OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

熱血! ホレス・シルバーのライブ盤

2008-12-02 11:50:59 | Jazz

Doin' The Thing / Horace Silver (Blue Note)

人生を振り返ると、あれが自分にとって一番良い時期だったという感慨が誰にでもあると思うのですが、それが第三者から見るとズレていることが少なくありません。

例えばホレス・シルバーというハードバップの作ったといって過言ではない黒人ピアニストの場合、やはり1960年代中盤ぐらいまでが全盛期だったと私は思うのですが、本人にとってはどうだったんでしょう……。

しかしレコードという媒体に記録された証拠には、やはり否定出来ないものがあります。もちろんそれは悲喜こもごもではありますが、本日の1枚には間違いなくホレス・シルバーの頂点があるんじゃないでしょうか?

録音は1961年5月19&20日、ニューヨークの有名クラブ「ヴィレッジ・ゲイト」でのライブセッションで、メンバーはブルー・ミッチェル(tp)、ジュニア・クック(ts)、ホレス・シルバー(p)、ジーン・テイラー(b)、ロイ・ブルックス(ds) という当時のレギュラーバンドです――

A-1 Filthy McNasty
 今夜はライブレコーディング、拍手して首やケツを振って楽しんでください♪
 なんて、ホレス・シルバーが挨拶してからは、調子の良すぎるファンキー大会です。バンド全員が合いの手を入れることに専心したというか、リードをとっているアドリブプレイヤーよりはバックの面々が目立つという素晴らしさ! 特にホレス・シルバーの伴奏は、それだけ聴いていてもウキウキしてくるほどです。
 もちろんブルー・ミッチェルやジュニア・クックも分かり易いフレーズと単純なコードしか吹かない潔さですし、ロイ・ブルックスの弾んだドラミングとか、理屈抜きにノリノリの演奏になっています。
 またホレス・シルバーのピアノは、ゴスペルとブルースをさらに単純化したようなグルーヴがファンキーの真相を追求しているのかもしれませんね♪
 そして演奏終了後、鳴りやまない拍手の中でのメンバー&曲紹介には、その場の熱気が今もって凄いと実感されますよっ♪

A-2 Doin' The Thing
 ホレス・シルバーの紹介どおり、アルバムタイトル曲はアップテンポのマイナーブルースで、このバンドが特有のビートに彩られたリズム隊のリフが嬉しいですねぇ~♪ もちろんテーマメロディも分かり易いので、アドリブパートも明快そのものです。特に終盤のソロチェンジは自分の出番が待ちきれないほどの熱さに満ちています♪
 しかしここでも私が本当にシビレるのは、リズム隊の強烈な煽りとグルーヴの物凄さです。もう、これ以上ないというラフ&タイトな纏まりはバンドが全盛期の証じゃないでしょうか。

B-1 Kiss Me Right
 如何にもファンキーな前節のリフ、そして妙な明るさが滲むフックの効いたメロディがイカシています。そしてテーマからグイノリ4ビートのアドリブという展開は、実にハードバップの黄金律が楽しめる演奏です。
 ただしそれゆえにジュニア・クックもブルー・ミッチェルも、些かお気楽度が高いアドリブで……。リズム隊にもA面のような緊張感が足りないと感じるのは私だけでしょうか。
 このあたりは、他の演目が凄すぎた所為かもしれませんね。ホレス・シルバーはそんなバンドをなんとか引き締めんと熱演しているのですが……。

B-2 The Gringo ~ The Theme
 という前曲のリラックスムードをブッ飛ばすような快演が、これです。
 イントロの混濁したリズム的興奮、ラテンビートが効いたテーマリフ! そして4ビートが交錯してのゴッタ煮グルーヴが痛快なアドリブパート♪ ジュニア・クックが前傾姿勢で突進すれば、ブルー・ミッチェルは「どうにもとまらない」という山本リンダ現象ですよっ! バックではほとんどドラムソロ状態のロイ・ブルックスも強烈な存在感ですねぇ~。
 さらにホレス・シルバーは十八番のラテンビートグルーヴをモダンジャズ本流の4ビートに合体させる、その強引なノリが激ヤバで、まさに一期一会の名演だと思います。
 そしてクライマックスはお待ちかねというロイ・ブルックスのドラムソロ! 微妙な軽さが心地良い分かり易さで、観客からも拍手喝采が♪
 演奏はこの後、ラストテーマからバンドテーマへと流れ込みますが、実はこの瞬間こそがアルバムのハイライト! 何度聴いても浮かれてしまう私を自覚してしまいます。

ということで、あまりにも分かり易い演奏ばかりなので、聴いていて飽きるのも本音です。しかしここに記録された「熱気」は間違いなく本物でしょう。それはモダンジャズ、そしてホレス・シルバー全盛期の証だと思います。

当時のホレス・シルバーのバンドは、例えば同時期のジャズメッセンジャーズに比べても決して超一流のメンツが居たとは言えませんが、そのあたりが大衆的なB級グルメ♪ なにも難しい時代の最先端をやることばかりがジャズの使命ではないと痛感されます。特にA面ド頭「Filthy McNasty」でのホレス・シルバーのアドリブからラストテーマに繋がっていくところには、それを強く感じますねぇ~♪ 鳴りやまない観客の拍手が、それを物語っているとも感じます。

おそらくこれが発売されたリアルタイムでは、我が国ジャズ喫茶でも忽ちの人気盤となったはずですが、それが1960年代末から1970年代には、時代遅れの象徴とされてしまった気がしています。

不変性が低いというのは流行物の宿命ではありますが、思えばホレス・シルバーほどの看板スタアが、その全盛期の公式ライブ盤これっきり! というのは驚くべき事実です。しかもバンドテーマ以外はピカピカの新演目だったのですから、その意気込みが見事に熱演に繋がったのもムベなるかな!

今日聴いてみると、「時代遅れが素晴らしい」という逆説的不変性に圧倒されるアルバムだと思います。つまり良いものは、良いんですねぇ~~♪

コメント
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