落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

ちょっと待った

2008年10月18日 | book
『臓器漂流―移植医療の死角』 木村良一著
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2005年に産経新聞に掲載された連載記事をまとめた移植医療の現場レポート。
このタイトルはえーと・・意味おかしいですね。明らかに。だって「漂流」するのはレシピエント=移植を待つ患者であって臓器≒ドナーじゃないし、レシピエントは移植医療の死角でもなんでもない。思いっきり主役である。よーするにインパクトなんだよね。内容とタイトルが食い違ってたって注目されて売れりゃあそれでいいわけですよ。出版界もオシゴトですからー。

臓器移植について新しめで読みやすそうな本をと思って選んだけど、ぶっちゃけ失敗でした。
もとが新聞記事なので文体にひどいクセがあり(センテンスが極端に短くむやみに読点が多い。全体に断定調)、しかもテーマが散漫なうえにどの項も踏み込み不足でやけに感情的な論調がめだつ、相当に問題のある本だと思う。内容もテーマの割りに薄すぎる。読みやすくはあるけど読みごたえとゆーものがまったくない。完全に読者をナメてます。
大体、東南アジアや中国の臓器売買・死刑囚ドナーの問題にしても、その国で合法ならあとは知ったこっちゃないってまとめ方はありえへんやろ。臓器が売れるからってただの痴漢や食い逃げが死刑にされてたらどーすんのよ(あり得ない話ではない)。豊かな国の人間が貧しい国の人間の尊厳をカネで買って世界の貧困問題が解決したら誰も苦労なんかしない。
確かに日本はどこの国よりも圧倒的にドナーが不足している。そのための法整備も遅れに遅れまくっている。移植を待っている患者はばたばたと死んでいく。あるいは倫理問題を踏み越えても臓器を求めて諸外国を‘漂流’する道を選ぶ。それを悲劇と呼びたい人がいるのは致し方のない現実だ。

だがこの本を読んでいてどうしてもひっかかるのが、移植医療だけが患者を‘救う’唯一の手だてとしてしかとらえられていない、傲慢なまでの視野の狭さである。
広い世の中には、移植が必要になっても「移植を受けてまで長生きしたくない」「移植とは別な道で充実した生涯を過ごしたい」と考える患者も実在する。一方で移植を選択できない事情を抱えた患者もいる。そしてそうした患者をサポートするクオリティ・オブ・ライフの概念も医療の重要な一分野である。それこそが「移植医療の死角」と呼ばれるべきではないのか。
ES細胞やiPS細胞を使った再生医療にも注目は集まっており、既に一部の移植手術では患者本人の身体からつくられた自前の組織を使うこともできるようになっている。皮膚や歯や骨、角膜などでは完全な実用化もそう遠くない将来に実現可能だといわれている。あるいは臓器も自前でつくれる日がくるのも夢ではないかもしれないのだ。

医療は魔法の杖なんかじゃない。‘救う’ったって限界があって当たり前である。この本では、そんな限界がまるで許されない罪でもあるかのように書かれているように思えて仕方がなかった。そんなワケないでしょーが。
ただしこないだ読んだ『脳死・臓器移植の本当の話』が脳死移植をどっちかというと「非」とする論点から書かれてるのに対して、この本は「是」とする論点から書かれてるという意味では好対照ではあったけど。けどそれだけなりー。

祭り開始

2008年10月18日 | movie
実験アニメ作家・手塚治虫
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去年DVDが発売された作品集の中から4本を上映。
『ある街角の物語』(ニュープリント) 屋根裏部屋に住む少女とお気に入りのクマのぬいぐるみ、いたずら好きな子ネズミや蛾、街路樹のプラタナス、壊れかけた古い街灯、路地に貼られたポスターたちの織りなす叙情豊かな映像詩。
『ジャンピング』 オタワ国際アニメーションフェスティバルで観た『バグ』という作品に触発されてつくられたという、全編オウンビューによる手描きアクションアニメーション。ザグレブ国際アニメーション映画祭グランプリ受賞作。
『おんぼろフィルム』 クラシック映画のファンで自身も古いフィルムをコレクションしていた手塚氏ならではの、遊び心あふれるウェスタン・コメディ。広島国際アニメーション映画祭グランプリ受賞作。
『森の伝説PART‐1』(ニュープリント) チャイコフスキーの交響曲第四番の第一楽章と第四楽章を映像化。いずれも森林を破壊しようとする人間と森の生き物たちとの戦いがテーマで、ディズニーの『ファンタジア』を意識した作品。第二楽章と第三楽章を映像化する予定だったPART‐2は手塚氏が生前描き遺したコンテを基に現在制作中で、完成時にはPART‐1と合わせてチェコフィルによる新音源で公開される。

手塚治虫のアニメといえば『鉄腕アトム』や『リボンの騎士』『ジャングル大帝』などのエンターテインメント性の高いファンタジー作品がすぐに思い浮かぶが、もともと実験アニメがやりたくて虫プロを立ち上げたというだけあって今回上映された4本はいずれも冒険心に満ちた楽しい作品ばかり。
実をいうとぐりはこのうちの2本は既に某所で観たことがあったのだが、スクリーンで観る機会そのものが貴重だし、しかも2本はニュープリントとあっていさんでプレリザーブでチケットをとったのだが、客席はガラガラ。どーゆーことやねん。毎年やれ地味だの盛り上がらないだのと批判されまくってる東京国際映画祭だけど、手塚治虫ですら客が呼べんてどーゆーことやねん。ってかなんでアニメプログラムだけ別会場?意味がわからなーい。しかもティーチインには通訳もいない(外国人客はそれなりにいる)。やる気ないね?もしや?

会場はそんな具合でお粗末至極でしたが、作品そのものはやはりすばらしい。すばらしすぎて涙が出てくる。こういうのを観てると、心の自由、イマジネーションの世界の豊かさ、人間の魂の可能性に素直に力いっぱい感動せざるを得ない。とくに、おそらくホロコーストを題材にしているであろう『ある街角の物語』は東欧の伝統的なアニメーションを意識しつつ、しっかりとした文学性を感じさせる格調高い芸術映画にもなっていて驚きましたです。
確かに手塚治虫は天才だった。天才ゆえに遺した功罪も大きかった。だが彼が亡くなって早20年近くが経って、彼を超えるだけの芸術家でありかつエンターテイナーたる新たなパイオニアは現れただろうか。不勉強ながらぐりはそれが誰にあたるのかはちょっとわからない。かえすがえすも若すぎる死が惜しまれてならない。来年は生誕80年だそうだ。

上映後に来年公開予定の実写版『MW ムウ』の予告編が流れたのだが、これは原作の重要な設定がごっそり変更されたまったくの別物になってるらしーです。もーそんなん原作とかいうのやめてほしいっす。別の作品としてつくればいーでしょ。誰が観るかー。