落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

チャイニーズ・ボックス

2008年10月21日 | book
『通訳捜査官―中国人犯罪者との闘い2920日』 坂東忠信著
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毒ギョーザ事件が解決してないのにまたぞろ世間を騒がせている中国産食品問題。今度は冷凍インゲン。
かなり前から中国産の食料品はアブナイとはいわれて来たし、国内でも大勢の被害者を出している毒ミルク事件などは従来の食品汚染問題と同じ流れで発生した事例だが、日本で起きたギョーザやインゲンはこれとは別に考えなくてはならない。なぜなら、ギョーザやインゲンから発見された毒物は人為的に混入された可能性が極めて高いからだ。
誰かがわざと食べ物に毒を入れたとなると、そこには明確な目的があるはずである。その目的がなんであるかを明らかにしないことには、ただ「中国産食品はアブナイ」などと感情的に騒ぐだけでは犯罪者の思うつぼである。踊る阿呆に見る阿呆状態。つーかぐりはインゲン大好きなんでいっさい気にせずぼりぼり貪り食ってますけど。だって悪いのはそのどこやらのアホンダラだけでしょ?インゲンに罪はない。
日本で中国人による犯罪が多発しているといわれるようになってしばらく経つけど(90年代に歌舞伎町で福建マフィアと上海マフィアの抗争があった時代もいれればかれこれ10数年以上になる)、この数年、日本に住む中国人の数は爆発的に増えている。分母が増えれば分子も増える、これ当り前。小学生でもわかる。だが統計的にみても、海外で検挙される日本人犯罪者と、日本で検挙される中国人犯罪者の数は比率的にレベルが違う。数字だけみていると、なんでこんなに日本がヤラレっぱなしなのか、理不尽に思う人が多くてもしょうがないなと思う。

著者は警視庁で8年間中国語専門の通訳捜査官として勤務した元刑事。
毎日毎日、現場で中国人犯罪者とツノつきあわせて対峙してきた実体験を、ごく軽いタッチで読みやすくおもしろおかしく書いた、なかなか楽しい本である。犯罪実録本にしては意外なくらい笑いの要素もたっぷりある。苦労もいろいろあったけど、著者自身が職務に愛情をもって心から楽しんでもいたのだろう。
でも、冷静に読めばこれはかなり危険な本でもある。読みやすいノンフィクションの常として、話のまとめ方がいちいち乱暴なのだ。たとえば著者は「中国人は嘘つきだ」と断言する。日本人は嘘をつかないともいう。それはちょっとないだろうと思う。確かに中国人は嘘をつく。でも日本人だって嘘はつく。ていうかどこの何人だって嘘はつくのだ。嘘をつかない人間はいない。違いといえば程度問題である。それに警察だって嘘をつくではないか。毎年のようにマスコミを賑わす不祥事をいちいち例に挙げるまでもない。個人的には、警察は嘘なんかつきませんという顔をして堂々とものすごい嘘をつくのは、警官や刑事の職業能力のひとつではないかとさえ思っているくらいである。経験的に。ケーサツのいうことなんか誰が信用するかいなんてのは今や常識的な社会人の共通認識じゃないのかね。
べつに揚げ足をとりたいわけじゃないけど、「中国人=嘘つき/日本人=嘘つかない」という断定だけでも、この本の信憑性が少なく見積って5割はマイナスされてしまう。

ぐりはとくに中国にも中国人にも詳しくはないけど、この本に登場する中国人犯罪者の実態そのものにはまったく新鮮味はない。多少なりとも現代中国に関わるメディアや文献に触れていれば自然と耳目に入って来る程度の情報でしかない。これは読んでて拍子抜けしました。もっとショーゲキの新事実!みたいのがあるかと思ったんだけど。残念なり。
もうひとつ意外だったのは、著者が中国語の研修は受けていても中国の国内事情や犯罪心理学などの専門分野を体系的に学んだ実績がないらしいこと。だから現実の犯罪者たちのことは表面的に理解はしているけど、その根底にある中国人の事情についてはあまり理解が深いとはいえない。著者本人は理解しているつもりで書いているのだが、読んでいる方にはどうしてもそうは思えなかった。
だから読み手によっては大変アブナイ本ではある。読んでて笑えることは笑えるし、おもしろいことはおもしろいけど、これだけじゃちょっとなー、って感じではある。おもしろいだけに惜しかったです。