誘惑、夜ひらく花に
secret talk9 愛逢月act.7―dead of night
丘の上、月はまだ見えない。
けれど眼下の海に光は揺れ、橋に流れるテールランプとヘッドライトが煌めいていく。
左方は港の光、向こうに桟橋の流線を描く照明灯、停泊する船のライト。
その彼方には、海上うかぶ摩天楼と観覧車がまばゆい。
「きれいだね、英二、」
楽しそうな声が隣で笑って、夜の公園を歩いてくれる。
ふれそうで触れない掌がもどかしい、いつもならすぐ繋ぐけれど今日は、本当は待っている。
―周太から手、繋いでほしいな?
いつも自分から手を繋ぐ、すこしでも触れて繋がっていたいから。
けれど周太からしてくれる事は少なくて、それで今夜は繋いでくれたらと期待をしている。
だって昨夜は周太が英二を抱いて、4回セックスしてくれたから。
―これを切欠に周太、少し積極的になってくれないかな?
そんな期待を今朝起きた時から、本当はずっとしている。
けれど相変わらず恥ずかしがりで、いつも通りに首筋はすぐ赤くなって可愛い。
そんな恋人は尚更に愛しくて、本当は今夜このまま帰したくなくて、この夜の散歩にも誘いこんだ。
平日の夜の公園は思った通り人も少なくて、静かな雰囲気にそういう空気になりやすい?
そんな期待をしているけれど、並んで歩く恋人は隣で無邪気に微笑んだ。
「ん、バラの香?…英二、ここバラ園があったよね、夏バラが咲いてるかも…見に行って良い?」
「うん、行こう、周太。そのつもりで連れてきたから、」
返事しながら掌をふれさせる、けれど恋人は気づかない。
なんにもしらないで無垢のまま、黒目がちの瞳は嬉しそうに見上げてくれた。
「ありがとう…夏バラ、おばあさまのとこでも綺麗だったね、」
「家でも咲いてたな、白いのが周太っぽくて綺麗だった、」
花になぞらえ口説きながら掌の甲をそっとふれあわす。
それも気付かないで困ったよう羞んで、首筋を薔薇色にして恋人は微笑んだ。
「そういうのいわれるのてれちゃうから、ね?…あ、見て、可愛い猫…」
やっぱり猫に意識がいっちゃうよね?
今って一応デート中なんだけど、猫より俺も見てほしいな?
そんなこと考えて見つめる恋人は、自分と同じ23歳の筈なのに美“少年”にしか見えない。
自分と同じ男で警察官、だけど小柄で骨格も華奢、童顔に純粋な表情の周太だから稚くみえる。
任務中の制服姿なら幾らか貫禄も出て大人びるけれど、それでも高卒任官に間違われてしまう。
そんな私服姿はどうみても中高校生で本当は、アルコールを注文するとき年齢確認もされている。
―年齢確認のこと、本人には言えないけどね?
23歳、秋が来れば24歳、そんな大人の男にはちょっとショックだろう?
そう思うから黙っているけれど、幼く見られるのも仕方ないだろうと思ってしまう。
ほら、今だってしゃがみこんで猫と話しこむみたいに笑ってる、それが違和感なく可愛い。
「ここって猫がたくさん住んでるよね…みんなが可愛がってくれるのかな、」
「そうだろうな?可愛いね、周太」
答えながらも思ってしまう、どうして手を繋いでくれないの?
確かに昨夜も自分からベッドに誘い込んで、夜の衣を脱がせた。
それでセックスについて改めて教えて、自分を抱かせて周太に自信を贈るつもりだった。
けれど、こちらから言う前に切欠を提案してくれたのは、君のほうだったのに?
『…えいじもしてほしい?』
そう言ってくれた瞬間の気持ちなんて、きっと君の想像を超えている。
―ほんと嬉しくて俺、心臓止まりそうだったよ、周太?
周太から英二の体を愛したいと言われて、嬉しかった。
あんなふうに誰かに心から求められ、体ごと愛してもらった事は初めてだった。
そして、この自分が抱かれて愛されてみたいと想ったのも、初めてだった。
ぎこちない唇と指でフェラをして、そのまま初めて抱いてくれた。
なにもかもが拙くて本当に少年のよう、けれどその初々しさが逆に萌えた。
初めての「抱く」を遂げて微睡んで、目覚めて、またしてくれて眠って、次も繰り返し。
そんなふうに休息をしながら3回続けて抱いて、そのあと好きなだけ周太を抱かせてくれた。
―されてる時も周太、いつもより大胆で艶っぽかったな
記憶が艶やかに蘇えって、英二は鼻から口許を掌で覆った。
このままだと興奮して鼻血を噴きそう?そんな心配に掌を見たけれど血痕はない。
初めて初任総合の研修中に鼻血を出して以来、こんな警戒をしてしまう。けれど今の所あの一度きりでいる。
あのときの鼻血がマグレだったのかな?そんなことを思ってまた昨夜から今朝の幸せな記憶を見てしまう。
―…えいじ、させて?
抱いて抱かれた後の微睡、そして深い夜に告げられた言葉。
たった二言の言葉に酔わされて、本当は有頂天になるほど嬉しかった。
そして4度めの瞬間が訪れて、少年を体内に納めたままで夜を眠り、暁の目覚めは幸せだった。
そんなふうに大胆だった昨夜の恋人、だから今夜のデートも期待して朝から楽しみでいる。
けれど今、キスどころか手も繋いでくれないで、花と猫に心まで奪われてしまった。
「ね、英二?スコン食べてくれたよ、おいしいみたい…バターたっぷりだからかな?」
ほら、嬉しそうに猫に菓子をあげている。
こんなとき本当に中学生くらいに見えて、まるっきり美少年。
こういう純粋な可愛いところ大好き、可愛くて嬉しくて英二は恋人にねだった。
「周太が作ったものが旨いからだよ、周太、俺にも一口くれる?」
「ん、どうぞ…?」
可愛い笑顔を見せて、手にした菓子を渡そうとしてくれる。
けれど受けとらないで、ただ笑いかけた。
「あーん、して?」
ねだった途端に街燈の下、周太の頬が薔薇色になる。
ほら、こんなことだけでも真赤になって恥ずかしがるんだ?
こんな周太が昨夜、あんな姿を見せてくれたのは奇跡かもしれない?
そんな想いに笑いかけた先、ひとかけら菓子をちぎると差し出してくれた。
「あの…はい、」
はい、だなんて可愛い。
あーん、も言えないなんて初心すぎて、可愛くて仕方ない。
この無垢な婚約者に微笑んで、優しい指先から口にした菓子は甘く蕩けた。
「ありがとう、周太。なんかすごく甘くて、旨かったよ?」
礼を言いながら口説いてしまう。
そんな英二に案の定、真赤になって言ってくれた。
「…そういうのはずかしいから、ね?…でもありがとう、」
こんなことだけでも恥ずかしがって可愛い。
けれど、こんな恥ずかしがりだったら、性愛に疎いのも仕方ない?
周太からキスしてくれることは、たまにある。
けれど英二からするキスの数に比べたら、何分の一かなんて分母が大きすぎる。
周太から手を繋いでくれたことは、キスしてくれた数の半分くらいかもしれない。
それ以上に周太からベッドを誘ってくれた事なんか、今までに唯2回だけしかない。
―あれだって、田中さんが亡くなった俺を慰めるためと、恋人に戻ってくれるためだし
英二のために理由があるときだけ、周太から求めてくれる。
自分は単純に「周太大好き独り占めしたい」という動機ばかり、初任総合の時は男の意地もあったけど。
昨夜も周太が抱いてくれたけど、それも「英二を幸せにしたい」が理由で周太の快楽や独占欲が動機ではない。
そんな純粋な愛情は幸せで愛しくて、また恋してしまう。けれど、それと同時に想ってしまう。
―もっと俺のこと、独り占めしたいとか単純にセックスしたいとか想ってくれないのかな?
そういうこと、23歳男子の恋愛なら普通に想うだろう。
けれど周太は違う、それは記憶喪失で精神年齢が稚いことが大きな原因だろう。
でもたぶん、元からの性格が穏健で純粋すぎるから、性的欲求もごく淡白なのかもしれない?
―じゃあ周太、大人の精神年齢になっても、ずっとこうかな?
それはそれで可愛い、永遠の少年だなんて周太らしい、すごく良いと想う。
でも自分自身は色欲が強いから、もうちょっとセクシャルになってくれたら、尚良い。
永遠の少年で夜は大胆艶っぽいなんて、本当に最高だと思うんだけど?
―だから昨夜の周太、最高だったんだけどな
でも朝になったら、いつもどおりの恥ずかしがりに戻っていた。
それはもちろん可愛くて萌える、そんな貞淑な周太が大好きだ。
だけど夜になったら、また昨夜みたいになるかと思って期待していた。
でも現実は花と猫に心を奪われて、手を繋いでいないことも気付かない。
―やっぱり昨夜はマグレかな?
昨夜もきっと「異動」があるから、周太は大胆になってくれた。
やっぱり何か理由が無いと、艶っぽい周太は登場しないのかもしれない?
そんな考えに想ってしまう、昨夜から暁の時間は幸福な幻だったのかもしれない。
けれど、この体には疼くよう甘い気怠さが名残らされて、すべては現実だったと教えてくれる。
「ね、このバラ、香がいいね?…夜に香る花って、なんか不思議だね?」
話しかけられて、意識が戻される。
見つめた先で純粋な瞳は白いバラを見つめ、そっと顔よせて微笑む。
夜の公園に静謐の香る花、街燈のもと白い花にほころんだ笑顔はまばゆくて、理性が1/3ほど折れた。
「周太の方が、不思議だよ?」
本当に不思議、昨夜との差に惑うよ?
そんな想いと笑いかけて頬よせて、横から唇の端にキスをする。
そっとふれただけのキスに恋人が振り返る、その貌に薄紅ほころびだして、昨夜の記憶と今が交錯した。
―もう我慢とか無理、
心つぶやいて腕を伸ばす、その掌に愛しい掌くるみこむ。
そのまま引寄せて抱きしめて、バラの香と一緒にキス交わす。
ほら、結局いつもどおり、自分から手を繋いで、キスしてしまった。
「…あ、あのここそとだよえいじ?」
「月も出てないし、夜が隠してくれるよ、周太?だからキスさせて、」
木下闇へと連れ去って、薔薇色の頬を見つめて唇を重ねる。
ふれるオレンジの香が優しくて甘くて、幸せが融けだしてしまう。
ほら、結局また俺が惹きこんでしまう、恋人同士のふたり見つめる時間を囁きたくなる。
「周太、愛してるよ?…俺を見て、」
こんなふうに君を俺が追いかける。
いつもそう、君と繋がっていたくて掌を掴んでしまうのは、俺のほう。
こんなふうに君の温もりを感じていたくて、俺から君の唇を探してキスをする。
いつもの通りに応えて、欠片も拒まないことも変わらないまま、君は俺を受容れてくれる。
―でも、たまには君から求めてよ?
そんな本音が笑って、誘惑したくなる。
昨夜の幸せな「求められて与える」瞬間を今も、この先も、なんどもリフレインさせたくて。
(to be continued)
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丘の上、月はまだ見えない。
けれど眼下の海に光は揺れ、橋に流れるテールランプとヘッドライトが煌めいていく。
左方は港の光、向こうに桟橋の流線を描く照明灯、停泊する船のライト。
その彼方には、海上うかぶ摩天楼と観覧車がまばゆい。
「きれいだね、英二、」
楽しそうな声が隣で笑って、夜の公園を歩いてくれる。
ふれそうで触れない掌がもどかしい、いつもならすぐ繋ぐけれど今日は、本当は待っている。
―周太から手、繋いでほしいな?
いつも自分から手を繋ぐ、すこしでも触れて繋がっていたいから。
けれど周太からしてくれる事は少なくて、それで今夜は繋いでくれたらと期待をしている。
だって昨夜は周太が英二を抱いて、4回セックスしてくれたから。
―これを切欠に周太、少し積極的になってくれないかな?
そんな期待を今朝起きた時から、本当はずっとしている。
けれど相変わらず恥ずかしがりで、いつも通りに首筋はすぐ赤くなって可愛い。
そんな恋人は尚更に愛しくて、本当は今夜このまま帰したくなくて、この夜の散歩にも誘いこんだ。
平日の夜の公園は思った通り人も少なくて、静かな雰囲気にそういう空気になりやすい?
そんな期待をしているけれど、並んで歩く恋人は隣で無邪気に微笑んだ。
「ん、バラの香?…英二、ここバラ園があったよね、夏バラが咲いてるかも…見に行って良い?」
「うん、行こう、周太。そのつもりで連れてきたから、」
返事しながら掌をふれさせる、けれど恋人は気づかない。
なんにもしらないで無垢のまま、黒目がちの瞳は嬉しそうに見上げてくれた。
「ありがとう…夏バラ、おばあさまのとこでも綺麗だったね、」
「家でも咲いてたな、白いのが周太っぽくて綺麗だった、」
花になぞらえ口説きながら掌の甲をそっとふれあわす。
それも気付かないで困ったよう羞んで、首筋を薔薇色にして恋人は微笑んだ。
「そういうのいわれるのてれちゃうから、ね?…あ、見て、可愛い猫…」
やっぱり猫に意識がいっちゃうよね?
今って一応デート中なんだけど、猫より俺も見てほしいな?
そんなこと考えて見つめる恋人は、自分と同じ23歳の筈なのに美“少年”にしか見えない。
自分と同じ男で警察官、だけど小柄で骨格も華奢、童顔に純粋な表情の周太だから稚くみえる。
任務中の制服姿なら幾らか貫禄も出て大人びるけれど、それでも高卒任官に間違われてしまう。
そんな私服姿はどうみても中高校生で本当は、アルコールを注文するとき年齢確認もされている。
―年齢確認のこと、本人には言えないけどね?
23歳、秋が来れば24歳、そんな大人の男にはちょっとショックだろう?
そう思うから黙っているけれど、幼く見られるのも仕方ないだろうと思ってしまう。
ほら、今だってしゃがみこんで猫と話しこむみたいに笑ってる、それが違和感なく可愛い。
「ここって猫がたくさん住んでるよね…みんなが可愛がってくれるのかな、」
「そうだろうな?可愛いね、周太」
答えながらも思ってしまう、どうして手を繋いでくれないの?
確かに昨夜も自分からベッドに誘い込んで、夜の衣を脱がせた。
それでセックスについて改めて教えて、自分を抱かせて周太に自信を贈るつもりだった。
けれど、こちらから言う前に切欠を提案してくれたのは、君のほうだったのに?
『…えいじもしてほしい?』
そう言ってくれた瞬間の気持ちなんて、きっと君の想像を超えている。
―ほんと嬉しくて俺、心臓止まりそうだったよ、周太?
周太から英二の体を愛したいと言われて、嬉しかった。
あんなふうに誰かに心から求められ、体ごと愛してもらった事は初めてだった。
そして、この自分が抱かれて愛されてみたいと想ったのも、初めてだった。
ぎこちない唇と指でフェラをして、そのまま初めて抱いてくれた。
なにもかもが拙くて本当に少年のよう、けれどその初々しさが逆に萌えた。
初めての「抱く」を遂げて微睡んで、目覚めて、またしてくれて眠って、次も繰り返し。
そんなふうに休息をしながら3回続けて抱いて、そのあと好きなだけ周太を抱かせてくれた。
―されてる時も周太、いつもより大胆で艶っぽかったな
記憶が艶やかに蘇えって、英二は鼻から口許を掌で覆った。
このままだと興奮して鼻血を噴きそう?そんな心配に掌を見たけれど血痕はない。
初めて初任総合の研修中に鼻血を出して以来、こんな警戒をしてしまう。けれど今の所あの一度きりでいる。
あのときの鼻血がマグレだったのかな?そんなことを思ってまた昨夜から今朝の幸せな記憶を見てしまう。
―…えいじ、させて?
抱いて抱かれた後の微睡、そして深い夜に告げられた言葉。
たった二言の言葉に酔わされて、本当は有頂天になるほど嬉しかった。
そして4度めの瞬間が訪れて、少年を体内に納めたままで夜を眠り、暁の目覚めは幸せだった。
そんなふうに大胆だった昨夜の恋人、だから今夜のデートも期待して朝から楽しみでいる。
けれど今、キスどころか手も繋いでくれないで、花と猫に心まで奪われてしまった。
「ね、英二?スコン食べてくれたよ、おいしいみたい…バターたっぷりだからかな?」
ほら、嬉しそうに猫に菓子をあげている。
こんなとき本当に中学生くらいに見えて、まるっきり美少年。
こういう純粋な可愛いところ大好き、可愛くて嬉しくて英二は恋人にねだった。
「周太が作ったものが旨いからだよ、周太、俺にも一口くれる?」
「ん、どうぞ…?」
可愛い笑顔を見せて、手にした菓子を渡そうとしてくれる。
けれど受けとらないで、ただ笑いかけた。
「あーん、して?」
ねだった途端に街燈の下、周太の頬が薔薇色になる。
ほら、こんなことだけでも真赤になって恥ずかしがるんだ?
こんな周太が昨夜、あんな姿を見せてくれたのは奇跡かもしれない?
そんな想いに笑いかけた先、ひとかけら菓子をちぎると差し出してくれた。
「あの…はい、」
はい、だなんて可愛い。
あーん、も言えないなんて初心すぎて、可愛くて仕方ない。
この無垢な婚約者に微笑んで、優しい指先から口にした菓子は甘く蕩けた。
「ありがとう、周太。なんかすごく甘くて、旨かったよ?」
礼を言いながら口説いてしまう。
そんな英二に案の定、真赤になって言ってくれた。
「…そういうのはずかしいから、ね?…でもありがとう、」
こんなことだけでも恥ずかしがって可愛い。
けれど、こんな恥ずかしがりだったら、性愛に疎いのも仕方ない?
周太からキスしてくれることは、たまにある。
けれど英二からするキスの数に比べたら、何分の一かなんて分母が大きすぎる。
周太から手を繋いでくれたことは、キスしてくれた数の半分くらいかもしれない。
それ以上に周太からベッドを誘ってくれた事なんか、今までに唯2回だけしかない。
―あれだって、田中さんが亡くなった俺を慰めるためと、恋人に戻ってくれるためだし
英二のために理由があるときだけ、周太から求めてくれる。
自分は単純に「周太大好き独り占めしたい」という動機ばかり、初任総合の時は男の意地もあったけど。
昨夜も周太が抱いてくれたけど、それも「英二を幸せにしたい」が理由で周太の快楽や独占欲が動機ではない。
そんな純粋な愛情は幸せで愛しくて、また恋してしまう。けれど、それと同時に想ってしまう。
―もっと俺のこと、独り占めしたいとか単純にセックスしたいとか想ってくれないのかな?
そういうこと、23歳男子の恋愛なら普通に想うだろう。
けれど周太は違う、それは記憶喪失で精神年齢が稚いことが大きな原因だろう。
でもたぶん、元からの性格が穏健で純粋すぎるから、性的欲求もごく淡白なのかもしれない?
―じゃあ周太、大人の精神年齢になっても、ずっとこうかな?
それはそれで可愛い、永遠の少年だなんて周太らしい、すごく良いと想う。
でも自分自身は色欲が強いから、もうちょっとセクシャルになってくれたら、尚良い。
永遠の少年で夜は大胆艶っぽいなんて、本当に最高だと思うんだけど?
―だから昨夜の周太、最高だったんだけどな
でも朝になったら、いつもどおりの恥ずかしがりに戻っていた。
それはもちろん可愛くて萌える、そんな貞淑な周太が大好きだ。
だけど夜になったら、また昨夜みたいになるかと思って期待していた。
でも現実は花と猫に心を奪われて、手を繋いでいないことも気付かない。
―やっぱり昨夜はマグレかな?
昨夜もきっと「異動」があるから、周太は大胆になってくれた。
やっぱり何か理由が無いと、艶っぽい周太は登場しないのかもしれない?
そんな考えに想ってしまう、昨夜から暁の時間は幸福な幻だったのかもしれない。
けれど、この体には疼くよう甘い気怠さが名残らされて、すべては現実だったと教えてくれる。
「ね、このバラ、香がいいね?…夜に香る花って、なんか不思議だね?」
話しかけられて、意識が戻される。
見つめた先で純粋な瞳は白いバラを見つめ、そっと顔よせて微笑む。
夜の公園に静謐の香る花、街燈のもと白い花にほころんだ笑顔はまばゆくて、理性が1/3ほど折れた。
「周太の方が、不思議だよ?」
本当に不思議、昨夜との差に惑うよ?
そんな想いと笑いかけて頬よせて、横から唇の端にキスをする。
そっとふれただけのキスに恋人が振り返る、その貌に薄紅ほころびだして、昨夜の記憶と今が交錯した。
―もう我慢とか無理、
心つぶやいて腕を伸ばす、その掌に愛しい掌くるみこむ。
そのまま引寄せて抱きしめて、バラの香と一緒にキス交わす。
ほら、結局いつもどおり、自分から手を繋いで、キスしてしまった。
「…あ、あのここそとだよえいじ?」
「月も出てないし、夜が隠してくれるよ、周太?だからキスさせて、」
木下闇へと連れ去って、薔薇色の頬を見つめて唇を重ねる。
ふれるオレンジの香が優しくて甘くて、幸せが融けだしてしまう。
ほら、結局また俺が惹きこんでしまう、恋人同士のふたり見つめる時間を囁きたくなる。
「周太、愛してるよ?…俺を見て、」
こんなふうに君を俺が追いかける。
いつもそう、君と繋がっていたくて掌を掴んでしまうのは、俺のほう。
こんなふうに君の温もりを感じていたくて、俺から君の唇を探してキスをする。
いつもの通りに応えて、欠片も拒まないことも変わらないまま、君は俺を受容れてくれる。
―でも、たまには君から求めてよ?
そんな本音が笑って、誘惑したくなる。
昨夜の幸せな「求められて与える」瞬間を今も、この先も、なんどもリフレインさせたくて。
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