Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

犬の心

2022-12-29 09:37:56 | 読書

ミハイル・A・ブルガーコフ,石井信介訳「犬の心 怪奇な物語」未知谷 (2022/11).
図書館で借用.

 

カバー裏表紙の文章*****

レーニンの死から一年後に執筆 ペレストロイカまでソ連国内で62年間発禁 現在はロシアの高校生の必読作品となった ブルガーコフ33歳の大問題作、新訳!
97項目50頁超、充実の訳注で作品のディテールを見逃さない!

【本篇の梗概】 吹雪の中、モスクワ中心街の一角、やけどを負ってトンネル通路で苦しんでいる野良犬が医師に拾われる。この医師はちょっと偏屈だが、実はホルモン研究とアンチエイジングの世界的権威であり、彼の自宅兼診療所には有能でハンサムな若い助手、バイタリティのある料理女、美しいメイド兼看護師がいる。犬が彼らに囲まれて安穏な生活が送れると思ったのはつかの間、ある日突然手術を施されて人間に改造されてしまう。このもと犬はさらに住宅委員会の幹部に洗脳されてにわか共産主義者に成長し、ことあるごとに医師と激しく対立するようになる。手に汗握る心理戦の末、かつての飼い犬に手を噛まれた医師とその助手は、自分たちが生み出した悪夢に決着をつけることになるが……

*****

犬の飼い主のための手引書かと思ったが,上記 [梗概] で読んでみる気になった. [梗概] で読む気を失う人もいるかと思う.なかなか親切な出版社だ.
冒頭に3枚のモスクワ市街図.全体の 1/3 が訳注,本書に登場する音楽の解説,そして 訳者あとがき が占めている.研究書みたい. 

「新訳」とあるが,日本ではすでに画像右側のふたつの訳が 1971 年と 2015 年に出版されている.ロシア文学の古典なんだろう.
かってのタイトルはどちらも「犬の心臓」だった.でもこの小説では心臓という臓器に関係する箇所はない.ロシア語の原題は読めないが,タイトルとしては「犬の心」が良さそう.
3種類の原版があるそうだ.

革命後のソビエトに無関心でも,おもしろいドタバタと読める.「変身」のような不条理小説ではなく.1925 年の作品にもかかわらず,SF (空想科学小説) であり,ぼくに言わせればフランケンシュタインの系統である. [梗概] が触れていない結末もまさに SF だ.

訳者あとがきによれば,従来この小説では,社会主義革命批判と,ソビエト的人間像の風刺というふたつのテーマが一体化していると理解されてきた.あとがきはさらに踏み込んでいるが,こうした議論は 16 トンの理解を超えている.ロシア革命については,ぼくは松田道雄「ロシアの革命」を読んだことをだけを覚えていて,本の内容は蒸発している始末である.

この小説で犬を人間に改造する医師プレオブラジェンスキー教授のモデルは,レーニンだと言われても,抵抗なく受け入れるロシア人が多いらしい.

 

我が現役時代には,幸い日本の科学技術研究費がそこそこ程度に潤沢だった.この,そこそこの金を求めてロシア人もやってきた.彼らが祖国の政治体制を自虐的に笑いの種にするのに,やや辟易した.今の日本の国力低下と,無能内閣の右旋回・報道統制を見ていると,当時の (今も,かと思うが) 彼らの心情が理解できる.

コメント
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