※念のためR18(露骨な表現はありません)
湯の香、勘違いに微笑んで
soliloquy 七夕月act.1 Encens d'eau chaude ―another,side story「陽はまた昇る」
湯に充ちる温もりが服を浸して、肌から濡らされる。
濡れて纏わりつく一枚を透かして素肌がふれる、その白皙の懐で瞳ひとつ瞬いて周太は声をあげた。
「ばかっ、えいじのばかばかなにしてるのっ…だ、だめでしょっふくきたままはいっちゃ!ふくいたんじゃうでしょばかっ、」
一息に叱った湯気の向こう、きれいな貌は幸せな笑顔にほころんでくれる。
大好きなひとの笑顔が嬉しくてつい、怒って困っているはずなのに微笑んでしまう。
それでも拗ねたまま見あげた周太に、綺麗な低い声は楽しそうに笑いかけた。
「大丈夫だよ、周太?そのカットソーもパンツも綿だから湯で洗えるよ、」
「でもだめっえいじのばか、おゆだってよごれちゃうでしょばかばかっ、」
それくらい考えてやったのにな?そんなふう切長い目は笑ってくれる、でもそういう問題じゃないのに?
こんなの本当に困ってしまう、それなのに英二は何ともない顔で嬉しそうに笑った。
「周太だったら平気だよ?周太は全部綺麗だから、」
「なにいってるのばかっ、そういうもんだいじゃないでしょ?」
ほんとうにこまってしまう、問題の論点がずらされて。
わざと解からないフリしているの?からかっているの?そんな拗ねる気持ちになる周太に、幸せな眼差しが笑いかけた。
「そういう問題だろ?周太の汗だって何だって、俺は全部舐めてるし、」
ほんとにもうなんてこというの?
「…っ、ばかっ!」
ほんとうに馬鹿、なんてこと言うのだろう?
こんなの本当に困ってしまう、服を着たまま湯に濡らして口説いているの?
もう恥ずかしくて堪らない、額まで熱を感じながら周太は婚約者を叱りつけた。
「えいじのばかばかなんでそんなこというのっ、へんたいちかんっ」
叱りながら浴槽から立ち上がる、その肌に濡れた服は絡みつく。
からんだ布に歩き難くて足を取られそう、それでもタイル張りの縁を掴んだのに、後ろから抱きしめられた。
「周太、言うこと聴いて?」
綺麗な低い声がお願いする、その声に鼓動がつまる。
綺麗な笑顔に瞳は覗きこまれて唇を重ねられる、キスが言葉を奪ってしまう。
抗おうとする掌が白皙の肩を押す、けれど動かされない懐に深く抱きしめられる。
抱きしめられるまま湯に浸されて、ウェストのボタンが外された。
…あ、
心に息を呑んで、脱がされていく服に湯が素肌を包みだす。
すこし離れた唇の解放に息吐いて、その隙にカットソーも脱がされた体をなめらかな肌に抱きしめられた。
湯に濡れた肌ふれあう狭間、深い森の香と石鹸が燻らされ吐息に忍びこむ。その香に呼ばれる記憶に首筋がもう熱い。
「周太、一緒に風呂入ろ?」
綺麗な低い声に笑いかけられて、白皙の腕のなか困らされる。
こんなにしてまで風呂の時を一緒に過ごしたいの?そう気づかされて面映ゆい。
こんなに求めてくれて嬉しい、けれど悪戯に困らされた依怙地に唇は拗ねた口調で、そっぽを向いた。
「もうはいっちゃってるでしょばか…」
本当は嬉しい、けれど言えない。
こんな依怙地な自分に今度は困ってしまう、だって今夜は決めていたのに?
ただ幸せな笑顔をひとつでも多く見たいと願っていた、それなのに拗ねたりして?
こんな子供っぽい片意地に自分で困らされる、引っ込みつかない、もどかしい、どうしよう?
ひたすらに困惑のまま焦らされる、けれど綺麗な笑顔は幸せいっぱいに言ってくれた。
「周太、こんどは俺が周太を洗ってあげるね?」
ただ幸せに笑って恋人は、素肌ふれあうまま抱きあげてくれる。
湯気のなか慎重にタイルを歩いて、風呂椅子に座らせながら周太の首筋に唇ふれた。
「周太と洗いっこしたいんだ、だから俺にお赦しを出してよ?…ね、周太、」
幸せに囁いた唇に、ふれられた肌が発熱しだす。
そんなふうに言われたら断れない、だって自分の本音は「少しでも多く傍にいたい」のに?
この本音が正直に微笑んで、つぶやくよう唇から小さく声がこぼれた。
「ん…どうぞ?」
答えた端から頬が熱い、だってタオル一枚すら今無くて肌を隠せない。
こんなの恥ずかしい、このまま逃げてしまいたいと怯えそう、けれど一緒にいたい本音に脚は正直でいる。
逃げない膝を揃え、そっと両掌を重ねるよう脚の付根を隠しながら羞恥に竦む背中へと、やわらかな泡とタオルの感触がふれた。
「お許しありがとう、周太?もっと綺麗にしてあげるな、」
鏡越し、嬉しそうに笑ってくれる笑顔が愛しい。
こんなことで英二はこんなに喜んでくれる、ただ周太の体を洗うだけなのに?
こんなふう無防備に肌を任せるのは恥ずかしくて堪らない、それでも自分は逃げたくなくて座っている。
…だって英二、笑ってくれる…この笑顔が好き、
この笑顔が大好き、その想いは初めての夜から変わらない。
あのときのまま今も肌を委ねてふれられる、洗うタオルの狭間ふれる指先に心震えてしまう。
こんなふう洗ってもらう事はもう何度めだろう?そんな想いにまた恥らう心と体の前に、白皙の体が片膝をついた。
「周太、今度は前を洗うよ?ほら、」
綺麗に笑って長い指に掌とられて、脚の付根が視線に晒される。
これが恥ずかしくて本当は逃げたいのに?
「…あの…たおるほしいんだけど」
恥ずかしくて隠したくて、なんとか周太は声を押し出した。
いつも一緒に風呂へ入る時はタオルで隠している、その通りに今もタオルがほしい。
同じ男同士の体であること、それが逆に体を見られることが「恥ずかしい」原因になっている。
…だってえいじのとくらべるとはずかしすぎるんだもの
心つぶやく独り言に額まで熱くなる、きっともう真赤になっている。
骨格から華奢で小柄な自分の体は、全てが子供っぽい。それが尚更に、大人の男性美に充ちる英二への憧憬と羨望になってしまう。
なめらかな白皙の肌に艶めく筋肉の隆線、のびやかな手脚に頼もしい骨格、ひろやかに厚い胸と頼もしく美しい背中。
自分が憧れる体を持つ人に、この未熟な体を晒すことが同じ男なだけに辛い、そんな本音も自分には哀しいけれどある。
だから今も隠させてほしいな?そう想って言った言葉に、切長い目は嬉しそうに笑って周太の腰に腕を回した。
「おねだり嬉しいよ、周太?タオルで洗ってあげるな、」
「え、」
言葉に途惑い見上げた唇に、端正な唇が重ねられる。
ふれるキスの温もりが深くなる、そのときタオルと泡の感触が真芯を包みこんだ。
ふれる泡に長い指が動いて洗い出す、泡と指に愛でられていると感覚が腰から生まれた。
「…っ、あ、」
感触に声がこぼされて、けれど長い指のタオルは止まらない。
言葉の意味を採り間違えられた?そう気がついたのに言葉もキスに奪われて、体格と力の差に抵抗なんて出来ない。
こんなことになるなんて?途惑うまま洗われていく感触に涙こぼれる、こんなつもりは無かった分だけ途惑わされる。
「可愛い周太、感じてくれてるんだね…こんなこと周太から言ってくれるなんて、嬉しいよ、」
キスから囁く声に、恥ずかしくて涙こぼされる。
こんなこと言ったつもりじゃない、恥ずかしくて悔しくて拗ねるまま周太は口を開いた。
「ちがう、の…たおるでかくしたかったの…いつもかくしてるでしょ?でもきゅうにえいじがひっぱりこんだから…たおる無いから…」
こんな想い、英二にはきっと解らない。
これを解かってもらえないのは仕方ない、そう解っている。
けれど同じ男として悔しくて恥ずかしくて涙こぼれてしまう、こんなふうに泣くのも恥ずかしいのに?
もう涙なのか湯なのかも自分で解からない、涙と湯気に透かせ見つめる向う、端正な顔が困ったよう驚いた。
「そっちだったんだ、ごめん周太、」
綺麗な低い声は驚きながら謝って、切長い目が瞳を覗きこんでくれる。
睫あざやかな瞳は困ったよう、けれど幸せに笑った唇が目許にキスしてくれた。
「ごめんな、周太?勘違いしてごめん。でも、恥ずかしがる泣き顔、すごく可愛いよ、周太?」
そう言ってくれた笑顔はひどく幸せそうで、涙ぬぐうキスが優しい。
優しさも笑顔も嬉しくて、けれど拗ねてしまった心から言葉は、素っ気なく出た。
「ばか…えいじのばか、こんな勘違いするなんてばかえっちへんたい…どれいのくせになまいき」
「うん、俺って周太限定の変態で、生意気な奴隷だよ?だからもっと叱って、俺の女王さま?」
素っ気ない言葉にも幸せな笑顔ほころばせて、切長い目で「大好き」と体を見つめて洗ってくれる。
丁寧に肌を磨き上げながら、時おり端正な唇のキスが唇に肌にふれて想い伝わらす。
ふれる唇の熱を映されるまま、発熱の廻りだす肌は火照りだしていく。
「きれいだ、周太。肌が花みたいに赤くなってきれいだよ?朝焼けの雲もこんな感じだな、」
きれいな低い声が幸せに微笑んでくれる、その言葉にまた熱が華やぐ。
ただ恥ずかしくて、けれど婚約者の笑顔の瞬間が嬉しくて、恋愛はまた濃やかになっていく。
それでも自分の体が恥ずかしくて、今見られる視線に崩れかける心へと綺麗な笑顔は言ってくれた。
「本当に周太の体は綺麗だな、大好きだよ?心も体も綺麗な周太が好きだよ、ずっと独り占めしたい、」
…そんなふうに言ってくれるの?
こんな自分の子供じみた体を綺麗だなんて、本気で言ってくれている?
本気でこの体と心が好きで、こんな自分を独り占めしたいと思うの?
そんな想い見あげた周太の唇に、恋慕のキスが微笑んだ。
「周太の全部が大好きだよ、だから俺のこともっと好きになって?もっとワガママ言って俺に甘えて、お願いだ、周太?」
こんなに綺麗な英二、それなのに、こんなこと自分に願って求めてくれるの?
こんなふうに自分を見つめてくれる、このひと唯ひとりに想いは募りだす。
…大好き、
白皙の肌香らす湯気に、幸せは微笑んだ。
(to be continued)
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