Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

誘う女

2008-01-12 | 外国映画(さ行)
★★★★☆ 1995年/アメリカ 監督/ガス・ヴァン・サント

「ニコールの名演に万歳!」


子供の頃からスターになる事を夢みていたスザーン(ニコール・キッドマン)。地方のテレビ局で無理矢理お天気キャスターの座をゲットした彼女は、いつか自分はビッグになるんだと言う思い込みが増すばかり。しかし、目的達成のために夫が邪魔になることに気づいた彼女は、高校生の少年(ホアキン・フェニックス)をセックスの虜にしてそそのかし、夫を殺害することを思いつく…

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テレビに映らなきゃ生きてる意味がない。世界は私を中心に廻っている。誰かが不幸になったり困っても、それは一切私のせいではない。何人たりとも私にNOと言うことはできない。

スザーンは、自分が美しいのをわかっていて高慢ちきに振る舞っている高飛車オンナ、ではないですねえ…。恐らく彼女は精神科に行けば間違いなく立派な病名を頂くことができるでしょう。かなりの人格障害に間違いないですよ。私はそう感じた。そういう意味で、ニコールの演技力はたいしたもんだ!と感心しちゃいました。

ハリウッドの俳優で故意に太ったり痩せたりして肉体改造して役に成りきる人がいる。でも、ニコールの場合はそういうあざといことをせずに、彼女本来の恐ろしいほどの美しさをそのままに別人格になっている。この演技は、「アイ・アム・サム」のショーン・ペンなどで絶賛される類のものに匹敵すると思う私は、褒めすぎかしら?精神障害や知的障害の役に取り組むのと、ほとんど同レベルのチャレンジに見える。

で、アメリカ人のインタビューなんかを見ていると、「なんでそこまで自分に自信があるの!?」と、驚くことがよくある。先日も、「ドリーム・ガールズ」のDVDの特典映像を見ていたら、ビヨンセもジェニファーも口を揃えて「私には、この役をやり遂げる自信があったのよ!」と身振り手振りで答えている。

確かに成功者が述べれば説得力もあるだろうが、スザーンのような勘違い女が発言すれば、イタイことこの上ない。しかし、良くも悪くも「自信満々のアタシ」というのは、アメリカ人に顕著に見られるメンタリティだろうと思う。根拠がないのに自信だけあるとスザーンのような人間になってしまう。しかし、まず自分に自信を持て!というモチベーションのかけ方というのは、実にアメリカらしいやり方で、そういう意味ではこの映画もまた実にアメリカ的と言える。

それにしても、ニコールは役の選び方がひねくれてますねえ。もう少しわかりやすい感動作なんかに出演すれば、ファンの裾野は広がりそうなんだけど、敢えてしない。だって最新作「毛皮のエロス」はフリークスの撮影で有名になった伝説の写真家、ダイアン・アーバス。でも、私はこういうひねくれた役を選ぶ彼女が結構好き。(あっ、「奥さまは魔女」に出てたか(笑)。

スザーンという人物像も強烈ですが、彼女を通して、テレビというメディアをシニカルに描写するシーンがたくさん出てきます。確かにワイドショーネタのような話ですが、そこはガス・ヴァン・サント。きりっと冷ややかな演出が効いています。それにしても、リヴァーもホアキンも兄弟揃ってガス・ヴァン・サント作品では切ない役どころ。この頃のホアキンは今とは別人みたいだな…。で、この兄弟全然似てないよね。