■Inner Fires / Bud Powell (Elektra Musician / ワーナーミュージック = CD)
狂気の天才と称される黒人ピアニストのバド・パウエルは、全くそのとおりに天国と地獄を往復して生きた巨匠ですが、そのリアルな天才性が記録された演奏は、ほんの僅かしか残されていないのは周知の事実でしょう。
しかしその他、数多く世に出た演奏も、かなりボロボロなものも含めて、何かしら強く訴えてくる不思議な魅力のあるピアニストです。
本日の1枚も、そのひとつとして、1982年に発掘されたプライベート音源ですが、何故、これが今まで眠っていたのか!? とファンは驚愕感涙の演奏でした。もちろん録音状態は最良とは言えませんし、演奏そのものにしても、完璧な全盛期からは些か遠い出来なのですから……。
録音は1953年4月5日、メンバーはバド・ハウエル(p)、チャールズ・ミンガス(b)、ロイ・ヘインズ(ds) という、当時のレギュラートリオによる巡業から、ワシントンD.C.におけるライブを収録しています。
ちなみにアナログ盤LPは、かなり丁寧に音質補正された仕上がりでしたが、やはり今日のレベルからすればヌケの状態はイマイチでしょう。しかし演奏、特にパド・パウエルの力強いピアノタッチが存分に楽しめる印象でしたから、局地的ながらも、当時は好評だった1枚です。
当然、私もジャズ喫茶で聴いて、即ゲットしたのですが、その輸入盤には、なんとプレスミスがあって2ヵ所ほど音飛びが……。そこで購入した店で交換してもらったのですが、それもまた同じところで……。どうやらそこに入荷していたブツは、ほとんどが同じ状態だったようです。
そして結局は入手を控えているうちに、ズルズルと時が流れ……。何時しかCD時代となって再発されたこのアルバムを聴いてみたのですが、それは所謂ドンシャリというか、シンバルがやたらにシャカシャカした薄っぺらいリスマターに、がっくりした記憶が今も鮮明です。
それが先日、我が国で高音質素材を使ったリマスターCDとして復刻され、昨夜、とにかくゲットしてみると、これが個人的には満足の仕上がりでした。
01 (A-1) I Want Be Happy
02 (A-2) Somebody Loves Me
03 (A-3) Nice Work If You Can Get It
04 (A-4) Salt Peanuts
05 (A-5) Conception
06 (A-6) Lullaby Of Birdland
07 (B-1) Little Willie Leaps
08 (B-2) Hallelujah!
09 (B-3) Lullaby Of Birdland (alternate)
10 (B-4) Sure Thing
11 (B-5) Woody N' You
12 (B-6) Bud Powell Interview (1963年1月15日、1963年5月6日)
上記の演目は説明不要、パド・パウエルの十八番ばかりですから、後は当日の気力と体調がノリに繋がるという、まさに瞬間芸たるジャズの本質には、実際に聴く前からドキドキさせれます。
そして結果は、なかなか良いんですねぇ~~~♪
この時期のパド・パウエルは病も癒えて、一応の社会復帰をしたばかりとあって、ヤル気が充分に感じられます。その勢いというか、自分の信じるジャズの世界を真摯に追求していこうという意気込みが潔いところでしょう。
まあ、それでも指の縺れとか気持ちの焦りみたいなものは、全盛期に比べると明らかに表出しています。が、やはりパウエルはパウエル! 独特のピアノタッチとエキセントリックな音選び、それなりのコードミスも自分の音楽にしていったとしか言えない部分は、不思議にも私を惹きつけるのです。
サポートの2人、特にロイ・ヘインズのツッコミ鋭いドラムスも素晴らしく、録音の具合から、時には耳が痛くなるような瞬間もあるんですが、これだけ緊張感と勢いに満ちた演奏を聞かせてもらえれば、贅沢は敵です。
さらにオーラスに入れられたインタヴューは、パド・パウエルの貴重な生の声、その日の気分に接することができるドキュメントでしょう。
ジャケットが前衛的ですから、あまりビバップのレコードという感じはしないのですが、その多面的に崩れた肖像画は、案外とパド・パウエルの存在に肉薄しているような気もしています。
そして冒頭の話に戻れば、私はパド・パウエルの演奏は、どんな劣悪な録音でも聴きたくなります。それはボロボロであろうが、尖鋭的な天才性を発揮していようが、如何なる時でも私を惹きつけて止まないパド・パウエルの音楽の秘密に触れたいからです。
そういう「聴きたい」というピュアな時間を与えてくれるパド・パウエルに感謝!