■Where ? / Ron Carter with Eric Dolphy (New Jazz / Prestige)
ジャケットにはエリック・ドルフィーがでっかい顔して写っていますが、これはれっきとしたロン・カーターのリーダーアルバムで、つまりはエリック・ドルフィーの人気にあやかった再発盤というわけです。
しかし私は、そんな事は全然知らず、ただただエリック・ドルフィーが聴きたくて買ってしまったんですねぇ~。もちろんジャケットもオリジナル (New Jazz) とは異なっていますが、若い頃の私はそれすらも知らず、鑑賞優先主義というか、聴きたいという純粋な衝動から輸入盤バーゲンで、これをゲットしたのです。
録音は1961年6月20日、メンバーはエリック・ドルフィー(as,fl,bcl)、マル・ウォルドロン(p)、ロン・カーター(cello,b)、ジョージ・デュヴィヴィェ(b)、チャーリー・パーシップ(ds) という実力派が集合しています。
A-1 Rally
いきなりエキセントリックで幾何学的な、個人的にはメロディとは呼びたくない旋律が、激しいアップテンポで演じられます。しかもそれはエリック・ドルフィーのバスクラリネットとロン・カーターの弓弾きチェロによるユニゾン&アンサンブルなんですから、悶絶です。
もちろんアドリブはロン・カーターの、それこそギスギスした悪夢のようなチェロ! その背後には躍動的なチャーリー・パーシップのドラミング、陰湿なマル・ウォルドロンの伴奏、さらにジョージ・デュヴィヴィェが蠢き系の4ビートウォーキングというリズム隊が、暴虐なんですねぇ。
そしていよいよ登場するエリック・ドルフィーは情念のバスクラリネット!
ちなみにロン・カーターは、マイルス・デイビスの1960年代黄金のクインテットでレギュラーを務めた名手という認識があって、このアルバムもそれゆえの安心感があると思っていたのですが、ド頭からのこのアブナイ雰囲気! う~ん、先が思いやられるなぁ……。なんていうのが、初めて針を落とした時の正直な感想でした。
A-2 Bass Duet
タイトルどおり、左チャンネルのロン・カーターと右チャンネルに定位するジョージ・デュヴィヴィェによるベース対決! 即興的なブルース進行を素材にグルーヴィな雰囲気が楽しいところですが、ここではリーダーであるロン・カーターを凌ぐ、ジョージ・デュヴィヴィェの恐ろしい実力に驚嘆してしまいます。
しかしエリック・ドルフィーが出ませんからねぇ……。俺はドルフィーが聴きたくて、このアルバムを買ったんだぜっ! なんて憤慨したのが当時の忌憚のない心情でしたが、まあ、いいか……。なにせマル・ウォルドロンとチャーリー・パーシップの王道4ビートが心地良いですから♪♪~~♪
A-3 Softly, As In A Morning Sunrise
お馴染みのスタンダードをロン・カーターがベースの弓弾きでリードしますが、その音程のアブナサには……。しかし途中からエリック・ドルフィーがアルトサックスで助け舟を出し、そのまんま突入するアドリブは、ブッ飛びと歌心の巧みな混合♪ チャーリー・パーシップのヴィヴィッドなドラミングも最高ですねぇ~♪♪
しかしそれにしてもロン・カーターのアルコは、なんとかならんのかっ! もともとベースの弓弾きソロは好きではない私ですが、これには……。
B-1 Where ?
セロニアス・モンク派のピアニストでアフリカ色の強い作風が得意だったランディ・ウェストンの書いた、情緒いっぱいのメロディなんですが、そのスローな展開の味わいが、失礼ながらロン・カーターのチェロによって見事にぶち壊されてしまったと感じます。そのアブナイ音程と趣味の悪さは、どーしても自分の感性に合いません。
実際、これを聴いた時は、このアルバムを買ったのを後悔したほどです。
しかしマル・ウォルドロンの伴奏は、なかなか味わい深く、ベースとドラムスのサポートも繊細で良い感じなんですよ♪ あぁ、なんとも勿体ないかぎりです。
エリック・ドルフィーが出ないのも減点……。ジャケットからして、詐欺じゃねぇのかっ! なんて思ってしまったですね……。
B-2 Yes, Indeed
しかし一転、これはエリック・ドルフィーのフルートが味わい深いゴスペル系のハードバップ♪ その穏やかな雰囲気の良さが、ここでも音程がヤバイというロン・カーターのチェロを見事に救っています。
グルーヴィなリズム隊も地味ながら最高に印象的で、特にチャーリー・パーシップのブラシが冴えまくりですよっ♪ そしてロン・カーターも綱渡り的な快演という、別な意味でのスリルが満点なのでした。
B-3 Saucer Eyes
オーラスは、これもチャーリー・パーシップのドラミングが素晴らしい、アップテンポの爽やかハードバップです。エリック・ドルフィーのフルートも決してコードから外れない王道の中に、激しい跳躍やエキセントリックな音選びで、実に興奮させられますねぇ~。
またマル・ウォルドロンが十八番の執拗な反復フレーズを乱れ打ちしてくれますが、何時ものような脂っこさは無く、続くロン・カーターの4ビートウォーキングとチャーリー・パーシップのブラシ対決を見事に導いています。
ということで、過激なんだか保守的なんだか、ちょいと結論が見えない作品です。
既に述べたように、私はエリック・ドルフィーが完全なるお目当てでしたから、このジャケットにして、この内容というのは、些か騙されたような気もしていますが、もしもオリジナル盤のロン・カーターのジャケ写だったら、おそらくは買っていないでしょう。
ですから、ここでチャーリー・パーシップやジョージ・デュヴィヴィェという、あまりジャズのガイド本には登場しない名手達の実力に接することが出来たのは、嬉しい偶然でした。そしてロン・カーターのファンには申し訳ありませんが、ロン・カーターが居なかったら、もっと良いアルバムが出来ていたんじゃなかろうか? なんていう思いを、今でも禁じえません。
本日は暴言、失礼致しました。ドルフィーに免じてご容赦願います。