【視点】:投票価値の考え方 平等こそが未来を開く 論説委員・桐山桂一
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【視点】:投票価値の考え方 平等こそが未来を開く 論説委員・桐山桂一
日本の地盤沈下が激しい。
GDP(国内総生産)は世界4位に転落しそうだし、競争力ある産業も育ちそうにない。賃金の伸びは先進国最低レベルだ。
元最高裁判事の泉徳治氏が著した「私の最高裁判所論」にこんな記述があった。
〈日本全体の地盤沈下について、いびつな選挙システムが一因をなしていることは明らか(中略)。主権者たる国民の意思が正確には国会に届いていないのである〉
1票の格差は衆院選で最大2倍超、参院選で3倍超もある。等しい投票価値=1人1票=が実現すれば、問題が解決するわけではないが、「日本が危機的状況にあるとき、その針路の決定について国民一人ひとりに平等な発言の機会を与えるべきである」と泉氏は説いている。
たとえ国会が誤った政策判断をしても、1人1票であれば、次の選挙で国民の多数意見に沿った政策変更を実現できる、と。同感である。
1票の格差は投票権の地域差別である。このため国会での過半数は真の民意と乖離し、政策変更も容易でない。
2022年の参院選では3倍超の格差がある選挙区の有権者数は全体の20%を超えていた。当然、議席数にも反映する。自民党は選挙区での得票率は約38%に過ぎないのに、60%もの議席を得ていた。
これが公正な選挙だろうか。でも、昨年10月の最高裁判決は「合憲」だった。
15人の判事のうち、「違憲状態」の意見は、検察官出身の三浦守氏と裁判官出身の尾島明氏の2人のみ。「違憲・無効」としたのは、学者出身の宇賀克也氏だけだ。
尾島氏の意見は明快である。こんな趣旨である。
「選挙権は最も基本的な憲法上の権利の一つであるにもかかわらず、投票価値が他の選挙区と比較すると3分の1程度しかないのは、平等原則からすれば、議院の構成員が正当に選挙された者であるといえるのかに疑問が付く」
「選挙権という重要な憲法上の権利が毀損されているときに、裁判所が国会の不作為に過度に寛容な姿勢を見せることは相当とはいえない」
宇賀氏の趣旨もこうだ。
「憲法は有権者に形式的に同数の投票権を付与するのみならず、等価値の投票権を付与していると考えられる。投票価値が等しい選挙制度を設計する必要がある」
「国民に等価値の選挙権が保障されなければならず、そうでなければ、参議院の民主的正統性が疑問視される」
いびつな選挙で多数派を占める政府・与党が、専守防衛の枠を超えた軍事部門に莫大な税金を投じる。「新しい戦前」の時代だ。五輪や万博の「昭和の夢」にすがり、大枚をはたく国でもある。国民の生活は苦しくなるはずだ。
1人1票の平等があれば、国民の多数意見に沿った政治に転換できるかもしれない。それが未来を開く鍵となると思っている。
元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【視点】 2024年02月06日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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