落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

グロテスク上等

2008年10月07日 | diary
緒方拳さんが亡くなりましたねー・・・。
ぐりは出演作をこまめにチェックするとゆー真面目なファンではなかったんですが、まれに「好みのタイプの男性は?」なんて訊かれると「・・・緒方拳」なんて答えてたくらいもろ好みな俳優さんだったんですごい悲しいです。こんな急にいなくなっちゃうなんて淋しい。
つい最近までお元気で、公式HPのブログもちょいちょい更新されてたけど、それがいつもごはんのメニューとかばっかりなところが緒方さんらしかったです。
世間的には代表作といえば『楢山節考』とか『必殺仕掛人』なんだろうけど、ぐりが緒方さんを好きになったのは『愛はどうだ』というTVドラマ。緒方さんは3人の年ごろの娘を抱えたおとうさんという役柄で、ぐりのうちも3人姉妹だったせいもあってなんだか妙なシンパシーを感じてしまい、このときにぐりは自分がファザコンだということを初めて自覚したんでした。
男っぽかったり優しかったり、頑迷だったりお茶目だったり、ぐりにとって理想の男性像だった緒方さん。
さよなら。お疲れ様でした。ご冥福をお祈りします。

閑話休題。本日のお題はこちら。「人体の不思議展」(*グロ注意)。
生体標本の水分と脂肪分を合成樹脂に置き換えるプラスティネーションという技術を使って作成した人体標本を見ることができる展覧会で、90年代くらいから日本各地でくり返し開催されている。ぐりも初期のころに観てます。大学のとき『死体を探せ!』という本で有名になった布施英利の講義を受けていた影響で『Sleeping Beauty: Memorial Photography in America』(*グロ注意)とか『Looking at Death』とか『劇場としての手術』なんて写真集をホイホイ買っちゃってて、割りとグロOKだったもんで。
グロといっても、一般庶民がこれほどリアルな人体標本(てゆーか死体)に間近に観たり触れたりできる機会そのものは貴重だし、ぐり個人としてはこういう展覧会を開催すること自体にとくに問題はないと思う。最近はこの展覧会に疑問をもつ市民団体もあって、遺体となった後でも人としての尊厳は守られるべきだという批判もあるらしいけど、その手の感情論にはぐりは同意できない。感情論って一見わかりやすくて誰しも共感しやすいけど、扱いを間違うとファシズムに結びつくリスクが非常に高い。尊厳うんぬんは主観の問題としてひとまず棚上げしておくのが穏当ではないだろうか。プラスティネーションを開発したハーゲンス博士の父親がナチス党員だったこともこの際忘れるべきだろう。

だがこの展覧会には尊厳とは別な疑惑もあるらしい。
中国の宗教団体・法輪功系列の大紀元時報の記事(*グロ注意)などでは、この展覧会で展示されている標本の中に、拷問を受けて亡くなった政治犯の遺体が含まれている可能性があるという。ぐりはこの話を最近になって耳にして、初めは「そんなバカな」と思った。ぐりが観た展覧会で展示されていた標本には、故人の遺志による献体からつくられたドイツのプラスティネーション協会所有の標本であると、キャプションに明記されていたからだ。
ところが現在日本全国を巡回展示中の「人体の不思議展」はこのプラスティネーション協会とは関係がなく、標本も新たに中国で作成されたものだという。例によって遺体が標本となった経緯には不明確な部分もある。ただでさえ中国では死刑囚の臓器密売という疑惑も根強い。
もともと90年代に「人体の不思議展」に標本を貸与していたプラスティネーション協会は現在の「人体の不思議展」を権利侵害だとして訴えているそうだが、ハーゲンス博士はこのプラスティネーション協会の設立者であり、現在も指導・監督する立場にいる。ところが現在の「人体の不思議展」で展示されている中国製の標本を作成している工場もまたハーゲンス博士の経営だという。要するに、訴えている側と訴えられている側の中心人物に同一人物がいることになる。これはおかしいですね?どっかヘンです。誰かがなんか嘘ついてます。確実に。

大紀元の記事がどこまでほんとうなのかはわからないし、展覧会主催者の「展示されているすべての人体プラストミック標本は、生前からの意志に基づく献体によって提供されたものです」という説明もどこまでがほんとうなのかはわからない。
本来なら医療専門家しか見られないはずの人体標本を詳しく見られるという意味では意義深い展覧会ではあるけど、なにしろ最初に展覧会が始まってから10年以上も経過している。その間には時代も変わるし社会状況も変わる。最初に事実として与えられた情報が事実として通用しなくなるにはじゅうぶんな時間だろう。情報は常に更新しとかなきゃいけないもんなんだなーと、改めて思いましたです。
ところで超リアルな人体標本といえばイタリアのラ・スペコラ(*グロ注意)も有名ですね。この博物館では17〜8世紀に蝋でつくられた精巧な医学標本をたくさん展示しているのだが(他に動物の剥製もイヤっちゅーほど置いてある)、これらのリアルさはホンモノの遺体を加工してあるはずのプラスティネーションにも匹敵するほどの生々しさである。色や形や質感はもちろん恍惚とした表情や官能的なポージングなどは、医学的な意義以上に一種のフェティッシュにも通じる芸術性すら強く感じる。
つうかね、コレつくれるんなら生身の死体なんか使わんでもええんとちゃう?って気もするよ。それくらいステキよ。スペコラ。フィレンツェにお越しの方は是非一度どーぞ。場所はピッティ宮殿の近所。いつ行ってもとっても空いてます。穴場よ。


ネギの轢死体。