太も飲んでみる?」
「ん、飲んでみる…すこしお相伴しようって思ってたんだ」
気恥ずかしげに笑って、もう1つグラスを冷蔵庫から出してくれる。
そのグラスへと英二は、ビールの缶を傾けた。
こととっ、
かすかな水音に泡が立ち、グラスを充たしていく。
一度止めて、また注ぎ足していく、その指先に冷たさが昇りだす。
きちんと3度注ぎして造りあげた泡に微笑んで、グラスを携え立ち上がった。
「はい、周太、」
名前を呼んでグラスを前に置き、そっと屈みこむ。
ありがとうと言いかけた唇にキス重ねて、すぐ離れると英二は幸せに微笑んだ。
「いただきますのキスだよ、周太、」
そんなこと、普通はあまりしないけどね?
ひとりごと心で笑って席に着くと、薄紅の貌が尋ねてくれた。
「…そういうのもあるの?」
ほら、また素直に信じちゃうんですね?
こういうとこ本当に可愛い、この全面的信頼が嬉しい。
ほんとは無いよ?でも有ることに出来ないかな?そんな他愛ないワガママに英二は微笑んだ。
「うん、俺と周太にはあるな?」
「ん…?」
言葉にすこし考え込んで傾ける、その黒髪が濡れて艶めく。
シャツを袖捲りした肌にも紅潮が残る、見つめる恋人に名残らす湯の気配が愛しい。
ついさっき過ごした浴室の幸せが嬉しくなって、ただ幸せを見つめて笑いかけた。
「周太、はい乾杯、」
「あ、はい」
軽くグラスを掲げあって、霜うすいガラスに唇つける。
冷たさが喉を透って潤していく、湯に火照った体ゆるやかに寛がされる。
旨いな?そう息吐いて笑いかけた視線の先で、すこし顰めながらも黒目がちの瞳は微笑んだ。
「やっぱりビール苦いね…もう少ししたら俺も、おいしいってなれるかな?」
発言も笑顔も全部、可愛いです。
ほら、もう少し酔って頬が赤くなりだした?
そんな無邪気な笑顔みせて、アルコールでガード下がってる?
こんな貌でこんなこと言うなんて23歳って嘘だろう、本当に美少年と話している気分になる。
でも、美少年と差し向かいって悪くない。
むしろこの美少年じゃないと嫌だな?って思ってしまう。
こんなこと考えている自分はもう、すっかり君に嵌りこんで、脱け出す意志なんて全滅してる。
「周太、おいしいってなったら毎晩、一緒に飲んでくれる?」
「毎晩?…」
訊き返して、すこし考え込む。
すこし困ったよう黒目がちの瞳が見つめて、訊いてくれた。
「ん、一緒に飲みたいな、でも俺ね…あまいのでも良い?」
あまいのは君ですよ?
君のキスがどんなに俺にとって甘いのか、知らないよね?
そしてきっと、今から箸つける料理だってどれも甘い、そして旨い。
こんな他愛ないこと考えて笑ってしまう、この今の瞬間が愛しくて。
(to be continued)
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