OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ボロボロの佇まい

2006-09-10 17:57:59 | Weblog

実は最近、ストーンズのブートを聴きまくっていますが、1970年代の全盛期でも、そのライブはボロボロ、ヨタヨタの部分があって、楽しい限りです。

本来、そんな部分は公式の録音には残せないので、そこがブートの存在価値♪ そしてボロボロでもそれが「味」や「風格」に転化してしまうのが、天才とか大物の凄みのひとつでしょう。

例えばジャズの世界では、この人が――

Bud Powell's Moods (Norgran / Verve)

1950年代中頃のバド・パウエルの評価は低く、それは残された録音で判断されたものだと思われますが、しかしその前後が凄過ぎたという一面もあるんじゃないでしょうか?

このアルバムは1954年6月と翌年1月のセッションを収めていますが、確かに1950年前後の神がかりも無く、また後年の不思議な和みもありません。ただし腐っても鯛とは言わないものの、凡百のピアニストとは明らかに違う「味」が滲み出ていると思います。

このあたりを文章にする虚しさは、聴いてもらうのが一番なんですが、とにかくバド・パウエルという天才の光と影がソラリゼーションしたような、ある意味では激烈な演奏ばかりです。

メンバーはバド・パウエル(p)、ジョージ・デュヴィヴィエ(b)、パーシー・ヒース(b)、ロイド・トロットマン(b)、アート・テイラー(ds)、アート・ブレイキー(ds) と粒が揃ったトリオです――

A-1 Moonlight In Vermont (1954年6月2日録音)
 原曲は夢見心の美形スタンダードなので、バド・パウエルも、ひたすらに幻想的な解釈に務めています。というか、あえて「務め」なくとも、自然体でそういう演奏が出来てしまうという雰囲気なんです。
 それは両手をフルに使った強靭なテクニックで醸し出される唯一無二の世界で、この時期のバド・パウエルはボロボロという先入観念が、霧散してしまいます。

A-2 Spring Is Here (1954年6月2日録音)
 これもスローな演奏で、有名なスタンダード曲が優雅に変奏されていきます。そこには微妙な「泣き」の味付けがあり、カクテルラウンジのムードピアノと紙一重の厳しいものが感じられるのです。
 う~ん、不思議です。

A-3 Buttercup (1954年6月2日録音)
 バド・パウエル夫人の名前をとった曲で、ラテンリズムで陽気な曲調がウキウキするテーマは、もちろんバド・パウエルが書いたものです。
 アドリブパートでも一抹の哀愁を漂わせながら快調にスイングするバド・パウエルは、所々にミスタッチが散見されますが、それすらも音楽の一部にしてしまう懐の深さを聴かせてくれるのでした。アート・テイラーのシンバルも最高の響きです。

A-4 Fantasy In Blue (1954年6月2日録音)
 アップテンポで不協和音が鳴り響く、バド・パウエルのオリジナル曲です。もちろんビバップ丸出しなので、全盛期には及ばないものの、バリバリのビアノが聴かれます。
 ジョージ・デュヴィヴィエとアート・テイラーのソロ&サポートも素晴らしく、当にモダンジャズ・ピアノのお手本のような演奏だと思います。つまり妥協が無いんですねぇ~♪

A-5 It Never Entered My Mind (1954年6月8日録音)
 マイルス・デイビスの演奏でもお馴染みの静謐な美メロのスタンダード曲を、バド・パウエルは超スローテンポで聴かせてくれます。
 あぁ、この間合いの美学♪ これにはドラムスのアート・テイラーも緊張感が強く、ここから交代しているベースのパーシー・ヒースも必死だったと思います。なにしろバド・パウエルは素直にテーマメロディを弾いているだけなんですからっ! それで素晴らしいジャズにしてしまうという、これも神業だと思います。

A-6 A Foggy Day (1954年6月8日録音)
 快適なテンポでスタンダード曲を演じていますが、ミスタッチが出そうで、リスナーはハラハラさせられるでしょう。
 しかし、そこを寸前で踏み止まってアドリブを続けるバド・パウエルは、良く言えばセロニアス・モンクの影響云々で片付けられるのですが……。意想外に纏まった演奏だと思います。

B-1 Time Was (1954年6月8日録音)
 これもスローな演奏で、なかなかの落ち着きと風格が漂う仕上がりです。原曲はあまり知られていないスタンダートのようですが、完全にバド・パウエルの幻想世界が完成されている名演だと思います。
 もちろん全盛期の神業テクニックとかインスピレーションは出ていませんが、そこはかとない風情が、不思議に良いんですねぇ~♪ 全く不思議です。

B-2 My Funny Valentine (1954年6月8日録音)
 これはお馴染みのスタンダード曲ですから、バド・パウエルがどんな解釈を聴かせてくれるかに、興味深々です。
 おぉ、すると最初からソロピアノの世界♪ そして途中からベースが入ってきますが、最後には再び孤高の世界に突入してのクライマックスが!

B-3 I Get A Kick Out Of You (1955年1月12日録音)
 アート・ブレイキーの叩き出すラテンリズムに煽られて、バド・パウエルが力強くテーマを演奏しています。そしてそれが破壊的なものに繋がっていくあたりが、刺激です。
 しかしアドリブパートではフレーズかブチキレ、唸り声も苦しく、自己の感性に指がついていかない……。もどかしさに必死の思いが、スピーカーから伝わってくるのでした……。あぁ……。

B-4 You Go To My Head (1955年1月12日録音)
 これも初っ端からミスタッチの連続です。本当に絶不調で、こんな状態でレコーディングに臨んだバド・パウエルの気持ちは如何ばかりか……。
 等と不遜なことまで思ってしまうボロボロさが聴かれます。2分6秒目あたりの絶望の呻き声が、本当に悲痛で、直後にはモールス信号のようなSOSがっ!
 これではロイド・トロットマンのベースもツッコミをいれらず、ただ、そこに居るだけの伴奏になっているのでした。最後の雑音は何だっ!

B-5 The Best (1955年1月12日録音)
 アップテンポの楽しい曲になるはずが、バド・パウエルの外れたノリで台無しです……。こんな演奏を聴くと、前半の1954年のセッションが、実は好調だったことが分かります。
 ちなみにこのアルバムは、元々は前半の8曲を入れた10吋盤を12吋盤にするために、最後の3曲を付け加えた経緯がありますので、さもありなんですが……。

ということで、バド・パウエルの幻想的な演奏を楽しむのなら、最初の8曲、つまり1954年の録音を聴くに限ります。本当にタイトルに偽りなし!

厳しい事も書いてしまいましたが、A面は個人的に大好きなアルバムです。

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ケリーは今日も最高♪

2006-09-09 19:57:06 | Weblog

今日は残暑を通り越して、熱帯のような暑さでした。しかも世間は休日というのに、私は仕事……。

楽しみにしていた「日本以外全部沈没」も観られないような……。

あ~ぁ、という雰囲気で聴くのは、和みのハードバップしかありません。

Winton Kelly Live At The Left Bank 1967 (Fresh Sound)

ウィントン・ケリーが自己のトリオにゲストスタアとしてハンク・モブレーを入れたライブの発掘音源で、1970年代から再発が繰り返されてきたものです。

録音は1967年11月12日、場所はボルチモアのクラプ「レフトバンク」で、ここのステージからは様々な音源が流出していますので、恐らくは店側が記録用にテープを残していたものと思われます。

メンバーはウィントン・ケリー(p)、セシル・マクビー(b)、ジミー・コブ(ds) のレギュラートリオに加えてハンク・モブレー(ts) という豪華版♪ 惜しむらくはポール・チェンバース(b) がリタイアしていますが、つまり皆様ご存知のとおり、マイルス・デイビス(tp) のレギュラー同窓会の趣があります。

しかも演目が最高ですから、ズバリ、ジャズ者の琴線に触れる1枚です――

☆CD-1
01 On A Clear Day

 初っ端から快調なテンポでウィントン・ケリーがスイングしまくりです。しかもドラムスがジミー・コブですから、マイルス・デイビス(tp) の「ブラックホーク」やウェス・モンゴメリー(g) と共演した「ハーフノート」のライブ盤同様の、ドライなグルーヴが満喫出来ます。
 そして7分46秒目あたりから、ついにハンク・モブレーが登場し、モブレー節を積み重ねながら和みのアドリブを聴かせてくれますが、やや緊張感に足りない雰囲気です。しかし何のギミックも無く、思いのままに吹き綴るハンク・モブレーは、それはそれで魅力的だと思います。
 そこで見かねたジミー・コブが、途中からテンションの高い仕掛けでハンク・モブレーを鼓舞する、おやじギャグのような場面が何度からあって、苦笑してしまいます。
 また当時は駆け出しだったベースのセシル・マクビーが、堅実な伴奏とブッ飛んだアドリブソロでキラリと輝いています。さらにラストテーマに入っていくあたりのウィントン・ケリーの上手さも、素敵ですね~♪ オマケというか最後にはバンドテーマまで演奏されるのでした。

02 Hackensack
 セロニアス・モンクが書いた過激な名曲が、この和みのバンドでどう料理されていくかが、聴きどころでしょうか。
 しかしウィントン・ケリーは、あくまでもマイペースで、ハンク・モブレーも最初は入っていけない場面もありますが、アドリブパートでは快調です。
 またジミー・コブのドラムスが凄まじく、ビシバシと攻め込んでいますから、ハンク・モブレーもかなり必死のようです。途中で誰かの唸り声も出たりしますし、これだけアップテンポで激烈なノリになっているのに、ハンク・モブレーはジョン・コルトレーン風のスケールフレーズを出さないのは、流石ですねっ!
 そしてウィントン・ケリーは言わずもがなの飛跳ねグルーヴ♪ お馴染みのケリー節がガンガン出て、止まらない雰囲気が最高です♪
 そんな熱気の中でアドリブを受け渡されるセシル・マクビーも難儀と思いきや、全く方針転換の新感覚早弾きベースソロが強烈! 最後にはジミー・コブのドラムソロまでが爆裂するのでした。

03 On Green Dolphin Street
 マイルス・デイビスのバンドでは定番演目でしたから、ここでのメンツにとっては手馴れたものでしょう、最初からウィントン・ケリーが余裕のピアノソロでテーマを変奏し、インテンポしてからは早くもこのバンドならではという、独自のグルーヴを生み出しています。
 それはジミー・コブのブラシによる粘っこいドラムスが源でしょう。セシル・マクビーも暴走せず、基本に忠実なビートを送り出していますから、否が応でもハードバップの楽しさが横溢しています。
 もちろんウィントン・ケリーは楽しい歌心が全開♪ ハンク・モブレーはモタレにモタレて最後にキメるという得意技を披露していますから、ジミー・コブのステックも容赦せず、ついにはハンク・モブレーもキレたような前衛フレーズまで出してしまうのは、ご愛嬌でしょう。
 う~ん、何かマイルス・デイビスが出てきそうですねぇ~。
 等と夢想していると、セシル・マクビーが怒りの最先端ベースソロで現場を締めるのですが、観客からは呆れとも驚きともつかない、茶化しの掛声がっ!

☆CD-2
01 Milestones

 そのマイルス・デイビスの代表的モード曲を、このバンドが、どう、演奏するかが興味深い演目です。多分のリアルタイムでは、それほど演奏していなかったと思われるのですが、ここではウィントン・ケリーがテーマをリードし、アドリブ先発がハンク・モブレーという展開です。
 そのハンク・モブレーですが、もちろんモードを使った中にも、ついつい十八番のモブレー節を出してしまうので、所謂新主流派のようなゴリゴリなソロにならないところが、確かに物足りません。途中からは本人もどうして良いのか迷い道で、ヤケクソで投げやりなフレーズ、無理した前衛トーンまで繰り出して、このあたりは時代遅れと散々揶揄された見本のような演奏になっています。
 しかしそういう必死さがモブレーマニアには、逆に魅力と書けば、贔屓の引き倒しでしょうか……。
 一方、ウィントン・ケリーは快調そのもので、単にハードバップに止まらない過激なフレーズも弾きながら、実は心底ファンキージャズという、思わずニヤリという美味しいフレーズを連発しています。
 またここでもジミー・コブは絶好調で、クライマックスのドラムソロも飽きさせない熱演になっています。

02 If You Could See Me Now
 ウェス・モンゴメリー(g) との共演でもお馴染みという、このトリオの十八番演目で、スローな展開の中に優しい歌心を追求した演奏が、流石です。
 ウィントン・ケリーは素敵なテーマメロディを分かり易く変奏し、ハンク・モブレーは前の演奏でミソをつけた汚名挽回に努力しています。しかしイマイチ、冴えが感じられません……。

03 Speak Low
 オーラスはハンク・モブレーにとっても十八番のスタンダード曲ですから、まずはトリオの快適なグルーヴに身をまかせて安心の演奏です。なにしろウィントン・ケリーがリードするテーマに絡むハンク・モブレーが、もう待っていられない雰囲気なんです♪
 しかしウィントン・ケリーは、まずは俺にっ! という雰囲気で快適なアドリブを披露していきます。もちろんファンキー&グルーヴィン♪ 歌心に満ちたフレーズの連発ですし、背後から強烈なビートを送り出しているジミー・コブ&セシル・マクビーも最高です。
 ところがハンク・モブレーが入れ込み過ぎというか、最初っからバランスを失って妙なフレーズばっかり吹くのですから??? これにはジミー・コブも怒りの一撃を連発して煽るのですが、こちらが期待するモブレー節が出ないという迷い道です。
 う~ん、こんなハンク・モブレーがあるでしょうか? 目隠しテストでハンク・モブレーと当てる人が何人位いるか、興味が湧くほどです。実際、ギスギスしてハズしてばかりいるんですよぉ……。最後にはジョン・コルトレーンの出来損ないに……。
 あくまでも推測ですが、この後半3曲のモブレーの不可解な出来は、悪いクスリによるものか……? なんて事まで思ってしまいますねぇ。

ということで、前半は最高♪ 後半は??? という音源集ですが、終始、絶好調のジミー・コブゆえに最後まで聴いてしまいます。

現実にはウィントン・ケリーもハンク・モブレーも落目になりかかっていた時期ですから、こういう日常のライブでは緊張感が維持出来ず、時にはクスリの功罪で演奏の良し悪しが決まっていたのかもしれません。

その意味では貴重なライブ盤ですが、これだけリラックスして熱くなれる演奏が現在のジャズ界にあるでしょうか? ハードバップここにありっ! です♪
 

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好き好きマヌサルディ♪

2006-09-08 20:03:04 | Weblog

朝から伯父さんがやってきました。

狙いは鮎釣、でもこっちは仕事で週末も休めず状態……。せめて釣ったばかりの鮎でも食わしてもらおうと期待していますがねぇ……。

ちなみにこの伯父さんは、私に「花と蛇」を教えた張本人です。詳しくは↓をご一読願います。ただし18禁です。

http://www12.ocn.ne.jp/~nacky/yami/yami01.html

ということで、本日は私が好きなピアニストのこれを――

Outsatnding / Guido Manusardi (Splasch = CD)

グイード・マヌサルディは、多分イタリア人のピアニストで、そのスタイルはウィントン・ケリー+ビル・エバンスという、まあ、良いとこ取りです。

もちろんウィントン・ケリーほどの粘り腰も無く、ビル・エバンスのようなコード選びのディープさもありませんが、グルーヴィにスイングして知的な彩りもあるという、とても好ましいピアノを聴かせてくれるのです。

このアルパムは1986年のライブを収めたアナログ盤「Outstanding - Live Int Tirano (Splashc H115)」のCD復刻で、ボーナストラックとして未発表だったソロピアノ演奏が入っています。

メンバーはグイード・マヌサルディ(p)、Piero Leveratto(b)、Luigi Bonafede(ds) というトリオで、次の4トラックは前述したアナログ盤の復刻です――

01 On Green Dolphin Street
 モダンジャズでは説明不要の大定番で、数多くの名演が残されており、その意味では難曲でもあります。
 ここでの演奏はラテンリズムを交えたテーマ解釈から、トリオはオズオズとスタートしていますが、グイード・マヌサルディが優れたテクニックを駆使して、直ぐに独自の世界を築いていきます。
 しかしドラムスとベースが意外に頑固というか、自分達の主張を曲げないので、演奏は混濁しつつも、絶妙のグルーヴを生み出していくという仕掛けです。それはハードバップでもあり、新主流派のモード系でもありますが、基本はグイノリのスイング感に満ちているのでした。グイード・マヌサルディは随所でウィントン・ケリーしていますよ♪

02 Love For Sale
 これもお馴染みのスタンダード曲で、トリオは基本に忠実な演奏を心がけているようです。テーマ部分から Luigi Bonafede のブラシが心地良く、グイード・マヌサルディは遺憾なく歌心を発揮し、徐々に白熱した演奏に盛り上げていくところが、ジャズの王道です。ドラムスも大暴れしますが、終始、自己のペースを譲らない Piero Leveratto のベースも気になります。

03 But Not For Me
 これも人気スタンダード曲ですねっ♪ 個人的は大好きですから、大いに期待して聴いてみると、トリオでのテーマ解釈が洒脱で、まず惹き込まれます。
 そしてアドリブパートでもグイード・マヌサルディは歌心優先のフレーズ、ネバリのファンキー節、低域も交えた力強いコードワーク♪ 本当に私の好みがぎっしりと詰まった展開になるのですから、歓喜悶絶です!
 ドラムスとベースのサポートもツボを押さえて好ましく、爆発的なブロックコードで迫るグイード・マヌサルディを諌めるような場面すらあるのです。そして Piero Leveratto の歌心に満ちたベースソロに繋がるのですから、たまりません。
 さらにドラムスの Luigi Bonafede もソロ交換では意地の悪さを発揮し、グイード・マヌサルディを熱くさせる裏ワザが見事です。

04 Sorrow
 グイード・マヌサルディのオリジナル曲で、冒頭からソロピアノで好きなように弾きまくり、ちょっと「枯葉?」と思わせるフレーズ展開から早いテンポでアドリブパートに突入していきます。
 もちろん中身はバリバリにモード全開ですが、随所に僅かながら「泣き」が秘められているので、聴いているうちにそこを期待して、ハッと気がつくと地獄のトリオ演奏に惹き込まれているのでした。


さて次の3曲は1990年6月1日にライブ録音されたグイード・マヌサルディのソロピアノ演奏です――

05 Friend Of Standing
 そこはかとないブルース感覚が見事な、グイード・マヌサルディのオリジナル曲です。それはお約束のフレーズとモード系の早弾き、ガンガン叩くコード弾き、随所に「泣き」を入れた展開が本当に素敵で、最初っから惹き込まれますねぇ♪
 朝一番に聞いてのエンジン始動にも、ピッタリのトラックだと思います。実際、私はアサイチ定番として欠かせないものにしています。

06 I Love You, Porgy
 前曲で盛り上げておいて、いきなり、この名曲に繋げてしまうグイード・マヌサルディの荒業が、最初から輝きます。
 個人的にも大好きな曲なので、ここでゾクリとさせられ、後はもう、好きにして下さい……、という完全降伏状態になります。ちなみに私がこの復刻CDを入手したのは、この曲目当てでしたが、ここまでKO状態に追い込まれるとは、意想外の喜びでした。
 肝心の演奏は自由度が高いスローテンポですが、素直さを失わないメロディ変奏が最高です。かなりファンキー節が出たりするんですよ♪

07 Summertime
 そしてまたまた、この大名曲に繋げてしまうんですから、もう絶句というか、心臓がギュ~となるような究極の感動があります。
 まあ、そう言うのは、私のような万年感動人間だけかもしれませんが、でもこういうミエミエの仕掛けが、ジャズ者の琴線に触れるのは確かでしょう。なにしろ前曲とこの曲は、有名なミュージカル「ボギー&ベス」からの一番美味しい定番ですからねぇ~♪
 さて、ここでの演奏はストライドピアノの味も入れたりして、和み感を強く打ち出していますが、憎めないですねぇ。けっこうオスカー・ピータソンしている瞬間まで楽しめます。もちろん観客も私も拍手万来♪


最後の2曲は1986年春のスタジオ録音です――

08 Midnight Sun
 少しずつ下降していくメロディが印象的なスタンダード曲で、そのあたりのキメをスローテンポでじっくりと展開していくグイード・マヌサルディの繊細なアドリブ感覚が楽しめます。
 と言っても、過激な変奏はしておらず、あくまでも原曲を大切にした小技を使っていますから、好感が持てます。

09 Lush Life
 デューク・エリントン楽団の当り曲にして、今やジャズスタンダード化した名曲を、グイード・マヌサルディは、これまたジンワリと演奏してくれます。
 それは全く元メロディを弾いているだけなんですが、微妙に変化を付けつつ、アドリブも交えていくあたりが、素敵です。


ということで、これは徳用復刻盤です。

前半のトリオによる熱血演奏も最高ですが、私は後半のソロピアノにもグッときます。そして今や、このグイード・マヌサルディというピアニストにゾッコンで、いろいと音源を収集中という有様なのでした。

機会があれば、ぜひとも聴いていただきたいCDです。

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コニッツ&マーシュ

2006-09-07 18:49:35 | Weblog

世間は皇室の祝い事に浮かれ気味ですが、私はここ数日、仕事に引張りまわされて身動きが出来ない状況です。

平たく言えば、自分の時間が無いという……。

昨夜は風呂に入ってウトウトし、お湯を飲んで目が覚めたという、擬似溺れまで体験しました。

でもジャズぐらいは聴いていたいということで、本日の1枚は――

Lee Konetz With Warne Marsh (Atlantic)

モダンジャズ期の白人ジャズと言えば西海岸派と相場は決まっているようで、しかし実はジャズの本場はニューヨークにも、優れた白人ジャズメンがいたのです。

モダンジャズ創成期のビバップからハードバップに進化する過程においては、その筆頭がリー・コニッツであり、盟友のウォーン・マーシュでした。

この2人は、ご存知のとおり、レニー・トリスターノ(p) という頑固おやじの弟子として、ビバップの白人的解釈に取り組んだ挙句、やっぱりジャズは黒人のもの!? という本質に目覚め、極めてユニークなスタイルを完成させた天才です。

このアルバムは、そんな2人を中心に、同じレニー・トリスターノの薫陶を受けた同志を集め、ドラムスとベースには当時バリバリの黒人ミュージシャンを入れた、当に彼等が志向していたであろう演奏を収めています。

録音は1955年6月、メンバーはリー・コニッツ(as)、ウォーン・マーシュ(ts)、ロニー・ボール(p)、サル・モスカ(p)、ビリー・バウアー(g)、オスカー・ペティフォード(b)、ケニー・クラーク(ds) という、最強の布陣です――

A-1 Topsy
 カウント・ベイシー楽団のオリジナルヒット曲で、心躍るリズムがキモの楽しいメロディが、多くのカバーバージョンを生んでいます。
 ここでは地味なベースのイントロからテーマメロディが2人のサックスで吹奏された瞬間、パッと開放的になるアレンジが素晴らしく、サビでのアルト&テナーサックの絡みもたまりません。
 アドリブパートでは、先発のリー・コニッツが内向的にソロを煮詰めていき、ここぞっという瞬間に外へ向かって突っ込むという、得意技の冴えを聴かせます。
 次いでオスカー・ペティフォードがモダンジャズの基本に忠実なベースソロで場を繋ぎ、いよいよ登場するウォーン・マーシュが独特の脱力フレーズを連発しながら、それとは逆というテンションの高さを披露するのです。
 さらにそこにリー・コニッツが乱入しての絡み合いは、全く意味不明のスリルです!
 そして実は、この演奏で聞き逃せないのが、ビリー・バウアーの巧みなコード弾きによる伴奏のギターです。ピアニストが参加していない所為もあって、その合の手の上手さには、ゾクゾクさせられます♪

A-2 There Will Never Be Another You
 リー・コニッツがお馴染みのテーマメロディをいきなり吹き始め、リズム隊がハッと気づいて追いかける展開が、まず素敵です。
 リー・コニッツはもちろんチャーリー・パーカー(as) を信奉しているのですが、師匠のレニー・トリスターノは、そういうフレーズを吹かないように厳しく戒めていたそうです。
 その所為か否か、ここでは問題のパーカー・フレーズを自己のフィルターを通して何とかしようという意図がミエミエですが、チャーリー・パーカーの作り出したものを余人が何とかしようという大それた目論見が上手くいくはずも無く、結果的にビバップ丸出しになっていますが、そこが非常に魅力です。
 しかしウォーン・マーシュは意外にハードなツッコミで、脱力してフワフワなのに芯が強いという、本当に不思議なフレーズを連発しています。
 そしてオスカー・ペティフォードのベースソロを経てクライマックスは2人のサックスが執拗に絡み合う、当にシロシロショウになるのでした。

A-3 I Can't Get Started
 抜群に上手いビリー・バウアーのギターによるイントロから、ミディアムテンポでリー・コニッツがテーマを変奏していきます。
 それはもちろん、鋭い感性に裏打ちされているのですが、実は私の耳はビリー・バウアーのギターの虜になっています♪
 途中から入ってくるウォーン・マーシュの浮遊感に満ちたテナーサックスも快感ですが、それを現世に繋ぎ止めているのがビリー・バウアーという構図でしょうか、とにかく最高です♪

A-4 Donna Lee
 A面最後はビバップの代表的な定番曲です。
 まず幾何学的なテーマメロディがスピード感満点に吹奏され、2本のサックスのユニゾンを煽るリズム隊が躍動的です。
 したがってアドリブ先発のリー・コニッツは、淀み無い流れの中にテンションの高いツッコミを入れて全体のペースを作り出し、サル・モスカのピアノも極めてバド・パウエル(p) に近いノリを聴かせています。
 そしてウォーン・マーシュが、その音色自体に泣きを含んで大熱演! 脱力感と鋭いツッコミの両立は、ウェイン・ショーター(ts) と共通、なんて言うとお叱りを受けそうですが! 私はこの人が大好きです♪

B-1 Two Not One
 さてB面は彼等の師匠であるレニー・トリスターノが書いた、クールビバップの名曲からスタートです。
 アップテンポで抑揚の無いテーマもさることながら、不思議な緊張感に満ちた展開は考え抜かれたモードとコードの両立から生み出されたものでしょうか? 全く元ネタに気づかせないのは流石です。
 肝心のここでの演奏は早いテンポで強靭なビートを送り出す黒人コンビに対し、独自のノリとフレーズを駆使して挑むリー・コニッツ&ウォーン・マーシュ、さらに絶妙なコードワークで伴奏するビリー・バウアーが最高です。
 またサル・モスカのピアノからは、師匠の影を払拭しようとする努力が覗えて、憎めません。
 全体に最後までスピードが落ちない展開が素晴らしいと思います。

B-2 Don't Squawk
 オスカー・ペティフォードが書いたレイジーなブルースで、まず作者がお手本を示すベースソロでペースを設定しますが、それをものともしないウォーン・マーシュの脱力テナーサックスが、強烈です。
 ハードバップ的な観点から聴けば噴飯物なんですが、この浮遊感は唯一無二の素晴らしさで、虜になると抜け出せません。
 ですから続くサル・モスカのピアノは、当たり前過ぎてイマイチというか、ブルースの様式美だけを追ってしまった感があります。
 するとリー・コニッツが絶妙のフォローというか、涙こらえて心で泣いてというフレーズで抜群のブルース解釈を聴かせてくれるのです♪ それはアート・ペッパー(as) ほど扇情的ではなく、またソニー・ステット(as) ほど饒舌でもありませんが、確実にリスナーの心に響く名演だと思います。

B-3 Ronnie's Line
 ここでピアニストがロニー・ボールに交代して、自らが書いた快適なビバッブ曲を演奏します。とは言っても、明確なテーマメロディは無く、最初っからリー・コニッツのアドリブだけで成り立っているような雰囲気で、リー・コニッツ自身も軽い気持ちなのか、禁断のパーカー・フレーズを出しまくっています。
 しかしウォーン・マーシュは自分のスタイルに固執しています。短いながらも妥協が無く、ラストテーマのユニゾン部分でも完全にリー・コニッツをリードしているのでした。

B-4 Backgrownd Music
 アルバムの締め括りもまた、悪食の快感のような、トリスターノ派特有の変態ユニゾンによるテーマメロディが聞かれます。
 作者はウォーン・マーシュなので、アドリブパートも手馴れたような雰囲気になっていますが、その緊張感の無さが逆にリラックスしたジャズの魅力になっているようです。
 なにしろケニー・クラークのブラシの響きが快適ですし、オスカー・ペティフォードも王道のビートを弾き出していますから、既成のビバップから逃れて進化しようとする白人ジャズメンも、いつしか黒人のグルーヴに飲み込まれてしまう、それが素敵な演奏になっています。

ということで、これはA面がスタンダード、B面がオリジナルという上手い編集もさることながら、捨て曲無しの名盤だと思います。

もちろん一般的なモダンジャズ=ハードバッブを予想していると肩透かしですが、これだって立派なモダンなジャズ! 如何にも白人的な背伸びした部分と黒人的なコテコテなところが絶妙に融合した、当時としては最先端のブッ飛んだ演奏だったと思います。

そしてリー・コニッツとウォーン・マーシュは以降、ここに提示されたスタイルを基本に活動を続けていくのですから、演じたことに後悔も間違いも無かったのでしょう。

個人的には初めて聴いた時には違和感がありましが、同時にゾクゾクするスリルも感じ、ジャズ喫茶の帰りにレコード屋に直行してゲットした1枚です。

ただし原盤製作のアトランティックという会社は、どうも音がイマイチですし、オリジナル盤と言えども、盤質そのものが良くないという欠点を、個人的に感じていますので、ここはCD鑑賞が良いかもしれません。もちろん私はCDも買って、愛聴しています。

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ジェントル&グルーヴィ

2006-09-06 19:57:12 | Weblog

日本でのジャズ物再発は、いつも同じようなブツばかり出ている印象ですが、所謂幻の名盤が再発されるのは、やはり嬉しいところ♪

個人的に特に嬉しかったのが、本日の1枚です。

Afternoon In Paris / John Lewis & Sacha Distel (Verailles / Atlantic)

ジェントルでグルーヴィなモダンジャズの傑作盤と、私は迷わず断言致します。

録音は1956年12月4&7日、メンバーはジョン・ルイス(p)、サッシャ・ディステル(g)、バルネ・ウィラン(ts) は不動で、A面はピエール・ミシェロ(b) とコニー・ケイ(ds)、B面はパーシー・ヒース(b) とケニー・クラーク(ds) というリズム隊が付いています。

そして録音場所はもちろん、タイトルどおりにフランスのパリ♪ メンバーを見れば一目瞭然ですが、アメリカのモダンジャズ・カルテット=MJQの新旧レギュラーに、フランス勢が挑んだ構図になっています。

ただしそこはジョン・ルイスの人徳と手腕により、ギスギスしたものよりも、協調性が重視した姿勢に和みます――

A-1 I Cover The Waterfront (1956年12月7日録音)
 ビリー・ホリディの名唱があまりにも有名なスタンダード曲で、それ以来、如何に哀愁と和みを両立させるかが課題となった雰囲気ですが、ここでの解釈は抜群です。
 まずジョン・ルイスが孤高の佇まいというピアノソロのテーマ変奏から、サッシャ・ディステルのギターが気分はロンリーにテーマメロディをリードします。
 この人はシャンソン歌手として有名ですが、1950年初頭には渡米してジャズ修行した本格派! 当時はジミー・レイニー(g) に師事していたという直伝のフレーズを駆使して、原曲に秘められた歌心を引き出すことに成功しています。
 そして次に出るのが、お待ちかね、バルネ・ウィランのテナーサックス♪ 全く期待を裏切らない硬質な歌心に満ちたソロを聴かせてくれます。
 リズム隊も全体のバランスを考えて、決して派手にならないようにしながらも、要所で鋭いツッコミを入れたり、倍テンポへの自然な移行やグルーヴィなノリが最高です。特にバルネ・ウィランのソロ後半に絡むピエール・ミシェロの執拗さが、素晴らしいですねっ♪

A-2 Dear Old Stockholm (1956年12月7日録音)
 これも嬉しい選曲で、邦題は「懐かしのストックホルム」といえば、スタン・ゲッツ(ts) の十八番ではありますが、前述したようにサッシャ・ディステルはアメリカ修行時代にジミー・レイニーを通じてスタン・ゲッツにも可愛がられていた繋がりで、この曲のアレンジを使う許可を得たようです。
 ここでの演奏は全くスタン・ゲッツのバージョンどおりの展開で、最初はテナーサックス、ギター、ピアノが各々のコーラスを短く演奏し、ベースがアルコでキメを入れてアドリブパートに入ります。
 そしてここではビートを強め、ミディアムテンポで歌いまくるバルネ・ウィランのテナーサックスが最高です! なにひとつ難しいフレーズが無く、全てが歌という素晴らしさなんですねぇ~♪
 さらに続くサッシャ・ディステルのギターは単音弾き主体で、これも歌心の追求に腐心しつつ、ハードバップ的なノリを大切にしています。
 またジョン・ルイスが良いですねっ♪ 例の訥弁寸前という隙間だらけの単音ピアノが、ここでは最高に輝いています。それはもちろんMJQがモロなんですが、良いものは良いと素直に楽しんでしまえるのです。

A-3 Afternoon In Paris (1956年12月7日録音)
 ジョン・ルイスが1949年に書いた代表曲で、もちろんパリの印象を表現したテーマ・メロディがジェントルの極みです。
 ここでの演奏は、それに加えて力強いリズム隊のノリがハードバップ全盛期の証左というか、アドリブパートではバルネ・ウィランがファンキーな味わいも聴かせてくれますし、サッシャ・ディステルは無機質な音使いでクールな部分を強調しています。
 しかし凄いのは、各々のアドリブの受渡しに仕掛けられたアレンジで、ここを通過することによって各プレイヤーはハードバップでもクールでも、はたまたセミクラシックでも、つまり如何様にも展開できるアドリブがOKという、非常に上手い仕組みになっているようです。
 実際、ジョン・ルイスのアドリブパートには様々な要素が含まれていますし、これをいきなり演じたら、リスナーは和めないでしょうね。当にアレンジの勝利という演奏です。

B-1 All The Things You Are (1956年12月4日録音)
 モダンジャズでは説明不要の必須スタンダード曲が、極めて暗い出だしから一転、熱いハードバップに変換されるという、素敵な展開で楽しめます。
 アドリブ先発のバルネ・ウィランはデクスター・ゴードンやハンク・モブレーという正統派テナーサックスの系譜を頑なに守る姿勢が素晴らしく、また音色そのものの魅力もたまりません。
 またサッシャ・ディステルはメロディックなアドリブ展開を模索し、ジョン・ルイスは、またまた寂しさが募る様な隙間だらけのピアノソロが痛切です。
 ちなみにリズム隊が前述したようにB面では替わっており、モロにハードバップなパーシー・ヒース&ケニー・クラーク組が奮闘しています。
 
B-2 Bag's Groove (1956年12月4日録音)
 で、そのリズム隊ならではのグルーヴィなビートで演奏されるのが、MJQでも定番演目のブルースです。
 もちろんその狙いはアドリブ合戦で、まずサッシャ・ディステルがバーニー・ケッセル風のフレーズを織り交ぜてビバップ魂を披露すれば、ジョン・ルイスは独自の黒い雰囲気を撒き散らします。
 そして、やっぱりこの人! というバルネ・ウィランはちょっとチャーリー・ラウズ(ts) になっていますが、やはりハードバップの基本に忠実な演奏は好感が持てます♪ またパーシー・ヒースはソロにバックに大活躍で、この人中心に聴くもの、また別の楽しみだと思います。

B-3 Willow Weep For Me (1956年12月4日録音)
 オーラスは黒いムードが横溢する人気スタンダード曲です。
 まず、これまでの定石どおり、ジョン・ルイスがソロピアノでペースを設定し、ベースが加わってギターを導き、ドラムスが絶妙のサポートを聴かせるというあたりは、手馴れていて緊張感もたっぷりという名演になっています。
 もちろんサッシャ・ディステルのギターがリードするテーマメロディの素直な解釈は最高で、自然に入っていくアドリブパートでのネバリのあるビートとタメのフレーズ展開も見事です。
 続くバルネ・ウィランも、ダレる寸前のテンポでギリギリのタメを聴かせるあたりは、人気の秘密とでも申しましょうか、フランス人ながら本当に素晴らしい黒っぽさですねぇ♪ 当にテナーサックスという音色も最高です。そして何と、当時19歳という神童だったのです!

というこのアルバムはフランス盤がオリジナルながら、アメリカ盤さえもなかなか入手出来ない、真の幻の名盤でした。もちろん中身は折り紙付きの名演集ですから、再発された時は、本当に感涙に咽ぶ思いでした。

しかも演奏そのものがジェントルな雰囲気優先でしたから、日本の住宅事情には申し分無いということで、自宅でも随分愛聴したものです。そして聴くほどに味わい深いんですねぇ、これがっ♪

決して派手さのある作品ではありませんが、案外ジャズ入門用に最適の1枚かもしれません。

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クラリネットにオルガンを

2006-09-05 20:27:35 | Weblog

ジャズで和みたい! そう思ったら、木管楽器が最適です。そしてそれは、クラリネットでしょう。

そこで本日は――

Cooking The Blues / Buddy DeFranco (Verve)

クラリネットというと、ベニー・グッドマンに代表されるスイング時代の花形というイメージがありますし、実際、オクターブ・キーの扱いが難しいことからモダンジャズでは敬遠されたのでしょうか、とにかくクラリネットの演奏は古臭いと思われがちです。

ところがバディ・デフランコという人は、クラリネットでチャーリー・パーカー(as) のフレーズを吹いてしまう、バリバリにビバップなプレイヤーです。しかも歌心も満点なんですから、アドリブ名人と言って良いでしょう。

ただし、モダンジャズ特有のビートから、時にはヒステリックな音色のフレーズを出してしまうので、そこが好きになれないという人も、確かにいるのです。

しかしこのアルバムは、和み優先とでも申しましょうか、温か味とグルーヴィな演奏の両面が見事に入った傑作盤だと思います。

録音は1955年8月26日、メンバーはバディ・デフランコ(cl)、ソニー・クラーク(p,org)、ジーン・ライト(b)、ボビー・ホワイト(ds) という当時のレギュラーバンドに、タル・ファーロウ(g) をゲスト扱いとした布陣になっています――

A-1 I Can't Get Started
 いきなり、優しくテーマを吹き綴るバディ・デフランコのクラリネットの響きは、どこまでも和みます。そして背後にはソニー・クラークのオルガンがっ!
 このアルバムのウリのひとつが、それなんですねぇ~♪ 木管の響きと薄めのオルガンの音色がベストマッチです。
 アドリブパートでも、幾分ヒステリックに行きそうになるバディ・デフランコを和みの世界に繫ぎ止める役割を果たしていますし、もうひとり、特別参加のタル・ファーローのギターが、最高の歌心を発揮しつつ、神業の早弾きを披露しています。
 ただし残念ながら、ソニー・クラークのオルガンソロはありません。でも、この伴奏だけで満足されるはずです。 

A-2 Cooking The Blues
 クールで熱いブルースです。そして最初っからソニー・クラークがピアノでファンキー節を奏でます。おぉ、最高だっ!
 リズム隊もミディアムテンポで快適なクッションを送り出し、タル・ファーローは太い響きでバリバリ弾きまくりですから、バディ・デフランコもビバップ丸出しのフレーズで対抗せざるをえません。するとソニー・クラークが、ここはオルガンで伴奏するのですよっ♪ あぁ、なんという……。
 背後で蠢くタル・ファーローのギターも聞き逃せません。

A-3 Stardust
 お馴染みのスタンダード曲を、またまた優しく吹奏してくれるバディ・デフランコです。もちろん伴奏のソニー・クラークはオルガンです。しかもスローテンポながら、ダレがありません。
 う~ん、それにしてもバディ・デフランコの歌心、変奏の上手さは抜群ですねっ♪ 何気に聴いていて、つい惹き込まれてしまう名演だと思います。
 それと、やっぱりタル・ファーロー! やや荒っぽさはありますが、美味しい部分だけを聴かせようとする姿勢は流石です。
 ラストテーマの変奏も聴き物だと思います。

B-1 How About You
 イントロからソニー・クラークが快調なイントロを付け、軽快な演奏となります。
 アドリブ先発はソニー・クラークのピアノで、もちろんクラーク節が全開の素晴らしさ♪ ファンキーで泣きを含んだフレーズが尽きること無く放出されています。
 そして続くタル・ファーローが、これまた素晴らしく、低域から高音域まで、満遍なく音を選び、烈しい上下振幅のフレーズは余人の真似出来る奏法ではありません。これはタル・ファーローの手の大きさだから可能な技だと思います。
 肝心のバディ・デフランコは、強烈なノリとモダンなフレーズの大洪水で、もう誰にも止めることの出来ないアドリブ天国を現出させています。正直、唸るしか無い演奏です。しかも、何事も無かったかのようにラストテーマに入るんですからっ♪

B-2 Little Girl Blue
 仄かな哀しみを秘めたスタンダードの名曲を、バディ・デフランコは最高の解釈で聴かせてくれます。
 まずテーマはソニー・クラークのピアノとのデュオになっていて、ドラムスとベースが滑り込んできた次の瞬間、ソニー・クラークはオルガンにチェンジして、抜群の伴奏を聴かせてくれます。
 もちろんタル・ファーローの控えめなソロやジーン・ライトの野太いベースワークも素晴らしく、バディ・デフランコも心置きなくアドリブに専念しているようです。
 あぁ、オルガンとクラリネットが、こんなにも相性が良いなんてっ!
 そして短いながら、ソニー・クラークのオルガンソロも楽しめるのでした。

B-3 Indian Summer
 最後を飾るのは和みのメロディが魅力のスタンダード曲です。快適なテンポを支えるリズム隊も素晴らしく、バディ・デフランコの気持ち良いアドリブが何処までも快感です。
 そしてソニー・クラークは、もちろん素晴らしく、後年のような真っ黒なファンキー節では無いのですが、歌心優先のスイング感は魅力たっぷり♪
 またタル・ファーローは言わずもがなの神業を連発していますが、それがちっとも難しく聴こえないという恐ろしさです。つまり全部が歌になっているフレーズばかりなんですねぇ♪

ということで、これはハードな日常でホッと一息、仕事を終えての、ささやかな一時にはピッタリのアルバムです。とにかくリラックスして、ひとりホノボノとしたいとき、私は愛聴しているのでした。

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帽子屋チック

2006-09-04 20:22:05 | Weblog

瞬間芸であるジャズに作り込みは厳禁! というのがイノセントなジャズ者の本音でしょう。

あくまでも自然発生的なもので勝負して欲しい! つまりアドリブ命を貫いた者こそが、一流のジャズメンである!

これは真実だと思います。

しかしガチガチに作り込まれた中から、どうやって自己をアドリブで表現していくか? これを成し遂げられた者もまた、一流だと私は思います。

平たく言うと、手錠や鎖で拘束されたマジシャンが水中や火中から脱出する、そのスリルを楽しむことに似ています。

本日はそんな1枚を――

The Mad Hatter / Chick Corea (Polydor)

フュージョンブーム爛熟期に発表された傑作盤です。

リーダーのチック・コリアはもちろん、永遠の名盤「リターン・トゥ・フォーエバー」でフュージョンの可能性を知らしめた張本人ですが、決してその道一筋では無く、正統派モダンジャズから極めてハードロック的な演奏まで完璧にこなす実力者なので、新譜が出る度に、リスナーは次は何をやらかしたのか、ハラハラドキドキさせられるのです。

で、結論から言うと、このアルバムは作り込みの集大成! 録音は1977年11月、メンバーはチック・コリア(key)、ゲイル・モラン(vo)、ジョー・ファレル(ts,fl)、ハービー・ハンコック(key)、エディ・ゴメス(b)、スティーヴ・ガッド(ds) を中心に、ブラス&ストリングが加わっています。そしてタイトルどおり、「不思議の国のアリス」をモチーフにしておりますが――

A-1 The Woods
 生ピアノと各種シンセサイザーを操った多重録音曲で、ジャズ者には完全に???でしょうが、プログレとか聴き慣れている、ロックからジャズに入って来た者には、何ほどのことも無いはずです。
 むしろ心の準備が出来るというか、ジャズを越えたチック・コリアの生ピアノとストリングスの調べが、妙に心地良いのでした。

A-2 Tweedle Dee
 ビアノとストリングスが不協和音の対決の中から、独自の美意識を求めて彷徨う、短い曲ですが、これが後の布石として重要な部分を含んでいます。

A-3 The Trial
 これまたジャズとは言えない演奏で、オペラ調のゲイル・モランの歌、変態クラシック調の妙なメロディが???

A-4 Humpty Dumpty
 と嘆いていると、お待たせしました! チック・コリア流儀の4ビートジャズが展開されます。もちろんジョー・ファレルのテナーサックスはハードスイングの塊ですし、スティーヴ・ガットは何時ものスイングしないシンバルを最小限に止め、スネアとタム、バスドラのコンビネーションでポリリズムを叩き出しています。
 またチック・コリアとエディ・ゴメスにとっては手馴れた展開とあって、余裕が感じれますが、スティーブ・ガッドが張り切るので油断出来ない雰囲気が横溢しています。
 ただし新主流派と呼ばれた往年のモード系ジャズとは違い、新感覚の軽さが表出しており、このあたりがガチガチのジャズファンから、やっぱりフュージョン……! と貶されたりもしました。
 でも、ズバリ痛快ですよっ♪

A-5 Prelude To Falling Alice
 A面最後は、またまたストリングスとゲイル・モランのコーラスがメインで、アドリブの無い短い演奏ですから、モダンジャズを期待するファンには幻滅なんですが、B面に繋がる大切な布石になっています。

B-1 Falling Alice
 で、そのB面は厳かなストリングとゲイル・モランの幻想ボーカルからスタートします。もちろん、完全にA面ラストのイメージを引き継いでおり、さあ、それがどう展開されていくのかなぁ? と思っていると、チック・コリアが十八番のラテンリズムでシンセのソロを披露します♪ もちろんバックのスティーブ・ガッドも容赦無く斬り込んできますし、ブラス&ストリングも目一杯入ってきます。
 そしてその頂点で登場するのがジョー・ファレルの電撃テナーサックスで、モード全開のハードなソロは完全なるジャズの降臨です。
 さらに最後にはゲイル・モランのボーカルがテーマを歌い上げ、このあたりプログレ風の展開でもあり、はたまたAORでもありますが、やはりフュージョンどっぷりのお約束なのでした。
 もちろんラストにはチック・コリアが生ピアノで彩りを添えています♪

B-2 Tweedle Dum
 そして続くこの曲は、またまたストリングとゲイル・モランの幻想コーラスという短い繋ぎですが、チック・コリアとエディ・ゴメスの素晴らしいデュオから再びストリングが入って……。

B-3 Dear Alice
 続くこの曲は、最初からチック・コリアの生ピアノとエディ・ゴメスの鬩ぎ合いにスティーヴ・ガッドが乱入する白熱のトリオ演奏が、最高という名演です。
 もちろん基本はラテンビートですから、ブラスやゲイル・モランの歌、さらにジョー・ファレルのフルートまでもが参加しての大盛り上がり大会! スティーヴ・ガッドのドラムスもセカンドラインを強調して、ますます熱を帯び、ビシバシ攻めてきます。実際、リアルタイムでこの演奏を聴いた時のトリハダの感触は、今も忘れていません。スティーヴ・ガッド生涯のベストテンに入る熱演だと思います。
 あぁ、チック・コリアのラテンモード全開の生ピアノ! これも当然、最高ですよっ♪

B-4 The Mad Hatter Rhapsody
 さらに一転して、これまたラテングルーヴに満ちたクライマックスに突入していきます。
 曲はキメだらけの仕掛けが施されていますが、ここではチック・コリアのシンセ対ハービー・ハンコックのエレピという楽しい勝負が満喫出来ます。
 まず最初はチック・コリアが各種シンセの特性を存分に活かしたソロを展開すれば、その背後ではハービー・ハンコックがファンキーで躍動的なコードとオカズを入れてくるんですから、たまりません。スティーヴ・ガッドとエディ・ゴメスも控えめながら、厳しいビートを送り出しています。
 そしてハービー・ハンコック! 何時までも終り無い山場を求めて、ひたすらに弾きまくるエレピの潔さ! バックで炸裂するラテン系のブラスリフも強烈です。
 しかし最後には予定調和の大団円が待っていますから、ここをどうやって収めていくかがチック・コリアの手腕と言うべきか、スティーヴ・ガッドの爆発的なラテンビートを呼び込んでの楽しさの極北から、お約束の結末まで、あまりにも鮮やかな作り込みになっているのでした。

ということで、これは通して聴かなければ、その真髄が楽しめない作りになっています。何故ならば、ジャズ者には無用と烙印を押される短い演奏が、後にキメのリフとなって再登場したり、全体の流れの中こそ唸る仕掛けが随所に隠されているからです。

その意味で、アナログ盤のAB面分断聴きよりも、CDによる一気聴きを方が楽しめると思います。

そしてチック・コリアは、このアルバムを境に作り込みを止め、4ビートも含めたアドリブ主体の演奏に一時回帰していくのですが、個人的にはもう1枚位は、同じ傾向の盤を作って欲しかったような……。

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秋空に

2006-09-03 19:51:09 | Weblog

清々しく晴れた空を見ていたら、急に聴きたくなったのが、このアルバムです――

Sweetnighter / Weather Report (Columbia / Sony)

まあ、ジャケ写が初秋の空みたいですから♪

さてウェザー・リポートはフュージョンバンドであって、決してウェイン・ショーターのワンホーンバンドではないのが、昔から不思議でした。

なにしろウェイン・ショーターは、キャリアの最初からジャズ・メッセンジャーズ、マイルス・デイビス・クインテット、そしてウェザー・リポートと、常に陽のあたる道を歩んで来たわけですし、自己のリーダー盤だって名作揃い! しかもゲスト扱いのレコーディング・セッションでも、自己主張の強い演奏を繰り広げていたのですから!

それがウェザー・リポートでは、リーダー格であるにも関わらず、相方のジョー・ザビヌル(key) やミロスラフ・ビトウス(b)、さらに後年にはジャコ・パストリアス(b) あたりにまで居場所を奪われているかのような……。

あのマイルス・デイビスのバンドを仕切っていたウェイン・ショーターらしくもないぜっ!

で、このアルバムです。録音は1973年2月、メンバーはウェイン・ショーター(ts,ss)、ジョー・ザヒヌル(key)、ミロスラフ・ビトウス(b,el-b)、エリック・グラバット(ds)、ドン・ウン・ロマオ(per) という当時のレギュラーに加えて、ハーシェット・ドリエンガム(ds,per)、ムルガ(per)、アンドリュー・ホワイト(el-b) が助っ人参加しています――

A-1 Boogie Woogie Waltz
 タイトルからして楽しい演奏を期待していたので、最初聴いた時は、「なんじゃっ、これっ」という松田優作状態でした!
 作曲がジョー・ザビヌルという屈折おやじでは、さもありなんですが、とにかく冒頭から単調なビートの中で、ウェイン・ショーターとジョー・ザビヌル、そしてミロスラフ・ビトウスがテンションの高いリフと呻きを出し合うという仕掛けです。
 もちろんこれは、とても緊張感が高く、集団ファンクロック演奏になっています。
 ただしウェイン・ショーターは凄く良いフレーズを吹いているのに、意図的に最後までその想いを伝え無いような、その煮え切らなさが私の欲求を満たしてくれません。
 それと蠢くベースはミロスラフ・ビトウスですが、それが6分目あたりを境に何時しかエレキベースに変わっていて、恐らくここからがアンドリュー・ホワイトの出番になっているのでしょう。全体の演奏も、一層ファンク色が強くなり、ジョー・ザビヌルは完全に躁状態で各種キーボードを操りますし、ウェイン・ショーターも嬉々としたフレーズ繰り出すのですが……。
 そして8分50秒目から、ようやく、あのテーマが浮かび上がり、バンド全員が一丸となって大団円に突き進むという仕掛けが明らかになるのです。あぁ、これが分かってこそ、この演奏が心底楽しめるのですねっ♪ ですから、次に聴く時からは、ひたすらにこの部分を楽しみにしていられるというわけで、全くウェイン・ショーターも考えたものです。最後はお馴染みの鮮やかさ♪

A-2 Manolete
 ウェイン・ショーターが書いた自己満足的な美メロを、自らがソプラノサックスで吹き綴り、そこに後からリズム隊を被せたような演奏です。なにしろジョー・ザビヌルの生ピアノの響きがワザとらし過ぎ!
 しかしエリック・グラバットのドラムスが熱演ですから、全体がビシッと決まっています。もちろんウェイン・ショーターは、無駄な音はひとつも出していないという完璧さ! これがあって初めて、ジョー・ザビヌルの多重録音気味のシンセが存在感を発揮するのですねっ♪ 最後は圧巻の盛り上がりです。

A-3 Adios
 ジョー・ザビヌル作曲による幻想曲で、ウェイン・ショーターはテーマしか吹いていないようですが、それもシンセやエレピの影に埋もれつつ、どうにか存在感を誇示するという作り物の演奏です。
 しかし、これが妙に落ち着いてしまうんですねぇ~♪ 涼やかな風鈴のようなパーカッションが効果的です。
  
B-1 125th Street Congress
 このアルバムの目玉演奏! この激烈なジャズ・ロック・ファンクの嵐には、最初聴いた時からドギモを抜かれました。
 テーマらしきものが無くて、最初っからジャムセッションになっていますが、なにしろビンビン・ブリブリ動きまくるウッド&エレキのベースが強烈ですし、ビシバシとキメまくりのドラムスも最高! もちろん、その隙間を埋める打楽器類も素晴らしいスパイスです。
 そうして生み出されていくビートの嵐を泳ぐのがウェイン・ショーターというわけで、ソプラノサックスで暗中模索しつつ、異次元から自己のフィルターを通して再生させたような変態フレーズを、連続放出していきます。
 またジョー・ザビヌルは、そんな修羅場の様子を覗うようなズルさから、味わい深いリフ、ツッコミ、さらにオトボケのフレーズまで、各種キーボードで弾き出しています。あぁ、何度聴いても、グリグリに心が躍らされますねっ♪
 繰り返しますがドラムスとベースばかり聴いていても、完全に満足させられる演奏だと思います。現代のジャムバンド愛好者にも、激オススメです♪

B-2 Will
 ミロスラフ・ビトウスが書いた幻想曲で、デビュー当時のバンドの色合が強く感じられます。しかしそれは、哀しいかな古臭い雰囲気が濃厚に……。
 実はミロスラフ・ビトウスは、このアルバム発表後にバンドから脱退するのですが、さもありなん……。定型の擬似ファンクビートも虚しく響くだけです。

B-3 Non-Stop Nome
 最後の収められたのは、ウェイン・ショーターが書いた強烈なファンク・ロックです。アップテンポで叩きまくる2人のドラマーが快演ですし、出番を覗うジョー・ザビヌルが不気味! さらに途中から乱入するエレキベースの恐さ!
 そしてウェイン・ショーターは最後にテーマのキメを吹奏しているだけなのです。おいおい、いったいアンタは何様のつもりだい!?
 否、これがウェイン・ショーターの素晴らしさで、ちょいと出で来て美味しい所を持っていくというのが、当時のウェザー・リポートにおける得意技なのでした。

ということで、思わぬ省エネで存在感を誇示するウェイン・ショーター! しかし憎めないんてすねぇ~♪

つまり徹底的に音を切り詰めというか、無駄な音を出さず、選び抜いた1音に集中することでテンションを高めようという意図なのかもしれません。もちろんバリバリ吹く必要がある時は、烈しく心情を吐露しています。

ウェザー・リポートでウェイン・ショーターが目立たないというのは、そういう取捨選択に撤しているからではないでしょうか? その謎が解明されるヒントが、このアルバムには隠されていると思います。

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ニューボーン・タッチ♪

2006-09-02 15:55:18 | Weblog

ようやく爽やかな気候の中、こういう時こそ、ジャズが聴きたくなる私です。

そこで、本日は私の日常的愛聴盤を――

The Newborn Touch / Phineas Newborn Jr. (Contetemporary)

ジャズの本質はアドリブ命! これにはどんな言い訳も通用しないでしょう。

しかし素材の選び方、つまり曲そのものがつまらなかったら、どうしようも無いのも、また事実です。

面白くアドリブ出来るコード進行だけ抜き出して、リスナーを満足させてしまう荒業なんて、真の天才、例えばチャーリー・パーカー(as) のような人だけが出来ることですから、ここで勘違いされるとファンには地獄ですし、ジャズが一般的な人気を得られないのも、そこが問題のひとつだと思います。

ですから私はアルバムを買う時、自然と演目の良さを第一義にしてしまいます。そしてこの1枚こそ、私好みの隠れ名曲がぎっしり詰まって、さらに演奏も豪快という愛聴盤です。

録音は1964年4月1日、メンバーはフィニアス・ニューボーン(p)、リロイ・ヴィネガー(b)、フランク・バトラー(ds) という西海岸黒人激烈ピアノトリオ♪

A-1 A Wakin' Thing
 「私の好みの隠れ名曲が~」等と偉そうに書いてしまいましたが、実はこの曲は、それまで知らず、アルバムを買って聴いた瞬間に歓喜悶絶したという♪
 作曲はジャズ創成期から活躍したアルトサックスの大御所=ベニー・カーターで、クラシックの「運命」と「悲愴」を足してジャズで煮しめたようなマイナー調が、たまりません。
 もちろんゴスペル味は、お約束♪ 力強いビートと行進曲リズムに乗って、フィニアス・ニューボーンが抜群の解釈を展開します。特に1分55秒目と2分50秒目からのブロックコード弾きは、火山の爆発です! そしてその合間に単音弾きでコントラストをつけ、3分18秒目からの大噴火に繋げていくあたりが、もう名人芸を越えた天才の成せる技なのでした。
 もちろん大団円が待っていますよ!

A-2 Double Play
 これこそ私のお目当ての名曲です。それはセミ・クラシックを使った哀愁の歌謡曲モード♪ 作曲は西海岸派の名ピアニスト=ラス・フリーマンで、アンドレ・プレビンとのピアノデュオ・アルバム「ダブル・プレイ(Contetemporary)」が初演だと思います。
 で、ここでのフィニアス・ニューボーンは、テーマ部分で最高のメロディ解釈を聴かせ、一転、アドリブパートはファンキーフレーズを用いてリスナーをせつない心情へ追い込むのです。
 あぁ、これがジャズです! 日本人でこれが嫌いな人はいないでしょう。なんか大野雄二が作る映画音楽のテーマのようにも聞こえてきます。
 もちろんドラムスとベースのサポートもジャズの力強さを演出し、フィニアス・ニューボーンは得意の両手ユニゾン弾きを繰り出して、グイグイとっ♪

A-3 The Sermon
 ハンプトン・ホース(p) が作ったゴスペルブルースですが、裏ジャケット解説によれば、何とフィニアス・ニューボーンは左手だけで弾いているとかっ!
 う~ん、聴いてみると確かにそのとおりです。しかしその蠢きからは、かなり早いフレーズがバリバリと放出されてくるんですから、これは嫌味です。
 まあ、いいか……。

A-4 Diane
 これも私がお目当てにしていた「泣き」の名曲で、もちろん皆様ご存知のとおり、アート・ペッパーが自己のリーダー盤「ゲッティン・トゥゲザー(Contetemporary)」で自作自演の決定版を残しています。
 そして、ここでのフィニアス・ニューボーンは、超スローテンポで美しきテーマメロディを徹底分析し、原曲が持つ素直な「泣き」を、さらに増幅してくれますから、たまりません。
 的確なベースとドラムスも存在感がありますが、フィニアス・ニューボーンの素晴らしさ、上手さには完全降伏の演奏です。

A-5 The Blessing
 モダンジャズの革命児と言われたフリー派のアルトサックス奏者=オーネット・コールマンの代表曲ですが、それも含めて、フリーだからデタラメということは無く、フィニアス・ニューボーンはモダンジャズ王道の解釈で、強烈なハードバップを聴かせてくれます。
 フランク・バトラーとの対決も楽しく、若干、道筋を見失う場面も、ご愛嬌です。

B-1 Grooveyard
 これまた私が大好きなファンキー曲♪ ウェス・モンゴメリー(g) の演奏が有名ですが、このフィニアス・ニューボーンのバージョンも名演だと思います。
 それはダイナミックなコード弾きや両手ユニゾン弾き、力強く繊細なピアノタッチ等々、当に天才の技を駆使して盛り上げていく様が全く自然! という恐ろしさを含んでいます。
 つまり当たり前のように、こんな凄い演奏をやってしまうのが、魅力なのでした。

B-2 Blue Daniel
 ラテンタッチの楽しい名曲で、書いたのは名人トロンボーン奏者のフランク・ロソリーノですが、本人の演奏は聴いたことがありません。
 とにかく、この愛らしいテーマメロディを、フィニアス・ニューボーンがどう料理していくかが焦点で、アドリブパートではアップテンポの4ビートに方針転換しつつ、驚異的なテクニックで、バリバリと出し惜しみせずに美メロを出していくあたりは、即興とは思えない感動があります。

B-3 Hard To Find
 マイナーな哀愁を含んだゴスペル調のテーマメロディにグッときます。
 作曲はこのセッションのベーシストであるリロイ・ヴィネガーで、自身のリーダー盤「リロイ・ウォークス・アゲイン(Contetemporary)」でも演奏していますが、実は当時の人気アイドルバンドだったゲイリー・ルイス&プレイボーイズが軽快にカバーしたバージョンも有名でしょう。 
 ここでの演奏は、フィニアス・ニューボーンの強弱が鮮やかなピアノタッチを存分に活かしたところから、歌心たっぷりの「泣き」のメロディ展開まで、分かり易く素晴らしすぎるアドリブが最高です。
 もちろん両手ユニゾン弾きや2分44秒目の爆発的コード弾きもド迫力!
 あぁ、一緒に歌えるテーマの楽しさよ♪
 擬似ジャズロック風のノリを隠し味にしたドラムスとベースが、その秘密かもしれません。

B-4 Pazmerte / 平和の死
 知る人ぞ知る存在のアルトサックス奏者=ジミー・ウッズのオリジナルで、タイトルどおり、かなり重いものを含んだ曲なので、演奏そのものも自分で苦しんでしまう要素がたっぷりみたいですが、このトリオの演奏は、それを巧みに切り抜け、尚且つ、原曲を大切にしたヘヴィな展開を聴かせます。
 その要はフランク・バトラーの変態ポリリズムのドラムスで、混濁と圧縮解凍がゴッタ煮状態の演奏展開を上手く纏めているのでした。

B-5 Be Deedle Dee Do
 前曲の混乱を一気にハッピーエンドへ持っていくのが、名ギタリストのバーニー・ケッセルが書いた、如何にもモダンジャズな、この曲です。
 そして、その秘められたファンキー節を遮二無二ゴスペルにしていくのが、このトリオの凄いところです。特に1分12秒目に炸裂するフランク・バトラーの一撃には悶絶します!
 もちろんフィニアス・ニューボーンの爆発的なブロック・コード弾き、さらにその裏で細かいフレーズを入れまくるあたりは、本当の神業♪ 最高にシビレます。

ということで、これは素直にジャズの楽しさと本質に接することが出来るアルバムだと思います。平たく言えば、イイんです♪ 激オススメのピアノトリオ盤なんですよっ!

ちなみに現在、紙ジャケット仕様でCD復刻されており、聴きすぎてアナログ盤がイカレ気味な私は、迷わず買いましたが、そこには2曲のオマケがついていて、さらに楽しいという保証付きです。ただしそれは、フィニアス・ニューボーンが暴走しすぎてオクラになったような雰囲気で、まあ、それもファンにとっては納得済みの楽しみということです。

例によってジャケ写から試聴出来るところへリンクしてあります。機会があれば、聴いてみて下さいませ。

 

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爽やかな毒気

2006-09-01 17:57:28 | Weblog

今日から9月! 秋ですよ、秋!

そこで本日は爽やかさを求めて、これを――

Rejoicing / Pat Metheny (ECM)

単にジャズの世界ばかりでは無く、ギタリストとしてトップを張っているパット・メセニーにも、1970年代はフュージョン系、あるいはECM的環境音楽の人? と受け取られていました。

それが1980年代に入ると、積極的にモロジャズの演奏に取組み、つまり4ビートを基本とする世界に入ってきたことから、決定的な人気を得ています。

しかもその姿勢が懐古趣味では無く、フレーズもアプローチも新しければ、得意技のギターシンセサイザーを嫌味無く使うなど、ガチガチのジャズファンにも許せる部分が良かったのです。

このアルバムは1984年に発売されたものですが、製作の段階から、その内容とメンバーが興味津々の話題にもなっていました。

それはパット・メセニーが、ジャズの革命児だったオーネット・コールマン(as) の楽曲を、当時のバンドメンバーと演奏するという、若干あざとい企画ではありますが、なにしろチャーリー・ヘイデン(b)、ビリー・ヒギンズ(ds)、そしてパット・メセニー(g) というトリオは、否が応でも聴いてみたくなる魅力がいっぱい♪

ちなみに録音は1983年11月29-30日とされています――

A-1 Lonely Woman
 オーネット・コールマン楽曲集のド頭が「ロンリー・ウーマン」とあれば、ジャズ者の誰しもが、あぁ、あの曲か!? と思う次の瞬間、流れてくるのはホレス・シルバー(p) が作った隠れ名曲♪♪~♪
 この強烈な背負投げは本来、シャレになっていませんが、実際の演奏はパット・メセニーの繊細で彩り豊かな生ギターの響きが最高ですし、チャーリー・ヘイデンの的確なベースワークとビリー・ヒギンスの緻密なブラシが、テーマ部分から完璧です。
 そして曲が良いですから、徹底的にメロディを追求していくトリオの集中力は物凄いエネルギーを発散していて、少しずつ熱気が満ちていく様には圧倒されます。
 この「つかみ」で、アルバムの良さが満喫出来るはずです。

A-2 Tears Inside
 これは正真正銘、オーネット・コールマンの自作曲! 暗黙の了解で展開されるブルースですが、極めて自由な発想が可能というあたりが、ミソでしょうか。
 パット・メセニーはエレキに持ち替えて、ジム・ホール的な音色とフレーズで勝負していますが、決してモノマネではなく、自己の表現を大切にしています。
 また野太いチャーリー・ヘイデンのウォーキングベースや、歯切れの良いシンバルとスネアのコンビネーションが最高のビリー・ヒギンズも好調♪ かなり分かり易い4ビートジャズの醍醐味に浸れます。
 ちなみにオーネット・コールマンはフリージャズの開祖的評価から、その演奏はデタラメのメチャクチャという先入観念がありますが、実際に初期の演奏から聴いてみると、全く自然なジャズそのものですから、ここでの解釈も肯けるのでした。

A-3 Humpty Dumpty
 これもオーネット・コールマンのオリジナルで、幾何学的なテーマ構成ですが、ちゃんとジャズの文法が成り立っていますから、パット・メセニーは正統派4ビートとエレキギターで浮遊感に満ちたアドリブソロを展開しています。
 それにしてもビリー・ヒギンズは良いですねっ♪ 軽やかで細かいオカズを主体にしていながら、ビートの芯がビシッと極まっています。この人はハードバップやジャズロックばかりでは無く、どんな演奏にも対応出来る実力者だと思います。

A-4 Blues For Pat
 チャーリー・ヘイデンが書いたオトボケのブルースです。つまり黒っぽさはありませんが、ちゃんとジャズ特有のグルーヴが発生していますから、リラックスして聴けるのです。
 アドリブパートでは、まずチャーリー・ヘイデンが得意の、歌心排除というフレーズばかりを積み重ねますが、パット・メセニーは幾分、鈍い音色のエレキギターで新しいブルースフィーリングを披露します。
 さらにビリー・ヒギンズは快適なテンポを崩す事無く、短いソロでアクセントを付け、パット・メセニーとの対決に臨むのでした♪

A-5 Rejoicing
 アルバムタイトル曲はアップテンポの擬似ビバップで、最初からビリー・ヒギンズとの対決で燃えるパット・メセニーが楽しめます。それはもちろん、正統派のエレキギターですし、そこに強引に割り込むチャーリー・ヘイデンの4ビートのベースが心地良さの極みです♪

B-1 Story From A Stranger
 さてB面に入ると、いよいよパット・メセニーは十八番のギター・シンセを使い出します。そして自己のオリジナルを3連発で一気に聴かせてくれるのです。
 まず最初は、そこはかとない哀愁がたまらないスローテンポのテーマメロディが生ギターで変奏されていき、その空間に入り込んでくるギターシンセのワン・フレーズから、もうKO状態になります。
 もちろんこのあたりは多重録音という、ジャズ者が忌み嫌う手法になっていますが、これだけ「泣き」のメロディを連発されては、たまらないはずです♪

B-2 The Calling
 そして続くのが、ほとんどプログレという攻撃的な擬似フリーの演奏です。
 もちろん最初からギターシンセが全開ですし、ベースとドラムスもフリーなノリで対応していますから、やややっ、これこそオーネット・コールマンの世界か!? と誤解とも、徹底解釈ともつかない結論が導き出されるのでした。

B-3 Waiting For An Answer
 完全な作り物なので、ガチガチのジャズファンには噴飯物かもしれない短い演奏です。
 ただし静謐なパット・メセニーのギターシンセによるメロディは、どこまでも美しく、チャーリー・ヘイデンの濁ったアルコ弾きのベースと好対照なのが、狙いでしょうか……。

ということで、このアルバムは当時のジャズ喫茶では大ヒット! 一時は行く度に鳴っていたような記憶があります。

もちろんそれはA面で、4ビートだった事が「吉」と出たわけですが、個人的にはB面1曲目の「Story From A Stranger」を自宅で愛聴していました。それとA面初っ端の「Lonely Woman」の生ギターの響き、これにも、やられましたねぇ~♪

冒頭に爽やかさを、なんて書きましたが、実は毒気もたっぷりという……。

コメント (12)
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