【社説②・12.11】:平和賞の演説 世界は被爆者の声を聞け
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②・12.11】:平和賞の演説 世界は被爆者の声を聞け
広島・長崎の被爆者らでつくる日本原水爆被害者団体協議会(被団協)へのノーベル平和賞の授賞式が行われた。
代表委員の田中熙巳さんは受賞演説で、被団協の核廃絶の取り組みによって、核が二度と使用されてはならないという「核のタブー」の形成に大きな役割を果たしたと強調した。
だが核を巡る情勢は厳しさを増す一方だ。ウクライナを侵攻するロシアは核の威嚇を繰り返し、事実上の核保有国イスラエルの閣僚が核使用に言及した。
田中さんはタブーが崩されようとしていることに危機感を示した。核保有国とその同盟国の市民に「核兵器は人類と共存できない、共存させてはならないという信念が根付き、自国の政府の核政策を変えさせる力になるよう願っている」と訴えた。
国際社会は被団協の願いに耳を傾け、核の危険性を真剣に考えなければならない。来年の被爆80年を控え、今こそ核兵器なき世界に歩みを進める時だ。
被団協は1956年に結成された。原爆被害への国家補償と核兵器廃絶を二つの柱に掲げ、多くの被爆者が心身を削りながら国連などで核廃絶を唱えた。
被爆体験に根ざした切実な訴えは少しずつ浸透し、核軍拡の歯止めに役割を果たしたと言える。それが結実したのが3年前に発効した核兵器禁止条約だ。開発から使用、威嚇まで禁じる。
許し難いのは被団協の受賞決定後、ロシアのプーチン大統領がウクライナや欧米を威嚇するため、核兵器の使用基準を引き下げたことだ。
米国のトランプ次期大統領が核軍縮に消極的なことも懸念される。第1次政権では、米ソ間で発効した中距離核戦力(INF)廃棄条約を破棄した。米ロ間に唯一残る核軍縮枠組みの新戦略兵器削減条約(新START)の延長にも難色を示した。
世界の核弾頭の9割を米ロが占める。中国も米ロと互角の核戦力を目指して増強している。
核保有国は歯止めなき軍拡が人類を破滅させかねないことを真剣に受け止めねばならない。
日本政府は、米国の核を含む戦力で日本を守る拡大抑止の必要性を強調している。被爆者が切望する核兵器禁止条約にも背を向けたままだ。石破茂首相は次回締約国会議へのオブザーバー参加に慎重姿勢を崩さない。
唯一の戦争被爆国としての責務を放棄しているに等しい。
被爆者の平均年齢は85歳を超えた。被爆の実相をどう継承するかは喫緊の課題だ。
核廃絶に向けた具体的な取り組みは待ったなしである。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月11日 04:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます