進路だより 「力」をつけよう
やりたいことを見つけ、なりたい職業をみつけ、そのために学部・学科を選び受験大学を決める、という作業ができそうな人は幸せだ。
たとえば、弁護士になりたい、薬剤師になりたい、学校の先生になりたい、スポーツ選手になりたいというような希望が明確に存在している人は、文系か理系かの選択で悩むこともないだろう。
文系・理系の選択も、受験学部・受験大学の選択も、よく考えて決めるべきものではあるが、実はそれほど神経質になる必要はない。
明確に決まっていなければ、とりあえず、入るのが難しい大学に入っておけばいい。
そんなのはだめだ、と書いてある本もあるけど、ウソだから信じなくていい。
「自分のやりたいこと」というのは、そう簡単に見つかるものではないからだ。
聖人の孔子でさえ、それを知った時には五十歳になっていたくらいだ。
みなさんには、「やりたいこと」を見つけるだけの確固たる「自分」ができていない。はっきり言って「力」が足りない。それが悪いというのではなく、いまの大人もほとんどはそうだった。
「やりたいこと」を考える前に、まず実力を身につけることが優先だ。
力とは、学ぶ力であり、世の中を見る力だ。
みなさんはあまりに世の中を知らない。視界が狭いし、生活経験も足りない。実は、教えている我々も世の中を知らない。親も親戚も身近な大人も、そんなには世の中を知らない。
特定の個人が知っている「世間」というのはきわめて狭いのだ。
まして今の世の中は、たとえば100年前に生きた最高の知性の人間が予想し得た世界よりもはるかに複雑化している。
そんな社会の中で、人が何を生業(なりわい)にして生きていくかもまた実に多種多様だ。
だから今もっている情報量で、将来はこういう職業につきたいなどと考えるのは、実はほとんど時間のムダといっていい。
世の中には多種多様な職業があるが、みなさんが大学を卒業する頃、つまり最短で7年後には、それらの職業のうちの何割かは存在さえしないだろう。
今の私たちが想像できない職業がいくつも存在しているはずだし、「就職」の概念自体も大きく変わっている可能性がある。
だとしたら、今の段階で自分の未来を限定してしまうことは、あまり意味がない。
だから考えなくていいということではもちろんないが、考える前にやることはいくらでもある。
まずは「読み・書き・そろばん」だ。ものを考えるための基礎力だ。
受験勉強では本当の思考力はつかないと書いてある本もあるけど、それもウソだから気にしなくていい。
とにかくまずは勉強。知識を増やし、「学ぶ力」をつけていくこと。
そして世の中を知ろうとすること。せめて新聞を読み、本を読もう。世の中に関心がない人は、何学部にいったらいいのかも決められない。
「やりたいこと探し」「自分探し」に時間を浪費せず、目の前のことをひたすらやって力をつけていけばいい。その先に自然と、やるべきことや、向いていることも見えてくる。その時にはじめて、自分は何をして生こうかと考えるので十分だ。