OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ドルフィーのピュアハートライブ

2008-12-16 09:53:13 | Jazz

Eric Dolphy In Europe Vol.1 (Prestige)

エリック・ドルフィーといえば、あのブッ飛びのアルトサックスで、恐らくはチャーリー・パーカーの世界に一番近づいたプレイヤーだったと思うのですが、同時にフルートやバスクラリネットで醸し出されるガチンコのジャズも多いに魅力です。

どうやらエリック・ドルフィーはクラシックの勉強もしていたそうですから、譜面にも強く、また各種楽器のコントロールが上手いのは当然ながら、一端ジャズの世界に入ってしまえば、荒々しさと繊細な感覚の両面を見事に表現した演奏は驚異です。

さて、このアルバムは、そうしたエリック・ドルフィーのフルート&バスクラリネットの凄味が堪能出来るライブ盤♪

録音は1961年9月8日、コペンハーゲンの学生講堂での公演から、メンバーはエリック・ドルフィー(bcl,fl)、ベント・アクセン(p)、エリック・モーズホルム(b)、チャック・イスラエル(b)、ヨルン・エルニフ(ds) という現地調達の混成バンドです。ちなみにチャック・イスラエルは後年、ビル・エバンスのトリオではレギュラーを務める名手ですが、この時は某バレエ団の伴奏メンバーとして当地に赴いていたと言われています――

A-1 Hi-Fly
 セロニアス・モンク派の黒人ピアニストとして、やはり印象的な活動をしたランディ・ウェストンの代表曲で、ジャズメッセンジャーズのド派手なバージョンも残されているアフリカ色の強いハードパップ御用達のメロディですが、ここではエリック・ドルフィーのフルートとチャック・イスラエルのペースだけという、静謐なデュオ演奏♪
 まずはエリック・ドルフィーの思わせぶりなメロティフェイクによる導入部、その思惑を図るようなチャック・イスラエルによる腹の探り合いがあった後、あのマーチテンポも楽しいテーマメロディが出てきます。
 そしてアドリブパートに入っては、イマジネーション豊かに飛翔していく、まさにエリック・ドルフィーならではのフレーズがテンコ盛り♪ ビートをキープしつつも自己主張を忘れないチャック・イスラエルのペースも快感です。
 あぁ、それにしても息継ぎやエリック・ドルフィーの心臓の鼓動までもが感じられる雰囲気は、リアルですねぇ~~♪ ジャズに対するピュアハートというか、これは決して精神主義でジャズを聴いているわけではないサイケおやじにしても、感じざるをえないものがあります。

A-2 Glad To Be Unhappy
 優しいメロディが印象的なスタンダード曲で、まずはエリック・ドルフィーが曲想を大切にしたテーマ演奏♪ しかしアドリブパートに入ると一転、今度は激情迸る展開になるのですから、吃驚仰天です。う~ん、それにしても、ここでのフルートの表現力の凄さには悶絶させられますねぇ~。
 リズム隊はベント・アクセン以下、現地のトリオが務め、ベースはエリック・モーズホルムに交替していますが、彼等の実力もなかなか侮れません。エリック・ドルフィーの独り舞台が勿体無い感じさえしますよ。

B-1 God Bless The Child
 これもジャズでは有名曲ですが、なんとエリック・ドルフィーはバスクラリネットの単独演奏! 原曲のメロディフェイクはもちろんのこと、所々に良く知られたメロディの断片が出てくるのにも二ヤリとさせられます。
 しかし聴いているうちに、どこかしら煮詰まった雰囲気が感じれるのも確かです。
 当時のエリック・ドルフィーは、この欧州巡業直前にブッカー・リトル(tp) と組んだ伝説のバンドで強烈なライブレコーディングを残していますが、そこから作られたアルバム「At The Five Spot (New Jazz)」も、リアルタイムでは決して良い評価では無かったそうですし、こうして単身渡欧したのは現状打破の目論見があったのかもしれません。
 そんな「もがき苦しみ」が、この演奏から滲み出ていると感じるのは、私だけでしょうか……。しかし正直、こんな重苦しい演奏をやっていたら、大衆から見放されるのは当然という気も、残念ながらしています。それが例えピュアなジャズだとしてもです。

B-2 Oleo
 しかし一転、これは壮絶にして痛快な演奏です!
 曲はお馴染み、ソニー・ロリンズが書いたハードバップの聖典ですから、アップテンポで激しく爆発していくエリック・ドルフィのバスクラリネットは強烈です。低音部でのオドロの雰囲気、高音域でのエキセントリックな泣き叫び、さらに完璧な楽器コントロールから尽きることなく放出され続ける危険なフレーズの嵐!
 リズム隊も懸命の追走で、ビバップのクールな情熱というベント・アクセンのピアノ、スットコドッコイの合の手とタイトなハイハットが印象的なヨルン・エルニフのドラミング、健実なエリック・モーズホルムの野太いペースが、これもピュアなジャズ魂でしょうねぇ~~♪ 全く、ついついボリュームを上げてしまう演奏なのでした。

ということで、実はプレスティッジにおける最後の契約セッションが、このライブです。エリック・ドルフィーはこの後、帰米してジョン・コルトレーンのバンドに入り、あのヴィレッジ・バンガートでの壮絶ライブセッションを残すというわけですが、もちろん生涯を通して経済的には不遇でした。

そして1964年には病で他界してしまうのですが、エリック・ドルフィーが、あえて安定していた仕事のチコ・ハミルトンやチャールズ・ミンガスのバンドを自発的に辞め、極貧の中で自分の音楽に向き合っていた真摯な姿勢には、素直に共感を覚えます。

ある意味で、自分には決して出来ない生き方ですし、羨ましいというのには語弊があるかもしれませんが、このライブ盤あたりを聴いていると、サイケおやじは何時も、そんな思いが尽きないのです。

コメント
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