落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

再婚サンバ

2008年02月23日 | movie
『トゥヤーの結婚』

トゥヤー(余男ユー・ナン)は内モンゴルで羊を放牧して暮す農家の主婦。夫が事故で歩けなくなってしまった今は彼女が一家の大黒柱なのに、腰を傷めて医師から遊牧はむりだと宣告される。周囲は障碍者の夫と離婚して、子どもといっしょに養ってくれる男と再婚するよう奨めるが、トゥヤーは夫もいっしょに養ってくれる人とでないと結婚しないと宣言する。
ムチャな設定だが、どういうワケかヒロインには次から次へと求婚者が現れる。中国では一人っ子政策以前から人口の男女比がやや偏っていて、地方では慢性的な花嫁不足が深刻化している。現在ではこのままいけば数千万人単位の適齢期男性が結婚相手にあぶれるといわれており、すでにこの状況につけこんだ悪質な詐欺や人身売買などの犯罪も報告されていて、こうした犯罪はこれからも増加していくだろうと予想されている。男尊女卑思想が招いたこの現象はインドでも顕著で、とくに出産前に胎児の性別がわかるようになってから一気に加速した。医学の発展も痛し痒しどころではない。

そんなモテモテなトゥヤーですが。
あらすじだけだとなんだかコメディみたいだけど、実際の映画ではひたすら淡々と、次から次へと現れる求婚者や隣人センゲーなど身近な人々とのやりとりが描かれる。
トゥヤー本人の台詞も少ない。無駄口をたたくには彼女は忙し過ぎるのだ。家事をして育児をして羊を放牧して、片道30キロの道を一日2往復、ラクダで水汲みに行く。求婚者が来れば接待し、ウマで買い出しにも行く。実際こんな生活がどこまで可能なのかと首を傾げたくなるくらい、ひとりでいろんなことをやっている。
だから画面をみているだけで、彼女たちの暮している社会では、伴侶がいて働き手がいなければ人としての生活が成り立たないという現実がひしひしと伝わってくる。子どもを育てたり家庭を築いたりすることは、彼女たちにとっては人生の選択ではなく、生きていくうえでの必須事項なのだ。

景色もきれいだし羊やラクダやかわいい動物もいっぱい出てくるし、素人俳優たちもなかなかいい演技してるし、みどころはいろいろある映画だと思う。
けど、中国のこういう清貧礼讃映画はもうそろそろ飽きて来ました(爆)。べつに清貧礼讃そのものに罪はないけど、ぐり個人としてはあんましお好みではないです。
できれば、トゥヤーが最後に「彼」を選ぶだけの理由を、倫理とか建て前とか意地とかそういうものを超越して、生き物として女性としての目線で素直に表現してほしかったです。まったく表現されてないわけじゃないけど、ビミョーに弱いのよ。そこがいちばん惜しかった。

ところで今日は初日なのに映画館見事にガラガラ。ヤバいよ〜。
しかも。ぐうぐうぐうぐうイビキかいて寝るおっさんはいるわ、いちいち画面で起きてることを復唱する独り言おばはんはいるわ。なんですかこの映画館?てゆーかそーゆー人がなんでわざわざ初日にくるかな?