萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

第57話 鳴動act.6―side story「陽はまた昇る」

2012-10-18 23:49:37 | 陽はまた昇るside story
街と山、それぞれの場所で二人



第57話 鳴動act.6―side story「陽はまた昇る」

桜田門の空も、青い。

ビルの谷間に緑豊かな公園がある、その深緑に英二は入った。
木洩陽ゆらめく小路、すこし埃っぽい空気と光の明滅を辿っていく。
その先に樹林涼やかなベンチで、スーツ姿が転がっていた。

「国村、」

呼びかけて傍らに立つと白い手は動き、仰向けた顔の上から本を取った。
文庫本を手に起きあがり伸びをする、その底抜けに明るい目は楽しげに笑った。

「おはよ、宮田。今朝も美人だね、」
「お陰さまでな、待たせた?」

答えながら黒髪に付いた木の葉を取ってやる。
その手を嬉しそうに見上げながら、テノールの声は飄々と答えた。

「思ったより道路、空いていたからね。ま、ノンビリ朝寝出来て良かったよ」

ポケットに文庫本を入れて立ち上がると、白い両手は髪をざっくり掻き上げた。
その髪型がいつもと違って軽くセットされる、珍しい姿に英二は訊いてみた。

「今日は髪、セットしたんだ?」
「うん?まあね、スーツで公務だしさ、この方が貫禄出るだろ?」

からり笑って歩き出す横顔に、木洩陽ゆれて目を細める。
その容子は確かに大人びて、文学青年風の容貌が知的なエリートの空気を醸す。
秀麗な美貌に有能が映える、いま初めて見るパートナーの姿へと英二は率直な感想を述べた。

「似合うな、かっこいいよ?キャリアっぽいっていうか、本物のエリートって感じだな、」
「キャリアねえ?ま、俺は、ホンモノの美形で天才だからね。眼福だろ?」

すこし皮肉っぽく言いながらも眼差しは底抜けに明るい。
こんなことも明朗に言えてしまう光一が楽しくて、英二は笑いかけた。

「美形で天才って、おまえが言うと反論できないな、」
「だってホントのことだからね。変に謙遜したら、逆に嫌みだろ?」

飄々と笑いながら端正に長い脚が進んでいく。
いつも制服か登山ウェア、あとは農作業スタイルでいる光一の私服姿はカジュアルが多い。
精々が川崎の家を訪問する時にジャケットを着るくらいで、光一のスーツ姿はブラックスーツしか見たことが無かった。
だから今の馴染んだ着こなしが少し意外で、何げなく英二は訊いてみた。

「光一のスーツ姿って俺、喪服以外は初めて見るけど。着こなし巧いな、」
「あ、おまえ初めてだったっけ。まあ、こういう座学で講師の時は着るよね。あと、JA関係のめんどくさい会合とかさ」

―JAの会合、そうだ…光一は農家なのに異動したら

からり笑ってくれる答え「JAの会合」に、英二の甘さが引っ叩かれた。
兼業農家の警察官である光一は、後藤の肝煎りで地元に配属されて家業も営んでいる。
だから光一にとって第七機動隊に異動することは、もちろん田畑の管理に支障があるだろう。
そうした事情を自分は失念していた、配慮に欠けていた自責に英二は立ち止まり、頭を下げた。

「ごめん、光一。おまえの農業のこと、俺、ちゃんと考えてなかった。異動したら畑の管理とか困るのに、すまない、」

英二自身は農業を知らない、けれど周太と美幸が大切にする家庭菜園なら少し解かる。
家族だけの小さな菜園だけれど毎朝いつも美幸は手を入れて、周太も休日には作業を怠らない。
光一のよう家業で営むなら、もっと毎日の仕事が多いはずだろう。だから光一は業務の合間でも、朝や昼休みに実家へ帰る。
こういうパートナーの事情を考えていなかった、この迂闊さに唇噛んだ英二に、けれど光一は笑ってくれた。

「ソレくらいね、俺も警官になった時から考えてあるよ?いずれ異動はあったんだ、祖父さん達もまだ現役だしさ、心配いらないね、」

底抜けに明るい目が可笑しそうに笑って、向き合ってくれる。
そして白い指で英二の額を小突くと、温かい眼差しで笑ってくれた。

「でも気遣い嬉しいよ?ありがとね、英二、」

さらり呼んで笑ってくれる、その貌は明眸に美しい。
本当に美人だな?そう感心しながら英二も笑って、また並んで歩きだした。

「そっか、ありがとう。そういえば、資料とかは?」
「まだ車だよ、セッティングから一緒にやろうと思ってね。そのうち宮田も、講師やってもらうからね、」

話しながら公園を抜け通りに出、駐車場に入りトランクを開く。
登山ザックと書類ケースを出し携えると、ふたりエントランスを潜った。
ホールを横切っていく視界の端に自販機コーナーが映り、自分がした事を思い出させられる。
月曜の夜に自分が犯したこと、その結果がこの場所で起きた。この現実に英二は密やかに微笑んだ。

―あそこで署長は倒れたんだな

通り過ぎていく心がすこし重い、けれどそれ以上に肚は嗤ってしまう。
やっぱり思った通り新宿署長も暗示に罹りやすい、それは「50年の束縛」畸形連鎖の番人に共通する傾向だろう。
何げない言葉のコントロールに操られ易いからこそ「あの男」の手の内に収まっているのだから。

―そういう意味では俺も、あの男も、同じだ

そして多分もうひとり、似ている人間がいる。
そんな想いと歩いていく視界の自販機から、ひとつ人影が現われた。

―蒔田さん、

音の無い声が呼んで、呼吸が一瞬止められる。
この予測どおりの事態に微笑んで、英二は隣に声をかけた。

「国村、蒔田さんがいらっしゃるよ、」
「うん?ああ、やっぱりね、」

飄々と笑って光一も顔を向けると、ふたり立ち止まった。
向こうから長身のスーツ姿は歩み寄ってくれる、その姿へと室内の敬礼を向けた。

「おはようございます、」
「おはようございます、今日は講習会お願いしますね、」

気さくに挨拶しながら、英二の背負う登山ザックに目を止めた。
山ヤの警察官らしい実直な笑顔は、懐かしげに目を細め微笑んだ。

「私も山岳講習の助手をしたことがありました、後藤さんがボスでね、」
「あれ、俺と宮田と同じパターンなんですね?」

答えながら底抜けに明るい目が笑い、蒔田も楽しそうに頷いてくれる。
その明るい笑顔のままで蒔田は、英二と光一を真直ぐ見つめ提案した。

「講習会、今日は午前午後の2部ですが、明日は午前中で終わりでしたよね?明日は昼飯を一緒にいかがですか?」

やっぱり蒔田から、時間の提案がされた。
この目的は異動の件、それから「ココア」のことだろう。
そんな予想を見つめながら英二は上司とパートナーへ綺麗に笑いかけた。

「ありがとうございます。国村の予定は大丈夫?」
「うん、明日は夕方の巡回までに戻ればいいからね。蒔田さん、旨くて量の多い店ってありますか?」

いつもの調子で飄々とねだって、山っ子は亡父の旧友に微笑んだ。
その透明な眼差しに、かすかな「探索」を英二は見た。



家の玄関を開くと、どこか、がらんとした空気が出迎える。
今夜は周太も美幸も留守、いわゆる家族不在の寂しさが玄関ホールにもう出遭う。

―こんなこと、実家では思ったこと無かったな

心の溜息つぶやきながらスリッパを履いた隣、からり明るい声が言ってくれた。

「おふくろさんも周太もいない夜って、お初なんだろ?」
「うん、そうだよ。だからお母さん、寂しいだろうから、光一を呼べばって言ってくれたんだ、」

階段を昇りながら話す美幸の配慮に、今も温められていく。
この家に英二が初めて来たときから漸く一年、家族になる約束をしてから9ヶ月しか経っていない。
それでも実の息子同然に想ってくれていると、今回の留守番についても示してくれた。

―ありがとうございます、

心で感謝を想いながら、また父の俤が過ぎってしまう。
こういう彼女だからこそなのだと自分にも解る、けれど、どうしたら良いのか解からない。
そんな想い見つめながら書斎の前を通り過ぎ、客間の扉を英二は開いた。

「光一、今夜はこの部屋を使ってくれな?お母さんと周太が用意してくれたから、」
「お、良い部屋だね、ふうん?」

ランプを灯した部屋に入り、ぐるり光一は見渡した。
クラシックな木製のベッドに小振りな書棚、サイドテーブルとビロード張りの安楽椅子。
永く大切に遣ってきた調度品の優しい部屋、温かみある空気に今夜の客人も微笑んだ。

「この家のどこもそうだけどね、ここも優しくて温かい。この家の人たちの人柄がわかるね、」

言いながらベッドに置かれた籐籠に目を止めると、白い手を伸ばした。
タオル類と歯ブラシなどをセットされてある籠、その上に添えられたカードを光一は手にとり微笑んだ。

「へえ、ウェルカム・カードってやつだね?優しいな、おふくろさんも周太も、」

やわらかな笑顔に雪白の貌ほころばせ、英二にも見せてくれる。
きれいな白いカードに綴られた優しい言葉の2行、その筆跡の色に英二は微笑んだ。

「古典ブルーブラックだな、書斎の万年筆で書いてる、」
「だね、」

ちいさなカードに記される言葉の、インクの色彩。
この色に思い出すのは、銃痕えぐられ血に染まった古い手帳のページたち。
あの手帳に綴られたブルーブラックの筆跡は、この家の主だった男の苦悩と幸福だった。

―お父さん?今夜、ひとつケリをつけます、

馨が愛する妻と子の筆跡に祈りを見つめて、英二はカードを白い手に返した。
そして扉へと踵返しながら、アンザイレンパートナーに今夜の計画と微笑んだ。

「着替えたら飯食おう、周太いろいろ支度してくれたんだ。そうしたら仏間な、」
「うん、すぐ行く。周太の飯、楽しみだな、」

明るく笑って光一はジャケットを脱ぎ始めた。
その頼もしい背中に笑いかけて、そっと英二は扉を閉めた。
周太の部屋に入り、ルームランプを点けた空間はやはり広すぎる。
鞄を降ろして勉強机を見る、そこに活けられた白い花の甘い香に英二は寂しく微笑んだ。

「…周太、周太がいないと寂しいよ?」

この場所にいるときは周太が一緒にいる、それが当たり前になっている部屋。
3月の静養中はいない日もあった、それでも周太の母が家に居たから寂しさは紛れていた。
母と息子の、黒目がちの瞳と穏やかでも根が明るい雰囲気はよく似ていて、彼女を透して周太を感じられる。
あの優しい寛がす空気がいつも家にはある、それが無い今つい恋しくなってしまう。

そんな恋慕の感傷に浸りかけて、けれど今夜は時間が惜しい。
すぐにスーツのジャケットを脱ぐと英二は、作業の服へと着替え始めた。
Tシャツにデニムシャツを着、履いたミリタリーパンツのポケットへと道具をセットしていく。
食事が済んだらすぐ作業に入る、その支度を整え終えると作業後の着替と軍手を携えて、英二は階下に降りた。

軍手をポケットに入れて着替を浴室に置き、ダイニングの扉を開く。
テーブルの上には食器のセッティングにきちんとナプキンを掛けてくれてある。
今朝、出掛ける前に夕食の支度を周太はしてくれた、そんな心遣いに温もり見つめて英二は微笑んだ。

「ありがとう、周太?留守でも、ちゃんと居てくれるんだね…」

刺繍の美しい布を外し、台所に入る。そして冷蔵庫のメモスペースに英二は目を遣った。
きれいな陶器のマグネットが4つそこにある、そのうち周太用に挟まれたメモに笑いかけて、英二もペンを取った。
備え付けたメモ用紙を1枚とり、ペンを走らせる。それを自分用のマグネットに挟んだとき、扉が開いた。

「お待たせ、なに、メモ?」
「うん、今のうちに書いておこうと思って。この後は忙しいし、」

答えた英二の横から覗きこんで、底抜けに明るい目がメモに微笑んでくれる。
白い指でそっと紺青色のマグネットにふれて、透明なテノールが言ってくれた。

「これ、オヤジさんのメモをずっと取っておいてあるんだ?おふくろさんも周太も、本当に愛してるんだね、」

紺青色の陶器のマグネットは、馨のもの。
そこには14年前の春の朝、馨が遺して行ったメモが挟まれている。
すこしセピア色になり始めたブルーブラックの筆跡のメモは、今も鮮やかに家族への想いを示す。
家族で夜桜を眺めるときココアと桜餅を3つ用意してほしい、そんな文章の他愛もない日常に籠めた馨の願いに、英二は微笑んだ。

「うん、愛してるよ?お父さんも二人を今も愛してるんだ、」
「だね?」

透明な目は優しい眼差しに笑ってくれる。
そしてキッチンスペースに光一は立つとガスのスイッチを入れてくれた。

「味噌汁温めて、冷蔵庫のをレンチンすれば良いんだね?こんなにしていくなんてさ、周太ってホント嫁さんだよね、」

嫁さん、そう明るく光一は言ってくれる。
けれど英二を恋愛感情で光一も見ているはず、それなのに辛くないのだろうか?

「光一、」

名前を呼んで腕を伸ばす。
けれど長身しなやかに躱して光一は微笑んだ。

「言ったよね?あのひとの気配があるところで俺は、あくまでアンザイレンパートナーだって。この家ではエロは全面禁止、いいね?」

―…あのひとが居れば俺は、おまえにとって二番目の恋人だろ?俺は一番じゃないと気が済まないし、あのひとを傷つけるのは嫌だね
  周太の気配がある所では恋人ではいられない。何より俺は英二の唯一のアンザイレンパートナーだ、この関係を最優先してよね

昨日の朝、言ってくれた言葉を光一は守っている。
その想いを自分は忘れかけていた、ひとつ呼吸して英二は微笑んだ。

「ごめん、ありがとう。でもひとつ教えてくれる?」
「うん、なに?」

気軽に応えてガスを止め、味噌汁を椀に寄そってくれる。
その馴れた手つきを眺めながらレンジから惣菜をだし、英二は率直に尋ねた。

「光一は俺のこと、恋人って想ってくれてるだろ?それなのに周太が俺の嫁さんだって言うの、辛くないのか?」
「うん?別に辛くないね、」

からっと笑って底抜けに明るい目がこちら振向いてくれる。
可笑しそうに透明な目は笑んで、テノールの声は笑いだした。

「確かに俺は英二にべた惚れだね、でも嫁さんになりたいとは思わないね?俺はワガママで自由人だし、家庭を護るなんてガラじゃない、
親友で恋人なのは嬉しいけど、おまえの奥さんにはなりたくないね。アンザイレンパートナーとして一緒に山登っているのが幸せだよ?」

手際よく盆に汁椀を載せ、惣菜の皿も一緒に持つと運んでくれる。
きれいに配膳を整えながら光一は、悪戯っ子の貌で英二を見ると綺麗に笑ってくれた。

「俺にとって英二は唯一の恋人で『血の契』でアンザイレンパートナーだ、人生を一緒に楽しんでいく相手だよ?でも夫じゃないね。
俺たち似た者同士だから夫婦は無理だ、それに俺だっていつか女と結婚するからね。旧家の長男としてガキ作んなきゃないしさ?
だからね、俺からしたら英二が周太と結婚してくれんのは、いちばん幸せで嬉しいね。大好きなふたりが一緒に居てくれんだ、最高だろ?」

冷静に現実を大切にする、そんな強さが明るい。
こういう男が自分をアンザイレンパートナーとして、恋人で『血の契』の相手として唯ひとり選んでくれた。
それが男として誇らしくて、けれど雅樹への自責は微かに痛いまま英二は再び訊いた。

「本当に光一は、それが一番幸せ?」
「うん、だね、」

綺麗な笑顔みせて茶碗に飯をよそい、運んで膳に据える。
また可笑しそうに英二を見ると、白い指で額を小突き笑ってくれた。

「なあ?おまえってね、マジ考えすぎだよね?俺はこれでホントに良いんだよ、よく考えてみな?俺は周太とは違う、俺は俺だよ?
俺には俺の幸福ってモンがある、俺は英二と絶対に対等で同格のまんまいたいんだ。夫と妻だなんて役割分担も、俺には邪魔だね。
上司と部下とか先輩後輩とか、組織だと仕方ないけどさ?山ヤで男としては、お互い何の肩書も要らない。そうじゃなきゃ無粋だろ?」

本当に、その通りだ。
同じような体格で能力で、同じように夢を追いかけ戦うことが出来る。
そんな相手に何かの肩書を必要以上につけることは、無粋で、不要なことだろう。
そういう潔い単純さが良い、綺麗に笑って英二は頷いた。

「そうだな、俺も光一とは対等がいい。でもセックスするんなら、俺は受身は嫌だよ?」
「あー、そこだけは仕方ないんじゃない?おまえの意志は尊重するよ、だから初心な俺の覚悟も待ってね、」

からり明るく笑って光一は席に着いた。
英二も座り箸を持つと、ふたり食事を始めながらテノールの声が訊いてくれた。

「おまえ、何に悩んでるワケ?」
「え?」

汁椀を置いて、訊き返す。
意外な質問にザイルパートナーを見つめる、その視線に透明な目は笑ってくれた。

「この家に帰ってきてからね、なんか溜息が多いよ?おまえは無意識だろうけどね、」
「あ…、」

それは、父のこと。
そう解っている、けれど話して良いのか解らない。
解からないまま微笑んで、箸を運びながら英二はアンザイレンパートナーに笑った。

「ちょっと整理してから話したい、今は自分でもよく解からないんだ、」
「ふうん?」

こちらを見、焼茄子のお浸しに光一は箸をつけた。
英二も鯵の南蛮漬を口に入れると、香ばしいコクに出汁と酸味が旨い。
レンジで温めた煮物はすこし甘めな味付が疲れた体に優しい、汁椀も暖かく腹にしみる。
飯もタイマーで炊きたてにしてくれた、こんなふうに周太は不在でも食膳を豊かに整えてくれる。
こまやかに優しい気遣いの家庭的な周太、そんな婚約者が食事にすら恋しい。

―今ごろ周太、山小屋で何してるかな?

今日のフィールドワークは大学生と聴講生の混合で10人位と言っていた。
もちろん美代も一緒に参加している、だから心配は無いだろうと思う。
けれど、天然で集中力が高いあまりボンヤリしがちな周太だから、つい心配になる。
丹沢山頂からのメールが昼間に入っていたけれど、大丈夫だろうか?そう首傾げた英二に光一が笑ってくれた。

「今、周太からの連絡待ち?」
「あ、解かる?ごめんな、」

素直に笑って英二は夏野菜の寒天よせに箸をつけた。
冷たい喉ごしが食べやすい、いま食卓にある献立のどれもが作りおいて旨い料理になっている。
こういう配慮の優しさに微笑んだとき、携帯が振動した。

「光一、電話出ていい?」

そう訊いた向こうで、光一はもう携帯電話を開いていた。

「うん、周太んち。美代もおつかれ、そっちどう?」

美代からも同時に電話らしい。
たぶん同じ電波ポイントに2人でいるのだろう、そんな周太と美代は微笑ましい。
きっと今夜も仲良くお喋りを楽しむだろうな?微笑んで英二も携帯を開いた。

「おつかれさま、周太、」
「ん、英二こそ仕事、おつかれさまでした…あの、ごはん大丈夫?」

いつもより弾んだ声に、今日が楽しかったと解る。
それなのに自分たちの食事の心配してくれる、嬉しくて英二は綺麗に笑った。

「どれも旨いよ?いま美代さんも光一と電話してるだろ?」
「ん、今日は私が山から架けるんだって言ってね、すごく楽しそうだよ?」

可笑しそうに笑っている声が、周太も楽しくて仕方ない雰囲気でいる。
きっと美代と周太で同じ考えなのだろう、英二も楽しくなって笑いかけた。

「周太も今、山から俺に電話してるな?いつもと逆だけど、楽しいだろ?」
「ん、なんか楽しいね?いろんなブナ林も見たし…あ、蛭もいたけどね、大丈夫だったよ、」
「良かった、光一の対策が効いたんだな、」
「ん、他の人達も同じにしたから、俺たちのグループはみんな大丈夫…青木先生からね、光一と英二にお礼を伝えて下さいって」

山頂からの楽しげな空気が電話越しに伝わって、ほっと安堵が温かい。
いつも自分が山に立ち周太にメールや電話をする、その待つ側の気持ちが今、すこし理解できる。

―そういう意味でも良い機会だな、今夜

お互いの立場の想いを理解すること、それは共に生きるなら必要だろう。
今回のフィールドワーク山行は、周太と英二の2人にとって良かった。それは美代と光一も同じだろう。
幼いころから光一の山行帰りを待ち続けていた美代、それが今、初めて逆転している。
この姉弟のような幼馴染たちにとって今、どんな感慨があるのだろう?
そんな想いも廻らせかけたとき、電話の向こうから婚約者が訊いてくれた。

「英二、今夜はどれが一番おいしい?」

その質問、山頂でもしてくれるんだ?
こんな「いつもどおり」が嬉しい、笑って英二はいつもどおりに応えた。

「どれも旨いよ、周太が作ると何でも旨いな。でも今夜の一番は、牛肉のタタキかな?」
「ん、それ英二が好きだと思って作ったんだ、作り置きできるし…おふろも沸かしてね?」

ほら、山にいるのに周太はきちんと世話を焼いてくれる。
本当に奥さんみたい?嬉しくなって正直に英二は微笑んだ。

「うん、そうさせてもらうな。周太、ほんとに奥さんみたいだね?色々とありがとう、」

電話の向こう、気恥ずかしげに羞んでしまう。
きっと今頃は首筋がきれいに赤い、見たいなと思いながら笑ったとき、遠慮がちな声が微笑んだ。

「ん…だってそうなんでしょ?だからそうしてるだけ…あ、ビール冷えてるから飲んでね?おやすみなさい、英二、」
「ありがとう、周太。おやすみ、」

言葉の最後に、心のなかでキスを送ってしまう。
昔、当時の彼女に電話越しのキスをねだられたことはあったけれど、自分からしたいと想ったことは無かった。
けれど今は自分こそしたくなる相手がいる、その幸せに微笑んで電話を切ると、光一も同じよう携帯電話を閉じた。

「さて、お姫さまたちも無事だしね?俺たちも飯食ったら、やっちゃおっかね?」

明るくテノールが言って、白い手は箸を持った。
この後が自分たちにはある、英二も箸を取り直すとパートナーへと微笑んだ。

「今夜中にケリつけよう?冷蔵庫にビールあるから、0時前に呑まないとな、」

明日も光一は運転がある、だから早いうちに呑まないと拙いだろう。
そう笑った英二へと、底抜けに明るい目は愉しげに笑ってくれた。

「お、周太ってやっぱり気が利くね?イイね、俺こそ周太を嫁さんにしたいな、」
「ダメ、」

ひと言で綺麗な笑顔と断って、英二は箸を動かした。





(to be continued)

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文学閑話:マイノリティを書くのなら

2012-10-18 05:00:00 | 文学閑話散文系
ひと、文章の意味



文学閑話:マイノリティを書くのなら

富士山麓、青木ヶ原樹海。

緑の生態系豊かな、原始の色彩が濃く鮮やかに息づく古代の森です。
けれど数十年前から、自殺の名所としての知名度が高く広まっています。
この現状は「小説が原因」だってご存知ですか?

その小説が発行されて数十年が経っている、それでも現実に今も樹海で自殺遺体は発見される。
おかげで上九一色村の方達は定期的に山狩りを行って、自殺遺体の収容に務めていらっしゃいます。
この小説を書いた作者の意図は「生命力豊かな森に『再生』を懸ける」だったそうです。
けれど、その文章が招いた現実は「自殺への憧憬」でした。

何げなく書いた文章で破滅した書き手、読み手、いったいどれだけいるのでしょうか?

って言うコトを踏まえて、以下読んで下さると解かり易いかなって思います。

理屈ヤな自分が苦手な、心理描写&感情表現を克服してみよっかな。
どうせ苦手にチャレンジするんなら、苦手要素を全部詰め込んで書いてみようか?
そんな苦手塗れでも納得できる文章が書けるかなあ?って感じで始めたのが、今連載中の小説ですが。
前にも苦手筆頭にあげた「恋愛小説」どうせ書くんなら、今まできちんと描かれていない恋愛関係がいいかな?

リアルな同性愛のことを書いてみようって今、描いています。

学生時代と社会人になってからと、バイセクシャルの友人と出会いました。
いわゆるセクシャルマイノリティである痛み、同性と恋愛することの喜び哀しみを話してくれます。
彼らから聴いて共通するのは「偏見」に対する感情でした。

どうしても今の日本社会だと「普通」では無いものへの排除感情が根強い?
そういう現実の側面と、彼らの幸せについてを考えさせて貰う経験を与えられたなら、リアルな同性愛を描いてみよう?
そんなこと決めて、今の小説も設定を作りました。

で、書くにあたって、いわゆるBL小説をWEBで拝見しました。
ひとくちに「BL」と言っても多岐で、純愛からエログロまで色色あるんですよね。
けれど、大半の作品に共通したのが「BL小説ってファンタジー」だなあという感想です。
この「fantasy」って言葉自体が「叶いっこない望み=非現実」という意味ですが、その通りに説得力を感じられないんです。

で、思ったのは4つのポイントがBL小説の特徴だなって事でした。

a.設定からありえない
b.同性愛に対する偏見と差別が書き手の根底にある
c.なぜ「同性」なのか背景が無くて、その因果関係が不分明
d.同性愛ならではの悩みや喜びが描かれていない

aとbに付いて言えば、リアルの同性愛者に対して「暴力」を文章から奮っているなって感じます。
cやdは内容的に男女の恋愛と変わらず同性愛である必然性が無い、言うてしまえば→同性愛を「ネタ」と見ているんだなあと。

BL小説を読んで、いちばん感じたことは「娯楽に潜む人間の惨酷性」って事です。
申し訳ないけれど「腐女子」の「腐」の意味がマジオゾマシイって意味なんだなあと納得しました。

もし該当の方が読まれていたら、ごめんなさい。
でもこういう現実に繋がる可能性を知ってほしいな、って思うので書きます。

拝見したBL作品に幾つか、いわゆる「性的虐待」のシーンがあったんですよね。
トイレ等の不潔な場でのセックスも該当しますが、かなり残酷で病的な描写もありました。
こうした作品の作者である方は「BLはファンタジーだから何やってもOK」って普通に宣言する方が多いです。
この発言は、BLがファンタジーじゃなくて「現実」である人を無視=否定する、結局は差別しているから言える。
その「何やってもOK」とは奴隷に対する残虐性と同じ論理です、この差別感が快感だから残酷なシーンも書けてしまう。
いわゆるSM趣味の原型は「差別に正当化する残虐性」これと同じ心理が、そうした発言の根底に透けてオゾマシイなあと。

たとえば上述のトイレでのセックスシーンですけどね?
本当に相手を大切に思っていたら異性同性関係なく、どんなにエロい気分でも汚い場所ではしませんって。
雑菌とか相手の体に入っちゃったらヤバいでしょ?それくらい考えますよ、本当に相手を考えるなら。
そういう現実を無視したBL作品の方は、いわゆる「妄想」に刺激を求めて書いて読むのでしょうが?
でもね、その公開した妄想=同性愛者の現実、って曲解を生んでいる責任をとれますか?

まあ男女の官能小説とかでもソウイウのありますよ、でも考えてほしいなあと。
男女の恋愛の方が絶対的多数派なのが現在です、だから即差別には繋がらない。
けれど同性愛、BLとも言われる男性同士の恋愛は少数派なのが現状ですよね?
同性愛はセクシャルマイノリティ=少数派ゆえに指名性が高く、本人たちはモロに「自分事」として受け留めやすい。
そして周囲も「少数派」=少ない人数なんだから全員が同類項、って考えやすいでしょう?
だから同性愛者がモンダイ起こすと、全員そうだって偏見が生まれるわけです。
これがマイノリティ、少数派に「溝と壁」が生まれる構図です。

でね、「腐女子」の「腐」はマジオゾマシイと思った、もう1つの根拠ですけどね。
先にも書いた「言葉の暴力」いわゆる汚い文章を生みだす精神的病巣ってヤツを考えてしまうからです。
いちおう自分は教員免許と法曹系の資格を持っているのですが、どちらでも心理学は勉強します。
で、児童心理学と犯罪心理学、その両面を考えながら今の作品も描いているんですけどね。
この二つの心理学から考えたとき、彼女たちの関わる将来の畸形が哀しくなります。

aやbに見られるセクシャルマイノリティへの態度は「玩弄」です。
この玩弄をする原因は、自身に対する絶対的信頼感の欠如、いわゆる自信が無いことです。
ちょっと極論的に言うと、自分は弱者・無能だからと研磨の努力を放棄しているから、成長は無い。
けれど、自分を高く保っておきたい欲求はあるら、誰か他を貶めて「自分より下位」とする事で自己満足を保つ。
ようはね、誰かを攻撃することで自分は助かろうっていう「イジメの原理」が玩弄って行動になります。
で、この貶める相手は反撃できないヤツが楽でしょ?だからマイノリティを狙って「玩弄」してしまう。

だからね、思ってしまいますよ?
彼女らが性的虐待とかを描いた結果、偏見を作り出すのは「ワザと」なんだろうなって。
そうしてマイノリティを差別化「偏見」に落としこむことで、自分の下位を作りだし優越感に自己満足する。
だからね、リアルの同性愛者の方が「BLが好き」って言う女性にカミングアウトすると、どうなるか知っていますか?
大概は珍獣扱いor気持ち悪がられて、イジメに繋がるケースが多いそうです。

そういう「玩弄」が酷いのは、所謂エログロ系の作品でした。
大抵に共通するのは男性器を虐待・破壊するシーンです、このことに精神病理のケースを考えてしまいます。
こういうの書く方で、男性との恋愛に愛されて幸福なセックスをした人は、どれ位いるんでしょう?
おそらく、ほぼ0%だと思います。

ちょっと気持ち悪い話になりますが、苦手な人はこの段落は飛ばしてくださいね。
猟奇的殺人の事例に多いのが、被害者遺体に見られる性器の破壊と、加害者の親子関係と異性関係の畸形です。
男性器の切断、女性器の穿孔や切断などを行ってしまう、こうした加害者は男女とも存在し、日本にも事例があります。
なぜ加害者は被害者遺体を破壊するのか?その根底にあるのは「性」への歪曲した心理と破綻です。

自分自身のセクシャルな能力を否定された経験、それが性的な残虐行動の根底にあります。
その心理的成長過程を刑務所の医官等が著した論文は国内外とも多く、そのケースとして多いのが「母子関係の破綻」です。
これは父親よりも母親の影響力は何倍も大きく、ここが歪だと異性との感情関係も畸形化するケースが非常に多く見られます。
女性=母体である、この本能的で社会的な女性特有の役割は「人間」を構築する基盤になると、こんな事例にも裏付けられます。

だからね、女性で残虐性の強いBLを嗜好されているのは、結構危険です。
たとえ仮想現実としてであっても、嗜好する以上は「性的歪曲」が深層心理に存在する可能性がある。
でね、女性はいずれ母になる可能性があるでしょう?その母体に残虐性嗜好がある場合、その子供がどうなるか?
腐女子の皆さんの全員が、猟奇的殺人者と同類とは思いません。笑
だけど大切なことは護ってほしいなと。

cやdの、同性愛で描く必然性自体が無いストーリー。
これを書くことも一種の「玩弄」になり得ます、だって男性同士の恋愛と全然違うこと書いてあるわけで。
だってね、男女の恋愛小説なのに、女性的心理や肉体的都合と全く違う事が書いてあったら、気持ち悪いでしょ?
男がやってイイこと、女がやってイイこと、やっぱり性差って体の造りも脳の構造も違う以上は、当然あるわけですから。
で、BLの大部分に共通するのが「受」またはネコなんて言いますけど、セックスで女性の役割をする男性が女性と同一に描かれる。
受でも男は男ですよ?ゲイだからと言って女性化するってことはありません、中性的なタイプでも女性ではありません。
そういうこと混同した作品は、もう単に同性愛を「ネタ」にして面白がっているだけだなって感じます。

女性にとってBLがネタとして面白いのは、BL=男性だけの世界=女性は責任を持たなくていい世界 だからです。
けれど、現実に同性愛の方は存在しています。そして大半のゲイは腐女子が嫌いです、上述の「玩弄」が解かるから。
取材と言ってBL作家の方が、歌舞伎町や2chの同性愛板に入りこまれるそうですが、それは彼らにとって「侵害」でもある。
そういう境界線を引かせているのは、BL特有のファンタジー=虚構性が作りだす偏見が、根底にある。
この為に傷つく人が現実にいて、その加害者に安直なBL作品がなる側面も知ってほしいトコです。

こういう少数派マイノリティへの「マイナス要因」に成り得る表現は「偏見」の温床となる現実があります。
もし「BLはファンタジーだから何やってもOK」って発言するなら、それこそ現実逃避の責任逃れです。

どうせ「知らなかったし、自分はそこまで影響力無いからイイじゃん」とか言うんでしょうけどね、笑
無知を盾に責任逃れをしがちだから、職場や社会での責任ポストを女性は任せられ難いんですよ?
ホントの責任ある社会人だったらね、「公共性」ってモンを責任の中いつも考えます。
そうした公共性が欠落しているから「何やってもOK」ってプライド無く言えてしまう。
そんな人間に責任と立場は与えられません、それは役割分担として平等的差別です。

だから言いたくなるのは、

BLが好きなのは個人的嗜好、それも有りだって思います。
けれど、WEB公開するなら「責任ある」作品だけにして欲しいです。
文章には力があります、人間の心を明にも暗にも動かすことが出来てしまう。
書いたものを読んだ人が感じること、それに「責任」がとれない文章は公開すべきじゃない。

WEB公開は、誰にでも読めてしまいます。
印刷された出版物なら校閲など有識者の目も通り選別されます。
同人誌でも「買う」ことで選別できる可能性がまだ残されている、でもWEBは選別が無い。
だからこそ書いて公開する人間の「責任」は重たい、匿名性だからって甘えているなら文章を書く資格はありません。
ぶっちゃけね、ちらしのうらにでもかいてかってにおなればかって思います、エログロとか特にね。

きっと彼女たちは、こういうこと考えていないんだろうなって思います。
そんな難しいコト考えなくて良いじゃんとか言うんだろうなって。
でもさあ?「書く」は考える「思考」なワケだよね。
で、「読む」も考えるコトです。

考えることなく書いた文章が無残な影響を招いた時「自分は無罪」って言えるのか?ってことです。

よくツイッターとか問題になりますよね、その手のコト。
スレッド板とかが切欠で事件に発展した事例も現実に存在する、小説でもそういう事例は数多い。
上述した青木ヶ原樹海の件以外にも所謂「間接的教唆」または「幇助」を犯した作品は実在します。
校閲も通った出版物でもこの結果がある、それならチェックも通らないWEB公開作品はどうなのか?
WEB公開の文章と事件の因果関係、この統計を厳密に調査したら怖いことになりそうですね。

何げなく書いた文章で破滅した書き手、読み手、いったいどれだけいるのでしょうか?


いま連載中の小説では、主人公たちは男性同士で共に生きる道を選ぼうとしています。
こうした男性同士で恋愛した場合「一緒にいる人生」を選択することは、はっきりいって難しいです。
社会的な面でも、精神的な面でも、それこそ生物学的側面から難しい。
だから自分の友人は、ひとりは女性と結婚する道を選びました。

彼の本気の恋愛対象は男性で、女性との恋愛は半分義務、完全にゲイよりのバイセクシャルです。
だから彼も本当は、最愛の男性との人生を選ぼうとしました。養子縁組による入籍も考えていた、でも出来なかった。
彼は長男で、家業の後継者だったからです。その義務と責任で女性との結婚を選びました。

ぶっちゃけ卑怯モンです、彼は。
だってね、今の奥さんに自分からゲイだって告白出来なかったんですから。
結局はね、彼の言動を疑った彼女が周囲に聴いて知っちゃった、っていうある意味最悪のパターン。
でも、それくらい彼にとっては「同性愛者であることが受容れられない」って思いが根強くて。
そこまで追い込まれていく経緯が彼にもあったこと、自分は弁護してあげたいとこです。

今の奥さんの前にも、彼は付合った女性がいました。
すごく幸せそうでしたよ?彼も彼女を信頼して、いつか結婚するのかなあって思っていました。
でもね、彼女から拒絶されてしまった。彼がカミングアウトをしたことが切欠だったそうです。
本当に信頼していた彼女で、彼女も彼を愛していた、でもバイセクシャルだと告げたことで壊れてしまった。
この別離は彼が仕事でキツイ時期だったんですけどね、不眠症に苦しんでいました。その後まあ少し閑散期になって。
そのころ元彼女と友人としての付合いが再開して、彼女からやり直してみないかと言われたそうです。
でもね、そう言われた彼は彼女から離れて、もう会う事も止めてしまいました。

その後に今の奥さんと出逢い、5年くらいかな?付きあって結婚しました。
この奥さんも自分の友人ですが、彼がゲイだと知ったときは大きなショックだったと話してくれました。
それは「同性愛」に対する思想の差異も含まれると思います、けれど、それ以上にショックだったのは別の事です。
彼にとって自分以外の「1番」が存在する、そのことが彼女にとってショックで哀しみで怒りでした。

でね「彼の言動を疑った彼女が周囲に聴いて知っちゃった」と書きましたけど。
この彼の言動って「他に好きな人がいる」って当時は恋人だった奥さんに言っちゃったことです。
それもクリスマスかなんか、そういうスペシャルな日に言っちゃったらしいんですよね。

こういうのって、女性にとったら大打撃でしょう?
でもね、彼がなぜこういう日に言いたかったのかも、自分は解かる気がします。
それで彼に聴いたら、自分が想った事と同じことを想って、彼女に話したのだそうです。

「大切な日だからこそ、大切な人にもう偽りたくなかった」

ま、馬鹿正直なトコですよね、男っぽいって言うか。笑
彼女の方からしたら「他の日にしてよっ!」大切な日くらい幸せにしていたいですもんね。
この2人、どっちの言うことも否定は出来ないです。どちらも本気だし、ただ食い違っているだけで。
そして、この日は2人にとって最悪だったことも否めません。

彼は本当は共に過ごしたい相手がいる、けれど想いの叶わない相手だと解かっている。
彼女は彼の1番でいたい、その隣に今いるのは自分だけれど、でも1番は他の人で彼の心はそこにある。
それでも彼女は彼の隣にいたくて、そういう彼女に縋って彼は「叶わぬ恋」の孤独から逃げようとする。
もし彼が正直になって最愛の人の許に行けば、彼の家族も従業員も不幸になり相手の人も巻き込んでしまう。
だから、周りにも1番犠牲が少ない選択として、彼は彼女との結婚を選び、彼女も解かった上で結婚をしました。

この彼の気持ち、って解りますか?彼の奥さんの想い、女性の皆さんはどう思いますか?

もし今、これ読んでいる方でBL小説とか漫画を書く方、いらしたら考えて下さい。
このバイセクシャルな彼が何に苦しんで恋人と別れたか、元彼女と別れたのか、奥さんと結婚したのか?
そして奥さんはどんな想いで彼を受けとめて、彼との人生を選んで結婚したのか、考えられますか?

こういう彼は偽善者だ、そう言われたらその通りです。
でも、そういう生き方しか出来ないのが彼です、その人格を否定する権利は誰にもありません。
彼の弱くて狡い部分も、叶わぬ恋を思い続ける強さも、すべてが現実に存在して今も生きています。
人間の清らかで汚くて、弱くて強いという本質は、マイノリティでも多数派でも変わりません。
如何なるカテゴリーに属していても「人間」である以上、誰もが弱さも強さも抱きしめて生きている。
だから、誰にも責める権利はない。

こういうのって、人間なら誰にでも形は違えどあります。
自分は異性との恋愛しか経験ありませんが、彼らの話から「人間」を理解し学ぶ事も多くて。
そういうこと考えながら、今の小説を書いています。

主人公の恋は、純愛です。
生真面目に一途すぎて、求めすぎて危なっかしい純情すぎる恋愛です。
これが男女の恋なら世間一般的に受容れられる門戸は広がるでしょうね、でも敢えて男同士の恋愛で描いています。
現実の世界では「難しい」恋愛、それでも選んでいこうとする人間の弱さと強さを書いてみたいなって思います。

なぜ男同士は「難しい」のか?
それでも恋愛関係が成立するのは何故か、その要因は何か?
そういうことを、精神面・肉体面といった内的要因から、社会や家族との外的要因まできちんと描けたらなあと。

R18も描きますが、男性同士ならではの感情と心理的&肉体的問題と向き合うには必須要素だからです。
男女恋愛との差で最も顕著なのは身体面と「同性である」ことのライバル心です、これを描くにはR18シーンは顕著です。
ソレを書いたのがsoliloquyとsecret talk9「愛逢月」同性である故の対等性、お互いの「男性」への尊重を描きたかったんです。
この小説は純文学として書いています、それで同性愛を描くなら必ず描いておくべき心理描写だろうって「愛逢月」を書きました。
ちなみに愛逢月は七月の異称です。七夕の逢瀬をイメージした「短夜の恋愛」の愛惜が合うなって付けました。
そして、この場でお詫びを→R18が苦手な方いつも申し訳ありません、

また乱筆乱文ですが、読んで下さった方ありがとうございます。
ご意見ご感想等、もしありましたら是非お聴かせてください。文章or写真、いずれでも大歓迎です。

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