《社説①・12.12》:ノーベル平和賞受賞演説 日本政府は責任を果たせ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①・12.12》:ノーベル平和賞受賞演説 日本政府は責任を果たせ
核廃絶を強く訴えると同時に、日本政府の姿勢を厳しく問うた。ノーベル平和賞を授与された日本原水爆被害者団体協議会(被団協)の代表委員、田中熙巳(てるみ)
さんの受賞演説である。
冒頭で、被団協の運動が掲げてきた二大要求を挙げた。第一に、原爆の被害は戦争を開始し遂行した国によって償われなければならないこと。第二に、核兵器の速やかな廃絶である。
1984年に策定した「原爆被害者の基本要求」に明記している。国家補償の要求は、日本政府が主張する「戦争被害受忍論」への異議申し立てだ。
戦争による犠牲は、国民が等しく受忍しなければならない―。基本要求に先立つ80年、厚生相(当時)の諮問機関が、受忍論を前提に被爆者への国家補償を否定する意見報告を出していた。
国の戦争責任を不問に付すに等しい考え方だ。田中さんは演説で、94年に被爆者援護法が制定されたものの「政府は一貫して補償を拒み、放射線被害に限定した対策を続けてきた」と批判した。
そして、「もう一度繰り返します」と述べて、当初の原稿になかった言葉を継いでいる。「原爆で亡くなった死者に対する償いは、日本政府は全くしていないという事実をお知りいただきたい」
広島、長崎の惨禍を二度と起こしてはならない。そのためには、国が責任を認めて補償する必要がある。被団協のその訴えは、核廃絶の要求と不可分だ。
償いは、金銭だけで済むわけではない。核兵器をこの世界からなくすこと。それこそが、原爆で命を奪われた人々、被爆による苦しみを背負った人々への最大の償いだ。日本政府は被爆国として重大な責務を負っている。
にもかかわらず、被爆者の積年の訴えが結実した核兵器禁止条約に背を向け、米国の「核の傘」への依存を強めてきた。核による抑止は、いつ崩れるとも分からない危うさをはらむ上、ひとたび破綻すれば取り返しがつかない。
核保有国のロシアやイスラエルが無謀な軍事行動に走り、核戦争は現実の脅威となっている。ならばなおさら、廃絶を求める声と行動を強める必要がある。
禁止条約に加わり、核廃絶を率先するのが本来の日本の役割だ。政府は、来年3月の締約国会議にオブザーバーとして参加することをためらうべきでない。被団協の訴えの核心にあるものは何かを、主権者である私たちが再認識し、政府を動かす力にしたい。
元稿:信濃毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月12日 09:31:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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