OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ソニー・クラークの秘宝

2008-12-11 12:30:21 | Jazz

My Conecption / Sonny Clark (Blue Note / 日本キング)

秘宝発掘という文字通りのインディーズ盤は何時だって嬉しいものですが、このアルバムが出た時の驚きは、今もって筆舌につくしがたいものがありました。

まあ、これはサイケおやじだけの大袈裟な思い出かもしれませんが、ジャケットに記載されたメンツ良し、さらに演目が興味深々という、ほとんど聴く前から夢見心地の1枚です。

録音は1959年3月29日、メンバーはドナルド・バード(tp)、ハンク・モブレー(ts)、ソニー・クラーク(p)、ポール・チェンバース(b)、アート・ブレイキー(ds) というハードバップのドリームオールスタアズ♪ しかも詳しくは後述致しますが、演目が全てソニー・クラークの代表的なオリジナル曲ばかりという、まさにウルトラ級のセッションです――

A-1 Junka
 ソニー・クラークが「タイム」レーベルに残したピアノトリオの決定的な名盤「Sonny Clark Trio」に初出収録されたハードバップ曲で、それはこのセッションから約1年後の1960年3月の録音でしたから、このクインテットバージョンの成り立ちと経緯が気になるところです。
 ここでの演奏は、「せーの」でいきなりテーマの合奏からハンク・モブレーがこれしか無いの勢いでアドリブソロに突入! グイノリのスピードがついていながら、独特のタメとモタレの至芸は、まさにモブレーマニアが感涙の桃源郷ですし、アート・ブレイキーのパッキングも十八番のリックと煽りがハンク・モブレーとの相性の良さを証明しています。
 そして続くドナルド・バードが、これまたツボにはまった得意技を連続披露ですから、ソニー・クラークのアドリブも粘っこくてスイングしまくったシングルトーンの魅力を完全に発揮するのです。
 こういう雰囲気の良さは、気心の知れた顔馴染みのメンバーゆえの事だと思いますが、そこは御大アート・ブレイキーの存在がビシッとした締め付けになっているようです。
 ただし個人的にはテーマの前にソニー・クラークならではのイントロが欲しかったところで、このあたりにもオクラ入りしていた原因があるのでしょか……?

A-2 Blues Blue
 これも前述「Sonny Clark Trio (Time)」に収録されていた人気のブルースですが、このクインテットバージョンは、そのトリオ演奏に比べると、かなりライトタッチのテーマ合奏からアドリブの応酬へと展開されています。
 しかしアート・ブレイキーを要としたリズム隊にゴスペルグルーヴが濃厚ですから、ハンク・モブレーやドナルド・バードも粘っこくて淀みないアドリブソロを存分に聞かせてくれますし、ソニー・クラークの伴奏には何時もながらゾクリとする瞬間が楽しめるのです。そしてもちろん、アドリブに入ってはファンキーな節回しが全開♪ シンプルな短音フレーズの全てがハードバップのツボという素晴らしさです。
 またポール・チェンバースのペースソロもイヤミなく、まあ、このあたりのアクの無さもオクラ入りの要因だったかもしれませんが、こんなにズバリとキマったハードバップって、今では全く演奏出来ないんじゃないでしょうか。

A-3 Minor Meeting
 アート・ブレイキーのアフロなドラムリックから、お馴染みのファンキーメロディというテーマ♪ こういう当たり前の展開にグッと惹きつけられてしまうのが、ハードバップ黄金期の素晴らしさですねっ♪
 勢い満点の演奏ではドナルド・バードのアドリブを激しく煽って爆発する、アート・ブレイキーの所謂「ナイアガラ」が豪快至極に炸裂し、ハンク・モブレーの流麗にしてハートウォームなフレーズの連発を呼び込むのですから、サイケおやじにとっては、全くたまらん心持♪ ソニー・クラークのアドリブパートに至っては、もはや冷静ではいられないほどです。
 ちなみにこの曲も前述「Sonny Clark Trio (Time)」で演じられていますが、そこでのドラマーだったマックス・ローチと比べても、アート・ブレイキーの個性は勝るとも劣らず、このリズム隊だけの演奏が聴きたくなるのでした。

B-1 Royal Flash
 前述「Sonny Clark Trio (Time)」では「Nica」という曲名で演奏された人気メロディで、ブルーノートでは同じくオクラ入りしていたとはいえ、このセッションに先立つ1957年12月にも吹き込まていたところからして、ソニー・クラークが自信のオリジナルだったと思われます。
 ここではミディアムテンポの力強いグルーヴの中でソニー・クラークが特有のネバネバファンキー節を存分に聞かせてくれますし、ハンク・モブレーも俺に任せろっ! まろやかで黒っぽいという十八番のアドリブが冴えまくりです♪
 またドナルド・バードのトランペットからは、どこかしら知的な雰囲気が滲みでいるのも、私の気の所為ばかりではないと思うのですが……。
 まあ、それはそれとして、前述した1957年のバージョンは、これも後年発掘された日本盤アルバム「Sonny Clark Quintets (Blue Note / 東芝)」に収録されていますし、CD化もされていますから、聴き比べも楽しいところでしょうね♪

B-2 Some Clark Bars
 アップテンポでバンドがハードバップ魂を炸裂させた名演です。
 クレジットではソニー・クラークのオリジナルとされていますが、なんとなくテーマがハンク・モブレー調なのは興味深く、その所為でしょうか、アドリブ先発のハンク・モブレーが大ハッスル! 流れてモタレる独特の「モブレー節」が、これでもかと楽しめますし、横溢する抑えきれないファンキームードは見事にドナルド・バードへとリレーされていきます。
 そして当然ながら、ドナルド・バードにも抜かりはありませんし、ソニー・クラークのハードバップど真中のピアノにはシビレが止まらないのです♪ またアート・ブレイキーの緩急自在、その場の空気を読みきって巧みなリードのドラミングも流石だと思います。 ゛

B-3 My Conception
 オーラスはソニー・クラークのシンミリ系メロディの真髄という素敵なバラード演奏♪ 灰色のトーンでテーマを奏でるハンク・モブレーのテナーサックスは、スタンドプレーが無い純朴さで好感度も高く、またソニー・クラークのアドリブからは、そこはかとない情感とマイナーメロディのキメがジワジワと漂ってきます。
 そしてドナルド・バードの朗々とした中にも曲想を壊さないトランペットのせつなさは、最後の最後で若気の至りっぽいところが憎めません。

ということで、何故、これがオクラ入りだったのかは理解に苦しむところなんですが、冷静に聴いてみると、アルバム全体にある種の「アク」が足りない雰囲気です。それは当たり前すぎるハードバップの快演として、平均点以上なのが逆に禍したのでしょうか……、

このあたりのプロデュース感覚はアルフレッド・ライオンの気分次第かもしれませんが、例えば既に述べたとおり、「Junka」に感じられるソニクラ節のイントロの欠如とか、誠実過ぎる演奏の仕上がりには、他のブルーノートの諸作に比べて、確かに何かが足りないと感じるのは偽りの無い私の気持ちです。

しかし今となっては、これほど濃密なハードバップはやはり秘宝ですし、我が国でデザインされた、些かトホホなジャケットも味わい深いような気がしています。

コメント (2)
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