■Impromptu / Billy Taylor (Mercury)
ビリー・テイラーは素晴らしいテクニックと粋なジャズセンスを併せ持った稀代の名ピアニストだと思うんですが、何故か我が国ではほとんど人気がありません。実際、私にしてもジャズ喫茶でビリー・テイラーのリーダー盤を聴いた記憶は、珍しいほどです。
さて、本日ご紹介の1枚は、そんな名人ピアニストの演奏に加えて、素敵な作曲能力も堪能出来る隠れ名盤でしょう。しかし、告白すると、私は共演者のジム・ホールが「お目当て」でした。なにしろ録音されたのが、あのビル・エバンスのウルトラ名盤「Undercurrent (United Artists)」と同時期ですから! きっと凄い演奏に違いないと期待して、全くそのとおりの出来栄えというのが、このアルバムです。
録音は1962年5月8~10日、ということは、ジム・ホールがビル・エバンスと超絶の「My Funny Valentine」を演じる、ほぼ4日前なんですねぇ~~♪
肝心のここでのメンバーはビリー・テイラー(p)、ジム・ホール(g)、ボブ・クランショウ(b)、ウォルター・パーキンス(ds) という粋でハードドライヴィンなカルテット♪ 演目も全て、ビリー・テイラーのオリジナル曲です。
A-1 Cappicious
きまぐれな浮気という曲タイトルそのまんま、軽快なラテンビートと可愛いメロディのテーマにウキウキさせられます。ビリー・テイラーのイヤミの無いピアノタッチも素晴らしく、出来過ぎのアドリブにはジャズの楽しみがいっぱい♪♪~♪
2分半に満たない演奏ですが、アルバム全体の露払いとしては最適だと思います。
A-2 Impromptu
そして始まるのが、このアルバムタイトル曲で、ある種の組曲形式というか、様々なテンポとリズムによる、文字どおりの「即興」が繰り広げられます。しかしそれは決して場当たり的なものではなく、きちんとしたメロディが大切にされているんですねぇ。
まずはアップテンポのモード系のパートではラテンビートと豪快な4ビートに導かれ、スピード感満点のビリー・テイラー、ハートウォームな音色でツッコミ鋭いジム・ホールのギターが強烈なアドリブを聞かせてくれます。特に強引なウォーキングベースをバックに独特の浮遊感で自己主張するジム・ホールのギターが良いですねぇ~~♪
それがビリー・テイラーの無伴奏のピアノに導かれてスローなパートに入ると、そこには「ビル・エバンスの Undercurrent」的な世界が広がります。絶妙なマイナー感覚と歌心の融合、粋なスイング感を保つカルテットの一体感が、それに続く「ビリー・テイラーの歌」の世界に繋がるあたりも、実に快感です。ここはボブ・クランショウのペースワークも縁の下の力持ちでしょう。それがファンキーなフィーリングを醸し出していくのです。
そして粘っこいグルーヴが表出し、それがさらに高速ラテンビートのパートに繋がっていくという、なかなかに凝っていながら、非常に聴き易いところは流石だと思います。
A-3 Don't Go Down South
一転して爽快なハードバップ演奏で、まずは開放感に満ちたテーマメロディに夢中でしょう。もちろんアドリブパートも素晴らしくもスイングしていますが、ビリー・テイラーは所々に思索的なバロック風な展開も入れたりして、そのあたりが賛否両論かもしれません。
しかし演奏全体は安定感のあるドラムスとベースに支えられ、どこまでも気持ち良く進んでいくのでした。
A-4 Muffle Guffle
これも快適なスイング感に満ちた楽しい演奏ですが、あまりにも滑らかなビリー・テイラーのピアノが物足りなく思えるほどです。また前曲よりもはっきりとバロック風味が露骨なアドリブパートも、なんだかなぁ……。
このあたりをイヤミと感じるのは十人十色でしょう。
しかしウォルター・パーキンスのブラシのジャズっぽさ、ボブ・クランショウの弾みまくった4ビートウォーキングによるリズムの楽しさは、まさにモダンジャズだと思います。
B-1 Free And Oozy
さてB面に入っては、丸っきりウイントン・ケリーみたいな楽しくスイングするブルース♪ 実にウキウキしてきますねぇ~♪
ビリー・テイラーのピアノは颯爽としたドライヴ感を優先させ、オスカー・ピーターソンとハンク・ジョーンズの中間みたいなバカテク&ジェントルなフィーリングは唯一無二でしょう。
ウォルター・パーキンスのドラミングも、ほとんどジミー・コブで笑ってしまうほどですが、ジム・ホールの真摯なギターワークには、聴くほどに恐ろしいほどの奥行きを感じてしまいます。う~ん、凄いですねぇ~。
個人的には、この曲ゆえにB面が大好き♪♪~♪
B-2 Paraphrase
この曲も、良いですよぉぉぉぉ~~~♪
ゴスペル系泣きメロを爽やかに解釈し、軽快な4ビートでソフトにスイングさせていく、ただそれだけの展開なんですが、これは出来そうで、なかなか難しいんじゃないでしょうか。実際、ここでの演奏は聴いているだけでジャズ者としての喜びに、それも自然体で浸れてしまうんですねぇ~~♪
ジム・ホールの堅実な助演も潔く、小粋なカルテットの真髄という感じです。もちろん歌心優先主義が貫かれていますよ。
B-3 Empty Ballroom
初っ端から緻密なバンドアンサンブルと各メンバーの妙技が冴えた名曲にして名演です。ワルツビートの巧みな変奏、華麗なピアノタッチで優雅なメロディを振りまくビリー・テイラーを聴いていると、なんでこの人が我が国で人気が出ないのか? ちょっと不条理にさえ思えます。
まあ、そのあたりは黒人っぽい感覚が少し足りないというか、汚れが無さ過ぎるという贅沢な指摘もあるのですが……。
とにかくここでのクラシック系のアレンジ、お洒落なフィーリングは勿体無いほどです。
B-4 At La Carrousel
オーラスはモード系の爽やかメロディが疑似ジャズロックで演じられたというか、モダンジャズの美味しいネタがテンコ盛り♪♪~♪
ビリー・テイラーのピアノは、とにかくスイングしまくっていますし、ボブ・クランショュウの纏まりの良いペースソロ、歯切れの良いウォルター・パーキンスのドラミング、小粋なジム・ホール等々、全く気分が良いかぎりです。
ということで、全篇がソツの無い演奏ばかりです。しかし、この「ソツの無い」という部分が面白くないのかもしれません。ハードバップは少しばかりの「濁り」があったほうが、コクのある仕上がりだと、私は常々感じているのですが、それにしてもここでのビリー・テイラー、そしてカルテットはスマート過ぎるんですよ。
もちろん聴いていて、実に爽快な気分にさせられますし、ウキウキ感もいっぱいなんですが……。
それとビリー・テイラーのピアノスタイルは、既に述べたようにオスカー・ピーターソンとハンク・ジョーンズの折衷スタイルというか、猛烈なスイング感とジェントルな歌心、そして素晴らしいピアノタッチと、まさに言うことなし!
しかしそれが、「ビリー・テイラー」の個性として受け取り難いのは事実です。例えばウイントン・ケリーやレッド・ガーランドは確固たるスタイルがあるでしょう。ビリー・テイラーは誰々に似ているとか、●●のようだとか言われてしまうのが、大袈裟に言えば悲劇かもしれません。
その意味で、このアルバムは、最もビリー・テイラーの色合いが強く出た傑作盤だと思います。もちろん、ジム・ホールも素晴らしいのです。