■Communications '72 / Stan Getz & Michel Legrand (Verve)
1960年代以降のスタン・ゲッツといえば、まずはボサノバ♪ そしてチック・コリア(p) やゲイリー・バートン(vib) 等々の有能な若手を起用したレギュラーバンドでの活動を真っ先に思い浮かべてしまいますが、同時期にはスタジオレコーディング優先の企画として、様々に意欲的なアルバムも作っています。
本日の1枚もその中のひとつで、フランス音楽界の巨匠でジャズピアニストとしても有名なミッシェル・ルグランの作編曲と大胆にコラボレーションを展開した傑作盤だと、私は勝手に決めつけている愛聴盤です。
録音は1971年11月のパリ、メンバーはスタン・ゲッツ(ts) とミッシェル・ルグランが集めたオーケストラの共演ですが、結論から言うと緻密なストリングスやバンドアンサンブルに加えてコーラスやヴォイスが効果的に使われ、それはフランスの人気グループ「スイングル・シンガーズ」が担当しているようです。ちなみにグループのメンバーの中にはミッシェル・ルグランの姉というクリスチャンヌがいるわけですが、おそらくは契約の関係でしょうか、アルバムにはクレジットがありません。しかし聴けば一発で納得のダバダバコーラスがたまりませんよ♪
A-1 Communications '72
いきなりシュビデュヴィ、ダバダバのコーラスとユニゾンしていくスタン・ゲッツのクールで熱いテナーサックス! 高速4ビートとブレイクの巧みな交錯も、用意周到なアレンジと、恐らくは多重録音を使ったであろうサウンド作りによって間然することがありません。
このあたりは好き嫌いがはっきりするかもしれませんが、アルバムの幕開けとしては衝撃的であり、自然体だと思います。もちろんスタン・ゲッツのアドリブは凄いですよっ!
A-2 Outhouse Blues
そして続くのが、このお洒落な4ピートのブル~スです。チープな電子オルガンと膨らみのあるオーケストラアレンジ、さらにスイングル・シンガーズの如何にもというコーラスワーク♪
スタン・ゲッツのアドリブも、常と変わらぬ浮遊感でグルーヴィな雰囲気を作り出し、リスナーをモダンジャズ王道の安心感に導いて、流石だと思います。
A-3 Now You've Gone
ミッシェル・ルグランが十八番のメロディ展開とアレンジの妙を用意すれば、スタン・ゲッツは緩やかなビートに乗って、最高のフェイクとアドリブを聞かせてくれます。ちょっとレトロな雰囲気の4ピートが実に良い感じてすねぇ~~♪
2人のコラボレーションとしては当たり前すぎる気も致しますが、これが和みの源かもしれません。
A-4 Back To Bach
スイングル・シンガーズでしかありえないというバロックメロディのダバダバコーラス、クールで甘いスタン・ゲッツのテナーサックス、そして躍動的な8ビート♪ ミッシェル・ルグランのアレンジも冴えまくりですし、グルーヴ全開のエレキベースも良い感じ♪
このあたりの雰囲気はロマンポルノで女優さんが魅せてくれた官能演技のクライマックスで使われていたサントラ音源に散々パクられたものですから、当然、サイケおやじは大好きな演奏です。とにかく、これを聴いたら歓喜悶絶の気持ち良さ♪ ラウンジ系やソフトロックがお好みの皆様ならば絶対ですよっ!
A-5 Nursery Rhymes For All God's Children
あぁ、ジェントルなムードが横溢したメロディとアレンジの素晴らしさっ♪
スタン・ゲッツのテナーサックスも幻想的に浮遊していますが、リズム隊のビートが相当にディープなロック&ソウルの隠し味ですから、たまりません。
地味ながら、ストリングスとエレピのコンビネーションも絶妙だと思います。
B-1 Soul Dance
これまたお洒落映画のサントラ音源のような、スキャットコーラスとテナーサックの共演が素敵な演奏です。背後を彩る緻密なアレンジの完璧な再現は、参加ミュージシャンのレベルの高さの証明でしょうが、中盤からのグイノリ4ビートのグルーヴは、モダンジャズの楽しみに他ならず、かなり自然体の仕上がりがニクイところです。
もちろんスタン・ゲッツはマイペースのアドリブですよ。
B-2 Redemption
ちょっと湿りっ気のあるメロディとスローな演奏の展開は、スイングル・シンガーズのプログレ系のスキャットコーラスが効果的で、しかもスタン・ゲッツが如何にも新しい雰囲気の吹奏に挑戦しています。
このあたりは完全に1970年代の「音」ですし、これを電気的に解釈すれば、ウェザー・リポートいう感じでしょうか。つまりスタン・ゲッツとウェイン・ショーターの似て非なる個性が解明される演奏かもしれません。
個人的にはハスキーなサブトーンで幻想的な歌心を聞かせてくれる、こういうスタン・ゲッツも大好きです。
B-3 Flight
刺激的なストリングスの挑戦的な姿勢、そして受けて立つスタン・ゲッツのアグレッシブなアドリブが最高にエキサイティングです。う~ん、このハードドライヴなムードは今でも全く古びていないですねぇ~。
ただし和みは全くありません。
実はスタン・ゲッツには以前にもこんな演奏があり、それは1961年に吹き込まれた「Focus (Verve)」というアルバムで聞かれますが、リアルタイムでは、あまりにもプログレ過ぎたようですから、このトラックと聴き比べるのも一興かと思います。
B-4 Moods Of A Wanderer
一転して、これはスローな展開で安らぎに満ちた世界です。
ミッシェル・ルグランならではの優しいメロディとストリングのアレンジが、急速調やワルツテンポのビートと交わっていくあたりは凝り過ぎかもしれませんが、スタン・ゲッツはどんな場面でも本領発揮です。
B-5 Bonjour Tristesse
そしてオーラスは「悲しみよこんにちわ」です。
あぁ、こんなにせつないメロディをスタン・ゲッツが吹いてくれる、ただそれだけで満足してしまうのですが、ミッシェル・ルグランの細かい配慮、スイングル・シンガーズの素晴らしいコーラスワーク、そしてスローな前半から躍動的な8ビートが導入される後半まで、ジワジワと盛り上げてクライマックスに到達する展開は、実に感動的です。
ただし、あまりにも出来すぎなんで、「感動的」というのもワザとらしいでしょうか……。正直、ちょっと素直になれない部分もあるんですよねぇ……。
ということで、これもジャズ喫茶的には完全無視の1枚でしょうか。しかし密かに自宅鑑賞で喜びに浸っているファンも多いと推察しております。実際、私がそうですから♪ 特に「Back To Bach」が入っているA面が、たまらんですよっ♪
こういうアルバムを作ってくれるから、ヴァーヴというレーベルは侮れませんね。ちなみにプロデュースはスタン・ゲッツ本人というのも、吃驚して納得です。