うざね博士のブログ

緑の仕事を営むかたわら、赤裸々、かつ言いたい放題のうざね博士の日記。ユニークなH・Pも開設。

異数の世界へおりてゆく--吉本隆明の詩③

2010年10月10日 05時12分31秒 | 吉本隆明さんはどう考えるか・・・

 この詩の意味合いは、若者特有の気高くも貧しい精神性に、頭でっかちの生活感を加えて、政治的性的に世の中を無理やり解釈して行こうという内容か。無限な絶対孤独の世界。形而上でしかないその思い込んでいる外延には優しく感傷的な世界が広がっていると、この時点では既に純粋にもいやらしくも先験的に感じているのだ・・・、・・・・・未熟、まあ、いい気な現実感覚、社会認識ということか。

 なんだか、ここで、若い当時の表現方法に還ったみたいで我ながらおかしい。自己欺瞞の分析も関係構築もうっちゃり、寄る年波によって根付いた韜晦に身を任せていく。だがわたしにとって、今でも変わらないのは自分の頭で考えることを第一とし、世渡り上の要領の良さを嫌うことである。
 でも、吉本隆明の話題になると、なんだか、難解な方向に行くなあ。


異数の世界へおりてゆく

異数の世界へおりてゆく かれは名残り
おしげである
のこされた世界の少女と
ささいな生活の秘密をわかちあわなかったこと
なお欲望のひとかけらが
ゆたかなパンの香りや 他人の
へりくだった敬礼
にかわるときの快感をしらなかったことに

けれど
その世界と世界との袂れは
簡単だった くらい魂が焼けただれた
首都の瓦礫のうえで支配者にむかって
いやいやをし
ぼろぼろな戦災少年が
すばやくかれの財布をかすめとって逃げた
そのときかれの世界もかすめとられたのである
無関係にたてられたビルディングと
ビルディングのあいだ
をあみめのようにわたる風も たのしげな
群衆 そのなかのあかるい少女
も かれの
こころを掻き鳴らすことはできない
生きた肉体 ふりそそぐような愛撫
もかれの魂を決定することができない
生きる理由をなくしたとき
生き 死にちかく
死ぬ理由をもとめてえられない
かれのこころは
いちはやく異数の世界へおりていったが
かれの肉体は 十年
派手な群衆のなかを歩いたのである

秘事にかこまれて胸を ながれる
のは なしとげられないかもしれない夢
飢えてうらうちのない情事
消されてゆく愛
かれは紙のうえに書かれるものを恥じてのち
未来へ出で立つ

「吉本隆明詩集」(昭和33年)所収

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