萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

secret talk9 愛逢月act.7―dead of night

2012-10-10 23:07:19 | dead of night 陽はまた昇る
誘惑、夜ひらく花に



secret talk9 愛逢月act.7―dead of night

丘の上、月はまだ見えない。

けれど眼下の海に光は揺れ、橋に流れるテールランプとヘッドライトが煌めいていく。
左方は港の光、向こうに桟橋の流線を描く照明灯、停泊する船のライト。
その彼方には、海上うかぶ摩天楼と観覧車がまばゆい。

「きれいだね、英二、」

楽しそうな声が隣で笑って、夜の公園を歩いてくれる。
ふれそうで触れない掌がもどかしい、いつもならすぐ繋ぐけれど今日は、本当は待っている。

―周太から手、繋いでほしいな?

いつも自分から手を繋ぐ、すこしでも触れて繋がっていたいから。
けれど周太からしてくれる事は少なくて、それで今夜は繋いでくれたらと期待をしている。
だって昨夜は周太が英二を抱いて、4回セックスしてくれたから。

―これを切欠に周太、少し積極的になってくれないかな?

そんな期待を今朝起きた時から、本当はずっとしている。
けれど相変わらず恥ずかしがりで、いつも通りに首筋はすぐ赤くなって可愛い。
そんな恋人は尚更に愛しくて、本当は今夜このまま帰したくなくて、この夜の散歩にも誘いこんだ。
平日の夜の公園は思った通り人も少なくて、静かな雰囲気にそういう空気になりやすい?
そんな期待をしているけれど、並んで歩く恋人は隣で無邪気に微笑んだ。

「ん、バラの香?…英二、ここバラ園があったよね、夏バラが咲いてるかも…見に行って良い?」
「うん、行こう、周太。そのつもりで連れてきたから、」

返事しながら掌をふれさせる、けれど恋人は気づかない。
なんにもしらないで無垢のまま、黒目がちの瞳は嬉しそうに見上げてくれた。

「ありがとう…夏バラ、おばあさまのとこでも綺麗だったね、」
「家でも咲いてたな、白いのが周太っぽくて綺麗だった、」

花になぞらえ口説きながら掌の甲をそっとふれあわす。
それも気付かないで困ったよう羞んで、首筋を薔薇色にして恋人は微笑んだ。

「そういうのいわれるのてれちゃうから、ね?…あ、見て、可愛い猫…」

やっぱり猫に意識がいっちゃうよね?

今って一応デート中なんだけど、猫より俺も見てほしいな?
そんなこと考えて見つめる恋人は、自分と同じ23歳の筈なのに美“少年”にしか見えない。
自分と同じ男で警察官、だけど小柄で骨格も華奢、童顔に純粋な表情の周太だから稚くみえる。
任務中の制服姿なら幾らか貫禄も出て大人びるけれど、それでも高卒任官に間違われてしまう。
そんな私服姿はどうみても中高校生で本当は、アルコールを注文するとき年齢確認もされている。

―年齢確認のこと、本人には言えないけどね?

23歳、秋が来れば24歳、そんな大人の男にはちょっとショックだろう?
そう思うから黙っているけれど、幼く見られるのも仕方ないだろうと思ってしまう。
ほら、今だってしゃがみこんで猫と話しこむみたいに笑ってる、それが違和感なく可愛い。

「ここって猫がたくさん住んでるよね…みんなが可愛がってくれるのかな、」
「そうだろうな?可愛いね、周太」

答えながらも思ってしまう、どうして手を繋いでくれないの?

確かに昨夜も自分からベッドに誘い込んで、夜の衣を脱がせた。
それでセックスについて改めて教えて、自分を抱かせて周太に自信を贈るつもりだった。
けれど、こちらから言う前に切欠を提案してくれたのは、君のほうだったのに?

『…えいじもしてほしい?』

そう言ってくれた瞬間の気持ちなんて、きっと君の想像を超えている。

―ほんと嬉しくて俺、心臓止まりそうだったよ、周太?

周太から英二の体を愛したいと言われて、嬉しかった。
あんなふうに誰かに心から求められ、体ごと愛してもらった事は初めてだった。
そして、この自分が抱かれて愛されてみたいと想ったのも、初めてだった。

ぎこちない唇と指でフェラをして、そのまま初めて抱いてくれた。
なにもかもが拙くて本当に少年のよう、けれどその初々しさが逆に萌えた。
初めての「抱く」を遂げて微睡んで、目覚めて、またしてくれて眠って、次も繰り返し。
そんなふうに休息をしながら3回続けて抱いて、そのあと好きなだけ周太を抱かせてくれた。

―されてる時も周太、いつもより大胆で艶っぽかったな

記憶が艶やかに蘇えって、英二は鼻から口許を掌で覆った。
このままだと興奮して鼻血を噴きそう?そんな心配に掌を見たけれど血痕はない。
初めて初任総合の研修中に鼻血を出して以来、こんな警戒をしてしまう。けれど今の所あの一度きりでいる。
あのときの鼻血がマグレだったのかな?そんなことを思ってまた昨夜から今朝の幸せな記憶を見てしまう。

―…えいじ、させて?

抱いて抱かれた後の微睡、そして深い夜に告げられた言葉。
たった二言の言葉に酔わされて、本当は有頂天になるほど嬉しかった。
そして4度めの瞬間が訪れて、少年を体内に納めたままで夜を眠り、暁の目覚めは幸せだった。
そんなふうに大胆だった昨夜の恋人、だから今夜のデートも期待して朝から楽しみでいる。
けれど今、キスどころか手も繋いでくれないで、花と猫に心まで奪われてしまった。

「ね、英二?スコン食べてくれたよ、おいしいみたい…バターたっぷりだからかな?」

ほら、嬉しそうに猫に菓子をあげている。
こんなとき本当に中学生くらいに見えて、まるっきり美少年。
こういう純粋な可愛いところ大好き、可愛くて嬉しくて英二は恋人にねだった。

「周太が作ったものが旨いからだよ、周太、俺にも一口くれる?」
「ん、どうぞ…?」

可愛い笑顔を見せて、手にした菓子を渡そうとしてくれる。
けれど受けとらないで、ただ笑いかけた。

「あーん、して?」

ねだった途端に街燈の下、周太の頬が薔薇色になる。
ほら、こんなことだけでも真赤になって恥ずかしがるんだ?
こんな周太が昨夜、あんな姿を見せてくれたのは奇跡かもしれない?
そんな想いに笑いかけた先、ひとかけら菓子をちぎると差し出してくれた。

「あの…はい、」

はい、だなんて可愛い。
あーん、も言えないなんて初心すぎて、可愛くて仕方ない。
この無垢な婚約者に微笑んで、優しい指先から口にした菓子は甘く蕩けた。

「ありがとう、周太。なんかすごく甘くて、旨かったよ?」

礼を言いながら口説いてしまう。
そんな英二に案の定、真赤になって言ってくれた。

「…そういうのはずかしいから、ね?…でもありがとう、」

こんなことだけでも恥ずかしがって可愛い。
けれど、こんな恥ずかしがりだったら、性愛に疎いのも仕方ない?

周太からキスしてくれることは、たまにある。
けれど英二からするキスの数に比べたら、何分の一かなんて分母が大きすぎる。
周太から手を繋いでくれたことは、キスしてくれた数の半分くらいかもしれない。
それ以上に周太からベッドを誘ってくれた事なんか、今までに唯2回だけしかない。

―あれだって、田中さんが亡くなった俺を慰めるためと、恋人に戻ってくれるためだし

英二のために理由があるときだけ、周太から求めてくれる。
自分は単純に「周太大好き独り占めしたい」という動機ばかり、初任総合の時は男の意地もあったけど。
昨夜も周太が抱いてくれたけど、それも「英二を幸せにしたい」が理由で周太の快楽や独占欲が動機ではない。
そんな純粋な愛情は幸せで愛しくて、また恋してしまう。けれど、それと同時に想ってしまう。

―もっと俺のこと、独り占めしたいとか単純にセックスしたいとか想ってくれないのかな?

そういうこと、23歳男子の恋愛なら普通に想うだろう。
けれど周太は違う、それは記憶喪失で精神年齢が稚いことが大きな原因だろう。
でもたぶん、元からの性格が穏健で純粋すぎるから、性的欲求もごく淡白なのかもしれない?

―じゃあ周太、大人の精神年齢になっても、ずっとこうかな?

それはそれで可愛い、永遠の少年だなんて周太らしい、すごく良いと想う。
でも自分自身は色欲が強いから、もうちょっとセクシャルになってくれたら、尚良い。
永遠の少年で夜は大胆艶っぽいなんて、本当に最高だと思うんだけど?

―だから昨夜の周太、最高だったんだけどな

でも朝になったら、いつもどおりの恥ずかしがりに戻っていた。
それはもちろん可愛くて萌える、そんな貞淑な周太が大好きだ。
だけど夜になったら、また昨夜みたいになるかと思って期待していた。
でも現実は花と猫に心を奪われて、手を繋いでいないことも気付かない。

―やっぱり昨夜はマグレかな?

昨夜もきっと「異動」があるから、周太は大胆になってくれた。
やっぱり何か理由が無いと、艶っぽい周太は登場しないのかもしれない?
そんな考えに想ってしまう、昨夜から暁の時間は幸福な幻だったのかもしれない。
けれど、この体には疼くよう甘い気怠さが名残らされて、すべては現実だったと教えてくれる。

「ね、このバラ、香がいいね?…夜に香る花って、なんか不思議だね?」

話しかけられて、意識が戻される。
見つめた先で純粋な瞳は白いバラを見つめ、そっと顔よせて微笑む。
夜の公園に静謐の香る花、街燈のもと白い花にほころんだ笑顔はまばゆくて、理性が1/3ほど折れた。

「周太の方が、不思議だよ?」

本当に不思議、昨夜との差に惑うよ?

そんな想いと笑いかけて頬よせて、横から唇の端にキスをする。
そっとふれただけのキスに恋人が振り返る、その貌に薄紅ほころびだして、昨夜の記憶と今が交錯した。

―もう我慢とか無理、

心つぶやいて腕を伸ばす、その掌に愛しい掌くるみこむ。
そのまま引寄せて抱きしめて、バラの香と一緒にキス交わす。
ほら、結局いつもどおり、自分から手を繋いで、キスしてしまった。

「…あ、あのここそとだよえいじ?」
「月も出てないし、夜が隠してくれるよ、周太?だからキスさせて、」

木下闇へと連れ去って、薔薇色の頬を見つめて唇を重ねる。
ふれるオレンジの香が優しくて甘くて、幸せが融けだしてしまう。
ほら、結局また俺が惹きこんでしまう、恋人同士のふたり見つめる時間を囁きたくなる。

「周太、愛してるよ?…俺を見て、」

こんなふうに君を俺が追いかける。
いつもそう、君と繋がっていたくて掌を掴んでしまうのは、俺のほう。
こんなふうに君の温もりを感じていたくて、俺から君の唇を探してキスをする。
いつもの通りに応えて、欠片も拒まないことも変わらないまま、君は俺を受容れてくれる。

―でも、たまには君から求めてよ?

そんな本音が笑って、誘惑したくなる。
昨夜の幸せな「求められて与える」瞬間を今も、この先も、なんどもリフレインさせたくて。






(to be continued)

blogramランキング参加中!

人気ブログランキングへ

にほんブログ村 小説ブログ 純文学小説へにほんブログ村
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

soliloquy 愛逢月act.4 Encens sucre ―another,side story「陽はまた昇る」

2012-10-10 02:25:47 | soliloquy 陽はまた昇る
※R18(露骨な表現は有りません)

ほろ苦く甘いのは、



soliloquy 愛逢月act.4 Encens sucre ―another,side story「陽はまた昇る」

体に、微熱がこもる。

白皙の肌まばゆい体が、自分の体の下に悶えて揺らぐ。
この腕に委ねられる腰が艶めく、その波に埋めた真芯が灼熱の甘さに浸される。
こんなこと今まで知らなかった、「抱く」と「抱かれる」の違いに途惑いながら今、溺れだす。

「しゅ、うた…、っぁ…っ」

綺麗な低い声が甘く響いて、聴覚から惹きこまれる。
美貌の体は熱ほどかれ周太を沈ませる、深く受容れ惹きこんでいく。
乱れる呼吸に逞しい胸がゆれ、逸らされる首筋にあわい滴がうかんで艶深くなる。
こんなふうに英二がなっているのは自分のため?それが不思議で信じられなくて、けれど喜んでほしい想いに口を開いた。

「…えいじ…きもちい、い?」

訊いた声に切長い目が見上げて、端正な腕を肩にまわしてくれる。
潤んだ眼差しは初めて見る艶に華やいで、零れそうな声が応えてくれた。

「…っ、きもちいいよ、しゅうた…」

読んでくれる名前がいつもより甘くて、わからなくなる。
こんな声に自分がさせているの?そんな疑問のまま恋人へと尋ねた。

「ほんとにきもちいい?…ちゃん、と…できてる?」
「できてるよ?…っぅ…おいで周太、おれを、だきしめて…」

だきしめて

そう強請って見つめて、腕が肩に伸ばされる。
しがみつくよう肩を惹きこんで、腰から腹に素肌ふれあい温もり交わされる。
ふたつの体温のはざま熱く固い感触ゆれて、雫こぼれて肌にまとわりだす。

これは恋人が充たされている証拠?
こんな自分でも大人の男らしく出来ているということ?

そんな想いと肌は濡らされていく、ふれあう肌に熱あふれだす。
互いの肌を繋ぐよう熱は濡らし絡まり、これをしているのが自分だと不思議で幻のよう。
いま自分の体が恋人の感覚を支配する、こんなことを自分が出来るなんて思わなかったのに?
こんな自分を知らなかった、呆然とする想いのまま動かす体を、深い森の香は抱きしめた。

「…周太、おれをだいてるよ?…おれをあじわって、かんじて?…っ、」

感じてほしい、自分のこと。
そんな願いが恋人から告げられ、甘い微熱の眼差し見つめてくれる。
その願いはもう十分に叶っているのに?ふれて奔らす感覚の底から、愛しい名前を呼んだ。

「えいじ……、」

見おろす貌の艶麗に羞んでしまいながら、綺麗で見惚れてしまう。
うかされる熱の愛しさに微笑んだ、その向こうから白皙の体は繋がったまま起こされ、唇ふれて微笑んだ。

「かわいい、しゅうた…ぁ…だくの、も…きもちいい、だろ…?」
「ん…っ、きもちい……」

素直に応えてしまう声に、切長い目の微熱は艶めく。
起こしてくれた白皙の胸に喘ぎ声ゆれて、同じ高さの視線が絡みあう。
この美しいひとの眼差しも感覚もすべてを今、自分が独占めして気持ちよく出来ているの?
こんな立派な大人の男性を自分が愛せているの?気恥ずかしさと喜びに発熱する意識のなか、恋人に問いかけた。

「えいじ…これでだいじょ、ぶ?」
「っ…だいじょうぶ、しゅうた…じょうずだよ、かんじすぎてへんになりそ……おいで?」

吐息の硲に美貌は微笑んで、誘うよう体を濃く添わせて腰ゆらす。
深く挿し入れた真芯が包みこまれて熱い、あまい熱に責められ膨れる熱が出口を探し出す。
この感覚はきっとそう、縋るよう切ない声が恋人に訴えた。

「えいじ、…っ、ぁ、もう…」
「おいで、周太?…ひいて、深く、いれて?…」

綺麗な低い声が微笑んで、寛げた肢体にすこし力を入れる。
その律動は深奥にも波うち挿しこんだ体を熱に呑む、甘い抱擁がそこにも起きる。
奥深い熱のなか融けこんでいく、ひとつ融け合う肌に溺らされるまま周太は答えた。

「はい…」

素直に頷いて、言われた通りに体を動かしていく。
退いては寄せる熱に責められて吐息こぼれる、いま犯していると自覚が背筋をふるわす。
この美しい成熟した体の奥深くに受容れられ、体と心の快楽へと自分から惹きいれようとしている。
いつも恋人が惹きこんでくれる瞬間を今、初めて自分が行う。その微かな緊張と湧きあがるような喜びが熱い、そして離せない。

…ずっと永遠につながれていたい

そっと願いが心ふれるまま求めて、愛する大人の体に想いごと熱を交わす。
自分の求めに応えて豊麗な体が揺らぎ、甘く灼かれる喘ぎ声に酔わされる。
交わされる熱に甘すぎる感覚は膨れて、強い波に背筋から震わされた。

「あっ…ぁ、ぁ…っ、」

喉の奥から声あがって体は動きを止めていく。
蕩かされてしまう腰、けれど長い指の掌に抱きよせられ、白皙の肌深くへ惹きこまれる。
そうして深く熱く収められた体へと、熱い抱擁の快楽が絞めつけた。

「ぁああ…っ、ぁ、え、いじ…」

呼んだ名前に体の芯が迸らされ、深く穿つまま甘い灼熱が命を絞める。
呼吸を止められ心臓が掴まれる、この体ごと命も心も奪われる、苦悶の悦びに灼かれてしまう。
甘く深く熱に沈められるまま溺れて力が消える、恋人の残像に全身は囚われていく。

…もう動けない

絞められて掴まれ、溺れる深みに囚われて、融けていく。
囚われたまま力尽き凭れこむ、その白皙の肌深くから鼓動ふるえ熱のはざまが奔った。

「っ、あぁっ…っ」

声、白皙の喉つきあげて背を逸らす。
重ねた肌に流れだす熱が灼ける、ふたり肌ごと絡まらせ繋ぎ融かす。
恋人に挿しこんだ体の溺れる拍動、ふれあう全身から蕩かされ充たされる。
こんな瞬間を今、自分の体が惹きこめたのだろうか?

「…ぁ、しゅうた…、っ」

名前呼んで、すがるよう抱きしめてくれる。
抱きしめられるまま凭れこんだ肩に熱やわらかにふれ、うすく痛んで、そっと頬よせられた。
ふれる頬の温もりが嬉しい、そんな想いに恋人は乱れる吐息のまま微笑んだ。

「…っは……ぁ…、しゅうた…っ、…きもち、よかったよ…」
「…ほんとう?」

本当なら、嬉しい。そう思うまま羞んでも訊いてしまう。
この成熟した男性を抱くことが自分にも出来た?そうしたら自分も大人の男といえる?
それを恋人は喜んでくれるのだろうか?そんな不安と自信と期待に見つめてしまう。
この想いへと切長い目は嬉しそうに見つめて、背中を静かに撫でてくれた。

「…ほんとうだよ、…周太に抱かれて、おかしくなりそうだった…こんなこと初めてだよ、周太?」

…よかった、

ほっと息吐いた背中に夜の空気ふれて、ひとすじの雫が肌を伝い落ちる。
いま背中は汗に濡れている、それもどこか誇らしいまま微笑んで、そっと恋人の唇にキスをした。
この唇は幾度も喘いで喜びに悶えてくれた、自分を受容れて一緒に悦びへと溺れてくれた。
それが嬉しくて幸せで、前よりも恋慕あざやかに自信ひとつ目覚めだす。

そんなキスは、前よりも熱い。

「英二…すごくきれいだった、よ?」

熱いキスの残滓に微笑んで、気恥ずかしいまま恋人に見惚れる。
見つめる貌は気怠さに艶麗な眼差し濡れて、薄紅そめる肌は波うつ微熱に疼いている
この美しいひとを抱いて自分のものにしたの?この自覚に熾火のよう独占欲が熱くなる。
こんなこと今まで想った事なかったのに?そんな想いと見つめた恋人は綺麗に微笑んだ。

「周太…犯されるのは俺、これが初めてだよ…?」

告げられる言葉が熾火を起こす。
この胸の裡を灼くような恋慕のむこう、美貌の恋人は綺麗に笑いかけた。

「俺のこと抱いたのは、周太が初めてだよ?…これだけは他の誰にもさせない、周太だけだ、」

これは本当だよ?
この身この心を抱かせて犯させるのは唯ひとり、君だけ。

…うれしい、

そっと心に本音こぼれて、涙ひとすじ落ちた。
本当はずっと不安なワガママが痛くて、哀しかったから。
いつも英二の傍には光一に居てほしいと願う、けれど本当は英二を独占したい気持ちもある。
それでも英二の夢の隣には自分は立てない、英二の夢を叶えるのは光一だけしか出来ない、そう知っているから願っている。

…でも他の誰にもさせない、って…英二のこと独り占めさせてくれるんだね

この不安なワガママを、ほら、ちゃんと気づいて受け留めてくれた?
そんな想い見つめる恋人は嬉しそうに笑いかけてくれる、その笑顔に答えて周太は微笑んだ。

「ん…ありがとう、英二?」

気恥ずかしいけれど伝えたい「ありがとう」って言いたい。
こんな自分を受容れて、全身を委ねて愛してくれる想いの真実、それが嬉しい。
それでも自分は遠くに行く、こんなに委ねて恋愛をくれた恋人から離れる時が来る。
それを知っても体ごと全てをくれた、その真摯な想いが幸せで温かい。温もり微笑んだ周太に恋人は言ってくれた。

「初めてをあげたよ、周太。だから約束してよ、来年の夏は一緒に北岳に登る約束を、絶対に守ってよ?」

来年の夏、一年後への約束。
この一年後にも幸せな時間を共にする、その約束をどうか結んで?

そう願ってくれる約束は幸せで温かい。
けれど「一年後」も自分が傍にいられるのか解らない。
それどころか自分がこの世にあるのかすら、本当は誰にもわからない。

もうじき「死線」に自分は立つ。
それが自分に与えられた現実、けれど、ほろ苦い痛み浸す心は凪いでいる。
苦い現実は呑みこみ難くて、それでも独占の恋人と約束は優しくて、ただ幸せが温かい。
この温もりに今だけでも甘えさせてほしい、幸せな記憶を抱かせてほしい。そう願うまま周太は約束と一緒におねだりした。

「ん、絶対の約束するね…英二、あたたかい…このままいさせて?英二のなかに入れたままにしたい」

ワガママ告げて抱きしめる、この温かな美貌の体に自分は入っている。
包まれる熱に灼かれながら甘く蕩かされ、幸せのまま眠りに安らぎたい。
この願いに笑いかけたい、もうじき離れるのならせめて今、少しでも多くふれていたい。
そう笑いかけた想いの真中で、婚約者は綺麗な笑顔に周太を抱きしめてくれた。

「うん、いいよ。俺も周太を入れておきたい…愛してる、周太」

優しい受容れのまま微笑んで、唇キス重ねてくれる。
その吐息はいつものように、ほろ苦く甘く、深い森の香がたちこめる。
大らかな肢体の白皙の肌はひろやかに深くて、翼のよう抱擁に包んで優しい。

…あたたかい、しあわせだ

この温もりに今だけは、ただ幸せな夢のなか微睡みたい。
この先に向かうのは冷たい孤独の世界、それでも明るい温もりを見失わないよう今を抱きしめたい。
ほろ苦い香は切なくて、けれど甘い香は優しい、そんなふうに世界は切なさにも優しさが見えるはず。
そう信じている、だからもう迷わないで、真直ぐ自分の立つべき世界へ扉を開く。

扉の向こうは昏くて迷うかも知れない、けれど必ず奥に扉があることを知っている。
あの冷たい13年間の向こうに今、この温かい瞬間が待っていたように、絶望の向こうには希望が待っている。

世界がどんなに昏くても、必ず、本当は明るい。




(to be continued)

blogramランキング参加中!

人気ブログランキングへ

にほんブログ村 小説ブログ 純文学小説へにほんブログ村
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする