学年だより「実践2」
ついに生まれて初めてのデート、水野氏は緊張のあまりトイレに向かう。
トイレで用を足し、エスカレーターで下の階におりてきた時のことだ。
~ 目に飛び込んできた光景に、胸が震えた。
彼女が椅子に座って、俺の帰りを待っていたのだ。 ~
「彼女が椅子に座って、俺の帰りを待っていた」光景の、どういう点に水野氏の「胸が震えた」のか、みなさんはわかるだろうか。
彼女と二人でそこを訪れているのだから、席をはずしてトイレに立った水野氏を、彼女が待っているのは、普通考えれば当然のことだ。
でも、水野氏にとっては当然ではなかった。信じられなかった。
一人で座っている女の子が、「自分を」待っているという光景が。
追い求めて、夢をみて、涙ぐましい努力をして、宮益坂を六時間20㎞歩き続けた過去の積み重ねのうえに、その日があったからだ。
水野氏は、その光景を味わいたいと思った。もう一度登りのエスカレーターに乗り、降りてきて目に焼き付けることにしたが、さすがにそれは「俺、何やってんだ?」と思ったという。
と同時に、過去のあの場面が頭に浮かんできた。
見知らぬ女の子に道を尋ねるというエクサイサイズを自分に課した渋谷の宮益坂の光景だ。
~ もしこの瞬間タイムスリップして、宮益坂で足を棒のようにしている自分の前に立ち
「お前は将来、ランドマークタワーのカプリチョーザで素敵な彼女とパスタを食うことになるぞ」
と告げたとしたら、そして、席に座っている彼女の姿を見せたとしたらたぶん、宮益坂の俺は、気絶したと思う。それくらい、ランドマークタワーのエスカレーターは、宮益坂の俺からは想像できなかった場所なのだ。
行動を起こすことによって「現実世界が変わる」という感動は、
映画でもドラマでも味わうことができない、
お金では決して買うことができない、
本当に最高の感動だと思う。
だから、
行動することがいかに難しいとは分かっていても、
それが、いかに陳腐な言葉になろうとも、
やはり、言わなければならない。
実践して欲しいと。(水野敬也『「美女と野獣」の野獣になる方法』文春文庫) ~
何かやろうと思ったとき、すぐに少しだけはじめておくことだ。後でがっつりやろうとすると、結局はゼロに終わる。今日思いついたことは今日中にちょっとだけでいいからやっておこう。