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那須雪崩事故の真相

2019-09-16 10:22:52 | 読書

阿部幹雄「那須雪崩事故の真相 銀嶺の破断」山と溪谷社 (2019/6).図書館本.著者は1981年,中国四川省 7556m ミニャ・コンガで遭難した登山隊の「生き残り」と自己紹介しておられる.

2017年3月27日,栃木県那須郡那須町の那須温泉ファミリースキー場付近で,春山登山講習会に参加していた高校生7人と引率教員1人の計8人が雪崩に巻き込まれ,死亡した.講習会は栃木県高等学校体育連盟が主催し登山専門部が主管した.当日は茶臼岳登山が予定されていたが,積雪のためラッセル訓練に変更された.5班の編成で,このうち第1班は大田原高等学校山岳部12名と教員2名,第2班は真岡高等学校山岳部8名と教員.この2班が雪崩に巻き込まれ,第1班から死者が出た.

1班の講師の真岡高校教諭・菅又久雄氏は33年,チベット自治区 7206m ニンチンカンサ峰などの実績があり,県内で最も実力がある教員のひとりとみなされていた.もう1人の死亡した教諭は教員になって1年,それまで登山経験がなかった.この本で見る限り,この雪崩地点を訓練場所に選んだ責任の一部は菅又氏にあり,生存した高校生の談話をから判断すると,現場での氏の指示も曖昧だった.この本は菅又氏に対して手厳しい.

若い時に山岳部で猛者としてならし,趣味の延長のように高校生をしごいていた(らしい)教員たちには同情しないし,刑事告発も当然と思う.しかし,犠牲者・被害者として生徒だけが取り上げられ,同時に死亡した29歳だった教諭が忘れられがちで,本書でも短く取り上げられているだけはいかがなものか.山岳部の顧問にさせられたのが,彼の本意であったかどうか疑問だし,山岳の知識技術は上級生・生徒の方が上だっただろう.忙しい本務すなわち教育・授業が終わって春休みと思ったら,講習会に駆り出され... 教員と部活に関わる本質的な問題だ.

実はこのスキー場事故の7年前,2010年の同じ3月27日,この事故現場から北北東へ約 1km の茶臼岳郭公沢でも,同じ講習会が雪崩事故に出会っている.この時は全員が自力で脱出したこともあり,主催側が事故をもみ消した.郭公沢雪崩はスキー場雪崩と同じ機構による雪崩であり,この情報が共有・継承されていたら,この事故は未然に防げたかもしれない.

雪崩埋没者の生存率は発生後18分なら90%だが,35分では20%に下がる.この事故では消防への第一報は雪崩の39分後であった.それでも2時間以上経ってから救出された生徒が2名いた.枝が広がった木のために空間があり,またサラサラ雪が空気を含んでいたので窒息を免れたという.雪崩地点は携帯電波が使えたが使われなかった.また救出作業に生徒を参加させなかったことも,微妙な問題.

この本では事故現場が「オルソ ortho 画像」で表示されている.これは地撮影した地形を高所からの航空撮影のように正射投影に変換した画像である.しかし見やすいとは言い難い.その他写真が随所に挿入されているが,むしろ平面図に起こしていただいた方が理解しやすかったと思う.

「銀嶺の破断」のサブタイトルはしょうしょう大げさだが,雪崩事故の翌年1月,下から撮った雪崩地点下に現れた長大な破断面の写真は,ここでいつ雪崩が起きても不思議がないことを示している.

Youtube に著者が語りをつとめた TV 番組が残っていた.




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