■Unforgettable Lee! / Lee Morgan (Fresh Sound / Sound Hills =CD)
名義はリー・モーガンになっていますが、サブタイトルは「Art Blakey' Jazz Messengers Live At Birdland」!!! しかも上昇期だった1960年の熱い演奏ばかりが収められています。
実はこの音源、アナログ盤時代から元祖海賊盤という「Alto」や「Session」等々のレーベルで流通していた放送録音が元ネタです。しかしそれらは粗悪な盤質とその場しのぎのカッティングによって、必ずしも聴き易いというレベルではなく、ただし演奏そのものは超極上というジレンマに陥っていたブツばかりでした。
それゆえにマニアが密かに楽しんでいたわけですが、ついに近年になって良好なマスタリングによるCD化が実現し、それが本日ご紹介のアルバムです。ただし「良好」と言っても、所詮は古いものですから、ライン録りの高音質ブートに慣れている最近のファンの皆様には、それなりに心の準備が必要でしょうが、それでも十分に普通に聴けるレベルだと思います。
録音は1960年4~6月、ニューヨークの名門クラブ「バードランド」からの放送音源から、メンバーはリー・モーガン(tp)、ウェイン・ショーター(ts)、ボビー・ティモンズ(p)、ジミー・メリット(b)、アート・ブレイキー(ds) による爆発的な演奏が存分に楽しめます。
01 The Chess Players (1960年5月28日録音)
ジャズメッセンジャーズのアルバムでは、このライブセッション直前の3月に録音され、「The Big Beat (Blue Note)」に収録というピカピカの新演目ですが、如何にもウェイン・ショーターらしい作風という、ファンキーとモードが美味しくミックスされたテーマメロディが印象的です。
もちろんアート・ブレイキーを中心としたリズム隊のヘヴィなバックピートに煽られたウェイン・ショーターとリー・モーガンは、斬新なフレーズと満点の勢いで白熱のアドリブを聞かせてくれます。
気になる録音状態は部分的に不安的な個所もありますが、各楽器のバランスや分離も秀逸なリマスターによって、アナログ盤よりは格段に向上していると思います。
それはボビー・ティモンズのファンキー極まりないピアノになると一段と明確に感じられるでしょう。その歯切れの良いピアノタッチ、どっぷりとゴスペルに浸り込んだ真っ黒なムード、さらに粘っこいフィーリングを増幅させるジミー・メリットの骨太ベース! これぞっ、ジャズメッセンジャスーズの恐ろしさだと思います。アート・ブレイキーの重量感溢れるハイハットにも熱くさせられますねぇ~~~♪
02 This Here (1960年5月28日録音)
ボビー・ティモンズの代表的オリジナル曲で、キャノンボール・アダレイがサンフランシスコで演じたライブバージョンがあまりにも有名ですが、それをこのメンツのジャズメッセンジャーズがやってくれるんですから、たまりません。
あの心が乱れるようなワルツビートのゴスペル的解釈は、アート・ブレイキーという稀代の名ドラマーによって、さらにヘヴィさを増し、またジミー・メリットの蠢くベースによってドロドロのファンキーゴッタ煮大会へと進化しています。
ちなみにキャノンボール・アダレイのライブバージョンは前年10月の録音で、作者のボビー・ティモンズは、ちょうどジャズメッセンジャーズと掛け持ち的に仕事をこなしていた時期だったと思われますので、聴き比べも楽しいところでしょう。
肝心のアドリブパートは、ファンキーをシャープに因数分解していくウェイン・ショーター、爆発的に突進するリー・モーガン! バックのリズム隊も驚異的なバカノリとしか言えず、特にリー・モーガンのトランペットソロの背後から襲いかかっていく三連ビートのキメには悶絶させられますよっ! あぁ、何度聴いても興奮させられます。
そしてお待ちかね、ボビー・ティモンズが加速度を増したゴスペル節の乱れ打ち! そのピアノタッチも痛快至極ですし、アート・ブレイキーの大技小技も冴えまくりです。おまけにホーンの2人が逆襲のバックリフをぶっつけてきますし、もうこのあたりまでくると、ボビー・ティモンズのピアノはブギウギゴスペルの極北までブッ飛んでいます。
全てのハードバップファン、歓喜悶絶の演奏じゃないでしょうか!?
03 The Midget (1960年6月4日録音)
リー・モーガンが書いた躍動的なブルースで、リズム隊の尖鋭的に弾んだビートが心地よいテーマ、そしてゴリゴリのグルーヴが強烈な4ビートの魔力が堪能出来ます。
そしてウェイン・ショーターのアドリブは、独特のシンプルなメロディ感覚とキメの鮮やかで、ショーターフリークにはノケゾリと感涙の瞬間が何度も訪れるでしょう。
さらにリー・モーガンは十八番の思わせぶりと華麗なるブルースのハードバップ魂が全開♪♪~♪ その歌うが如きフレーズの積み重ねは、単なるモダンジャズのブルースを超えて輝くとしか言えませんねぇ~~♪ まさに上昇期の勢いが存分に楽しめます。
またピアノが、ここでも嬉々としてゴスペルフィーリングをまき散らしますが、もちろんリズム隊の一員としての自覚も十分ですから、こういう纏まったノリが生まれているんでしょうねぇ~。背後から襲いかかってくるホーンのリフが、ここでも鮮やかにキマッていますよ。
ちなみにここでのピアニストはウォルター・デイビスか、あるいはボビー・ティモンズか? 微妙な両説があって、個人的にはちょっと結論が出せないところ……。このあたりは皆様のご意見をお聞かせ願いたいと思います。
演奏はこの後、ジミー・メリリットが野太いペースソロ、さらにアート・ブレイキーの土人系ドラムソロと続きますが、この日の録音状態も実に生々しく、メンバーの掛け声や観客の熱狂、そして特にドラムスとベースの音のメリハリが如何にもハードバップしていて、好感が持てます。
04 Nelly Bly (1960年4月23日録音)
ウェイン・ショーターのオリジナルですが、このメロディは前年夏に行われたウイントン・ケリーのリーダーセッションから作られた名盤「kelly Great (Vee Jay)」では「Mama G」という曲名になっていた、実にスピード感満点の印象的なものです。
もちろん颯爽としたテーマからウェイン・ショーターの流麗な紆余曲折、ブレーキが壊れたように突進するリー・モーガン! 本当にカッコイイですねぇ~~♪
リズム隊もファンキーというよりは明らかに進化したハードバップのドライヴ感に満ちていて、しかも嬉しくなるようなキメを随所で多用してくれますよっ♪♪ こういうノリが、ジャズメッセンジャーズを最高の人気バンドにしていた秘密だと思います。クライマックスのソロチェンジでは、思わず手に汗!
05 Along Come Betty (1960年4月23日録音)
ベニー・ゴルソンが書いたジャズメッセンジャーズが十八番のヒット曲ですから、ちょいと手慣れた雰囲気も漂うのですが、そこはヤル気が充実していたこの時期のメンツですから、まずはウェイン・ショーターが独特の空間浮遊を聞かせてくれます。しかもリズム隊が超ヘヴィなビートを出していますから、これが実に怖いんですねぇ~~。現在でも全く古びていない演奏だと思います。
そしてリー・モーガンが、これまた得意のダブルタイムやタメとツッコミの両刀使い! 若気の至りも感じさせるハイノートも憎めません。
さらに、こみあげてくるようなボビー・ティモンズのアドリブも、ズバリ、良いです。そこからラストのアンサンブルに入っていく展開も、ハードバップの黄金律でしょうねぇ。
06 Dat Dear (1960年4月16日録音)
これまたボビー・ティモンズの有名オリジナルで、このライブの直前にはキャノンボール・アダレイのバンドによる歴史的な名演も録音されていますが、流石にジャズメッセンジャーズのバージョンはウルトラファンキー! まさにゴスペルハードバップの極みつきでしょうねぇ~~~♪♪♪
思わせぶりと強引な駆け引きが熱いテーマの合奏からウェイン・ショーターが、まさにダークな心情吐露! このハードエッジなフィーリングは、同時代のテナーサックス奏者の中でも飛びぬけた表現力だと思います。ひとつひとつの音に魂が宿っているというか!?!
そしてリー・モーガンが、もはや激ヤバのグリグリ状態! このファンキーで熱血なアドリブは怖いリズム隊の仕掛けをブッ飛ばし、その場を真っ黒な熱気で満たしてしまうのですから、お客さんの拍手も止まりません。
もちろん続くボビー・ティモンズは、作者ならではの我儘な強みを活かしきった大名演です。あぁ、このゴスペルピアノ! わかっちゃいるけど、ついついノセられてしまうですよぉ~~~~♪ 思わずイェェェ~、の世界ですねっ♪♪
ちなみにジャズメッセンジャーズのスタジオ録音バージョンは、前述「The Big Beat (Blue Note)」に収録されていますから、聴き比べも楽しいはずです。
07 This Here (1960年4月16日録音)
トラック「03」の別バージョンですから、ほとんど演奏パターンは同じなんですが、ウェイン・ショーターのアドリブに、より自由度が高いと感じます。実際、このブッ飛び感覚は時代を考慮すれば物凄いですよねぇ~~♪
そしてリー・モーガンも負けじとハッスル! こういうライバル関係というか、盟友としての意志の疎通というか、全く美しいです。
またボビー・ティモンズも熱演ですが、幾分スピード重視の姿勢が強いのは微妙な賛否両論があるかもしれません。個人的には、5月28日のバージョンを好みます。
08 Justice (1960年4月16日録音)
セロニアス・モンクのオリジナル曲ですが、当時のジャズメッセンジャーズのステージ演目には欠かせないという、実に尖鋭的な演奏になっています。とにかく直線的に突進していくリー・モーガンとウェイン・ショーターの勢いが最高!
実はこのアルバム音源の中では、この4月16日の録音が一番軽いタッチなんですが、それはこのトラックのような演奏では効果的だと思います。
猛烈なアップテンポでも粘っこいフィーリングを忘れないリズム隊も流石です。
09 Night In Tunisia (1960年4月23日録音)
オーラスはジャズメッセンジャーズといえば、これっ!
親分のアート・ブレイキーがド頭から大噴火のドラムソロ、それに絡むメンバーの打楽器大会から興奮のテーマリフ! リー・モーガンがリードする熱いメロディとアンサンブルも勢いがあって、さらに熱血です。
そしてウェイン・ショーターが猪突猛進するアドリブの潔さ! ジョン・コルトレーンとは完全に違う方法論で、なんとか新しい表現を模索していく姿勢が、私は大好きです。
しかしリー・モーガンはお構いなしに好き放題なんですから、これもまた潔いとしか言えません。あぁ、これがハードバップだと思います。
さらに演奏後半は、このバンドが十八番の打楽器大会となるはずなんでしょうが、時間の関係で短縮されているのは、ちょいと残念……。しかし、これもまた良しでしょうね。最終パートでのリー・モーガンの無伴奏アドリブソロで、全てが許せます。
ということで、公式音源ではありませんが、これは絶対に聴かずに死ねるかの演奏ばかりです。幸いにも、このCDによって格段に音質が向上しているのも僥倖でしょう。
ただし不思議な事に、海外プレスは「Fresh Sound」というレーベルなんですが、それが我が国では「Sound Hills」という会社から発売され、比較すると「Sound Hills」盤の方が聴き易い音になっています。まあ、このあたりは個人的な感覚というか、十人十色かもしれませんが、念のため。ちなみに「Sound Hills」盤はデジパック仕様というのも高得点かもしれません。
それとアルバムタイトルがリー・モーガン名義になっているのは、聴けば納得! とにかく上昇期がそのまんま全盛期というか、その輝き溢れるトランペットが存分に楽しめますから、ハードバップのファンには「お宝」だと思います。