落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

クリスマスの後で

2008年10月05日 | movie
『ハピネス』

肝硬変になったヨンス(ファン・ジョンミン)は田舎のグループホームで肺が40%しかないというウニ(イム・スジョン)と出会い、恋に堕ちる。深く愛しあうようになったふたりはホームを出て農家暮しを始め、摂生の甲斐あってヨンスは回復するのだが、健康になった彼には穏やかな田舎暮しが淋しくなり始める。

最初予告編観て「これはさすがにムリだろー」と思いパスするつもりだった作品。
なにこれ。全然違うやんけ。この映画のどこをどーやったらあんなコテコテな予告編になるんやろー?むしろ感心。
すごいよかったです。ハイ。おもしろかった。イヤおもしろいよーな話ではないんですが。
邦画でも韓国映画でもしょっちゅう映画の題材になる難病モノ。ホ・ジノも『八月のクリスマス』で余命わずかな写真屋の恋を描いて大ヒットさせたけど、この映画では『八クリ』では描かれなかった病人の恋の苦しみをかなり丁寧に表現している。
ぐりも『八クリ』は大好きで映画館で2度も観たくらいだけど、この映画には主人公(ハン・ソッキュ)の病名は具体的には登場せず、闘病生活らしき描写もあまりない。主人公は交通警官の若い女性(シム・ウナ)と出会って淡い恋心を抱くが、彼女には自分の病気を告げず、互いの心に深く立ち入ることもせず、黙って静かに去っていく。
これはこれで映画として非常にロマンチックだが、リアリティという意味ではちょっと不満は残る。『ハピネス』はこうした状況での恋のリアリティに思いきり突っ込んだ物語になっている。生々しい。

そもそも恋愛はそれそのものが一種の病気である。人は恋によって希望を見いだし命の活力を得ることもあるが、逆にひどく傷つけられたり絶望させられたり苦しめられたりもする。美しいだけが愛じゃない。愛のほんとうの姿は醜く重く窮屈でもある。
ヨンスは出会ってすぐにウニに惹かれるが、この時点ではふたりとも病人である。病人同士であることがふたりを結びつけ、立場を対等にしていたのだが、ヨンスが病人でなくなってしまうとこの関係のバランスは崩れる。ヨンスにとって愛という病が重荷になってくるのは、病人同士で保たれていたふたりの依存関係が壊れてしまったからである。健康のためにふたりで田舎暮しをしているのに、求めていた健康が愛を変えてしまうのがいかにも映画らしい皮肉となっている。

物語そのものはホ・ジノらしいメロドラマだけど、とにかくディテールと心理描写が丁寧で、やっぱり伊達に若き巨匠と称されるだけのことはあるなと改めて思う。ヨンスの優柔不断なダメっぷり、ウニのひた向きで可憐な薄幸ぶりにはフィクションとは思えないくらいの説得力がある。
ただちょっと気になったのは、映画に出てくるソウルが夜の街という一面だけに限定されていて、逆に田舎の農村はただただ平和で自然が美しいだけの場所として描かれており、人間関係にもほとんど葛藤らしきものが登場せず、主人公ふたり以外の要素にあまりリアルな立体感がなかったところ。まあこれも映画だからしょうがないといえばしょうがないし、不満というほどのことはないんですけどね。
ファン・ジョンミンはモロ好みだしイム・スジョンは美人ではないけどめちゃめちゃ可愛いし、キャスティングも役にぴったりだったんではないかと思います。
良い映画なのにこんな特集上映だけの公開なんてもったいない。なんでもっとちゃんと公開せんのやろー?確かに客は全然入ってなかったけどね。ぐり入れて5人しかおらんかったよ。悲し過ぎるしここの映画館いっつもこんなんで大丈夫なん?

初恋の香り

2008年10月05日 | movie
『初恋の想い出』

同じ官舎で育った幼馴染みの屈然(趙薇ヴィッキー・チャオ)と侯嘉(陸毅ルー・イー)は自然に惹かれあい愛しあうようになるが、侯嘉の母親はかつて屈然の父親が夫を陥れて自殺に追いこんだことを深く恨んでおり、息子たちの交際に強く反対する。一度は心中を決意するほど思いつめたふたりだったが・・・。
『山の郵便配達』で日本でも知られる霍建起(フォ・ジェンチィ)の3年前の作品。

コレ本国で公開されたときはやたら盛り上がってた記憶がありますが、なんで今さら?日本公開?なの?内容的には海外で公開するほどの価値のある作品ではないし。じゃあ観るなよって自分でも思いましたよええ。大失敗。だって『故郷の香り』がすごい良かったからさあー。古今東西どこの映画業界にも、評価されて人気が出てビッグバジェットのスター映画を撮るようになると一気にクオリティが下がってしまう映画監督っているけど(あえて名は挙げまい)、もしかしたら霍建起もそのクチかもしれない。東京・中国映画週間のオープニング『愚公移山』のチケットはちょっと早まったかも。
もう全然ダメよ。とりあえずシナリオがまるっきりイケてない。ちょー段取り。ストーリー展開が不自然過ぎる。主人公ふたりが恋に堕ちるまではよかったんだけど、そこから愛が燃え上がり愛に縛られ苦悩しているはずの心理が画面からさっぱり伝わってこないのだ。どの登場人物も我が身可愛さに拗ねたり突っ張ったりしてるだけのようにしか見えない。演技がどうとか演出がどうとかいうレベルじゃなく、語ろうとするメッセージを表現する側がちゃんと消化してない。
ぐりの目には、この主人公ふたりにお互いをかけがえのない相手として強く求めるエネルギーがあるようには見えなかった。最初からそんな恋愛うまくいくはずがない。監督はあるいは淡々と静かに恋愛を描きたかったのかもしれないけど、盛り上がりっちゅーもんがなさ過ぎて始まって15分くらいから眠くて眠くてしょうがなかったです。こんなに退屈な恋愛映画ひさびさ観たわ。まあ冒頭の子ども時代のパートは別の意味でキツかったけど。
それに侯嘉の母親が屈家に遺恨を持つのは当然としても、屈家が侯家を蔑む事情が曖昧なままなのも気になる。時系列にもおかしな部分がちょこちょこあったり、物語の設定そのものすらきちんと説明しきれてない。結局「親のいいつけを守らないワガママっ子は不幸になりますよ」とか「イタい女は大切な人を傷つけるだけ」ってことがいいたかっただけなのか?それにしても話の筋道に一貫性が(ありそうで)ないのにはただただ困惑しましたわ。
さすがに撮ってから危機感に迫られたのか、やたらにモロに後付け的に観念的なモノローグがごてごて入ってたけど、完璧に逆効果。悪臭に香水ふりかけても良い匂いにはなりません。残念なり。

全編の舞台となっている官舎は19世紀スペイン風のエキゾチックな建物で、ライラックの木がふんだんに植えられたパティオや鋳鉄製の装飾がついた階段、アールヌーヴォー調のエントランスなど、フォトジェニックな背景というだけでなくこの映画のもうひとりの主役といっていいほど印象的である。ハルピンで撮影したらしー。画面では東北地方の厳しい気候風土が完璧に削られてて、てっきり南方かと思ってたよ。
そんな壮麗なロケ地と年齢不詳なヴィッキーの美貌は確かに堪能できるが、いかんせん監督も堪能し過ぎたらしく、カメラワークやら編集やらクッサいクサい。あとコレ観て気づいたけど、ぐりちょっと陸毅アカンわ。前からこのおちょぼ口と大根演技がムリっぽくって、けど中国ではアイドルだっちゅーし気のせい?とか思ってたけどやっぱダメっす。ゴメン。
ところで両家の親を演じてた3人にめちゃめちゃ見覚えがあるのだが、どこで見たのかが思い出せず。たぶん中国映画とかドラマとかよく出てる人だと思うんだけど。