『胡同の理髪師』
故宮の裏手、最近ではオシャレなレストランやバーが軒を連ねるナイトスポットに変わりつつある什刹海界隈の胡同で、昔なじみの老人たちを訪ねて散髪をする出張理容師のチンさん(靖奎チン・クイ)。
北京の中心地にあたるこの地域にも開発計画が持ち上がり、近隣の家々には次々と取り壊し命令が下される。下町では高齢化が進み、チンさんの顧客たちもひとりまたひとりと世を去り、あるいは住み慣れた家を出て子どもに引取られていき、残った友だち仲間の輪もだんだん淋しくなっていく。
主役の靖奎氏は実際に80年以上北京で働いている現役理髪師。他の出演者も多くが素人役者なのだそうだ。
登場人物のほとんどが60歳以上の高齢者。こういう映像をみていると、人の顔に刻まれた年輪ほど能弁なものはないなとしみじみ思う。演技なんかできなくても、激動の20世紀を生き抜いた彼らの息遣いや眼差しだけで、観ている方は胸がいっぱいになってくる。年をとることは生き物としては衰えることではあるが、人のうえにふりつもる年月にはそれ以上の意味がある。この映画を観ているととくにそのことを強く感じさせられる。
観る前は、古い下町を舞台にした人情ドラマなんて、しめっぽくてべたべたとセンチメンタルな映画なんじゃないかと思ってたんだけど、杞憂でした。おもしろかったよ。とっても。
ものすごく静かで淡々としてるんだけど、ところどころにこそっと笑えるユーモアもあるし、全体には意外とドライなタッチで描かれている。お年寄りの素のキャラクターを実に上手に活かして、できる限りそのままを切り取って繋ぎあわせるような、人を大切に大切に撮った映画という感じ。画面全体に、人生の先輩たちへの限りない敬意と、去りゆく者への喝采が満ちあふれている。そういうのは素直に心あたたまります。
とはいえ、高齢者賛美一辺倒なおしつけがましさもなくて、写真写りをマジメに気にしたり、しょっちゅう櫛をとりだして髪を整えたり、年齢に関係なく身だしなみを重視するおじいちゃんの姿をコミカルに表現しているシーンもちゃんとあったりする。そういう人物描写の面ではきちんとバランスのとれた、なかなか完成度の高い映画になっている。
観ている間、去年亡くなった祖母に会いたくて仕方なくて、何度も涙が出た。
物語自体はまったくそういう内容じゃないんだけど、主役の靖奎氏の、痩せて小柄で小さな白髪頭をぱっつんと切ったヘアスタイルや、腰を曲げてほろほろと歩く後ろ姿や、働き者の大きなごつごつした手や、ふるえるような細いやさしい声が、いちいち祖母を思いださせる。
靖奎氏は1913年生まれ。祖母よりみっつ年下だ。これからも元気で、長生きしてください。
ところでこの映画、女性の登場人物が極端に少なく、出て来ても親切ごかして欲の突っ張った隣人とか、老人をゴミでもみるような目つきで見下す嫁とか、ろくでもないキャラクターばかりである。
哈斯朝魯(ハスチョロー)監督、もしかして、女性、キライですかね?これ以外にもなんとなく女性嫌悪をにおわせるカットがところどころにあったんだけど・・・。
故宮の裏手、最近ではオシャレなレストランやバーが軒を連ねるナイトスポットに変わりつつある什刹海界隈の胡同で、昔なじみの老人たちを訪ねて散髪をする出張理容師のチンさん(靖奎チン・クイ)。
北京の中心地にあたるこの地域にも開発計画が持ち上がり、近隣の家々には次々と取り壊し命令が下される。下町では高齢化が進み、チンさんの顧客たちもひとりまたひとりと世を去り、あるいは住み慣れた家を出て子どもに引取られていき、残った友だち仲間の輪もだんだん淋しくなっていく。
主役の靖奎氏は実際に80年以上北京で働いている現役理髪師。他の出演者も多くが素人役者なのだそうだ。
登場人物のほとんどが60歳以上の高齢者。こういう映像をみていると、人の顔に刻まれた年輪ほど能弁なものはないなとしみじみ思う。演技なんかできなくても、激動の20世紀を生き抜いた彼らの息遣いや眼差しだけで、観ている方は胸がいっぱいになってくる。年をとることは生き物としては衰えることではあるが、人のうえにふりつもる年月にはそれ以上の意味がある。この映画を観ているととくにそのことを強く感じさせられる。
観る前は、古い下町を舞台にした人情ドラマなんて、しめっぽくてべたべたとセンチメンタルな映画なんじゃないかと思ってたんだけど、杞憂でした。おもしろかったよ。とっても。
ものすごく静かで淡々としてるんだけど、ところどころにこそっと笑えるユーモアもあるし、全体には意外とドライなタッチで描かれている。お年寄りの素のキャラクターを実に上手に活かして、できる限りそのままを切り取って繋ぎあわせるような、人を大切に大切に撮った映画という感じ。画面全体に、人生の先輩たちへの限りない敬意と、去りゆく者への喝采が満ちあふれている。そういうのは素直に心あたたまります。
とはいえ、高齢者賛美一辺倒なおしつけがましさもなくて、写真写りをマジメに気にしたり、しょっちゅう櫛をとりだして髪を整えたり、年齢に関係なく身だしなみを重視するおじいちゃんの姿をコミカルに表現しているシーンもちゃんとあったりする。そういう人物描写の面ではきちんとバランスのとれた、なかなか完成度の高い映画になっている。
観ている間、去年亡くなった祖母に会いたくて仕方なくて、何度も涙が出た。
物語自体はまったくそういう内容じゃないんだけど、主役の靖奎氏の、痩せて小柄で小さな白髪頭をぱっつんと切ったヘアスタイルや、腰を曲げてほろほろと歩く後ろ姿や、働き者の大きなごつごつした手や、ふるえるような細いやさしい声が、いちいち祖母を思いださせる。
靖奎氏は1913年生まれ。祖母よりみっつ年下だ。これからも元気で、長生きしてください。
ところでこの映画、女性の登場人物が極端に少なく、出て来ても親切ごかして欲の突っ張った隣人とか、老人をゴミでもみるような目つきで見下す嫁とか、ろくでもないキャラクターばかりである。
哈斯朝魯(ハスチョロー)監督、もしかして、女性、キライですかね?これ以外にもなんとなく女性嫌悪をにおわせるカットがところどころにあったんだけど・・・。