落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

悪魔の素顔

2008年02月09日 | book
『ヒトラーの贋札 悪魔の工房』 アドルフ・ブルガー著 熊河浩訳
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史上最大の贋札事件・ベルンハルト作戦に従事した囚人本人によるドキュメンタリー。
先日観た映画『ヒトラーの贋札』の原作?原案本。
つーても自伝とかエッセイとか回想録といったよーなパーソナルな書物ではない。そーゆー意味では『戦場のピアニスト』とは違う。
冒頭こそブルガーの生立ちから政治犯として逮捕されるまでの個人の目線で語り始めているが、全体は彼自身が経験した強制収容所の実態と、ベルンハルト作戦の立案からトプリッツ湖での捜索まで、作戦の全容を体系的に書いている。

文体が簡潔で非常にわかりやすい、誰にでも簡単に読めるいい本だ。写真やイラストやグラフなど図版もふんだんに掲載されている。
しかしこの本を読むと、映画がいかに優れた翻案だったかに改めて舌を巻かざるを得ない。なにしろ映画の主人公サリーは、この本では完璧なネガをつくる贋作師としてほんの数ページに登場するだけなのだ。著者がスロヴァキア人でサリーはロシア人というバックグラウンドの違いもあったろうとは思うけど、つまりは映画に描かれたサリー像はほぼフィクションに近いということになる。
サリーだけではない、映画の物語そのものも、史実とはかなり異なっている。まったく大胆な改編だし、それであれだけきっちりおもしろい映画に仕立ててるってとこはスゴイと思う。ドイツ/オーストリア映画おそるべし。

残念賞

2008年02月09日 | movie
『君のためなら千回でも』

前評判がよくてアカデミー賞でもノミネート発表前にはけっこう話題になりましたよね。コレ。けど結局ゴールデングローブ賞も逃がしたし、オスカーも音楽部門だけのノミネート。
観て納得。いろんな意味で、もっそい惜しい!映画です。
原作がベストセラーとゆーのもあるんだけど、全体のバランスが非常に悪い。思いっきり、ダイジェストになってしまっている。だから話にまるで緊張感、メリハリというものがない。音楽に喩えれば、メロディはいいのにリズムが悪い、名曲なのに演奏者が下手、とゆーものすごくもったいない仕上りになってしまっている。あからさまに原作や題材を持て余している、テーマから一歩も二歩も腰が引けているのがミエミエ。
タリバン政権下のアフガニスタンを舞台にしたアメリカ映画という特異な作品でもあり、少年のレイプというセンシティブな題材を扱っていることもあり、出演者の家族の要望で編集でかなりの改訂があったというのも一因かもしれない。それもひとつの言い訳としては成り立つ。

だがぐりはそうじゃないだろうとはっきり指摘しておきたい。
まず、ハッサン(アフマド・ハーン・マフムードザダ)を強姦するアシフ(Elham Ehsas/Abdul Salam Yusoufzai)の扱いがぞんざいすぎる。チョーご都合主義。全体の流れからみれば、彼のキャラクターをもっと有効に使って、70年代パートをアミール(ハリド・アブダラ)─ハッサン─アシフの三角関係として構成した方が流れが立体的になっただろうし、後半の2000年パートにも伏線として効いたはずだと思う。出番がどうというのではなく、見せ方に工夫が欲しかった。とくに少年時代を演じたElham Ehsasはみてくれも演技もいいのに、演出が中途半端?ナせっかくの存在感が活かされずに終わっている。
ふたつめ。アメリカパートが長過ぎる。亡命アフガニスタン人の環境や生活文化を表現したい気持ちはわかるが、ダラダラ漫然と説明されても感情移入できない。あそこまで丁寧に描写する必要は感じられない。
みっつめ。ハッサンの息子(ソーラブ/アリ・ダネシュ・バクティアリ)捜索パートがゆるすぎる。もーーーー、そこすーーーんごい、がっくりでした。なーんーだーこーりゃー!みたいな。話が簡単すぎるでしょ。これじゃ桃太郎とか金太郎とかわんないよ。さすがハリウッド映画(爆)。

つまりー、レイプどーこー以前の問題なのよ。ね。
まあね、絶賛してる人もいるし、男の人、小さいときに親友、相棒をもった経験のある人にはぐっとくる映画かもしれない。
でもそーじゃなかったらちょとキビシイ。普段聞くことのない亡命アフガニスタン人の感覚に触れられる貴重な作品にはなってると思うし、それなりにスリリングなシーンもある、激しく心を揺り動かされる台詞もある、原作はきっとすごくいい本なんだろうと思う。だからこそもったいない。もったいない!と声を大にしていいたい。これじゃーあまりに散漫で何をいいたいのかが漠然とし過ぎてる。わかんないことはないんだけど、弱い。凧のVFXだけはすばらしかったけどね。さすがドリームワークス。
大人のアミールを演じたハリド・アブダラは『ユナイテッド93』でテロリ?Xトを演じた彼ですね。むちゃくちゃ芝居うまいよ。『〜93』のときも思ったけど。スゴイです。
あとコレ、カブールのパートを中国・新疆ウイグル自治区のカシュガルで撮影している。エンドロールに膨大な数の中国人がクレジットされててビックリしました。
ところでハッサンを演じた子役の家族はこの映画のせいでアフガニスタンに住めなくなり、ドリームワークスの協力でパキスタンに亡命したそうだが、その後どーなったんだろー。気になるなー。