【社説①】:刑務所で暴行 更生支援の場のはずだ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:刑務所で暴行 更生支援の場のはずだ
教訓はどこへいったのか。名古屋刑務所で、受刑者の更生を支えるべき刑務官二十二人が、複数の受刑者の顔をたたく、スプレーを顔に噴射するなど暴行を繰り返していた。名古屋刑務所では、明治以来の監獄法を改正する契機となった死傷事件が過去にあったが、手を尽くしたはずの再発防止策が機能していなかった。
法務省によると、受刑者のけがから発覚した。集団的な暴行はなかったとしているが、全体の一割に相当する二十二人が個別に暴行していたという事実は、かえって「暴力的な支配」が日常化していた疑いを想起させる。検察当局が特別公務員暴行陵虐容疑などでの立件を検討するとみられる。
名古屋刑務所では二〇〇一年、消防用ホースの放水を浴びた受刑者が死亡。翌年にも、当時使用が認められていた革手錠付きのベルトで腹部を締め付けられた受刑者二人が死傷する事件が発生し、刑務官四人が有罪判決を受けた。この反省から監獄法に代わる刑事収容施設法が〇六年施行された。
面会対象者の拡大や、外部からも目を光らせる制度などが導入されたが、根本的な改正点は「受刑者にも人権がある」という当たり前とも言える考え方が取り入れられたことだ。受刑者の社会復帰につながるよう、更生を支えるのが刑務官の責務である。たとえ受刑者が指示に従わないなど、対応に苦慮する場面があったとしても、暴力に頼ることは許されない。
看過できないのは、弁護士や医師らでつくる刑事施設視察委員会が一八年度以降、名古屋刑務所の問題点を指摘し続けていたにもかかわらず、改善につながらなかったことだ。受刑者から職員の言動に対する不満が委員会に相当寄せられているとし、毎年度、調査や対策を求めたが、刑務所側は「研修する」「説示する」と回答するにとどめた。再発防止のために設けられた委員会の忠告に真摯(しんし)に耳を傾けず、事態を矮小(わいしょう)化する「事なかれ主義」がはびこっていたこともうかがえる。
暴行した刑務官のうち十六人は採用三年未満の若手という。コロナ禍で研修が不十分だったと指摘する専門家もいる。法務省は調査を徹底し、全容の解明は当然のこととして、研修の見直しや人権意識の向上、組織の透明化など、外部の意見も踏まえた再発防止策をいま一度練り上げねばならない。
元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2022年12月13日 07:58:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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