■This Here Is Bobby Timmons (Riverside)
ゴスペルファンキーなハードバップのピアニストは大勢出現していますが、その第一人者といえば、やっぱりボビー・ティモンズでしょう。ジャズメッセンジャーズやキャノンボール・アダレイのバンドレギュラーとして、「Moanin'」「So Tired」「Dat Dere」「This Here」等々の強烈に真っ黒なソウルヒットを作曲し、そこで響かせたガンガンにコテコテなピアノは永遠に不滅だと思います。
このアルバムはそんなボビー・ティモンズの上昇期に作られた初リーダー盤で、録音は1960年1月13&14日、メンバーはボビー・ティモンズ(p)、サム・ジョーンズ(b)、ジミー・コブ(ds) という剛力トリオ――
A-1 Thes Here
ワルツタイムで演じられるゴスペル風味のファンキー曲で、キャノンボール・アダレイのバンドに在籍中の1959年秋に吹き込まれたライブ盤「In San Francisco (Riverside)」を見事にヒットさせた原動力として、そのゴリゴリと蠢くピアノは圧巻でした。
しかしここでは肩の力が上手い具合に抜けたライトタッチの演奏で、それは文字通りの「肩すかし」気味なんですが、短い演奏時間にトリオが一体となってガンガンぶっつけてくる硬質のグルーヴがハードエッジ!
サム・ジョーンズとジミー・コブのコンビって、意外に相性が良いと納得でした。
A-2 Moanin'
さて、これも説明不要というジャズメッセンジャーズの大ヒット曲にしてゴスペルファンキー不滅のメロディですが、神を恐れず、こういうテーマを臆面も無く書いたボビー・ティモンズには流石のソウルを感じます。
もちろんアドリブは当時、連日連夜演奏していたであろう十八番のフレーズがテンコ盛り♪ わかっちゃいるけどやめられないグルーヴには、どうしてもシビレさせられますねっ♪
A-3 Lush Life
デューク・エリントン楽団の代表曲というジェントルなメロディを、しかもソロピアノで演じるというのは、ファンキーなボビー・ティモンズのイメージからは遥かに遠い目論見として、私なんかは演目を見ただけで嫌な予感に満たされていたのですが……。
しかし結果は素晴らしくもジャズ魂に満ちた快演♪ その強めのピアノタッチで優しいメロディを奏でていく思わせぶりな展開もイヤミがありませんし、素直な感情表現にはボビー・ティモンズの別の顔を見たような感動があるというは、大袈裟ではないでしょう。
A-4 The Party's Over
そして場面は再びゴスペルファンキーな世界へ逆戻りし、あまり有名ではないスタンダード曲をハードバップで煮〆たアップテンポの快演となります。ジミー・コブのズバッとキメるドラムスも気持ち良く、ブンブンブンのサム・ジョーンズにビリビリと転がるボビー・ティモンズのピアノからは、素敵なモダンジャズのエッセンスがたっぷりと放出されるのです。
所々に顔を出すレッド・ガーランドっぽいフレーズも、ボビー・ティモンズ独特の硬いピアノタッチがありますから、意想外の面白さでしょうね。
A-5 Prelude To A Kiss
これまたデューク・エリントンが書いた有名なメロディをジンワリと演じるトリオの名演です。それはパド・パウエルの影響を隠さない雰囲気が濃厚で、ボビー・ティモンズの器用な一面がここでも感じられますが、アナログ盤特有の「Aラス」というパートとしては成功しているのではないでしょうか。
けっこう何度でも聴きたくなる演奏だと、私は思います。特にサム・ジョーンズのペースの入り方には、グッとシビレます♪
B-1 Dat Dere
こうしてB面に入ると、またまたボビー・ティモンズが畢生のファンキーメロディ♪ というか、このリズムのニュアンスとファンキーなビートのアクセントがクセになる名曲だと思います。
そして当然ながらゴリゴリと盛りあがっていく演奏は、このアルバムのハイライトでしょうねっ♪ ファンキーなピアノのフレーズを見事にサポートしていくサム・ジョーンズのペース、ゴスペルの雰囲気を活かしつつも新しいピートを敲き出すジミー・コブの強力なドラムス!
さらにサム・ジョーンズのギスギスしたペースソロが、もう最高! 脂っこさも、ほどほどに美味しいのが実に良い雰囲気です♪
B-2 My Funny Valentine
そしてもうひとつのハイライトが、この名曲名演です。
あくまでも個人的な感想なんですが、ビル・エバンスっぽいアプローチが驚くほどにキマっているんですねぇ~~~♪ テーマメロディを最初はソロピアノで聴かせ、アドリブパートからはベースとドラムスを呼び込んでのグイノリも、意外なほどに歌心優先主義が表出していて素晴らしいかぎりです!
ジミー・コブのブラシも自己主張が強く、要所を締めるサム・ジョーンズのペースも良い感じ♪ ラストテーマの幾分大袈裟のところも憎めませんし、これは同曲の名バージョンのひとつだと確信しています。
B-3 Come Rain Or Come Shie
これも良く知られたスタンダード曲を気楽にスイングさせた演奏で、トリオの纏まり具合も流石!
ですからボビー・ティモンズも気負うことなく十八番のファンキーフレーズでアドリブを展開すれば、どっしり構えて4ビートのウォーキングを響かせるサム・ジョーンズが実は一番目立っていたりします。もちろんベースソロも地味ながらエグイですよ♪ このあたりはヴァン・ゲルダーではない、リバーサイド特有の録音が私の好みというわけです。
B-4 Joy Ride
ジミー・コブの景気の良いドラムソロをイントロに弾けるピアノが痛快なハードバップ! 作曲はもちろんボビー・ティモンズですが、「曲」というよりは、自身のアドリブフレーズを抽出したようなテーマですから、全篇がアドリブみたいな潔さがたまりません。
あぁ、何時までもエクスタシー寸前の快感が続くというような展開から、ピアノ対ドラムスの対決の場では、ジミー・コブが容赦の無いビシバシの責めで本気度が高く、アッという間に聴き終えてしまうのでした。
ということで、ゴスペルファンキーというボビー・ティモンズの一般的なイメージはもちろん、正統派モダンジャズのピアニストとしても素晴らしい才能が見事に発揮された好盤だと思います。
特にスタンダード曲の解釈には、「粋」というよりも「ピュア」なジャズ魂に好感が持てるほどの名演で、ドロドロにコテコテを期待していたサイケおやじには、思いっきり目からウロコでした。