Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

天啓の器

2008-03-17 11:25:52 | 読書
笠井潔著 創元推理文庫 (2007/12).

「BOOK」データベースによれば
--- いまなおアンチ・ミステリーの傑作とされる中井英夫の『虚無への供物』は、最初塔晶夫の名前で発表された。もしこの塔晶夫が実在していたとしたら?作品にとって作者とは何か。作者とは、光眩い天啓を受けとめようと差し出される、粗末な器にすぎないのではないか。『供物』を果てしなく変奏しつつ、この問いを問うメタ・ミステリー ---

塔晶夫名義の『虚無への供物』は,大学を出たばかりの頃書店で手に取った覚えがある.高かったので買わなかったのが悔やまれる.

この「天啓の器」ではトウアキオが何人も登場し,何種類ものザ・ヒヌマ・マーダー (小説中で『虚無への供物』をモデルとする小説のタイトル) の原稿が登場する.この小説自体が竹本健治の「ウロポロス」シリーズ第3作という体裁をとっている.小説の語り手も僕,ぼく,私,己が交互に時空を越えて登場する.
ややこしく,ひまつぶしにはもってこい.

ストーリーよりも登場人物が闘わせる文学談義のほうがおもしろい.この作家にとっては (どの作家でも同じことかもしれないが) 小説は自己の思想を提供する場にすぎないようだ.
ここでは『虚無への供物』を,あの「死霊」をしのぐ奇跡の文学と持ち上げている.でも残念ながら,純文学界では『虚無への供物』はほとんど無視されているのでは? 奥泉光の,エンターティンメントと純文学の区別は作家が読者を想定するか否かにあるという説が引用されているが,これに従えば『虚無への供物』はミステリの読者を想定しているので,エンターティンメントであり,したがって「死霊」と同列には扱えないと言うことになるのだろうか.

ぼく的にはしばらくウロポロスシリーズからも天啓シリーズからも遠ざかりたい.読みたいのは『虚無への供物』みたいな小説であって,マニアックな楽屋落ち小説にはもう飽食した.
コメント
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