《社説②・12.12》:「主婦年金」の改革 積年の宿題と向き合う時
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説②・12.12》:「主婦年金」の改革 積年の宿題と向き合う時
来年の年金制度改正に向け、経済同友会や連合など経済団体と労働団体の双方が、「第3号被保険者」制度の段階的な廃止を政府に求めている。
第3号被保険者とは、国民年金(基礎年金)加入者のうち、会社員や公務員に扶養されている配偶者を指す。保険料を自ら負担せずに老後に年金を受け取れる。そのほとんどが女性で、「主婦年金」と呼ばれるゆえんだ。
会社員や公務員は第2号被保険者、自営業者や無職の人は第1号被保険者に当たる。
3号制度の創設は1986年。当時は会社員の夫と専業主婦の片働き世帯が多かった。主婦の年金権が確立された一方、「負担なき給付」の仕組みは公平・中立の観点からかねて課題とされてきた。
その後共働き世帯が増加。これに伴い、パート労働の妻の年収が一定額を超えると税や社会保険料の負担が生じるため、就業調整する「働き控え」が顕在化する。いわゆる「年収の壁」問題だ。
社会保険料に関わる「106万円の壁」や「130万円の壁」の大本には、3号制度がある。
この制度が、既婚女性の労働参加の抑制や男女の賃金格差につながり、ひいては女性の老後の生活保障を弱めてきた。
抜本改革は積年の宿題である。政府、与野党とも年金制度改正の本丸と心得て、腰を据えて取り組まなくてはならない。
経済界が3号制度の段階的廃止を求める背景には、人手不足が深刻になる中、女性の就労を増やしたいという切実な事情がある。
ただし、家庭の子育てや介護の担い手が女性に偏る現状で、労働参加を促すだけではいっそう負担が増してしまう。
男性も対等に家事や育児、介護を分かち合えるよう、経済界を挙げて働き方を見直す必要がある。子育て支援や介護サービスなど社会資源の拡充も欠かせない。働きたいと願う人が、制約されずに働ける環境を整えたい。
今では共働き世帯が専業主婦世帯の2倍を超え、「106万円の壁」の撤廃など厚生年金への加入を促す政策も進む。第3号被保険者は減っていく見込みだが、制度を将来廃止する場合、十分に移行期間を取るなどの配慮が要る。
第3号被保険者に限らず、育児や介護、病気などのさまざまな事情で家庭内にとどまる人は一定数いる。生活保障のあり方を広く検討する必要がある。一人一人の多様な生き方を支える社会保障へ制度を再構築する時だ。
元稿:信濃毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月12日 09:30:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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