ほろ苦く、あまく
soliloquy 七夕月act.2 Encens de biere et l'orange―another,side story「陽はまた昇る」
純白の光が弾けて、なめらかに浮きあがる。
グラスに充ちる泡は黄金の酒に変わって、かすかな音を弾く。
充たされる黄金色にガラスは霜をまとう、ゆっくり注ぎ終えて周太は向かいへと差し出した。
「はい、英二…」
「ありがとう、周太、」
2杯目のビールを受けとって、綺麗な笑顔を見せてくれる。
笑顔が嬉しくて、すこし熱い頬に掌あてながら見つめてしまう。
…英二、今夜もきれいな笑顔…だいすき
心で告白しながら頬が熱くなる。
ほら、こんな食事の席でも羞んでしまうなんて、自分は子供っぽい?
すこし自分で困りながらも幸せで、食事に箸つけながら見てしまう視界で端正な唇がグラスに口付けた。
…あ、のどが動く
傾けるグラスに白皙の喉が動いていく。
ゆっくり黄金の酒を呑みこむ白い喉、その艶麗な雰囲気に溜息こぼれた。
…ビール飲むだけでも英二っていろっぽいね
こんなに綺麗だと、なんだかもう羞んでいる暇もない。
それでも気恥ずかしくてグラスを持つと、そっと唇つけて傾けた。
冷たさが喉を透って、すこし紅潮の熱は醒まされていく。けれど口に広がる苦みに顰めてしまう。
…やっぱりビールって苦いな、英二は美味しそうに飲んでるのに…光一とか瀬尾とか、みんな平気なのに
グラスから口を離して、ほっと息吐いてしまう。
もう味覚から自分は大人になりきれていない、それが幾分か悔しい。
少しだけ俯き加減になってしまう、その前から綺麗な低い声が笑いかけてくれた。
「周太、カクテル作ってあげようか?」
提案してくれながら、白い浴衣姿が立ってくれる。
意外な申し出に驚いてしまう、こちらに来てくれる婚約者に周太は訊いてみた。
「英二、そんなこと出来るの?」
「この程度ならね、ちょっとグラス借りるよ?」
切長い目が微笑んで、長い指に周太のグラスをとってくれる。
まだビールが半分以上残っている、そのグラスを片手に英二は台所へと入って行った。
「周太、冷蔵庫のオレンジジュースもらうよ?あとオレンジも、」
「あ…どうぞ?」
答えながら立ち上がって、ダイニングから台所を覗いてみる。
調理台に向かって浴衣の長身は佇んで、ひろやかな背中をこちらに向けている。
その手元は器用に果物ナイフを使っていく、もう慣れた雰囲気でいる容子に周太は瞳ひとつ瞬いた。
…英二がひとりで台所してくれてる、ね?
去年の秋、この家で過ごした夜に英二は、クラブハウスサンドを作ってくれたことがある。
あのとき周太はベッドから起きられなくて、台所に立つ英二を見てはいない。
あのサンドイッチは冷蔵庫の惣菜を挟んだだけ、けれど美味しかった。
…あれが初めて食べた、英二の手料理だったな
自分のために英二が作ってくれた、それだけで幸せだった。
おにぎりとサンドイッチしか作れない、そう言って笑った英二の笑顔が温かかった。
あの夜に見つめた幸せが今、目の前で再生されていく?そんな想い見つめる真中で、長身の浴衣姿が振向いた。
「周太、お待たせ。ほら、座って?」
綺麗な笑顔が楽しげに笑いかけてくれる。
言われたよう席に戻ると、白皙の手がグラスを前に置いてくれた。
そのグラスを眺めて嬉しくて、周太は綺麗に笑った。
「きれい、」
黄金ゆれるオレンジの光が、ガラスを透かせ弾けていく。
グラスの縁にはオレンジの飾切りも添えてくれた、その器用なカッティングに周太は微笑んだ。
「オレンジもきれいに切ってあるね…英二、こんなふうに出来るようになったんだね?」
「見様見真似ってやつだけどな、でもナイフには馴れたと思うよ?雪山で結構、遣ってたから、」
答えてくれながら切長い目は微笑んで、周太の隣から覗きこんでくれる。
席に戻らない婚約者にすこし首傾げると、綺麗に笑って勧めてくれた。
「ほら、周太?飲んで感想を聴かせて?」
それを待ってくれていたの?
そう見上げた周太に切長い目は期待するよう笑ってくれる。
そんな婚約者の貌が嬉しくて、周太は素直に口を付けた。
…あ、おいし
豊かな柑橘の香と爽やかな甘みに、ほろ苦いアルコールが郁る。
すっきりとした飲み口に好みの香と味が嬉しくて、すこし苦いのが美味しい?
どこか大人の味のオレンジジュース、そんな味に微笑んで周太は恋人を見上げた。
「おいしいね、英二?…生のオレンジも絞ってくれたの?」
「うん、香が良くなるし生ジュースって旨いから。気に入ってくれた?」
切長い目が少しだけ心配そうに微笑んで、周太の顔を覗きこむ。
こんな貌も英二は綺麗で、また微熱に羞みながら周太は素直に頷いた。
「ん、これ好きだよ?作ってくれて、ありがとう…これならビール飲めるよ?」
「良かった、」
嬉しそうに笑って、端正な貌を近寄せてくれる。
間近くなる綺麗な貌に気後れして、すこし俯いた周太に綺麗な低い声がねだってくれた。
「ね、周太?気に入ったんなら、ご褒美のキスしてよ。また作ってあげるから、」
言葉に睫あげると、すぐ近くで切長い目が見つめてくれる。
もう至近距離で待っている、そんな率直な愛情表現が嬉しくて、素直に周太はキスをした。
…あ、キスも、あまくてにがい…ね、
ふれる唇の吐息にアルコール香って、甘く苦い。
温もりに秘めやかな香は華やぐ、ふれるだけのキスなのに艶が深い。
いつもとなにか違うキスに魅かれ途惑う、そっと離れて見つめる眼差しも熱い。
…なんか緊張しちゃう…このあとのことのせい、かな
この食事が終ったら、どんな時間が訪れる?
その問いに先週末の夜がふれて、鼓動が心をそっと揺らす。
あの時間がまた訪れる?あまやかな微熱の記憶がふっと首筋へ昇らせ、吐息交じりに唇が披かれた。
「あの、えいじ?このお酒、なんて名前なの?」
なにか言わないと?
そんな想いに問いかけて、途惑いと幸せが羞んでしまう。
どこか浮ついたような羞恥に困って、けれど幸せで微笑んだ周太に、恋人の幸せな笑顔が教えてくれた。
「ビター・オレンジ、」
さらり答えた唇が、きれいに微笑んで周太の唇ふれる。
あまやかな熱ふれて、すぐ離れると英二は笑って席に戻って行った。
…ほろ苦いオレンジ、
そっと心つぶやく名前が、どこか自分の想い重なるよう慕わしい。
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soliloquy 七夕月act.2 Encens de biere et l'orange―another,side story「陽はまた昇る」
純白の光が弾けて、なめらかに浮きあがる。
グラスに充ちる泡は黄金の酒に変わって、かすかな音を弾く。
充たされる黄金色にガラスは霜をまとう、ゆっくり注ぎ終えて周太は向かいへと差し出した。
「はい、英二…」
「ありがとう、周太、」
2杯目のビールを受けとって、綺麗な笑顔を見せてくれる。
笑顔が嬉しくて、すこし熱い頬に掌あてながら見つめてしまう。
…英二、今夜もきれいな笑顔…だいすき
心で告白しながら頬が熱くなる。
ほら、こんな食事の席でも羞んでしまうなんて、自分は子供っぽい?
すこし自分で困りながらも幸せで、食事に箸つけながら見てしまう視界で端正な唇がグラスに口付けた。
…あ、のどが動く
傾けるグラスに白皙の喉が動いていく。
ゆっくり黄金の酒を呑みこむ白い喉、その艶麗な雰囲気に溜息こぼれた。
…ビール飲むだけでも英二っていろっぽいね
こんなに綺麗だと、なんだかもう羞んでいる暇もない。
それでも気恥ずかしくてグラスを持つと、そっと唇つけて傾けた。
冷たさが喉を透って、すこし紅潮の熱は醒まされていく。けれど口に広がる苦みに顰めてしまう。
…やっぱりビールって苦いな、英二は美味しそうに飲んでるのに…光一とか瀬尾とか、みんな平気なのに
グラスから口を離して、ほっと息吐いてしまう。
もう味覚から自分は大人になりきれていない、それが幾分か悔しい。
少しだけ俯き加減になってしまう、その前から綺麗な低い声が笑いかけてくれた。
「周太、カクテル作ってあげようか?」
提案してくれながら、白い浴衣姿が立ってくれる。
意外な申し出に驚いてしまう、こちらに来てくれる婚約者に周太は訊いてみた。
「英二、そんなこと出来るの?」
「この程度ならね、ちょっとグラス借りるよ?」
切長い目が微笑んで、長い指に周太のグラスをとってくれる。
まだビールが半分以上残っている、そのグラスを片手に英二は台所へと入って行った。
「周太、冷蔵庫のオレンジジュースもらうよ?あとオレンジも、」
「あ…どうぞ?」
答えながら立ち上がって、ダイニングから台所を覗いてみる。
調理台に向かって浴衣の長身は佇んで、ひろやかな背中をこちらに向けている。
その手元は器用に果物ナイフを使っていく、もう慣れた雰囲気でいる容子に周太は瞳ひとつ瞬いた。
…英二がひとりで台所してくれてる、ね?
去年の秋、この家で過ごした夜に英二は、クラブハウスサンドを作ってくれたことがある。
あのとき周太はベッドから起きられなくて、台所に立つ英二を見てはいない。
あのサンドイッチは冷蔵庫の惣菜を挟んだだけ、けれど美味しかった。
…あれが初めて食べた、英二の手料理だったな
自分のために英二が作ってくれた、それだけで幸せだった。
おにぎりとサンドイッチしか作れない、そう言って笑った英二の笑顔が温かかった。
あの夜に見つめた幸せが今、目の前で再生されていく?そんな想い見つめる真中で、長身の浴衣姿が振向いた。
「周太、お待たせ。ほら、座って?」
綺麗な笑顔が楽しげに笑いかけてくれる。
言われたよう席に戻ると、白皙の手がグラスを前に置いてくれた。
そのグラスを眺めて嬉しくて、周太は綺麗に笑った。
「きれい、」
黄金ゆれるオレンジの光が、ガラスを透かせ弾けていく。
グラスの縁にはオレンジの飾切りも添えてくれた、その器用なカッティングに周太は微笑んだ。
「オレンジもきれいに切ってあるね…英二、こんなふうに出来るようになったんだね?」
「見様見真似ってやつだけどな、でもナイフには馴れたと思うよ?雪山で結構、遣ってたから、」
答えてくれながら切長い目は微笑んで、周太の隣から覗きこんでくれる。
席に戻らない婚約者にすこし首傾げると、綺麗に笑って勧めてくれた。
「ほら、周太?飲んで感想を聴かせて?」
それを待ってくれていたの?
そう見上げた周太に切長い目は期待するよう笑ってくれる。
そんな婚約者の貌が嬉しくて、周太は素直に口を付けた。
…あ、おいし
豊かな柑橘の香と爽やかな甘みに、ほろ苦いアルコールが郁る。
すっきりとした飲み口に好みの香と味が嬉しくて、すこし苦いのが美味しい?
どこか大人の味のオレンジジュース、そんな味に微笑んで周太は恋人を見上げた。
「おいしいね、英二?…生のオレンジも絞ってくれたの?」
「うん、香が良くなるし生ジュースって旨いから。気に入ってくれた?」
切長い目が少しだけ心配そうに微笑んで、周太の顔を覗きこむ。
こんな貌も英二は綺麗で、また微熱に羞みながら周太は素直に頷いた。
「ん、これ好きだよ?作ってくれて、ありがとう…これならビール飲めるよ?」
「良かった、」
嬉しそうに笑って、端正な貌を近寄せてくれる。
間近くなる綺麗な貌に気後れして、すこし俯いた周太に綺麗な低い声がねだってくれた。
「ね、周太?気に入ったんなら、ご褒美のキスしてよ。また作ってあげるから、」
言葉に睫あげると、すぐ近くで切長い目が見つめてくれる。
もう至近距離で待っている、そんな率直な愛情表現が嬉しくて、素直に周太はキスをした。
…あ、キスも、あまくてにがい…ね、
ふれる唇の吐息にアルコール香って、甘く苦い。
温もりに秘めやかな香は華やぐ、ふれるだけのキスなのに艶が深い。
いつもとなにか違うキスに魅かれ途惑う、そっと離れて見つめる眼差しも熱い。
…なんか緊張しちゃう…このあとのことのせい、かな
この食事が終ったら、どんな時間が訪れる?
その問いに先週末の夜がふれて、鼓動が心をそっと揺らす。
あの時間がまた訪れる?あまやかな微熱の記憶がふっと首筋へ昇らせ、吐息交じりに唇が披かれた。
「あの、えいじ?このお酒、なんて名前なの?」
なにか言わないと?
そんな想いに問いかけて、途惑いと幸せが羞んでしまう。
どこか浮ついたような羞恥に困って、けれど幸せで微笑んだ周太に、恋人の幸せな笑顔が教えてくれた。
「ビター・オレンジ、」
さらり答えた唇が、きれいに微笑んで周太の唇ふれる。
あまやかな熱ふれて、すぐ離れると英二は笑って席に戻って行った。
…ほろ苦いオレンジ、
そっと心つぶやく名前が、どこか自分の想い重なるよう慕わしい。
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