《社説①・11.15》:死刑制度の存廃 議論を棚上げにするな
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①・11.15》:死刑制度の存廃 議論を棚上げにするな
現行の死刑制度と運用には、放置できない多くの問題がある。現状のまま存続させてはならない―。政府、国会が正面から受けとめるべき問題提起だ。
学識者らによる「日本の死刑制度について考える懇話会」が報告書をまとめた。死刑の存廃を含め、制度を根本的に検討する会議体を国会、内閣の下に早急に設けることを提言している。
懇話会は、日弁連が呼びかけて2月に発足した。刑法学者の井田良・中央大教授を座長に、与野党の国会議員、犯罪被害者の遺族、元検事総長、元警察庁長官ら16人が加わっている。
検討すべき事柄としてまず挙げたのは、国際社会の動向を踏まえた日本の立場と責務だ。死刑を廃止するか執行を停止した国は144カ国に上り、世界の7割を超す。国連総会で廃止や執行停止を求める決議が繰り返し採択され、日本政府は人権条約機関から再三、廃止の勧告を受けてきた。
懇話会は、そのことが日本の国益を損ねている疑いを指摘するとともに、現行の制度や運用が人権保障の国際標準に合致しているかを再検討すべきだと述べている。政府は、国際社会の懸念や批判に向き合おうとしない姿勢それ自体を改める必要がある。
提言が次に挙げたのは、誤った裁判による冤罪(えんざい)の可能性だ。袴田巌さんが再審で無罪となった事件は、無実の人が死刑に処される恐れが現実のものであることを、あらためて突きつけた。
死刑が再審で覆った事例は、1980年代に無罪となった4事件を含め5件に上る。人の命を奪う死刑は、執行されてしまえば取り返しがつかない。提言は、誤判を排除する特別な裁判手続きの要否も検討の必要があるとした。
懇話会はまた、実態が明らかでない執行手続きについて政府に情報公開を求めている。死刑を続ける根拠として政府は国民世論の支持を挙げてきたが、制度のあり方について国民が意見を形成する前提が欠け、現状を正当化する理由にならないと指摘している。
日本はこの先も死刑を続けるのか、議論が不可欠だ。内向きの論理に閉じこもって、棚上げにしておけない。懇話会の提言を踏まえて国会は会議体の設置に動くべきだ。政府は情報を公開し、議論の土台をつくる必要がある。
何より肝心なのは、主権者である私たちが自らの問題として向き合うことだ。国会、政府に働きかけるとともに、開かれた議論の場を社会に広げたい。
元稿:信濃毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年11月14日 09:31:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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