【社説・12.12】:【平和賞授与】:核廃絶への決意を共に
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・12.12】:【平和賞授与】:核廃絶への決意を共に
ウクライナや中東など世界各地で戦火が絶えない。核兵器の脅威が増す中、被爆者が発したメッセージは重い。
日本全国の被爆者らでつくる日本原水爆被害者団体協議会(被団協)にノーベル平和賞が授与された。核使用は二度と許されないという「核のタブー」の確立が評価された。
被団協代表委員の田中熙巳(てるみ)さんは受賞演説で、核使用のリスクが現実味を帯びている現状に「限りない悔しさと憤りを覚える」とし、「核抑止論ではなく、核兵器は一発たりとも持ってはいけない」と訴えた。
被団協は広島と長崎への原爆投下から11年後の1956年に設立された。終戦後、連合国軍総司令部(GHQ)の報道規制で被爆者の被害の実態は長く隠されていたが、54年の高知県船籍の漁船も周辺海域で多数操業していたビキニ環礁水爆実験を機に反核運動が活発化し、長崎で結成大会が開かれた。
結成宣言は「自らを救うとともに、私たちの体験をとおして人類の危機を救おう」とうたう。原爆被害への国家補償と核兵器廃絶を活動の柱に据え、被爆者は国内外で体験を語り、被爆の実相と核兵器の非人道性を証言し続けた。
2016年からは核廃絶を求める「ヒバクシャ国際署名」を展開。こうした地道な活動が実を結び、核兵器を全面的に違法化する核兵器禁止条約が17年に採択された。市民レベルから始まった運動は世界的に大きな広がりを見せている。
ただ、先行きは楽観視できる状況ではない。来年は被爆から80年を迎える。被爆者は高齢化し、証言を直接聞ける時間はそれほど多くない。被爆体験を次世代につなぐ取り組みを一層進める必要がある。
一方で核兵器の脅威はかつてないほど高まっている。今年の世界の核弾頭総数は約1万2千発。昨年から微減したが、運用可能分に限れば微増だった。核保有国は核戦力の維持や増強を進める。
19年に米国はロシアとの中距離核戦力(INF)廃棄条約から離脱した。22年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議もロシアのウクライナ侵攻が影響して決裂した。
先月にはロシアのプーチン大統領が核兵器使用の条件を拡大・緩和する核ドクトリンの改定版に署名。核使用のハードルが下がりかねず、警戒感が強まっている。
唯一の戦争被爆国である日本政府が国際社会で果たす役割は大きいはずだが、その動きは鈍い。
日本政府は核保有国と非保有国の「橋渡し役」を自任するにもかかわらず、安全保障面で米国の核の傘に依存する。核禁条約にも参加せず、被爆者の怒りと失望を招いている。
被団協の受賞を核保有国は真摯(しんし)に受け止めなければならない。同時に、日本政府も責任を果たす具体的な道筋を再考するべきだ。
来年3月には第3回締約国会議が開かれる。被団協側が求めているオブザーバー参加にどう対応するか、まずはその姿勢が問われている。
元稿:高知新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月12日 05:00:00 これは2自で判断下さい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます