イカリ草
五月の連休が終わる頃、杉林と草原の境目の半日陰に群生したそれは花が咲き始める事が多い。
花の形から「イカリソウ」と呼ばれているが、中国の故事から出たと言う、
「淫羊カク」と言う漢方薬名でも知られている。
魚沼、特に我が家の近くの「イカリソウ」は黄花、紫花の二種類が共に有り、
場所によってはその二種類が隣り合って咲いている。
「イカリ草酒」を作るため、花が散るまでの間に、株を絶やさぬよう気を使い、
鋏で丁寧に根元から切り取る。
でも、薬草としての対象は根も含む全草とも聞く。
そして採ってから四、五日陰干しにする。梅酒用の広口壜に口一杯まで詰め、
果実酒用の三十五度の焼酎を満杯に注ぐ。
レシピによらず、私はあえてグラニュウ糖他の添加物は入れない。グラニュウ糖は味付けのみではなく、
成分の抽出にも役立つとも聞くのだが、何も入れないで作っても、味は十分に良い。二ヶ月程で完成する。
ガーゼで濾して瓶に詰めた完成品の「イカリ草酒」は混じり気なしの自然の味と、
ほのかな甘味と共に漢方薬に似た不思議な味でもある。氷を入れ水で割ると、
成分の一つのタンニンのせいか、微かに白濁する。でも滋養、強精、強壮と言われる、
その効果の程を私は知らない。
いや、知らない事にしておこう。しかし毎日喜んで少しずつ飲んだ亡父は、九十二歳の長寿を得る事となった。